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『感染源を探せ! 』
綾鷹・郁8646)&藤田・あやこ(7061)&(登場しない)

 精暦X年。
 かつて人類が住んでいた地球は無人となり、人類は宇宙へと生活の場を移していた。現在は龍族と人間が地球の領有権を巡って争っていたが、停戦中ということもあり、地上は不可侵となっている。
 しかし、その地上に人類の戦艦オワリが降り立った。
 理由は至極簡単だった。南米沖で幻の遺跡を発見した艦長がその魅力にとりつかれ、いてもたってもいられなくなったからだ。
 そんな協定違反の人類の行動を見張るべく、龍族の監視船も近くに停留していていた。
 そんな時だった。どういう訳か、突然双方の艦が異常をきたしてしまったのだ。
 すぐさまオワリ艦隊は味方へと連絡をし救助を求めたのだが、それが同期である藤田あやこ率いる艦隊だった。

「ちゃお♪」
「流石あやこちゃんや。早かったな」
 よく来たな、と艦長は笑みを浮かべながら、長い黒髪を靡かせ颯爽と現れたあやこの肩を勢いよく叩いた。それを軽く流すと、あやこはウインク一つを送りながら気になっていたことを単刀直入に尋ねる。
「それで見せたい物ってなーに? 何を見つけちゃったの?」
「なんややっぱり気になるからこんな早かったのか。でも残念ながら修繕の方が先や」
「あー、やっぱりー?」
 副艦長である郁はそんな二人をのほほんと眺めている。男が守ってあげたいと思うような愛らしさを醸し出している郁だったが、それは口を開かなければという限定付きだ。
 こっちや、と促し先へと進む艦長をあやこたちは追いかける。艦が異常をきたした理由を探し、早々にここから離れるべきだとあやこと郁は感じていた。これ以上ここに留まり続ければ、龍族の監視船の異常もこちらのせいにされ、停戦状態が解除されるかもしれない。それは避けねばならぬ事態だった。先に協定違反を犯したのは人類のほうなのだから。
 あやこと艦長は懐かしさもあってか、道すがら思い出話に花を咲かせていたが、艦長が艦に手をかけようとした時だった。微かな音がその場にいた皆の耳を打つ。
「アカン、終いや!」
 艦長は慌ててあやこと郁を抱きこみ覆いかぶさるように地面へと押し倒した。直後、三人を襲う爆風と熱。爆音が辺りに響き渡った。
「っつう……嘘……」
 庇ってくれた艦長の下からなんとか這い出した二人だったが、直撃を受けた艦長は主に火傷で重症だと思われた。
 大きな艦だ。未だ爆発音を響かせる艦の乗員は千人は下らないだろう。しかしこの度重なる爆発では救助のしようもない。
 乗員のことを思い涙ぐんだあやこだったが、すぐに部下を呼び、艦長を自分の艦へと運ばせ、そしてもし救助を求める者があれば手を貸すよう指示をした。
 郁は燃え盛り、未だ小さな爆発を何度も繰り返している艦を悲痛な面持ちで見つめている。白くなるまで拳を握り締めたまま。
 あやこがそれに気付き声をかけようとした時だった。郁は自らが乗ってきた艦へと一目散に駆け出した。それにはあやこも慌て、後を追う。
「郁、止まりなさい!」
 その声を無視し、艦内へと駆け込みそのまま操縦室へと向かう。先の爆発で艦内は慌しくなっており、暴走する副艦長とそれを追いかける艦長を止める者は誰も居ない。
「殺っちゃるもん!」
 涙目のまま操縦桿を握った郁は龍族の船目掛け艦の方向を変えた。しかしその操縦桿を押さえ、強い口調で郁を諌めるのはあやこだ。
「駄目よ」
「だって声がまだ聞こえる! まだ生きてる!」
「それはあの監視船だって同じよ。まだあの子たちが犯人とは決まってないのよ」
 そこで見計らったかのようなタイミングで電子音が聞こえ、監視船からの通信が入る。すかさずあやこがそれを受け入れれば、目の前に監視船の面々が現れた。釣り目がちだが妖艶な龍族の女性が艦長らしい。
「貴様らはなぜここにきた」
「救助を求められたからに決まってるでしょ」
「地上に降り立つことは違反と知ってのことか」
「当たり前。でも私はこの故障の原因を突き止めたら、さっさとここから引き上げるつもり。故障を直すくらい良いでしょ。このままじゃ、何もしなくても落ちるわ」
 両者一歩も引かずにらみ合う。好戦的な眼差しを向ける龍族の艦長を真っ向から睨みつけるあやこの図は恐ろしい。
「フン、貴様らの船も違反を犯した。どの道、貴様らは違反者さ」
「アンタもね」
「我らはあくまで監視だ。よって違反を犯した者は我らによって裁かれる運命にある」
 その言葉にあやこは目を細め冷淡な笑みを浮かべる。
「ではさっきの爆発はそちらが仕掛けたもの?」
「まさか。こちらは手を下していない」
「……そうでしょうね。そちらもあの爆沈した艦と同様異常をきたして混乱中のようだし」
 先ほどの笑みはどこへやら。飄々とした表情で告げるあやこの言葉に龍族の艦長はたじろぐ。図星を差されたのが効いたのだろう。
「さっき艦長との会話で聞いたのよ。もっとも、今その人は絶対安静だけどね」
 その瞬間、龍族の艦長の表情が一瞬だけ変わる。すぐに元に戻ったがその一瞬をあやこは目に留めていた。
「とにかく私は原因を突き止める。そうしたらこの区域から撤退するから安心して」
 まだ何か言いたげな相手を無視し、あやこは一方的に通信を切る。
 そして未だ操縦桿を握り締めた郁は、そんなあやこを強い眼差しで見つめていた。その視線に気付いていたあやこは郁に囁く。
「あのコが犯人じゃない証拠を掴めば撤退するわ」
 ふわり、とあやこは郁のふわふわの髪を撫でその横を通り過ぎた。郁はその手を引き止めるように掴む。あやこはその場で足を止め、郁に向き合った。
 郁は俯いたまま呟く。
「乗員の声が響いてた。でももう聞こえない。あたしはここにいたのに、何も出来なくて苦しくてっ……艦長はなぜそんなに冷静でいられるの?」
 握り締めた手に痛いほど力が加わる。
 郁の無念さがそこには込められていて、あやこは泣きそうに顔を歪めた。
「ねぇ、なぜ?」
 顔を上げた郁は必然的にあやこを見上げる形になる。郁が見たのは俯いて肩を震わせるあやこの姿だった。
「訓練の賜物よ。……私たちは私たちに出来ることをしなければならない。彼らの死の原因を突き止め、伝えなければならない」
 顔を伏せ髪の毛が被さっていたため表情を窺うことは出来なかったが、噛み締める唇だけは郁にも見ることが出来た。そこにあやこの無念さを感じ、郁は掴んでいた手を離すと、分かりました、と一言呟いた。
「よし、原因を突き止めるわよ。……っと、これは?」
 あやこの目に留まったのは、現在瀕死の重傷である艦長から届いたメールだった。いつ届いたのか定かではないが、この件に関しての情報と見て間違いはない。
 迷いなくあやこはそのメールを開けると読み進めた。
『あやこちゃんへ。内緒日誌やで』
 そう前置きがあって、つらつらとここ数日の出来事が綴られていた。
「なにこれ、おっさんの内緒日誌?」
 龍族のカワイ子ちゃんから大陸人の遺物を貰った、遺跡を発見した日、艦に異常をきたした時の状況、監視船の混乱、大陸人遺跡の詳細などが記入されている。
 中でもあやこの興味を引いたのが、天空船が来訪した直後に艦に異常をきたしているところと、まだ稼動している遺跡の詳細だった。
 画面を覗き込んだ郁も同じ部分に興味を引かれたようだ。
「今回の件は天空船の元居た場所である遺跡が関係してるようね。天空船と接触してから異常をきたしている点から見て、原因はそこにありそうだけど……艦の爆発はやはり事故かもしれない」
「あたし、報告してきます。聞こえないかもしれないけど」
 郁は重症の艦長に報告に向かう。それをあやこは見送り、窓から月の浮かぶ夜空を見つめた。


 艦長に意識があればいい、と思いながら郁は医務室へと向かう足を速める。
 しかしそう簡単には物事が進まないようだ。郁はふいに眩暈に似た感覚を感じ辺りを窺った。次の瞬間、艦は突然浮遊感と共に宙に浮かぶ。あやこから離陸指示は出ていない。これは艦の暴走だ。
 通路にある丸窓から外を眺めれば、地上との距離があっという間に離れていく。そして目の前で同じように上昇する見たこともない天空船。
 すかさず郁はあやこへと通信を繋ぐ。
「天空船がいます……!」
「私も見たわ。天空船を捕獲する!」
 その言葉の直後、艦は急降下し始めた。その速度は立っていることが困難なほどの重力を人々に与える。周りに捕まる場所のなかった郁は通路に転倒しながら訴えた。
「それでは駄目! 撃って! お願いだから撃って!」
 天空船はまるで自爆でもするかのように艦と共に同じ速度で地上へと向かう。それに引きずられるように艦も落ちていくのだ。
「っ、撃てー!」
 あやこの声と爆ぜた音がほぼ同時に辺りに響いた。すると艦の降下は嘘のように止まる。壁に背を預けた郁は安堵のため息を吐いた。
 あと数十メートルというところで墜落は止まり、間一髪で望まぬ地面との接触を回避した。
 郁は方向転換をするとあやこの元へと向かう。今は報告よりも先に解決しなければならない問題がある。
「やっちゃるもんね!」
 同じ言葉なのに先ほどとは違う意味合いで呟くと郁は駆けた。


「天空船との接触が暴走の原因で間違いないわね」
「あたしもそう思います。なんらかのウイルスがこちらに進入してきたと思われます」
 でもおかしいわね、とあやこは首をひねる。ウイルス感染が天空船との接触と考えるならば、監視船は天空船に接触していないのだ。どうやって感染したというのだろう。
「ま、いいわ。天空船の元の場所を探りましょ。もしそこに害があるなら遺跡であろうと手加減は無用。破壊する」
 空爆によってか派手に壊された遺跡は、中央に天空船発射台がある。艦長の調査により、発射直前には虚空に別世界への窓が開くようになっており、窓を閉じ天空船を発射すると遺跡は自爆する構造となっているという。
 しかしこの遺跡は稼動中だ。それは何故か。
 すでに窓を使ってその遺跡で暮らしていた人々は脱出したのだろう。しかし動いていた天空船に人の影はなかった。天空船はウイルスに侵されており、勝手に動いていたのだろう。ウイルスを撒き散らしながら。
「とにかくこの目で見てみないとね。探索に向かうわよ」
 艦内にいる者に告ぐ、とあやこは探索に向かう者を募り大陸人の遺跡と向かった。


 遺跡の入り口で郁は共感能力を使い遺跡を把握する。頭の中に入り込んでくる映像や音の波。それらを的確に処理しながら郁は遺跡の中を歩き回る。
「さあさあ、どんな発見があるかしら」
 今はもう過去の遺物となってしまった品々があちこちに存在している。それは今を生きる人にとってはなんの価値もないものだが、その当時を語る品々は見ているだけで面白い。
 嬉々としてあやこが遺跡内を見て回っていると、先を行く郁が窓を眺め立ち止まった。しかしそこには何も映っていない。
「どうかした?」
「……おかしいんです。窓の外に一瞬ですが船の廊下が見えた気がして」
「遺跡の中に船の廊下……?」
 あやこがその窓に近づき覗き込むがやはりそこには何もない。何もないわよ、と振り返るとそれが合図のように郁がその場に崩れ落ちた。
「危ないっ!」
 あやこが郁を支えるとその体は熱を発していた。額に手を当てるまでもない。
「ふぃるしゅ……ちょっ…と……ふきゃいりししゅぎ……」
 呂律の回らない郁が必死に自分の状況を告げる。
「私たちにまで影響を与えるの?」
「しょうれしゅ……でも……おきゅにいきゃなきゃらいじょうぶれしゅ」
 でも危険なことには変わりない、とあやこは遺跡の爆破を決意する。膳は急げと爆薬の設置を指示するあやこだったが、奥までいけないとなると完全なる爆破は難しいかもしれないと思い悩む。しかしそれを郁が解決した。
「ふぃるしゅはないびゅにあるのれす……しょとからはきゃいしゅれば……」
「では外部からも爆薬を設置」
 完全なる消滅を、とあやこは遺跡上陸隊に告げた。
 皆が爆薬をしかけている間に、あやこは郁からこの遺跡の操作方法を教わっていた。爆破の際の逃げ道として別世界への扉を使うことにしたのだ。その扉の向こう側がどこに繋がっているのかは郁が知っていた。向かいたい場所へと繋がるのだという。
 かくして、設置を済ませた全員が操作卓の前へ集合した。あやこは皆に言う。
「私たちの艦へ戻るわよ」
 あやこは教えられた通りに操作をし窓を開く。発射する天空船はないが、きっとうまくいくだろう。
 秒読みを開始するあやこの周りに緊張感が走る。そして、ゼロ、と告げたのと同時に操作卓の前に居た全員がいっせいに窓の中へ飛び込んだ。
 そして全員が飛び込み終わった後に、再び閉まった窓を凄まじい轟音と共に爆風が粉々に砕いたのだった。



 昏睡状態にあった郁だったが、数日たったある日、無事に目覚めた。熱も下がり顔色もいい。後遺症なども特にないようだった。
 郁が目覚めた翌日、あやこと郁はティータイムを楽しみながら、ウイルスの件について話し合っていた。
「やっぱりこの船にもウイルスはまだいるのよね」
「はい。でもよいお知らせが」
 先を促すと、にっこり、という言葉がピッタリの笑顔で郁が言う。
「リセットすれば直ります」
「……それだけ?」
「はい。ただ再起動をかければその間この艦は無防備になってしまいますけど」
 それは困ったわね、とあやこは呟くが、言葉とは裏腹に怖いぐらいの笑顔を浮かべている。よくないことを考えているに違いない。嫌そうにしながらも郁は先を促す。するとあやこは突拍子もないことを言い出した。
「監視船に遊びに行きましょ。ウイルス除去方法、教えてあげないと」
「へっ? 遊びに?」
 郁の心配をよそに、あやこは郁の手を引くと龍族の監視船に向かい歩きはじめた。地を踏みしめる感覚は久しぶりであやこと郁の頬も上がる。
「ちゃお!」
 たのもー、というような勢いで相手の艦の入り口へと現れた二人を龍族は訝しげに観察する。攻撃のつもりがないことをアピールするため、あやこたちは両手を上に上げ、ひらひらと手を振ってみせた。
「貴様ら、ふざけているのか」
「いいえ。ウイルスの除去方法を教えてあげようと思って遊びにきたの」
「……あるのか?」
「もちろん!」
 お話しましょ、と微笑むあやこの横で郁も友好的な笑みを浮かべる。時間稼ぎのためよね?、と内心思いつつもそれを表情には見せない。
 しばし訪れる沈黙。
「貴様らを信用したわけではないが……」
 そういう声が聞こえ、深いため息と共に入り口が開いた。

「ちゃお! さっきぶり」
「……帰れ」
 速攻で帰艦を言い渡されあやこだったが、その言葉を無視し話を進める。他人を自分のペースに引き込むことに長けているあやこは動揺することもない。
 リセットのことを告げると、龍族はすぐにその指示を出した。龍族も馬鹿ではない。あやこたちが来た意味に気付いたのだろう。
「さてと。時間もたっぷりあることだし、相互理解に勤めましょ。ほらほらこういう時に言いたいこと言わないと」
 外部との通信も途絶えた今だから言えることは多いだろう。
 初めは警戒を強めていた龍族だったが、愚痴や悩みや自慢話を聞いているうちにちらほらと本音が出始めた。
 この監視船に乗る者たちは穏健派なのだという。特に人類に嫌悪感を持っているわけではなく、命令で監視しているに過ぎない。
 そして中立であるターミナルにいる間は、それぞれが互いの情報交換をしたり、恋仲になっている者達がいるのだという興味深い話を聞きだした。
 そこであやこは以前話した時に気付いたことを直球で龍族の艦長に尋ねた。
「あなた、私の友人の艦長のこと好きでしょ」
 郁はその発言をしたあやこをギョっとしたように見つめる。龍族の艦長は顔を真っ赤にしながら動きを止めた。
「ままままさかっ! そのようなことはない! でも別に嫌いじゃないっていうか、笑った顔が格好いいな、とかそんなこと思ったりしてないんだからな」
「うんうん、思ってるのね。まあ、良い奴だから悪くないと思うけど」
「怪我したって聞いて心配だとか思ってないし、日誌に書かれていた釣り目の妖艶な人物とは誰のことなのかとか……」
 あやこと郁は顔を見合わせて笑う。この龍族の艦長はきつめの見た目とは裏腹にどうやらだいぶ可愛らしい性格をしているようだ。
「おっさんの秘密日誌、傍受してたのね」
 しまった、という表情を浮かべた龍族の艦長を笑い飛ばすあやこ。
「別に減るもんじゃないしいいわよ。でもあなたたちの船の感染源が分かったわ。きっとその秘密日誌ね」
 ウイルスに感染したファイルを傍受した際に、この監視船もウイルスに感染してしまったのだろう。
「もう少し時間あるようだし、こっちの艦にも遊びにきたら? どうせ通信機能もしばらく使えないし、こっちの行動なんてばれないわよ」
 話してみたいでしょ?、と聞けば、龍族の艦長はそわそわと宙に視線を彷徨わせていたが最終的には頷いた。
「じゃ、案内するわ」
 ようこそ我が艦へ、とあやこと郁は笑顔で龍族を招きいれたのだった。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
紫月サクヤ クリエイターズルームへ
東京怪談
2013年06月12日

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