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『時空を進め!それいけ我らが時空艦長 』
藤田・あやこ7061)&天王寺・綾(NPCA014)

崩れ落ちると通り越して、完全なる廃屋と化した古い洋館―というか、40世紀の現在では超ド級のアンティークで世界遺産に登録できるんじゃないかってほどのオンボロな館。
任務中にこんなところによるつもりはなかったが、異常なレベルの―桁外れに強い邪念を察知し、ウォースパイト艦長たるあやこはこの館―かつて、あやかし荘と呼ばれた館の跡地の捜索を命じた。

龍族との交戦を避けるため中立時空地帯への移動を急ぐ最中にやっかいことになったな、と思案に耽るあやこに青い顔をした部下が駆け寄ってきた。


「生きていたのは彼女だけ?」
「艦長、これなんかの嫌がらせですか?恐怖ですよね??あんなぼろぼろの館の地下に凍りついた洞窟!数名の凍死体がごろごろ!!その中で生きていたなんてっ!!」

完璧ホラーじゃないですかぁぁっ、と半狂乱になる若い下士官の後頭部をあやこは無言でどこからともなくハリセンを取り出し、張り倒す。
華麗なる一撃に撃墜する下士官を軽くスルーしてあやこは他の士官たちを見やる。

「ホラーだのなんのと騒ぐのは後でもできるから、生存者の蘇生を急ぎなさい。最近発生した前線基地破壊犯を追わなきゃいけないから、もたもたするんじゃない」
「リョーカイ」
―これ以上やっかいなことにならなきゃいいんだけど

なんとも気の抜けた士官たちの返事にあやこは頭痛を覚え、こめかみを抑えて願うが、わずか2時間後。
その願いは木端微塵子に粉砕し、廃品回収にお持ち帰りされました〜な事態をむかえるのだった。

ふわりと意識が浮上し、目を開けた瞬間。
猛烈な頭痛とめまいが襲い掛かると同時に見慣れない―いや、思いっきり現代を通り越して、超未来的な金属で固められた天井が視界に飛び込んで、天王寺綾はあらゆる意味で再び凍結した。

―あやかし荘にいたはずなのに、これどーゆーことやぁぁぁぁぁっ

綾の心から絶叫に気づいたのか気づかないのか―いや、気づいていたらある意味すごいんですけどなツッコミはさておいて、あやこのハリセンが華麗に炸裂した。

「目が覚めたようね、お嬢さん。私はこの戦艦ウォースパイトの艦長・藤田あやこ。冷凍睡眠のあなたを救出して保護したの……で、貴方のお名前は?」
「くぅぅぅぅぅぅぅ、見事なツッコミや、あんた。うちは天王寺綾。あやかし荘『桔梗の間』に住む小粋な女子大生や……って、ここはどこやねん!!あやかし荘は??」

さすが天下の大阪人!的なノリツッコミをしてくれる綾に生暖かいまなざしで向けながら、あやこは衝撃のないように状況を語り出した。
最初はノリノリで聞いていた綾だったが、話が進むうちにその表情が引きつり、呆然としたものへと変化する。
それはもう見事なリトマス試験紙的な変化なのだが、当人にしてみればそれは口では表せないほどのショック。
一通りの説明が終わった途端、綾の口からは魂魄が飛んでいた。

「つまり―今は40世紀で、あやかし荘は崩壊して廃墟??そんな……」
「ずっと氷漬けで眠っていて、目覚めたら時代が変わっていた。確かにショックは大きいのは分かるわ。でもね」

全身を震わせる綾に慈愛深い笑みを浮かべてあやこが肩に手を置いた瞬間。
ガバリと掛布を蹴り飛ばし、すっくと立ち上がると綾は力強く拳を突き上げる。

「このままやあかん。あやかし荘を再建せな……まずは金や!電話せな」
「あ〜ら携帯なんて超レトロな……というか、ここ時代が違うから使えないわよ」

服の胸ポケットから華麗なる動きで取り出したかわいらしい機械・携帯を開く綾にあやこは一瞬呆然とし、即座にツッコミいれる。
冷静かつ正確なひと言に固まる綾。それを裏付けるように携帯のディスプレイは真っ黒な画面。
かわいそうなほど落ち込む綾を医療班に任せて部屋を出た。

艦長室へと戻りながら、まぁ当然の成り行きよね〜とのんきに構えていたあやこだが、次なる綾の行動は予想外キターなくらい予測不能な行動を起こしてくれた。


突如鳴り響くアラート。艦内中に緊急事態を告げるランプが明滅し、緊張が走る。
ブリッジに駆け戻ったあやこに青い顔をした士官から告げられた事態に呆気にとられた。

「えーっと……つまりあの蘇生した綾って子が医療班を人質にとって艦内の一部を占拠。電話を要求してるっていうのね?」
「はいぃぃぃぃっ、そうなんですよ艦長。あの子何者なんですか?冷凍睡眠状態から目覚めて、いきなり艦内乗っ取りなんてありえません。いえ、それ以前に電話なんてどうするんですか?」
「分かったわよ。それじゃ行ってきますか」

泣きじゃくる士官を軽くこづくと、怯えまくった他の部下たちが用意した大量の電話機を積まれた台車をあやこ自らが押しながら、綾が立てこもる医療室へと高らかに駆け出した。

ガラガラと音を立てて爆走する台車の音が近づき、医療室の前に急停車した。
それを確認して、綾は人質の医療兵にドアを開けさせる。

「はーい、綾。お望み通り持ってきてあげたわよ、電話機」
「よっしゃぁぁぁぁぁ、これがあれば」
「言っておくけど、意味ないわよ。こんなもの、複製機でいっっくらでも作れるから」

勢い混んで電話を取ろうとした綾は無情にも冷静に放たれたあやこの一言に固まり、ギミック人形よろしく、ぎこちない動きで振り返る。
壮大なるカルチャーショックね、と憐憫を覚えながら、あやこはもう一度諭すように口を開く。

「この時代はマネーゲームというか、資本主義ってものが滅び去っていてお金が必要なくなってるの。ほしいものは複製機使って作り出せるのよ。何考えているか分からないけれど、少し冷静になってちょうだい。艦内占拠は不問に……」
「う……うそやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁっ」
「あ、ちょっとっ!!」

顔面を青から白へと変化させ、肩を細かく震わせた綾は半泣きして医療室を飛び出し、そのまま通路を爆走。
一瞬にして遠くなっているその背をあやこは慌てて追いかける。
自分の価値観など、その他もろもろをいきなり否定され―はっきり言って逆上状態に陥った綾と面倒なことするなっと追いかけるあやこの追いかけっこ。
やがて艦内の中央フロアにある住居スペースに到達すると、綾は見慣れぬ巨大装置の前で足を止めた。

「これって??」

半分目を血走らせたまま、コントロールパネルらしき部分を見つけるや否や、適当にパネルを操作する。
時代が時代で、完全あるユビキタスなそれは適当押されたにも関わらず、あっさりと装置の使用方法を表示させた。

「ヴァーチャルリアリティー装置。お望みの……って、こないに便利ならウォール街やっ!!」

何故ウォール街!というツッコミはスルーして、綾の命令にしたがって機械であるヴァーチャル装置は中央フロアに高くそびえ立つビル街と大通りを有した懐かしき21世紀の金融の中心・ウォール街を作り上げていく。
完全に再現された麗しのウォール街に綾は嬉々として手近な証券会社に飛び込み―数分後、ぶっ飛んだヴァーチャルに半ば感心したあやこに小粋で素敵な白髪鬼状態で発見された。

「なんでや……なんで、みんなこないに金に興味ない???」
「コラ、落ち着け!!さっき言ったでしょう?ここは40世紀。そういうのに興味がないのよ」

殺気も説明したでしょうと念押しするあやこの声は綾の耳に届いていなかった。
魅惑の金融街・ウォール街。せっかく再現させ、いざあやかし荘再建資金を!と意気込んだというのに、銀行、貴金属店、証券取引所、カジノ等の店員や証券マンたちは全くと言っていいほど株や証券、さらには金に興味を持たず、心の底から戸惑いを露わにして突っ立っているだけ。
資本主義の根幹である経済観念が銀河系の彼方に吸い込まれて、存在していない状況に綾はついていく、というよりも受け入れがたい状況にただただ呆然とするだけ。
そこをあやこに発見されたのはある意味幸運だった。

「そないなことあるわけあらへん!!うちが金策せないとあやかし荘がぁぁぁぁっ!!」
「だ〜か〜ら、落ち着きなさいって言っているでしょう」
「いややぁぁぁぁっ!大体、何かが欲しいっつう物質欲がない未来の社会で何が生き甲斐になるっていうんや?」

羽交い絞めにされながらも駄々っ子のように暴れ狂う綾にあやこは腕をほどくと、どこかの某ロボットごとくハリセンを取り出すとその頭をきれいにはたき飛ばした。

「そんなもの決まっているわ。自己満足よ!!」

凛々しくも雄々しく断言するあやこの姿に叩かれた頭を押さえながら綾は力なくその場に崩れ落ちると同時に敵艦遭遇のアラートが響き渡った。

「龍族の艦長自ら来られるとは……いかなる御用かしら?」

にっこりと笑顔を張り付けてブリーフィングルームに招いた龍族の敵将と相対するあやこだったが、そのこめかみに青筋が若干浮いて引きつっているのはご愛嬌というやつである。
はっきり言って招かざる客なんやろうな〜と見事に自分のことを棚上げして綾は頭の片隅でそう思う。
本来なら敵対勢力―龍族の敵将との会見に救助者である綾が居合わせることなんて異例中の異例。
だが、また医療室や独房あたりに閉じ込めて脱走かつ占領騒ぎなんぞ起こされたらたまったものじゃない、というクルー全員一致の意見で艦長たるあやこの監視下に置かれ―現在に至る。
40世紀の現在、人類と激しく敵対する龍族の敵将は尊大な態度でソファーにふんぞり返り、明らかにあやこを見下していた。

「こちらもそんなに長居をするつもりはない。用件は一つ。我らの基地が襲撃を受け、破壊されたのだが……人間側でも同じ事件が起こっていたと聞いてな」
「あら、私たちが起こしたとでもいうの?飛んだ言いがかり。龍族も落ちた……」
「ふん、事件が未熟な貴様らの所業で無いのは明白。優れたる我ら龍族の目を欺くなどありえんからな」

明らかに見下した龍族の敵将の一言にあやこのこめかみに浮かぶ青筋がさらに太くなり、機嫌が一気に直滑降していくが、毛筋ほども気づかせないから拍手喝采もの。

「では誰が?」
「ここは一時手を結び、共闘すべきと考えた。相手が双方を狙ってというよりも、ここは本来我が領土だ。我らが遠征で留守中に貴様らが版図を広げた。そこを突かれ、破壊されたのだろう。何もかも我々は迂闊だった」

共闘呼びかけというにはあまりに尊大すぎる龍族の言い方にあやこの怒りゲージがみるみる上昇していくが、笑顔を崩さない。
これでキレれば、人類は愚かだという烙印を押される。それは本当に、ほんっっとうに腹立たしいが、人類の誇りとしてあやこは見事にこらえきる。

「ここは中立でしょう?人類の―まして龍族の領土ではないわ。双方の緩衝地帯として条約に明記されているわ」
「何を言っている。我らの領土に貴様らが勝手に侵入して版図を広げただけだ。人類にしては優れた艦長たる貴様なら意味は判るな?藤田。我らは戻ってきたのだ」

鼻できっちり笑い飛ばして、言いたいこと言って去ろうとする龍族の敵将にあやこの―いや、ついでに聞いていた綾の怒りゲージは臨界点突破し、綺麗にすわった目で睨み返した。


「笑わせるなっ!!龍族の驕り、確かに見届けさせていただいた。招かれた客人ならば、それ相応の礼を尽くしなさい!龍族、落ちも落ちたわ!」
「なんやねんっ!!ちいとばかしでっかいってだけで、威張りくさりおってからにっ!!」
「共闘について考えさせてもらうが、人類を見下すのもいい加減にしておきなさいっ!そんな態度では交渉に応じるつもりはないっ!!」

怒り狂って叫ぶ犬のごとく喚く綾を無視して、あやこは怒りを抑えつつもきっちりとタンカをきって龍族の敵将に強く返答する。
確かに一連の事件は気になるが、こんな侮辱を受けてまで応じるつもりはない。
ちらりと顔だけ振り向いて、去っていく龍族の敵将の姿をあやこは睨みつけたまま、視線をそらそうとしなかった。

「なんなんや?あの敵将さん。うちらをばかにしてっぇぇぇぇえぇっぇ」
「こちらもそれ相応の返事をしておけばいいの。でもあいつらよりも一連の犯人見つけてあっと言わせてやりたいわ」

きいきいと喚き散らす綾にあやこはひどく冷めた目でソファーに座ると、素早く頭脳を巡らせる。
このまま負けているのは性に合わない。
こうなったからにはとことん相手してやろうじゃない、とあやこは強く決意するのだった

FIN
PCシチュエーションノベル(シングル) -
緒方 智 クリエイターズルームへ
東京怪談
2013年05月28日

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