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『ハツカネズミと踊る夢、朝が来る 』
ジェーン・ドゥja1442)&鬼燈 しきみja3040)&十八 九十七ja4233)&ギィネシアヌja5565


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 少しだけ、いま少しだけ、不思議なお話をしようか。
 今はもう誰も知らない、誰でもない彼女のお話さ。
 やってきたハツカネズミは、何故だかそこで、踊っているよ。
 どうやら、どうやら、いま少しだけ、時間はあるようだ。
 よろしければ、お付き合い頂けるかしら、お嬢さん?




●ハルレヤ
 暖かい。
 柔らかな、白い日溜りの落ちる場所。
 いつからこうしていたのかなんて、書物へ目を落とす鬼燈 しきみにとって、どうでも良いことだった。

 背へ流れるしきみの黒髪へ、するりと愛おしげに手が伸びる。
 しゃきん
 鋏の音ともに、一房落ちる。
 しゃきん
 それはとても、楽しげに響く。
 さあ、睦言を交わそう。



 はらり、自身の髪が何処と知れぬ縁側に落ちるのを横目に、しきみは本のページを繰りながら。
「今まで楽しかった?」
 問わず語りに、言葉を音にする。
 その声は普段と変わることなく淡々と、どこか眠たげ夢うつつ。

 しゃきん
 ええ、ええ、それはとても

「心残りは?」

 しゃきん
 あら、あら、面白いことを訊ねるのね。残して出かけるわたしかしら?

「だよねー。聞いてみたかっただけ」
 予想通りの返答に、しきみは肩を揺らす。
 髪の一房を束ねる手が、しきみの指に当たった。
 冷たい感触に、ドキリと心臓が鳴った。
「……ボクはキミに何が出来たかな?」

 しゃきん
 この手に一杯の幸福をくれたわ

 そうだろうか。それが本当だったら、とても嬉しい。
 しきみは、そっと本を閉じる。読み終えてしまった。嗚呼。物語は終わってしまった。
 ならば、告げねばならないことがある。
 伝えきれなかった、伝えたかったことがある。
(ボクは知ってる)
 知っていることを認めたら、光となり消えてしまうだろう。
 だから、今、ここで。
「さようなら、――大好きだよ。ボクのカムパネルラ」

 さようなら、わたしのジョバンニ。ほんとうのほんとうの幸福を探してね
 しゃきん


 ……鋏の音は、もう聞こえない。
 冷たい指先が髪に触れることもない。
 不揃いに、けれど魅力的に、しきみの髪は切り落とされてしまったから。
 周囲に散らばる髪の毛は、ザラリとした感触を返すだけ。
(これは夢なんだろう? だってキミは、遠くへ行ってしまったから)
 知っている。だから涙だって出ないんだ。



「…………」
 暖かい。
 柔らかな、白い日溜りの落ちる場所。お気に入りの、いつもの場所。
 いつからこうしていたのかなんて、しきみにとって、どうでも良いこと。
 書物へ目を落としながら、うたた寝していたらしい。
 コキリ、首を鳴らして頭を振る。鈍い動作に、波打つ黒髪がついてきて頬に触れた。
(夢でみたのは誰だろう)
 指先に、髪の毛先を巻き付けて考え込む。三秒で放棄した。
(思い出せないけれど)
 そんなこと、大した問題ではないのだ。ただ、お気に入りの本を読んでいる最中に眠ってしまうのは、ちょっと珍しかった。
 それと。
 いつのまにか、傍らに置かれていた『鋏』。
「ハルレヤ」
 それは『十字架』。旅人たちの目指す先。

 交わした約束を果たしに行こう。

「なーんて ね?」
 寝ぼけたままの頭で、眼差しで、やんわりと微笑して。
 しきみは『鋏』へ手を伸ばした。
 そこにはなぜか、まだぬくもりが残っているような気がしたのだ。




●誰でもなく、誰にもなく
 薄暗い自分の部屋に一人。
 落ち着ける場所。落ち着ける時間。ひとりきり。
 本当は臆病で 英雄でありたいと、もがき続ける毎日で
 そんな鎧を、脱ぐことのできる時間。

 ギィネシアヌはシンとした室内で、愛用の銃を整備する。
 薄闇の中、黒い光沢を強める銃身。確かな重さ。自分の体温が伝わってゆく感触。
 生きている、とこんなところで実感した。

 ふ、と背中に誰かの暖かさが触れる。
 そ、と重みがのしかかる。
 誰何の声をあげようとし、そして魔族の少女は飲み込んだ。



「俺は―― そう、キミを知っている」
 そして語る。騙る。
 知っているけれど名前を呼ぶことができない。
 それでも。
「誰かは思い出せなくても…… キミのまっすぐな生き方に憧れたんだ」
 嘘じゃない。
「キミのようになれるだろうか、とずっと今だって思ってる」
(でも、きっと思っているだけ。そうはなれない事を、俺は知っている……)
 薄暗い自分の部屋、手元すらよく見えなくて。
 心地よい闇。
 誰かの視線を気にしなくてもいい場所。
 見難くても許される。
 醜くても許される。
「けれどこの中で、目を凝らして生きるよ。……きっと、望んだ誰かになれなくとも」
 誰に打ち明けることのない、弱い心だった。
 弱さと裏返しの強さだった。
 光の下を、生きて行ける未来を描いても、実際に歩く自分になる自信を持てない。
 だったらせめて。そう思う。思うことで、戦う。

 ――醜くなんかないわ

 ギィネシアヌの背中に掛かる負荷が、増した。
 触れ合う場所から暖かさが広がる。
 いたずらをする子供のように。

 だってわたしは知っているから。怪物を装う貴方が、本当は誰よりも優しいことを

「優しい……?」

 美しいお嬢さん。暗闇をプレゼントするわ。怯えなくてもいいように

 まるで魔法使いのような言葉。
(まるで――)
 ギィネシアヌの胸の奥で、何かがチカリと光る。
 忘れていた、見失っていたピースだ。
 振り向いて、手を伸ばし――



 前の見えない闇の中でもがき続けていた。
 闇の……
「んんっ」
 ギィネシアヌが首を振ると、視界を遮っていたブラウンのキャスケット帽が床に落ちた。
 部屋には夕日が差し込み、オレンジ色に染め上げている。
「……綺麗、だな」
 どこかで見たような色合いに惹かれ、整備を終えた銃を胸に抱いたまま、窓へ寄る。
 夕日は、ギィネシアヌの銀髪も同色に変えていた。
 そして、闇の時間の訪れを予告するものでもあった。
 薄暗く、仄明るく、居心地の良い時間。
 先ほどまで、そんな薄闇の中で銃を扱っていた気もするのだけれど……。
 だけど。
「悪くないのぜ?」
 いつのまにかそこに在った、魔法の帽子を被ってみて。
 つばを下げれば、優しい闇が広がっている。
 みにくくしているのは、いつだって自分次第。
 ギィネシアヌは窓に肘をつき、視線を遠くへ。
 揺らめくオレンジ色を、光を、今は見つめていたかった。




●死なずの呪い
 生ぬるい春の雨が視界を濁す。足元を崩す。
 イェーガーブーツで大地を踏みしめ、十八 九十七は銃を構える。
 雨粒より多く弾幕を張り、しかし敵の刃はそれすらも潜り抜け。
「二度は同じ手など喰らいませんのよ!」
 瞬時、近距離へと変えての対応。眼前に火花が散る。



 音が聞こえる。
 踵を鳴らし、鋏を鳴らし、視界の端に踊るはオレンジ色の外套。
 愉快気に、心配そうに、九十七の顔を覗きこむ。

「お元気ですか? ――連れ立った糞野郎もお元気で?」
 顔を上げ、向き合って、九十七は問うた。
「貴女が誰だったか、もう陽炎の如く揺らめきつつありますが、しっかりと覚えていますの」
 その短い銀糸の髪が、元は長かったことも。
 手にしている鋏も、新調したでしょう。
 気まぐれな貴女、お気に入りの令嬢にプレゼントでもしたのでしょうか。
 お気に入りだったはずの帽子もどこぞへくれてやり、今はその飾り織りのバンダナですの?

 ふ、と九十七の眼前で、微笑するように空気が動く。

「貴女の最後に立ち会えなかった口惜しさはまだここに。……九十七ちゃんの正義に、楔を一発打ちつけていきましたの」
 名前も出てこない貴女。
 けれど、三日三晩と言わず自分を苦しめた鐘の音を忘れることはない。
「貴女のおかげで、貴女のせいで、正義は確かな道を持つに至りました」
 そこで得た答えは、ここにある。
 貴女と向き合うことのできる生き方をしているのだと、伝えることができる。
「……だから、貴女にありがとうを」

 決めたのなら進むといいわ。道半ばで此方へ来たら蹴り返すから。

 返答に、ニヤリと九十七は笑う。
「もう、さようならは言いません」
 それは、自分らしく。そして貴女らしく。
 握手を交わし、巡りあえたことにこそ、感謝を。



 眼前に火花が散る。血飛沫が散る。
 理屈法則過程一切合財関係無く、直ぐそこへ迫っていた敵の首が『刎ねられた』。

 ――それと花はありがとう、お礼に呪いは貸してあげる

 ばたばたばた、ディアボロの血が九十七の顔を汚す。
 聞こえた声が『誰』の物かは解らない。
 けれど謡うように囁く声は、何処か酷く気に障る。
 気に障るのに、心地よくて――

「まだまだここから、本領発揮ですのよ、この■■■!!」

 雨を弾くオレンジ色の外套を纏い、血涙を流し、九十七は咆哮した。
 それはとてもとても、九十七らしく。





「ただいまミスタ」
 弾むような声で、彼女は恋人へ帰還を告げる。
「ええ、とても楽しかったわ」
 それは夢のお話。
 それは今日の出来事。
 それはきっと、自分だけが覚えている物語。
「お話を聞いて? きっと、長くなると思うけれど」


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 ――二人の語らいが、どのような物だったって?
 残念。それはまた、別のお話。
 ほら、もうすぐ朝が来る。
 踊り疲れたハツカネズミがやってきた。





【ハツカネズミと踊る夢、朝が来る 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja1442/   『J』  / 女 /19歳/ 鬼道忍軍】
【ja4233/ 十八 九十七 / 女 /18歳/ インフィルトレイター】
【ja5565/ ギィネシアヌ / 女 /13歳/ インフィルトレイター】
【ja3040/ 鬼燈 しきみ / 女 /14歳/ 鬼道忍軍】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました。
夢の中のお話。ないまぜになった現実のお話。残された優しさのお話、お届けいたします。
伝え合いたかったこと、通じ合えていたらと思います。
この先も、どうぞ幸多からんことを。強く、生きて行かんことを。
恐れ多くも心の大切な部分に接する機会を頂戴しまして、改めまして御礼を。



■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年06月24日

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