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『鐘の音は鳴りやまない 』
十八 九十七ja4233


 冬が終わり、春が来る。
 日増しに温度を上げる陽光は、否応にも時の巡りを伝えてくる。
 けれど。けれど。
 十八 九十七の心の奥、頭の中では、今も、冬は終わらない。




 戦友は大切だ。
 敵対する天魔は皆殺しだ。
 信念にブレはない。
 揺らぐことはない。
 しかし。

「最近変だよねー? いつも変だけどー」
 戦闘依頼に出発した九十七の帰還を待ちながら、図書室で掘り当てたお宝本を読みふけるのは鬼燈 しきみ。
「むー。だけど、相棒は何も言ってくれないのぜ」
 向かい合わせに座りながら、ギィネシアヌはお菓子をつまむ。
 放課後の教室、残っている生徒は少ない。
 気にかかることがあって、二人はすんなり帰る気分になれなくて、こうして時間を潰すことが増えていた。
 悩みの種は、二人の友人・九十七。
 重体にこそならないが、ボロボロ傷だらけでの帰還が続いている。
 確かに、無茶な戦いをする側面はあるけれど……正義発露するとどうしようもなくなるけれど。
 話してくれなくちゃわからない。
 けど、言葉にできないものもあるだろう。
 二人は、顔を合わせて肩をすくめた。
 どうか今回も、無事に帰ってきますように。
 内容次第で予定より早く戻ることもある。
 真っ先に出迎えられるよう、こうして九十七を待つ日々だった。




 鐘の音は鳴りやまない。
 あの、冬の日。
 BGMは和やかなクリスマスソング。
 乱れ飛ぶ弾丸に、凶器に、真っ赤な
 真っ赤な、

「ッァアアアア!!! この、■■ガイ天魔ァ!!」
 一瞬、頭をよぎったノイズを断ち切るように叫ぶ。
 『狂化』した九十七の髪は白く逆立ち、流れる血の涙も苦にせず攻撃の手を止めない。
 アシッド・フィルド弾で弱らせた部分へ、捻じ込むようにドラゴンブレス弾を炸裂させる。
「××ちまいな! 吹き飛べ、全部!」
 ――ガシャ
 吹き飛ばしたディアボロの、その後ろには更にもう一体、刀を手にしたデキソコナイ。
 銃と刀がクロスする。緊迫。
「へっ、どうした■■■野郎。そんなで殺せる九十七ちゃんじゃなくてよ!」
 Bang!!
 迷うことなく引かれるトリガー、同時に袈裟懸けに走る刃。
 飛び散る、真っ赤な
 真っ赤な、血。




 辛うじて傷口は塞がれ、失った意識も取り戻した九十七は、しかし同行した仲間たちに支えられて学園へ戻ってきた。
「無事に戻りましt」
「ムチャシヤガッテー!!!」
 泣きながら、ギィネシアヌの拳が九十七の腹に入る。痛い痛い痛い、まだそこ完全には塞がってない。
「どうしたんだよ、相棒! この頃、なんだかオカシイぜ!? なんでそんな、そんな……悲しませるような戦い方をするんだよぅ」
「今はなんだかー 捨て鉢ー? 自暴自棄ー? 楽しくなさそうなんだよねー」
「……ですの」
「うん?」
 口元の血を拭いながら、ギィネシアヌに助け起こされた九十七が呟く。

「お二人には、関係ないことですの……!!」

 ギィネシアヌの手を振り払い、九十七は立ち去る。
 点々と、開いた傷口から血が落ちてゆく。

「そんな悲しい事言うんじゃねぇよ! 相棒だろッ!」

 振り払われた手が、ジンジンと痛い。
 けれど、痛いのはもっと別の、そう、胸の奥だ。
 ギィネシアヌは涙をこらえ、相棒を追ってゆく。
 銀色の髪と、真っ赤なマフラーをなびかせて。

「これはー 美化委員に連絡してからの方が良いかなー」

 拭きながら追うのも面倒だし。
(んー 人って、本当のこと言われると怒るよねー)
 マイペースに、しきみは二人の後を追った。
 



 戦友は大切だ。
 戦友にして親友が死んだ。
 もう彼女は戻ってこない。
 同じ戦場で戦って
 同じ戦場で戦っていたのに
 手は届かなかった この弾丸は、正義は、届かなかった。

 悪夢ならどうか、覚めてくれ。
 ジングルベルを止めてくれ。
 あの日から、頭の中に響く鐘の音が鳴りやまない。

 心情と信条を、どこへ帰着させればいいのかわからない。
 迷う自分を、きっと彼女は笑うだろう。
 わかることは、それくらいだった。


 思考を振り払うように、九十七は走る。
 校舎を飛び出し、何を目指すでなく校舎裏へと。
 オレンジ色に空は染められていて、遠くに平和な笑い声が響いている。

「つっくん!!」
 瀕死と思えぬ速さで駆ける九十七の肩に、ギィネシアヌの手が伸びる。身長差からして飛びかかるに近い。
 グキリと首が嫌な音を立てるが、撃退士は頑丈だ、問題ない。
「俺に関係ないってどういうことだよ! 病める時も健やかなる時も共に戦う誓いを交わした仲じゃねぇか!」
「!」
「俺は知ってるぜ相棒…… あの日、からだろう?」
「……ギィネ」
「俺は怖いよ…… そんな無茶苦茶な戦いをして、つっくんまで…… 俺のっ 知らないところで、知らないうちに、なんて……」
 九十七が言葉を返せずにいると、血痕を追っていたしきみが到着する。

「自己満足かなー? そんなことしてほしいって言ってたのー?」

 ポキン。しきみが指を鳴らす。
「……ちょっと本人に聞いてこようか」
 行ってみようか、地獄の三丁目。
 いつも通りの笑顔で淡々と、しきみが告げる。
 ゾワリ、流石の九十七も背筋に冷たいものが走る、が、


 ゴングは鳴らされた。




「ぶん殴ってその目を覚まさせてやるのぜ」
 鋼板仕込みのグローブが、真紅のオーラを纏う。
「くっ…… 巨乳……?」
 九十七の目に映るのは、高身長に豊かなバストの大人の女性……ギィネシアヌが生み出したる幻影。
「つっくんの…… わからず屋ッ!」
 渾身の右ストレートが九十七を吹き飛ばす。
「……なかなかやりますねぃ」
 口の中を切り、血を吐き出しながら九十七。ゆらりと立ち上がる。
「やられっぱなしの九十七ちゃんではありませんのよ」
 正気を失っている? それならそれでいい。すべてを受け止める。
 影が揺れたと思った次の瞬間、九十七は『狂化』する。
 魔具を装備するでなく叩き込まれる拳は、そのまま九十七の叫び。九十七の想い。
「……ぐぅっ」
 ギィネシアヌは全身で反撃を受け、吹き飛ばされそうになるのを必死に耐える。靴底が地面を深く削る。
 衝撃が過ぎ去り、次いで拳が振り上げられると、九十七の胸へと飛び込んだ。

「仲間が死んだら辛いだろ……ッ! 辛いなら泣けよ、俺を頼れよッ! そうしていいんだよ……なぁ、相棒……」

「ぎーねどいてつっくんを倒せない」
「   」
 ギィネシアヌのシリアスを、しきみが淡々と粉砕する。
「言っても治らないだろうから、叩いて直すねー」
 の、『た』で一発。『ね』で沈んだところをアッパーで拾い上げる。

 がっ、
 ゴッ、
 どっ、

 容赦ない殴り合いを、ギィネシアヌは片隅で震えて見守るばかりであった。
(応急手当、フルで足りるであろうか……)
「足りない! 全然たりないですの!!!」
 殴り殴られ、九十七は我に返るどころかヒートアップしていた。
 狂気全開、流す血の涙は心の涙なのかもしれなかった。
 Δικαιοσυνη、九十七の抱く『正義』が掌に集中する。
「これでも喰らい――」


 戦友は大切だ。
 親友は代えがたい。
 悪夢ならどうか、覚めてくれ。
 あの日から、頭の中に響く鐘の音が鳴りやまない。
 失いたくない。失いたくなんてなかった。
 ――なんだ、そんな簡単なこと

 超高温超高圧暴走アウルの向こうに、消えない銀色の影が揺らめいた。


「!?」
 九十七が自分の目を疑う。
 一瞬のまばたき。直後、自分を見つめていたのはゾっとするほど冷たく無表情なしきみであった。
「もうひと押しー?」
 撃ち放たれるは壺中天、しきみちゃん48の殺人技秘中のひとつ。
 九十七は吹き飛び、しきみもまた腕がボロボロになった。

(応急手当じゃ足りないのぜ……)
 決着を見届け、しかしどうしたものかとギィネシアヌは右往左往で応急箱を取り出した。
 たぶん、それでも足りない。




「しきみちゃんはー この色が好きー」
「俺はコッチのフリルがイチオシであるな!!」
「すみません ほんとすみませんでしたの。あの、ですから」
「つぎつぎー ほら、つっくんクルっと回ってー リボン結んであげるー」
「あの」
「似合うぜ相棒! こっちこっち、おそろで写真なー」
「ええと、はい」
 謝罪がどうして着せ替え人形会になったのか、九十七にはいまいち状況が把握できない。
 三人のケガが回復するなり、剥かれ着せられポーズをとらされ写真を撮られた。

『詫びる気持ちがあるなら、黙っててねー』

 しきみが怖かったのもあるし、嬉しそうな笑顔全開のギィネシアヌへ応えたい気持ちもあった。
(幻影……でしたの?)
 自分のアウルに照らされた、銀色の。
 彼女は笑っていた。常と変わらず飄々と。
 彼女が愚かな自分を笑いに来たのか、
 自分が自分に決着をつけたかったのか…… きっと、彼女が『生きて』いても、答えはくれないだろう。
(……そうですねぃ)
 『親友』は、そういう性格だった。知っている。
 あの日を境に、鳴り響いていた鐘の音は静まり返っていた。

 ――顔向け出来る生き方を

 記憶の中の彼女が、いつものように笑ってくれる、そんな生き方をしたい。
 静かになった頭の中で、ようやく九十七は心の整理をすることができた。
 拳でノイズを取り去ってくれた、眼前の友人二人には、どれだけ礼を言っても足りないだろう。




 笑われないように。
 笑ってもらえるように。

 それが、生きている自分にできることなのだろう。
 心情も 信条も 譲れないけれど、切り離して落ち着いて、為すべきことの為に見つめなおす余裕を。
 記憶の中の彼女が笑い、それを思うと九十七にも笑顔が戻る。

「おかえり、相棒ッ!」
 九十七の変化に、ギィネシアヌが飛びついた。
「行けてよかったよねー 地獄の三丁目ー」
 そんな様子を、カメラに収めながら、しきみ。
「……死の淵から戻ってきた戦士はパワーアップしてます故」


 時は流れ、季節は巡る。
 悲しみを乗り越えて乗り越えて、少女たちは強くなる。
 どうか彼女たちに、祝福の鐘を。




【鐘の音は鳴りやまない 了】


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja4233/ 十八 九十七 / 女 /18歳/ インフィルトレイター】
【ja5565/ ギィネシアヌ / 女 /13歳/ インフィルトレイター】
【ja3040/ 鬼燈 しきみ / 女 /14歳/ 鬼道忍軍】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました。
乙女たちの殴り愛、お届け致します。
非常に繊細な部分をお任せいただきまして、自分で良いのだろうかと緊張しながら取り組ませて頂きました。
三人の心に、少しでも寄り添っていれれば幸いです。

■イベントシチュエーションノベル■ -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年06月05日

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