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『青空泳ぐこいのぼり祭 』
鳥海 月花 ja1538

●初めてのこいのぼり

 澄み渡った青い空の下。
 のびやかな緑の若葉は、眩しい光を思い切り受け止めようとするかのように、枝の先に広がる。
 水面を渡る涼しい風が、若葉の陰を通り抜ける。
 出店の呼び込みや、水を跳ね飛ばして遊ぶ子供のはしゃぐ声が、だんだん近づいて来た。
 べべドアは大事なぬいぐるみのマルを胸に抱え、空いた手で月花の手をしっかり握りしめる。そして自分の前髪に隠れようとするかのように、顔を伏せた。
「無理しなくても大丈夫ですよ。帰りましょうか?」
 月花が気遣った。
 べべドアはふるふると小さく首を振る。
「いっしょならダイジョウブよ」
 繋いだ手に力が籠るのを感じ、月花は優しい微笑みを浮かべる。
 人見知りの、でも寂しがり屋のべべドア。
 つぎはぎだらけの兎のぬいぐるみは大事なお友達で、背中に背負った大きな棺桶はいざという時のシェルターだ。
 そういう物達に守られながら、少しずつ『外』の世界に踏み出そうとするべべドアを、月花はいじらしく思う。
「じゃあ、行きましょう。もうすぐ会場に着くはずですよ」

 木立の陰を抜け出ると、視界いっぱいに明るい日差しが広がった。
 眩しい5月の光を受けてキラキラ輝くせせらぎの上に、幾つものこいのぼりが優雅に泳いでいる。
 真鯉に緋鯉、一回り小さな青や緑の鯉に混じって、なにやら謎の模様をつけた鯉も、気持ち良さそうに風の中に身をくねらせる。
「コレはどういうオマツリなの?」
 べべドアが、数えきれないほどのこいのぼりを目で追いながら尋ねた。
「端午の節句といって、男の子の健康な成長を願う日本の行事ですよ」
 月花の説明に、べべドアが小首を傾げる。
「……ワタシタチはオンナノコだけどいいの?」
 もっともな疑問に、月花は思わず噴き出した。
「元々は女性の節句なので問題ありません、気にせず楽しみましょう」
 月花の言う通り、元々日本には田植え前の女性が身を清める風習があり、それが中国から伝わった端午と結びついたという説がある。
 そもそも現代では『こどもの日』とまとめているので、男女の別は気にしなくても構わない。

 祭の会場では大きなテントが目を引いた。掛けられた横断幕には『オリジナルこいのぼりを泳がせよう!』と大書してある。
 中では多くの子供達が賑やかに騒いでいる。それぞれが白地のこいのぼりに、ペンキで大変独創的な彩色を施していた。
「べべドアさんもこいのぼり、作ってみますか?」
「……そうね、じゃあマルのケンコウをオネガイするわ」
 原形をとどめないほどに補修を繰り返したぬいぐるみを、べべドアは愛しそうに抱きしめる。
「どうぞ! 素敵なこいのぼりを作ってくださいね!」
 係員のお姉さんが紙のエプロンをかけてくれた。べべドアの赤いドレスに白いエプロンがメルヘンチックだ。
 暫くの間べべドアは辺りを窺うように見ていたが、やがて刷毛を手に取る。
「ねえマル、ココは赤がいいかしら。それともオレンジ?」
 やがて夢中になって刷毛を動かすべべドアを、月花はひたすらカメラで撮影する。
(かっ……可愛いですわ……!!)
 可愛い物、女の子らしいものと断絶して過ごした期間が長かった生い立ちの為か、月花はべべドアの行動すべてが愛しく思える。
「どうカシラ、マル。気に入った?」
 月花が永久保存版の写真を夢中で撮り溜めているうちに、べべドアのこいのぼりは完成した。
 ……非常に独創的だった。


●コドモのギモン

 真っ赤に幅広く塗った口に、フリルのような形のエラが沢山。色とりどりの水玉模様のこいのぼりが、元気良く空を泳ぐ。
(……ピエロ?)
 見た人がそう思う程、べべドアのこいのぼりはポップでカラフルだった。
「もっとこっち、そう、そこでいいですよ!」
 月花はべべドアの背景に、そのこいのぼりが映るように写真に収める。
(べべドアさん、天才ですわ……!)
 写真の写り具合を確認して、月花は満足そうに頷いた。
 べべドアはといえば、鼻をひくつかせて彼方をみた。
 ズラリと並んだ出店から、ソースの焦げる香ばしい匂いや、お菓子の甘い匂いが『こっちへおいで』と手招きしている。
「じゃあ次は、あちらの出店を覗いてみましょうか。何か食べたい物はありますか?」
 だがいざ近づいてみると、余りの人の多さに、べべドアは月花の服を掴んで、その陰に隠れてしまう。
「じゃあ、あれにしましょう」
 月花はべべドアが余り人に揉まれなくていいように、手前に見えるクレープの屋台を指さした。

 川辺の草地に腰を下ろすと、気持ちのいい風が頬を撫でていく。
 昼寝の誘惑にかられながらも、月花はチョコレートバナナのクレープを噛み締める。
「マルもくれーぷ、スキ? ワタシはスキ」
 頬にイチゴソースをくっつけて、べべドアはクレープを頬張った。
「気に入ってもらえて良かったです」
 頬についたソースを指で拭ってやりながら、月花は笑顔を向けた。
 辺りには子供達の歓声が溢れていた。
 初夏の日差しの眩しさにに誘われ、川に足を踏み入れ、水しぶきを跳ね飛ばしているのだ。
 広く浅い川の水は澄み、川辺からでも底の石が見える程だ。平和そのものの光景。
 そのとき突然、べべドアが呟いた。
「そういえば、コドモってどうやって作るのかしら」
「え?」
 余りに突然の、そして意外な疑問に、月花が固まる。
「くれーぷにはタマゴ。タマゴはニワトリのコドモよね。人間のコドモは、どうやって作るのかしら」 
 あくまでも純粋な好奇心から、べべドアは月花の答えをじっと待っている。
 その視線に、月花の背中を冷や汗が伝った。
「え、えーと……キャベツ……そう、キャベツ畑に行けばいるんですよ!」
 咄嗟に返答するが、べべドアは腑に落ちないという表情をした。
「でも、キャベツ畑なんて、ソンナにないわよね。建物がイッパイ建っているトコロにも、コドモはいるわ」
(べべドアさん、賢いわ!)
 月花は涙目になりつつ、内心でべべドアを称賛する。だが今はその賢さが困る。
「え、えと、キャベツ畑がない場所には、コウノトリさんが運んで来ることもあるんです」
「じゃあイツカ、ワタシのところにもコドモはくるの? アナタのトコロにも?」
 ――わあああああ!!!
 月花は内心で絶叫。大ピンチである。
 落ちつけ私。大丈夫、こんなことは訓練に比べたら大したことはない!
 そこに天啓。
「そ、そうですね、べべドアさんが大きくなって、誰か男の人と結婚したら! そのときはコウノトリさんが来るんです。今、子供が来ても、世話するのが大変で困るでしょう?」
 べべドアは少し考えるような表情をした。
「ソウネ、ワタシにはだいじなマルがいるから。コドモが来ても、コマルわ」
 愛しそうにぬいぐるみを撫でる姿に、月花はほっと胸をなでおろす。

 孤独な世界で、動物と機械部品を相手に暮らしていたべべドア。
 子供に対して示した関心は、人間という存在に対する歩み寄りなのか。
 他者との触れ合いをどこか畏れながらも、少しずつ近寄ろうとしているのか。
(母親っていうのは、こんな気分なのかもしれませんね)
 ほんのついさっきまで、自分の手をぎゅっと握って離さない小さな手は、とても愛しかった。
 だが今、その手を離して、大好きなマルも月花に預け、べべドアは川の水で足を濡らす。その姿もまた愛しいのだ。
 愛しい子も、いつか成長する。
 その成長に戸惑い、少し寂しく思いながらも、きっと世の母親達は、誇らしく見守って来たのだろう。
(でももう暫くの間は、一緒に居てくれますよね)
 力一杯泳ぐこいのぼりのように力強く、自由であれと。
 子供の成長を願う祭は、多くの祈りで満ちていた。


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja1538 / 鳥海 月花 / 女 / 17 / インフィルトレイター】
【ja4149 / べべドア・バト・ミルマ / 女 / 12 / ダアト】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました、こいのぼり祭りの一幕です。
お祭を楽しんでいただけましたら幸いです。これが良い思い出となりますように。
この度はご依頼いただきまして、有難うございました。
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エリュシオン
2013年05月23日

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