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『闇夜の暴走曲 』
ヴァイオン(ga4174)&メリー・ゴートシープ(ga6723)

●砕かれる夜の帳
「まったく、僕もついてないなぁ。こんな所でばったり、なんて」
 すっと、音をも立てずに横へ跳ぶ。この様な『隠密に適した』回避方法は、彼の『本業』から来る物だろうか。
 直後、先ほどまで彼が居た場所に、銃弾の雨が降り注ぐ。
「いい加減‥‥おとなしく殺されてもらえないかな?」
 片手でバンッと壁の角を叩き、足の力と合わせて加速。一気に距離を詰める。

 ――近距離に於いて、『点』を攻撃する銃器は狙いをつける必要がある分、近接武器に劣る場合がある。
 前進する少女――少女I、とでもしておこう――は、地に空いた手をばしっとついて体を少し浮かせ、そのまま空中で薙ぎ払う様な蹴撃を放つ。
 ただの蹴りだと侮る事無かれ。空を切ったその一撃は、少年――少年V、とでも称せばいいか――の後ろにあったポストを、斜めに両断したのである。
 良く見れば、少女Iの靴の、その踵の部分に、黒塗りの刃が装着されている。彼女もまた、『殺し』を生業とする者なのだろうか。
「そんなに僕の事が憎いかい?」
 ワイヤー付きのナイフを付近の電柱の頂上に突き刺し、それを巻き上げる事で上方に逃れた少年Vは、笑顔で問う。
「ええ、もちろん」
 銃口をそちらに向け、少女Iも、また笑みを浮かべる。
 お互い笑顔で、殺意がぶつかりあう。
 果たして、何が彼らをここまで敵対させたのか。


●始まり

 ――昔話をしよう。
 ある暗殺業を営む男が、二人の子供を引き取り、育てた。
 少年は、『初めから』完成された暗殺者だった。
 少女は、『無限の可能性を秘めた』成長する暗殺者だった。

 ――男には、もう一人、弟子としていた女性が居た。
 だが、ある日、その女性が突然、暗殺者稼業から足を洗うと言い出したのだ。
 理由を聞けば、好きな男性が出来て、結婚するためだと言う。

 男は苦悩した。普通ならば、祝福する所だろう。
 ――だが、暗殺者稼業から足を洗うのは、そう簡単ではない。
 恨みを持つ者たちは、幾年の時間を立とうと、必ず追ってくる。
 家族も、関係者も、全てが狙われるだろう。

 男は女性にこれを説明した。
 だが、幸せを求める女性が、これを聞き入れるはずが無く。

 ――どうする。どうすればいい。
 男の苦悩を見た少年は、心に一つの決意を秘めた。
 たとえそれが、兄妹のように生きてきた、少女の意に反する事だろうと――


●破壊の領域

「僕はまだ、死にたくないからね。だから――」
 電柱にワイヤーを巻きつけたまま、少年Vはコートを横に払う。
 コートの前が大きくはだけると共に、無数のナイフが飛び出し、少女に向かって降り注ぐ。
 それは付近の自販機や、電柱に繋ぎ止めてあった自転車等を遠慮なく粉砕し‥‥
「この程度?」
 飛び退いて、後方の壁を蹴って滑りを止めた少女I。
 嘲笑うようにして、言葉を放つ物の。ナイフの内の一つは彼女の二の腕を掠め、白い肌に血の跡を残していた。
 今のナイフに毒でも塗っていれば、少年Vの勝利は確定していた物であったが‥‥敢えてそれを行わなかったのは、最初から『殺し』の為に全てを割り切った彼に、未だ妹であったはずの少女に向けてのみ、情が残されていたからか。

「手加減してくれた方がありがたいけどね。殺しやすくなるし」
 弾倉の取替えは完了している。少女Iは今度は両手で機関銃を構え、薙ぎ払うように掃射する。即座に電柱から別の物へと飛び移ろうとした少年Vだったが‥‥その瞬間、電柱が倒れ、僅かに飛び移りのタイミングがズレた事で、少年は電柱の方に倒れるようにして体勢を崩す!
「ぐっ‥‥!」
「あなたを倒すための、特注の銃弾。味はどう?」
 爆薬を詰め込んだ、特殊な『対物用』弾。周囲の環境を利用して戦ってきた少年Vの戦法を知っているからこそ。その環境ごと、破砕するための銃弾。
 掃射により電柱を破壊、切断し、少女Iは初めて少年Vに隙を作った。すかさず再度、倒れこむ少年Vの方に銃口を向けるが‥‥
「そう言えば、飲み込みの速さが君の特徴だったね」
 放たれた銃弾は、少年のわき腹を掠め、服を破く。肌をも多少切り裂いていたが、血すらでてはいない。
「な!?」

 何故こうなったか。
 それは、少年Vが咄嗟に再度ワイヤーナイフを発射し‥‥折られていない電柱の下部分に打ち込み、両手でワイヤーを掴み、ターザンの如く電柱の周りを大きくスイングしたからだ。
 急な動きに照準がついていけず、少女Iの放った弾の殆どは回避される事となったのである。


●経験と学習

 少年Vはそのままスイングを加速させ、その勢いのままナイフでワイヤーをカット。自らを弾丸と化し、両手にそれぞれナイフを一本ずつ構えたまま――猛烈な勢いで上空から少女Iを襲う!
 ――だが、そのナイフが少女の肌に届く事は無く。
「‥‥そろそろ、見えるようになってきたから」
 片足を大きく振り上げ、踵落としのような形で少年Vの腕ごとナイフを地面に踏みつける。そのまま踏みつけた足に重心を移し、逆の足にて、回し蹴りのような形で少年の首を狙う!
「あちゃー、ちょっと不利になったかな」
 逆の手に持つナイフで、ギリギリの所でガードする。だが、腕と足の力では著しい差がある。男女の筋力差を考慮しても、尚少年の方が不利だ。
 ギシッ。ギシッ。押し込まれる。
 少女の靴に仕込まれた刃が、少年の首筋に接触する。
「けど、こんな状況‥‥今までだって、あったさ」
 絶体絶命の状況にあって尚、少年の顔には微笑みが浮かんでいた。

 ――如何に飲み込みが早くとも、埋められない差が一つある。
 それは『経験量』だ。――純粋な修羅場を潜って来た数。そして、それによって鍛えられた、危機的な状況への対応法。それこそが、少年が少女を上回る、最大の武器だったのである。

 ペッ。口から吐き出す、ミニチュアサイズのダガー。飛行の安定性を高めるため飛行翼がついたそれは、一直線に少女Iの目を狙って飛ぶ。
「っ!?」
 咄嗟に体を後ろに傾ける。ダガーは、彼女の鼻先を掠めて夜闇へと消えていく。
 一瞬の事だった。だが、この一瞬は、状況が変わるには十分すぎる程に長い時間。
 少女の集中が逸れたその隙に、少年Vは腕を斜めに傾けると全く同時に頭を下げ、力を入れていた少女の脚を斜め上へと。自分の頭の上を通過するように受け流す。一歩間違えれば、頭を両断されていたであろう。だが、少年に怖れは無かった。‥‥生まれた時から殺人者であった彼には、そんな感情はなかったのだ。
 刃が頭上を通り過ぎた直後。少年は空いたその手のナイフで、自分の手を踏みつけている少女の脚を狙う。だが、少女もまた、只者ではない。猫の如く敏捷な反応で、即座に跳躍。後方サマーソルトで壁に足をつけ、そのまま膝を曲げて力を溜め‥‥反動で突進する。少年は袖口を彼女に向け、大量のナイフを一気に発射するが――既に、反応神経と速さで少年を超えかけていた少女は、それを紙一重で左右に体をずらし、全て回避してしまう。
 返すは銃撃。爆発弾を装填したそれは、障害物をも爆破し、破壊してしまうがために。
 猫が鼠の天敵であるように、少女のこの弾丸が、鼠が如く周囲の全てを利用する少年Vの天敵である。――筈だった。

 ザクッ。
 少年のナイフが突き刺さったのは、付近にあった穀物の袋。
 たちまち小麦の粒が、滝のように流れ出し、少年Vの前をカーテンが如く塞ぐ。
 そして、それに当たった瞬間。障害物に当たれば爆発する弾丸が、爆発した。
 ――小麦は、流れ続ける。滝の水流を剣で断てども断てども、その流れは止まらないのと同様に。全ての爆発弾が、小麦の滝によって防がれる。
 その滝をナイフで縦に割るように、刃を突き出したまま少年Vは前進する。少女Iの胸元を、蟷螂の振り下ろしのような二刀が狙う。
 だが、少女もまた体をひねる。その脚の刃が、再度少年の首を狙う。

 交差する姿と姿。刃と刃。

 プシュッ。
 噴き出す鮮血。
 少年のそれは首筋から。何とか気道は避けた物の、血管は免れていない。
 少女のそれは胸元から。心臓に届くのは避けた物の、肺は恐らく貫通しているだろう。
 だがそれでも、彼らの殺意は減じてはいない。

「君の事は嫌いじゃないんだけどね」
「あなたに好かれるのはまっぴら」
 再度、二人の刃が交差する、その直前。
 床が、崩れ落ちる。
 激戦が周囲に及ぼした破壊は‥‥この『場』が耐えられる限界を、超えていたのであった。

 ――かくして、二人は闇の中に落ちていく。
 その後二人がどうなったのかは、分かってはいない。
 ただ、遺体が見つからなかった事を鑑みれば、どこかで生きている可能性は高いだろう。

 今日もどこかで、鼠の少年と猫の少女の殺し合いは繰り広げられているかもしれない。
 だが、命が惜しければ近づかない事だ。彼らは生粋の――『殺し屋』なのだから。
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CATCH THE SKY 地球SOS
2013年06月20日

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