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『共に乗り越える試練 』
藤田・あやこ7061)&綾鷹・郁(8646)&(登場しない)

 成人認定試験当日。受験者の送迎を警護する艦隊旗艦が並んでいる。
 沢山の出産適齢期の女達が、受験を受けるためにたむろしていた。
 そんな折、受験に関して不正行為があり更にそれを隠蔽しようとしていた疑惑が起こり、憲兵隊が抜き打ちの査察を行い始めた。
「航海日誌にあきらかな矛盾点がある。誰か不正行為をしているものがいないかしっかり調査せよ」
 提督は厳しい表情でそう指示を出していた。
 全くの寝耳に水の抜き打ち査察。旧友である提督の急訪に驚きながらも、藤田あやこは凛とした態度で言い切った。
「不正などないわ。矛盾点があるにしても、そんなことをしてまで合格したい者はいないはずよ」
 提督を睨むように見詰めるあやこだった。


「嘘……」
 一方その頃、検査結果を見た綾鷹・郁は顔面蒼白だった。
 手渡された用紙を見詰めながら体がわなないている。
「閉経が近いなんて……」
 窮地に追い込まれた気分だった。
 この日受験をしにやってきたと言うのに、検査結果ではこの受験が駄目ならもう後がないと言う事になる。
 郁はがっくりと肩を落とし嘆息を漏らした。
 しかしここまで来た以上やるしかない。もはや背水の陣だ。
 だが試験に対する不安を拭いきれず、どうしたものかと悩んでいると目の前にあやこの存在を見つけた。
 一瞬躊躇ったが、覚悟を決めた郁はあやこの元に駆け寄った。
「すいません!」
「?」
 駆け寄ってきた郁に、あやこは振り向く。郁は肩で息を吐きながら呼吸を整えると、ぐっと唇を噛み締めた。
「あの……。最終試験の出題内容を教えてもらえませんか」
「え……?」
 怪訝そうな表情を見せたあやこに、郁は「まずかったかな……」と内心思った。が、自分にはもう後が無い。
 そう考えるとぎゅっと目を閉じ、あやこに深々と頭を下げる。
「お願いします! 私もう後が無いんです!」
 目の前で必死になって懇願する郁に、あやこは困ったような顔を浮かべた。
 出題内容をそのまま教えるわけにはいかない。だが、ヒントなら与えてもいいだろう。
「エルフの女戦士は、戦より心の闇を恐れる。だから鏡の前で不安な自分と戦うの」
「え……」
「問題をそのまま教えるわけにはいかないでしょう。だからこれはヒント。じゃ、頑張って」
「あ、ありがとうございます!」
 礼を言う郁ににこやかに手を振ってあやこは会議室へと急いだ。抜き打ち査察で呼ばれていたからだ。
 数人の乗組員を連れて会議室へと急いだあやこは、ドアをノックすると「どうぞ」と声がかかる。
「失礼します」
 会議室には憲兵の姿があった。
 入ってきたあやこを背中越しに見やりながら、ゆっくりと体の向きを変えて彼女と向き合う。
「この間起きたベル植民地関連の事件の事なんだけど……」
「……」
「あれはあなたの管轄にあった地域だったわね。ここ最近、あの地域一帯で誰かが暴走を働いたそうじゃない」
 粘着質な物言いで問いただしてくる憲兵に、あやこは別段表情を変えるでもなくさらりと答えた。
「その件については現在まだ調査中よ」
「調査中? ふーん、随分時間がかかるのね。もしかしてその調査に費やす時間は、不正を隠す為の時間稼ぎなんじゃないのかしら?」
「待ってください! 艦長を疑っているんですか?!」
 思わず身を乗り出し、あやこを庇おうとする乗組員たちに憲兵はジロリと嫌味な目線を送ってくる。
「あなた達が艦長を擁護するのは自由だけど、これは必要なことなのよ」
「それは分かりますが……。しかし艦長は疑われることは何一つしていません。私達が保証します!」
 憲兵はフンと鼻を鳴らし、嘲笑うかのような目線であやこたちを一瞥する。
「聞くところによると、部外者に人格を奪われたり貴重な水晶生命体の破壊されたり、挙句、ハッキング合戦があったそうじゃない」
「それは……」
 あやこがそう切り出すよりも早く、乗組員は声を上げる。
「それは陰謀です」
 そう切り替えした乗組員をみやりながら、憲兵はくぐもった声で馬鹿にしたように笑い出した。
「陰謀? 陰謀ね。そう……。ただの艦長の怠慢ね」
「……」
 ねちねちと責めてくる憲兵に、あやこは深い溜息を漏らした。


「ちょっ……! 何よ、もう!」
 その頃、郁は反射神経を問う課題と格闘していた。
 ヒュンヒュンと空を切るような目に見えない物体。それをかわしながら、いかに打ち落とせるかと言う実力テストだった。
 郁は悪戦苦闘しながらも、何とか合格点ギリギリまでくらいつくことができていた。
 郁の隣で同じ試験を受けている女子はあまりのことに頭が錯乱状態になっているのか、避けることはおろか打ち落とす事もままならなくなっている。
「ちょっと、大丈夫?」
 自分の手元に集中しながらも、郁は隣の女子に声をかける。すると女子は半泣き状態でパニック寸前なのかひゃあひゃあと喚くばかりだ。
「……んもう! ボサっとしてないで集中しなさいよっ!」
 見兼ねた郁が声を荒らげ、彼女の周りを飛び交う物体を打ち落とし僅かな時間を作ってやった。
 すると女子は一喝されたことと一瞬でも時間が生まれた事で落ち着きを取り戻し、涙目もそのままに試験に臨み始めた。
「まったく、しっかりしてよね!」
 そうぼやきながらも、今は自分の試験に集中する郁だった。
 その後、何とか試験を乗り越えていよいよ最終試験となった。
 あれだけ大勢いた受験者達が、今はほぼ半分以下にまで絞られている。
 皆緊張した表情で最終試験に臨んでいるはずだったが、試験会場である格納庫に入るやあまりの恐怖に脱落者が出た。
「わ、私、一生一人できままに生きてくわっ!」
 そう声をあげ、脱落者は走り去った。
 郁は彼女はそのまま試験会場を後にするのかと思ったが、思いもよらない行動に出た事に目を見開く。
「え? ちょっと……」
 唖然とした表情で見詰める先には、格納庫に保存されていた事象艦に飛び乗った彼女の姿だ。
 その場にいた全員がどよめくなか、その事象艦は格納庫を飛び出していく。
「何やってんのよ!」
 叫んだ郁の言葉は、当然彼女に届くはずは無かった。


 情報を聞き現場に走りこんできたあやこに、提督は脱走した事象艦のモニターを眺め深い溜息を吐く。
「警備の杜撰な旗艦が何処にあるかね? 艦長」
「申し訳ありません。しかし彼女は優秀な斥候です」
 そう言うとあやこはすぐにモニターを見上げ、近くのマイクを引き寄せる。
 このまま行けば時間流に流されて核戦争の時代に着く。
「あなた! 聞こえる?! 聞こえたら応答しなさい」
『き、聞こえます……!』
「いいこと? 落ち着いて聞きなさい。今のままではあなたは核戦争時代に着く。あなたの船はきのこ雲に飲まれる可能性が高い」
 早口に、しかししっかりとした口調で状況の説明をする。
「操縦桿を引いて、キノコ雲の直前で機首上げ。衝撃に乗れ!」
 的確な指示を下すと、脱走者は指示通り操縦桿を弾き、爆発の衝撃に乗ることができた。
 間一髪助かった彼女の姿に、憲兵は思わずガッツポーズをしてみせる。が、すぐにその行動を恥ずかしく思ったのか顔を赤らめてあやこを見た。
「規律が緩いのね」
 チクリと責める憲兵を、あやこは冷ややかな目で見下ろす。
「不安な女は時に結論を急ぐわ! 解るでしょ」
 そう切り替えしたあやこに、憲兵はそれ以上何も言えず口を噤んでしまった。
 その直後だった。突然背後に激しい爆音と爆風が吹き荒れ、その場にいたほとんどの人間が瓦礫の下敷きになってしまう。
「敵襲……っ!?」
 こんな時に……。あやこは苦々しい表情を浮べ、辺りを見回した。
「すぐに避難開始! この艦は沈むわ!」
 手短に指示を飛ばすと、まるで蜘蛛の子を散らすかのようにその場にいた者達が出口目指して駆け出していた。
 そんな中、郁は身動きが取れない人たちの手助けを買ってでていた。
 瓦礫の下と柱にしがみ付いている試験官が一人ずつ。郁は瓦礫の下の試験官を助け出そうと柱にいる試験官に目を向けた。
「救出手伝って!」
 声を張り上げて試験官に声をかけた。が、試験官は涙目になって首を横に振った。
「嫌〜! 怖い〜っ!」 
 べそべそと泣き出す試験官に郁は苛立ち、眉間の皺を深く刻む。
「もういい! グズ女っ!」
 郁は暴言を吐きながら、力任せに瓦礫を押しのけるとすぐに試験官を抱えて出口を目指して走り出した。
 出口閉鎖まであと一分。
 郁は必死の思いで脱出すると、その直後に艦は爆発をした。
「ふぅ……。間一髪……」
 額の汗を拭い、安堵の溜息を漏らす郁の後ろから声がかかった。
「合格だ。君は決断した」
 そう声をかけられ背後を振り返った郁はその場にへたり込む。
「……これが問題だったの?」
 全身から力が抜けていくようだった。


 そして最終結果。
 結局、郁の隣席に座っていた女子が合格し、郁は不合格となってしまった。
「そんな……。私、もう後がないのにぃ……」
 郁はその場で号泣し、何度も涙を拭っていた。そんな郁の肩に、あやこが手を置く。
「私も不妊だけど、養子と伴侶が居るわ。何もこれが全てじゃないし、私のような者もいるんだから元気出して」
 慰めながら励ますあやこに、郁は頷くしかなかった。
 会議室へと戻ってきたあやこ。今回受けた査察は提督の後継者選抜試験だったと言う情報を聞き目を見開く。
「君なら私の座を任せても良いと思っているんだがね」
「……せっかくですけど」
 提督の座を狙える位置にいたあやこは、しばし悩んだ末それを蹴った。
「そうか……残念だ」
 心底寂しそうに呟く提督は、乗組員相手に面接をしネチネチと責めている憲兵を見て困ったように笑う。
「彼女も嫌われ役で可哀想に……」
「そうですね」
 それに同意したあやこは、憲兵に声をかけた。
「あなた、よく働くわ。私が雇ってあげる」
 驚く憲兵に、あやこはニッコリと微笑みかけた。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2013年05月24日

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