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『宝石の瞳 』
工藤・勇太1122)&柚葉・−(NPCA012)

あやかし荘、柊木の間の縁側。一人の青年と1人の少女の間には、シュークリームが1つ乗った皿と緑茶が入ったグラスが2つ。
「それにしても、美味しいね、これ。」
そう言って少女、柚葉がシュークリームに笑顔でかじりつく。
「そいつは良かった」
青年、勇太は軽く微笑んでその光景を見ている。もちろん彼のシュークリームは、二人のあいだに置かれた皿の上だ。
「勇太ちゃんはたべないの?」
あっという間にシュークリームを食べ終わり、柚葉が尋ねる。
「食べるならやるよ」
「ありがとう」
嬉しそうに笑って、皿の上に置かれたシュークリームにかじりつく。
「本当に旨そうに食べるなぁ」
感心しながら勇太がそういうと柚葉は食べる手を止め首をかしげる。
「なんで?これ、美味しいもん。特別なシュークリームだから」
「特別?」
今度は勇太が首をかしげる番だった。
「うん。だって勇太ちゃんが買ってくるシュークリームだよ?」
柚葉が嬉しそうにしっぽを揺らしてシュークリームをほおばる。

勇太が柚葉に初めて出会ったのは、少し前のことになる。
犬を苛めようとしている、男数人と、犬をかばう柚葉を学校からの帰り道に偶然見つけたのだ。
「お……」
止めさせようと勇太が声を出した瞬間、柚葉を男の一人が金属の棒で殴ろうとしたのだ。
とっさに、サイコキネシスで、柚葉に向かって振り上げられた棒を男の手から弾き飛ばす。
その棒が勇太の足元まで転がっていくのと同時に男たちの視線も勇太に集まる。
「アンタら、いい歳して……やめろよ。カッコ悪い」
そういって勇太が棒をひろい、男たちを睨みつける。
「ば、化物!」
棒を弾き飛ばされた男がそう怯えたようにそう言って逃げ出すと、他の男たちもお互いに顔を見合わせ、逃げていった。
「大丈夫か?」
柚葉と犬に駆け寄る勇太。
「うん。ありがとう」
そう笑顔でお礼を言う柚葉と、くぅーんと甘えたような声で鳴く犬。犬の怪我もたいしたことないようだった。二人の言葉にホッと胸をなでおろす勇太だったが、さっきの男の言葉がずっと引っかかっていた。
『ば、化物!』
その言葉が脳内で何度もリフレインする。もう言われ慣れた言葉のはずなのになぜか胸が痛かった。
その時、柚葉が勇太の服を引っ張って、こう言った。
「化け物(妖怪)ならあやかし荘にいっぱいいるよ。遊びにおいでよ」
それは、彼女なりの励ましなのだと、力を使わなくても分かった。少し笑って勇太は柚葉の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「なっ、なにするんだよ」
「ありがとな。俺は工藤勇太。あんたは?」
「ボク?ボクは柚葉だよ。なんで頭わしゃわしゃ、ってするの?」
「褒めてるんだよ。で、その『あやかし荘』ってのはどこにあるんだ?」
そう言って、勇太が手を離すと柚葉はポケットから小さくたたまれた地図を出し、
「これ、地図だよ。じゃあ待ってるね」
そう言って走って去っていった。
そして、もらった地図を頼りに後日、あやかし荘に初めて行った時、土産に買ったのがこのシュークリームだった。

「そうだったけ?よく覚えてるな」
「うん、勇太ちゃんが初めて来た日のお土産だもん」
嬉しそうに話す柚葉の頭をわしゃわしゃして、勇太は笑った。
その笑顔を不思議そうに見ていた柚葉が急に勇太の顔を両手で包んだ。
「どうした?」
「勇太ちゃんの目、綺麗。」
突然のことに固まる勇太に柚葉がそう言う。
その声から、純粋な感想だろうと感じた勇太は嬉しく思ったが、この目の成り立ちを考えるとそんな気分も消えてしまった。
「俺はこの目が嫌いだ」
つぶやくように言う勇太に柚葉は不思議そうに尋ねる。
「なんで?宝石みたいにキラキラしてすごく綺麗だよ?」
純粋な瞳で覗き込むように見つめられて勇太は無意識にフッと微笑んだ。
「何?ボク変なこと言った?」
「いや、でもあんたの目も綺麗だよ。金色で琥珀みたいだ」
「こ……は……く?」
「宝石の一種だ。あんたの目みたいに綺麗な金色の宝石」
「そうなんだ。見てみたいなぁ」
心から楽しそうな柚葉に勇太は胸のあたりが暖かくなるのを感じた。

こんな穏やかで明るい日が続けばいいのにと心から勇太は思った。
その思いに答えるように、カラン、と2つのグラスの氷が呼吸を合わせ同時に音を立てた。


Fin
PCシチュエーションノベル(シングル) -
龍川 那月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2013年06月25日

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