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『そうだ、温泉行こう。 』
桝本 侑吾ja8758

●旅立ちは唐突に

 カーテンを透かして、柔らかな日差しが注ぎ込む。
 桝本はベッドに身を横たえたまま、頬に当たる光を感じていた。
(朝か……起きるのだりいな)
 ハードな依頼で疲れた身体が、まだ休養を欲しているのだ。
 だがその緩いまどろみは、同室の先輩の声により強制終了となる。
「おい桝本、旅行行こうぜ旅行」
 寝ぼけ眼をこすりつつ、桝本は身を起こした。
「おはよう、アランさん……何、突然」
「暇なんだよ。お前も今、金あんだろ。何処か行こうぜ」
 事実、依頼の報酬で桝本の懐具合は悪くない。
「まあいいけど。行きたいとこある?」
「どうせなら日本らしいとこがいいな。あれか、京都……は、無理か」
「絶対無理だと思う……」
 そこでふと、桝本が思いつく。
「温泉はどうだろ、のんびりできるし。アランさんが嫌じゃなければだけど」
「温泉か、悪くねえ。よし取り合えず荷物詰めろ。行き先なんて駅でも決められるわ」
 有無を言わせぬ勢いで、アランは桝本を追いたてる。

 そしてJRの支線の本島側終着駅。
 当然ながら、線路は続くよ。それぞれ反対方向へ。
「どっち行く?」
「どっちでもいいぜ。温泉なんて日本中何処にでもあんだろ」
「いや、そりゃそうなんだけど」
 スマホを取り出したものの、こういう場合の検索は案外難しい。
 目的が明確でない場合、情報量が多すぎて絞り切れないのだ。
「よしじゃあこいつで決めるか」
 アランが親指で硬貨をピン! と弾く。
 回転しながら落ちてくるところを素早く捕まえ、左手の甲に乗せた。
「表だったら上り、裏だったら下りだ」
「すんごい適当」
 桝本はそう言ったものの、この異国から来た先輩の行動は何につけ面白いと思っている。
 アランは自分の手の甲の硬貨をまじまじと見つめていた。
「おい、これ表か裏かどっちだ」
「……表」
 日本の硬貨の裏表は、アランには判りにくい。
 というわけで、東京駅に到着。やはり行き先は決まらない。
「さて、どうしよ。今度こそ目的地を決めないと」
「めんどくせえな。お前何処かいい温泉知らねえのか」
「うーん、ちょっと待って」
 何故か桝本のポケットから都合よくダイス出現。 
「これで方角だけ決めて、と」
 転がしたダイスは、2人を北西〜北へと導く。
「ここからだと群馬かな? 休日じゃないから宿は取れるか……」
「なんでもいいわ。チケット買うぞ」
 アランはスタスタと販売カウンターへ向かう。


●遥かなり、温泉

 窓外の景色は、ビルの群れから山の緑へと移り変わっていた。
「おいこれ、いつになったら食えんだよ」
 アランが冷凍ミカンを片手に抗議する。上手く皮が剥けなかったらしく、小さな切れ端が散らばっていた。
 駅で買った弁当をビール片手に平らげ、(アランにとって)物珍しいデザートに手をつけたのだが、空調の効いた車内ではなかなか溶けてくれないようだ。
「掌で温めてたら、すぐ溶けるけど」
「よし判った。お前の顔かせ」
 諦めたような表情の桝本の頬に、アランが冷凍ミカンを押しつける。車内販売の女性が、笑いを堪えて通り過ぎようとした。
「レディの笑顔は悪かないが、タダで通れると思うなよ?」
 ニヤリと笑い、アランは悪い顔で見上げる。
「そこの変わったビール、置いてけよ」
 言いながら指の間に挟んだ紙幣を手渡すと、販売員はぽっと頬を染める。
「普通に買った方が早いのに」
 小瓶を受け取り、桝本は苦笑い。
「馬鹿野郎、レディを喜ばせるのが紳士としてのマナーてもんだろ」
「そういうもん?」
 まあいつものことだ。桝本はアルミの蓋を捩じ切り、瓶に口をつける。
「へえ、面白い味の地ビールだな」
「悪くねえ。軽めだが、昼間にはちょうどいいな」
 やがて車内アナウンスが目的の駅に近づいたことを告げる。

 地方駅のホームに降り立つと、のどかな山並みの光景が広がる。
 改札を出ると、一緒の特急から降りた客は皆、法被姿の賑やかな男達に迎えられ、ワゴン車や小型バスに次々と乗り込んで行く。
「なんだあれ。白タクか」
「あー……特急の到着時間に合わせて、宿の人が迎えに来てるんだ」
 こちらは何も決めていない。
 駅員に尋ねると、昨今の事情――各宿が送迎サービスを始めた為、不要になったのだ――でバスの便が減っており、あと3時間程は来ないという。
「3時間か。ま、どうにかなんだろ」
 桝本は土産物店などが並ぶ駅前を見渡す。
「フン、この俺に解決出来ないトラブルなんざねえよ」
 アランが不敵な笑みを漏らした。
 まあ早い話が、土産物店の傍の『本日のお宿あります』の看板に気付いた訳だ。
「いらっしゃい、どんなお宿がご希望で?」
 観光案内所のおじさんは、桝本に笑顔を向けた。
「あー、俺は食事が美味くて、たっぷりだと嬉しいです」
 おじさんはさも判ったように頷く。
「若い方はそうでしょうな〜。食事はどこもお勧めですよ。あとは外人さんだと、貸し切り浴場などがあった方が……」
 そこでアランが膝を乗り出した。
「風呂はどうでもいい。美人女将てえのか、あれがいる宿がいい」
 桝本は飄々とした表情を変えずに、内心で突っ込む。
(ポイントそこ? しかも温泉地で『風呂どうでもいい』発言て……ま、いいか)
 おじさんは目を白黒させながらも受話器を取り上げ、めぼしい宿と連絡をつけてくれた。


●温泉、ばんざい

 着いた先は、こじんまりとした清潔そうな旅館だった。
「「「いらっしゃいませ〜」」」
 愛想良く出迎えられ、玄関に通される。
 フロントで手続きしていると、柔らかな声が耳を擽った。
「本日はようこそ、おいでくださいました」
 年の頃30半ばか。渋い青磁色に若竹の柄も爽やかな着物姿の女が、朱塗りの盆を手に佇む。
「こちらでお薄でもどうぞ。お部屋はすぐにご用意しますね」
 その控え目ながらも落ち着いた物腰は、明らかに他の従業員とは違っている。
「多分この人が女将か若女将だと思う」
 桝本の囁きに、アランが頷く。
「悪くねえ。守備範囲内だ」
「いやそういう話じゃないから」
 ロビーのソファで、長い脚を組むアラン。目の前に茶碗と菓子皿を置いてくれる女将に笑顔を向ける。
「案内所のおっさんも良い仕事してくれるぜ。こんな綺麗なレディと引き合わせてくれるなんてな」
「あらあら、お客様みたいな素敵な方にそんなこと言われたら、困ってしまいますねえ」
「こっちは温泉てのに慣れてねえんだ。色々教えてくれると嬉しいんだが」
 アランのとびきりの流し目を、おそらく百戦錬磨の美人女将は上品に笑って受け流す。
(アランさん、どう見ても相手の方が上手だと思う……)
 桝本はちょうどいい温度の薄茶をすすった。

 案内された部屋で、アランは軽く一服。
 桝本は窓の外を眺め、思い切り伸びをした。
 ふと仲居さんが置いて行ったファイルに目が止まる。
「あれ。ここって……」
「どうした」
「いや、混浴露天風呂があるんだなって」
「コンヨク?」
 そこで桝本は、混浴風呂のなんたるかをアランに説明する。
「マジでか。日本すげえな。桝本、暗くなる前に行くぞ」
「いや、流石に若い女性はあんまり居ないし。あと女性は湯浴着を着用するって書いてあるけど……」
 桝本の説明もそこそこに、お風呂セットを片手に、いざ浴場へ。
「先行くぞ」
 どういう早業か、アランは腰巻一つでスタスタと脱衣場を出て行く。
 桝本が覗きこんだ頃には既に露天風呂にいた。
「誰もいないんだ」
「おう。貸し切りだぜ」
 内心、桝本はほっとした。
 湯に浸かり、体中から色んな不純物が出て行くような感覚を存分に堪能する。
「うあ〜生き返るう……」
 が、次の瞬間、桝本は湯の中で居住まいを正す。
 明らかに女性の話声だ。しかも、思ったより若い。
「来たか」
「ちょ、アランさん」
 湯煙の向こうに、薄物を纏った若い女性3人の姿。あちらも少し驚いたようだが、何やら囁き合いながらこちらを伺っている。
「レディより先に入ってて悪いな。まあ遠慮せず来いよ」
 アランの言葉に、くすくす笑いが起こる。
「なんなら手を引いてやろうか?」
「アランさんーーーー!!!」
「きゃーーーーっ!?」
 おもむろに立ち上がったアランを押しとどめようと、桝本は背後からすがりつき……ずるずると滑り落ち、湯の中で膝をついた。
「アランさん……温泉で水着はダメだって……」

 日も落ちて、窓から滑りこむ風が火照った体に心地良い。
 ズラリと並んだご馳走を前に、アランは冷えた白ワインを傾ける。
 桝本はといえば、次々と小鉢や皿を空にするのに忙しい。細い身体の何処に入るのかと思う程の、健啖ぶりだ。
「結構温泉て面白れえな」
 アランが笑いかけたので、桝本も箸を止めて頷いた。
「良かったらまた付き合うよ」
「おう」
 男2人の温泉旅行に、乾杯。


登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja8758 / 桝本 侑吾 / 男 / 21 / ルインズブレイド】
【ja8773 / アラン・カートライト / 男 / 25 / 阿修羅】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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初夏。温泉に行くにはいい時期ですね。
自分が行ってるつもりで、かなり好きなように書かせていただきましたが、如何でしたでしょうか。
楽しんでいただけましたら幸いです。
この度はご依頼いただきまして、有難うございました。
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エリュシオン
2013年05月24日

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