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『World picnic 〜メルリード〜 』
アレス・メルリード(ea0454)

 新緑が目に優しい季節。
 穏やかな気候に誘われるように、アレス・メルリードは妻のサティーと娘のロムルスを伴って公園に来ていた。
 辺りはすっかり春一色。緑の絨毯に色とりどりの花が咲き誇るこの場所は、メルリード一家のお気に入りの場所でもある。
「やっぱり外に出てきて正解だったな」
 そう零すのは、突然のピクニックを提案したアレスだ。そんな彼に、妻のサティーも微笑んで空を見上げる。
「そうですね。空も綺麗に澄んでますし、空気も気持ちが良いです」
 僅かに雲があるものの空は綺麗な青で埋め尽くされ、その中を鳥たちが楽しそうに歌いながら飛んでゆく。
「本当に今日は良い天気ね」
 ロムルスは穏やかな雰囲気の両親を視界に呟くと、父が足を止めた場所を見て笑みを零した。
「ロムルス、お弁当を広げる場所なんだが、ここはどうだろう?」
「良いんじゃないかな」
 アレスが提案したのは、新緑の絨毯が美しい小さな丘の上だ。ここからだと公園の花壇も良く見えるし、遠くには噴水まで見える。
 ハッキリ言って、公園の一等地と言っても良いくらいの場所だ。
「良し。愛娘の許可も出たし、ここでお弁当にしよう。サティー、手伝ってくれるか?」
「ええ、勿論です」
 サティーは手にしていたバスケットを地面に置くと、その中からマットを取り出してアレスに差し出した。
 こうして見ていると、両親は本当に仲が良い。
 ロムルスが物心ついてから、2人が喧嘩する姿は数えるほどしか見ていないんじゃないだろうか。
「さあ、ロムルス。座ってお食事にしましょう」
 サティーの言葉に慌てて腰を下ろすと、新芽が押し返してくるのがわかる。
 やっぱり春の芝生は柔らかくて好きだ。
 そんなことを思っていると、目の前に紅茶の入ったカップが差し出された。
「ロムルス、最近はどうだい?」
 何が? そう視線を向けながら、アレスの手からカップを受け取る。
 そこから昇る香りは、幼い頃から何度も嗅いだ家族の香り。それを胸いっぱいに吸ってカップを口に運ぶと、サティーがアレスの言葉を助けるように言葉を添えた。
「お仕事のことですよ」
 仕事――と言えば、開拓者ギルドでの仕事の事だろう。尊敬する両親に恥じないよう、そしていつか両親の様になれるよう。
 その一心で剣を振るう日々だが、その成果が出ているかはいまだ難しいところだ。
「……少しは慣れて来たかな。父さんや母さんに追いつく程ではないけど」
 俯き気味に言葉を発する娘を見て、アレスはクスリと笑った。
 その笑みは決して娘を馬鹿にするものではなく、慈しみ、愛しいと思うからこそ零れる笑みだ。
「別に俺たちのようになる必要はないさ。ロムルスにはロムルスの良さがある。そこを活かして行けば良いんじゃないか?」
 それでも……。と口を噤む娘に、今度はサティーが小さく笑う。
「ロムルスはお父さんそっくりですね」
「?」
 どういうこと? そう視線を向けたロムルスに、サティーは声を潜めるように身を乗り出した。
「お父さん、知り合った頃は冒険ばかりで『それしか見えてない!』って感じだったんですよ」
「そうなの? 今のお父さんからは想像できないかも。でもお父さんの武勇は色々聞いてるし、全然と言う訳ではないかな」
 父と母の昔を知っていると言う人から話を聞くことはある。だがそれらは大抵、父と母の武勇ばかり。
 父が母の言う様に冒険ばかりで猪突猛進気味だったとは想像もつかない。
「でも、強くなるためには経験が必要なのも確かよね。私ももっと経験を積まないとダメかな」
 自分の実力が、現役時代の父と母に到底追いついていないことはロムルスも理解している。だからこそもっと修行して、もっと強くなって……そんな思いが強い。
 そんな娘を見詰めてアレスが苦笑を零した。
「サティーの言うことは間違ってないかな。あの頃の俺は冒険に打ち込んでいたからね。でも、俺の場合はそれだけで強くなったわけじゃない」
 どこか懐かしい。そんな表情で呟くアレスに、サティー手作りのサンドウィッチが差し出された。
「ギルドではよく見かけていたんですけど、はじめて声を掛けた時は緊張してしまいました。なのに、いきなり酷いことを言われて」
「あ、いや……あれはそう言う意味では無くて……」
 そう言って苦笑を深めると、アレスはサティーの作ったサンドウィッチを口に運んだ。

   ***

 ロムルスが生まれる、ずっと前。それこそアレスとサティーが現役で依頼をこなしていた頃のことだ。
 当時、アレスには好意を寄せている娘が居た。だがその娘には既に想い人があり、彼はそれを忘れるために冒険に打ち込んでいた。
「次の依頼はこれにするか」
 そう言いながら見詰める先には、依頼掲示板がある。そこには幾つもの未解決事件が掲げられており、アレスはその1つに目を留めていた。
 掲示板に掲げられる依頼の種類はそれこそ多種多様。迷子の猫を探して欲しいというものから、それこそ死の直結するような依頼まで存在する。
「随分と難しい依頼に参加されるんですね」
 突如掛けられた声に振り返った。
 こんな風にギルドで声を掛けるのは、知り合いの冒険者かはたまたギルドの人間か。大抵はそのどちらかだった。
 だがアレスに声を掛けたのはそのどちらでもない人物で、彼は驚いたように目を見開て、目の前の人物を見詰めた。
 褐色の肌に美しい白い絹のような髪を持つ女性。明らかにこの場には不釣り合いな雰囲気の女性がそこには居た。
「あ……いきなりで申し訳ありません。私、サティー・タンヴィールと言います。アレス・メルリードさん、ですよね?」
 気恥ずかしげに笑みながら小首を傾げるその肩に、透き通った髪が流れる。
 それに思わず見惚れていると、サティーと名乗った女性はアレスに微笑みかけた後、彼の隣に立って掲示板を見上げた。
「私も何か依頼にと思って来たのですけど……確かにこの依頼は気になりますね」
 彼女が見詰めるのは、先程アレスが参加しようとしていた依頼だ。難易度で言うなら難しいの部類に入るもので、女性が安易に受けるような依頼じゃない。
 アレスは思わず言った。
「止めた方が良い」
 殆ど反射的だったと思う。
 口を吐いて出た言葉に、サティーの目が瞬かれる。それを見て咳払いを零すと、アレスは彼女から視線を外して呟いた。
「いや。貴女なら、こちらの依頼の方が良いんじゃないかと……」
「迷子のペット探し……ですか?」
 アレスが示した依頼は、何処かの冒険者に愛想を尽かしたペットを探してきて欲しいというものだ。騎乗動物と書かれていることから、こちらもある意味難易度が高そうだが、アレスが見ていた依頼の比ではない。
「俺が選ぼうとしていた依頼は、失敗すれば重体なんて生易しい結果は出ないものです。そんな場所に貴女が行く必要はないですよ。そう言った場所は俺の様な人間や、もっと力のある――」
「お気遣いは不要です」
 ピシャリと言い放たれた言葉に、今度はアレスが目を瞬いた。
「これでも私はファイターです。誰かのために振るう剣は持っていても、そうした時に納める鞘は持っていません」
 碧の瞳に意思を宿して告げられる言葉に息を呑む。どんなに線が細く見えても、どんなに美しくても、彼女は立派な冒険者なのだ。
 それを自分は冒涜しかけた。
 その事に、胸の奥から恥じる気持ちが湧き上がってくる。
「……すまない」
 プライドを傷つける発言をしてしまったこと。彼女の決意に刃を向けてしまったことに謝罪する。
 そうして瞼を伏せると、予想外に慌てた声が降って来た。
「わ、私の方こそ生意気な事を言って申し訳ありません! あの、ご気分を害したりしていませんか?」
「いえ」
 アレスはそう言葉を切ると、自分と同じ色でありながら別の輝きを持つサティーの瞳を見詰めた。
「気分を害すだなんてとんでもないです。寧ろ尊敬しました」
 そう告げて微笑むと、サティーの頬が一気に赤くなり、彼女は慌てた様に口を開いた。
「そ、それで、あの……アレスさんはどのご依頼を受けるのでしょうか」
「俺は当初の予定通りこの依頼を受けますよ。サティーさんも、ですよね?」
 そう言って微笑んだアレスに、サティーは表情を輝かせて頷いたのだった。

   ***

「まあ、その後は何度か依頼を共にして、頼れる仲間になり……そして、気になる存在になった」
 ゆったりと紅茶を口に運びながら語るアレスに、ロムルスは静かに耳を傾ける。その様子を穏やかに見詰めながら、サティーが口を開いた。
「そう言えば、覚えていますか?」
「何がだい?」
「私達が一緒に行った依頼でお屋敷の調査をした時、アレスさんったら人目もはばからずあんな事を――」
「わあっ! それは待った!」
 慌ててサティーの口を手で覆ったアレスに、ロムルスは目を瞬く。何があったのかと首を傾げる彼女に、アレスは苦笑しながら口を開く。
「ま、まあ、なんだ。ひたむきに仕事に打ち込むのも良いが、俺たちみたいに『一緒に依頼に行くと楽しい』そんな相手が居るのも悪くないものだぞ」
 冒険を通じて惹かれていった心。
 本当は思い続けた娘を忘れるために打ち込んでいた冒険が、いつしか新たな出会いを運んでくれた。
 今ではそれで良かったのだと思うが、それでも思ってしまう。
「互いに背を預けて戦える相手がいる。戦士にとって、これ以上に幸せなことはない」
 アレスはサティーの口から手を放すと、彼女の手を取ってその甲に口付けた。
「君が言ってくれた『アレスさんの背中だけは何があろうとお守りしますから』と言う言葉。この言葉だけは、今も鮮明に覚えている」
「アレスさん」
 どれだけ時を経ようと変わらない想いの両親を見て、ロムルスの視線が下がった。
 ゆらゆらと湖面のように揺れる紅茶を見ていると、どこか情けない表情をした自分と目が合う。
「……背中を預けて戦える相手、か」
 ポツリ。零した声にアレスが問う。
「ロムルスには好きな相手はいないのか?」
「へ!? あ、私は……別に……」
 慌てて言葉を紡ぐが徐々に声が小さくなる。
 その様子を見て、アレスとサティーは顔を見合わせた。
 そして穏やかな声で言葉を紡ぐ。
「自分の心をごまかしてると、気付いた時には手遅れになってるかもしれないぞ」
 そうすることで得れる幸せもある。
 けれど娘に同じことを強いるのは酷だ。それに目の前にある幸せこそ、本当の幸せだと言うことも大いにある。
 だからこそ自分には素直になって欲しい。そう、願うのだが……。
「だ、だから、私に好きな人なんていな――」
「おや、そこに居るのはアレス。それにサティーさんとロムルスちゃんも。みんな揃ってピクニックかな?」
 強情に反発しようとしたロムルスの言葉が遮られた。しかも盛大に跳ね上がるオマケつきで。
「これは久しぶりだな。元気だったか?」
 アレスは娘の反応にクスリと笑み、近付いてきた一家に向き直る。
 その中にはサティーと出会う前に想いを寄せていた人の姿も見える。だが彼女も今では家族を支える母親の1人だ。
「良ければご一緒にお茶でも如何ですか?」
 サティーの提案に一家の主と妻が腰を据える。それを視界に、ロムルスは一家の一人息子と顔を合せていた。
 その顔は真っ赤になっていて、どうにも心許ない様子。それでもなんとか顔を上げると、こう切り出した。
「……よければ、向こうの景色でも見に行かない?」
 ロムルスなりの精いっぱいの言葉。
 それを耳にしたアレスとサティーは顔を見合わせると、娘の僅かな成長に微笑み合った。

―――END...




登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ea0454 / アレス・メルリード / 男 / ナイト 】
【 eb2503 / サティー・タンヴィール / 女 / ファイター 】
【 ib0121 / ロムルス・メルリード / 女 / 騎士 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびはご発注、有難うございました。
大変お待たせいたしましたが、如何でしたでしょうか。
口調等、何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、お手数をおかけすると共に、ご発注ありがとうございました!
■イベントシチュエーションノベル■ -
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2013年06月17日

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