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『筧撃退士事務所Days 』
御手洗 紘人ja2549)&暮居 凪ja0503)&点喰 縁ja7176)&カーディス=キャットフィールドja7927


 鳥獣型サーバントが、鋭い爪を出して滑空してくる。
 暮居 凪は【CODE:FW】で逸早く受け止める。
「そのままで」
 横を抜ける風が軽く凪の肩に触れたかと思うと、赤い軌跡はそのままサーバントの背後を取り、一太刀に切り捨てた。
「筧さん、そのままで」
 晴れた視界に安堵することなく、凪は片足を前に、ランスを突き出す。
「サンキュ」
 串刺しにされたサーバントを横目に、筧 鷹政が口の端を上げた。
「これで全部か」
「事前情報ですと、そうですね」
 依頼内容は、再建予定の廃ビルに巣食うサーバントの掃討。
 10階建てのビルに――20を超えたあたりで鷹政はカウントを止めていた。
「……これ、二人でこなす任務じゃないよな」
「今の事務所の状況を見て、もう一度どうぞ」
「充実した仕事だったな、暮居さん!」
「お疲れ様です」
 一通りのお約束のやり取りの後、ようやく二人は肩から力を抜く。
「大きな負傷なしで終えられて何より」
 ゆるみきった笑顔の、鷹政は満身創痍である。
 防御に優れた凪と対で戦闘しているとはいえ、天界勢力が相手ではどうしてもこうなる。
「筧さん」
「はい」
「帰りましょうか。その傷、縁さんに直してもらった方がいいでしょう?」
「暮居さん、誤字」
「仕様です」




 愛しき学び舎、久遠ヶ原学園を共に過ごした面々が卒業・進学・就職・独立とそれぞれの道を歩む中。
 『筧撃退士事務所』の扉を叩く奇特な若者たちが若干名、居た。


「おかえりー。鷹政くーん、これ経費落ちないから☆」
 依頼を一つ解決し傷だらけで帰還するボスへ、明るい笑顔でトドメを刺すのはOLよろしく経理担当のチェリー。
「あー…… こりゃまた、男前を上げやしたねぇ。直しやすから、そこに座って下せぇ」
「縁君、誤字」
「仕様でさぁ」
 やんわりと笑顔で押し戻し、治癒の術を施すのは修繕士の点喰 縁。
「お疲れ様です、お菓子とお茶の用意できてますよ」
「……ありがとう、カーディスさん」
 凪は応接セットに腰を下ろし、黒猫着ぐるみ姿のカーディス=キャットフィールドとお茶をする。
 純戦闘要員2名・事務員3名による総勢5名『こんな編成で大丈夫か』が現在の筧撃退士事務所である。
「だって、戦闘に出る撃退士増えたらそれだけ装備や能力維持で経費がかさむじゃない。鷹政くんのために身を引いたチェリーの誠意に応えてよね!」
 これがチェリーの言い分で、
「お茶とケーキ類は自前ですから、気になさらないでくださいね」
 というカーディスの心配りと、
「……話を聞くにつけ、主に所長を始め所員の皆さんの食生活が心配で」
 そんな縁の優しさと、
「約束、しましたしね。あくまで、独立までのサンプルですが」
 きっぱりと言い放つ凪の将来設計から成り立っている。
「とはいっても、現在入ってる仕事だけですと、今月は少しばかり足りませんね……」
「ねー☆」
 スケジュールボードに目をやり、凪が嘆息する。
 伝票整理をしているチェリーがロッカーへしまってあるバッグが、高級ブランド物であることを知っている者はいない。
 チェリー曰く『一点豪華主義!』だが、それは数点存在していることも知られていない。
「引っ越しもありやすしねぇ」
「そうだなぁ…… え、引っ越し?」
「え?」
「……え?」

 ワンルームを仕切って事務所にして5人が利用するなんて物理的に無理でしょー!

 チェリーのライトニングがほとばしり、回復したばかりの鷹政の横を抜けていった。
「しかも、一人は着ぐるみですしね。常識的に考えて異常ですよ、この状況」
 着ぐるみ当人が、お茶をすすりながら燃料を投下する。
「前から思ってましたけど――失礼だと自覚はありましたので控えてましたが――その、筧さんもいい年齢でしょう。こういうところへ寝泊りしての生活というのは……」
「所帯持ちになって、ようやくわかるってもんですよ、そりゃあ」
 凪に続いて縁が追い打ちをかけ、
「てなわけで、できれば申請書類とか出しやすい立地がいいですねぇ。申告時期に、帰り遅くてどれだけ嫁の機嫌を損ねたことか……!」
「チェリー的にはー。駅とファッションモールが近くてー、美味しいお店もあってー、(以下略字数制限)」
「え?」




 頭を抱える鷹政へ、カーディスが淹れたてのコーヒーを差し出した。
「疲れた時には、甘いもの…… ですよね。ひと時の安らぎを、どうぞ」
「ありがとう」
 一緒に運ばれたケーキの甘い香りが、少しだけ心を和らげる。
「などと言ってくれる女の子でしたら脈あり☆彡 なのですがね〜 私で残念ですね〜」
「ありがとう……」
 頭を抱え、鷹政はそのまま撃沈した。
「ほらほらー、行くよ、鷹政くん!」
 外出の支度を済ませたチェリーが、一服している鷹政を急かす。
「目星はチェリーと縁くんでつけといたから、あとは現場百回! 実際に見てこようよ☆」
「俺はその間、荷造りでもしておきやすかねぇ」
「……ん、今、緊急で依頼が入ったわ。私はそちらへ回るわね」
「え!? 暮居さん、ちょっと見せて。――これ、一人はキツイだろ」
「誰が一人で行くといいました?」
「え?」
「物件が決まったら連絡をください。筧節の出番に関して合流ポイントを折り返し伝えます」
「え」
「帰ってきたら、最後の断捨離がありやすからね」
「え」
「お気をつけて、行ってらっしゃいませ〜」

「ここに俺の意思はあるのか!!!」

 いつからあると錯覚していた?



●探せ、新天地!
 ふわりとワンピースの裾を翻し、チェリーが街を歩く。
「なんか、新鮮だな」
「え? 何? 鷹政くん、ナンパ? 遅いよ、完全に手遅れだよ?」
「いや、そうじゃなくて……。事務所ではカジュアルスーツだろ。そういう服装だと学園生の頃、思い出すよね」
「オンオフの切り替えは、女子のたしなみだからね☆」
「はは、確かに」
 初めてチェリーが事務所へ突撃を仕掛けたのは…… 正月だったか?
 着物姿だったと思う。
 学園へ持ち掛けた依頼で一緒に戦うこともあったし、それこそ『オンオフ』の場面は幾度となく見てきている。
 大きくなったなぁ、などと口にしたら、自分が一気に老け込んでしまうので絶対に言わないが。
 出会ったころより少しだけ大人びたチェリーの横顔に、忍び笑いをもらした。
「えーと、それで…… 第一候補が、あのビル、か。……。おい」
 足を止め、見上げ、鷹政は言葉を失う。
「駅から徒歩5分!」
「ファッションビルそのものでしょうが」
「早いかなって☆」
「却下。恨みを買うこともあるんだ、一般人さんを巻き込みかねない場所は賛成できないね」
「普通のマンションに事務所構えてるのに、それ言うの?」
「あれだけ地味なら、逆に目立たねぇもん」
「うわぁ、殴りたい★」
 はい、次ー
 殴られないように、とチェリーの手を引いて鷹政は歩き出した。
「!? 鷹政くん、まさかのセクハラ!!!?」
「へ? 何が?」
「……。うん、それでこそ鷹政くんだよね……」
 ツケ一つ。
 心の中で舌を出し、チェリーは手をつながれたまま鷹政の少し後ろをついていった。



●倒せ、逆襲のサーバント!
 緊急に舞い込む案件は、ほとんどが純粋な天魔討伐だ。
 複数グループで組む仕事に穴が開いたとか、報酬が低いため断られ続けタライ回しで辿りついたとか、そういった類。
「一つのビルから追い払ったら、別のビルへ移動って……渡り鳥ですか!」
 午前中に解決した依頼と、全く同種のサーバントを相手にするとは。
 その分、勝手がわかっているので立ち回りは易い。
 阻霊符を発動し、建物の構造を活用し、凪はランスを繰り出す。
(……ここで)
 いつもなら、鷹政のフォローが入る。あるいは、自分が鷹政のフォローをする。
「っ」
 染みついた戦闘スタイルに、少しだけバランスが崩れた。
「ごめん、遅れた」
 側面から迫るサーバントを、大太刀が振り払う。
「早く終わらせよう。その傷、縁君に治してもらった方が良いよな?」
「殴ってもいいでしょうか」
「すみません、可及的速やかに掃討しましょう」

 残党のサーバントだ、総数も先の件ほどではなかった。
 緒戦を一人で引き受けた分、珍しく凪が傷を負った形となっている。
「いずれ、独立するつもりではいますが」
 ビルの片隅に腰掛け、鷹政に応急手当てをされながら。
「案外と……慣れてしまいましたね」
「ははは。同じこと考えてた。最初の頃は、よく暮居さんの盾にぶつかってたよなぁ」
「護る、といってるのに飛び出すからです」
「反射的に、どうも。暮居さんの強さは知ってるし、信頼できるってわかってるんだけど」
 集団戦闘とツーマンセルでは、動きが異なってくる。
 鷹政はそれまでインフィルトレイターの相棒と組み、単身で前衛を担ってきたから、双璧を為せる凪との共闘は勝手が違う。
 対応してこそのプロではあるが……学園の後輩を、二人きりの戦場で矢面に立たせるのはどうにも気が引ける。
 互いの得手不得手から考えれば当然のポジショニングなのだが。
 年下だからか。女だからか。
 凪が声を荒げることはなかったが、幾度となく衝突した。
 衝突しようが、依頼は来る。戦いは続く。
 ぶつかり合いながら、それなりの距離を知っていく。
 そうして、今があった。
「暮居さんが、いてくれてよかった」
 包帯を巻き終え、鷹政が呟く。
「別に、筧さんの為じゃありませんけど」
「うん、それでも。今は、すごく助かってる」
「…………」
(私だって、経験を積むためだったらどこでもいいわけじゃないわ)
 それなりの理由があって、鷹政の事務所のドアを叩いたのだが――
(……言うほどの事ではないわね)
「包帯を巻くのは、いつまでたっても上達しませんね、筧さん」
「言うに事欠いて」
 憮然とした表情のボスを、凪は小さく笑って見下ろした。
 


●癒せ、荒んだ心!!
 晴れ晴れとした表情で縁が役所にて引っ越し手続きを終えて帰ってきた。
「いやぁ。思い立ったが吉日とは、よく言ったもんでさぁ」
 役所、病院、駅から徒歩圏内。
 小さな貸店舗だったが、事務所にも使用可という一戸建て。
 二階に寝泊りスペース有。これはいい。かなりいい。
「ここからも通いやすいでしょうし、万々歳でさぁ」
「鷹政くんには、3倍くらい働いてもらわないとだねー☆」
 ただし家賃は高かった。
 縁、チェリーの言葉に、荷作り後半戦に突入していた鷹政が手を止める。
 顔を上げる。
 チェリーはカーディスのもふもふな膝の上でくつろいでおり、
 縁は凪へ回復魔法を掛けている。
「仕事とプライベートは、切り離さなくっちゃあいけやせんぜ、筧あにさん」
「まって。じゃあ、俺の私物は荷造りする意味なくない?」
「ないですぜ? だから、そのままにしてやしたけど」
「ナンダッテ」
「後悔するほど、大きな荷物でもないでしょう。筧さんはほら、何より心に大きなものをお持ちでらっしゃる」
「やだ、鷹政くんカッコイイ☆」
 カーディスの言葉に、チェリーが便乗して囃したてる。
「ということは、これは」
「時間の浪費というやつですね〜。てっきり、引っ越しついでに部屋の片づけをしているものとばかり」
「なんだかんだいって、ノリノリだなってチェリーは見守ってたよ☆」
「いやいやいやいや!!」
「筧あにさん…… 治癒魔法じゃ、心の傷はちょっと……」
 縁が、そっと視線を外した。



●One day
 長い毛足の絨毯に顔をうずめているような感触。
 ふわふわ、柔らかくて暖かい。
 ずっとことのまま眠っていたい、が…… 不定期にノイズのような痛みが差し込む。

「惜しい人を亡くしましたね」
「良い人でしたのに〜 不慮の事故なら仕方ない」
「うん、事故だったね☆」
「酷く人為的な事故に思えやしたがねぇ……」

 ノイズに混じり、人の声が聞こえる。
 酷く耳に馴染んだ……

「給料、3か月止めるよ……? っていうか払えない、この状況じゃ」

 完全に寝ぼけた状態で、鷹政は目を開いた。
 見慣れたワンルームマンションの一室、自分の事務所の天井――そして学園の愛すべき後輩たちの顔がそこにあった。


 事の起こりは2時間前だという。
 事務所へ遊びに行こうか、どうせ暇だし。
 そんなノリで4人で押しかけた。
 勢いよくドアを開けた。
 誰かが躓いた。
 雪崩のように倒れ込んだ。
 鷹政が、後ろの衝立へしたたかに頭を打ち付けた。
 撃退士が気を失うほどだ、よほどの衝撃だったに違いない。
「誰も、ハンマーや強化ハリセンやモーニングスターなんて持ち込んでないのに、不思議なこともあるよねー☆」
 キッチンを使って軽食の用意をしていたチェリーが、コーヒーも淹れてテーブルへと運んでくる。
 カーディスの膝枕から起き上がった鷹政が、縁のライトヒールを受けて他に不調はないか確かめながら部屋を見回していた。
「どこか、調子でも?」
「ああ…… いや」
 縁の言葉に、鷹政は軽く頭を振り…… 思い出し笑いをした。
「変な夢を見ててさ。皆が俺の事務所で働いてて…… こうやって、チェリーちゃんが夜食とか作ってくれんの」
「皆で……ですか」
 凪は想像しようとし……諦めた。
 ドタバタな構図しか浮かばなかった。
 実際、夢の内容は凪の想像の3割増しで、ドタバタしていたのだが。
「楽しかったな。皆の未来はそれぞれのものだけど……」
(寝ぼけてる☆)
(寝ぼけてるわね)
(寝ぼけてますね〜)
(……非常に申し訳ないですが、『そういうこと』にしてもらいやしょう)
 四人は視線で頷きを交わす。
「興味深いですけど…… 給料が3か月払えない職場環境というのは……」
「だってさぁ!」
 寝ぼけテンションで、いつになく鷹政は饒舌だ。
 大丈夫、各々の凶器はヒヒイロカネへ戻してある。事故の真相がばれることはない。
(楽しそうな夢なだけに…… 複雑でさぁ)
 そしてまぁ、たしかに5人でこの事務所は窮屈だ。
 頬をかき、縁は曖昧な笑みを浮かべる。
 鷹政の気絶中に、見てしまったのは伏せられた写真たて。
 飾られていたのは、恐らくは相棒だったという人とのもの。
 ――もともと、この事務所は二人で回していた場所である。忘れられがちな設定だが。
 それが一気に賑わう夢を見るとは――いや、十中八九、自分たちのせいだが。
 考えると、笑い飛ばす気にもなれなかった。
「筧あにさん」
「うん?」
「なにかこう…… してほしいこととか、ありやすか」
「え!? なに、唐突に」
「いたたまれなくなりやして……」
「ちょっと、目を合わせようか、縁君」
「もーっ☆ そんなことより、お茶にしようよ!!」
「ケーキもありますからね〜」
「撃退士以前に、経営について……考えるべきかもしれませんね、筧さん」

 
 5人を収めるには狭い事務所内で。
 笑い声が響き渡る、とある日のこと。




【筧撃退士事務所Days 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja2549 / 御手洗 紘人/ 男 / 15歳 / ダアト】
【ja0503 / 暮居 凪  / 女 / 20歳 / ディバインブレイド】
【ja7176 / 点喰 縁  / 男 / 18歳 / アストラルヴァンガード】
【ja7927 / カーディス=キャットフィールド / 男 / 18歳 / 鬼道忍軍】
【jz0077 / 筧  鷹政 / 男 / 25歳 / 阿修羅】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼ありがとうございました。
『もしも、筧の事務所に就職していたら〜夢オチ〜』お届けいたします。
純戦闘員二人だけというワイルドな職場、いかがでしたでしょうか……
いろんな意味で、震えが止まりませんでした。
楽しんでいただければ幸いです。

■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年06月21日

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