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『超・異空三国志 』
藤田・あやこ7061)&綾鷹・郁(8646)&(登場しない)


 議長が、めでたく就任した。
 それだけで、しかし一国の体制がそうそう変わるものではない。
 妖精王国では、旧与党が未だに実権を握り、国政に口出しをして、議長による政治改革を滞らせているという。
 議長も奮闘してはいるが、旧与党は何しろ龍国を後ろ楯としているのだ。
 だから、このような無法も平気で行う。
「妖精王国議長の乗った艦艇が、旧与党の軍勢による攻撃を受けているようです」
 久遠の都・軍司令部。居並ぶ高官たちに向かって、綾鷹郁は報告をした。
 旧与党の軍勢と言っても、それを構成するのは、ほとんど龍族の艦隊である。龍国が、妖精王国旧与党に、武力を貸与しているのだ。
 龍族が、旧与党を傀儡政権としての、妖精王国侵略を企んでいる。誰が見ても、そういう事にしかならない。
 議長の艦艇『野心』号は現在、旧与党あるいは龍族の軍勢に追われ、太陽の炎をくぐりながら逃亡中である。
「助けた方がいい……って言うか助けるべきだと、思うんですけどね」
「それは妖精王国内の問題であろう」
 軍高官たちが、口々に否定的な事を言う。
「久遠の都が手を出せば、内政干渉となる。下手をすれば侵略行為と受け取られかねん」
「政治の世界はな、君の頭ほど単純ではないのだよ綾鷹君」
 郁は思わず、高官たちを睨みつけてしまった。
「龍族の連中が、妖精王国を乗っ取ろうとしてる……それに成功したら、次は久遠の都にも手ぇ出してきますよ。単純な頭でも、そのくらいはわかります。今のうちに何とかしといた方が良くありません? そのためにも議長さんを助けて、しっかり味方につけておかないと」
 政治的な話は、はっきり言って性に合わない。だが今は、物わかりの悪い上層部と話をつけてくれる上司がいないので、郁がこういう事を言わなければならないのだ。
(藤田艦長、早く戻って来てよ……)
 内心で泣き言を漏らしつつ、郁は口調を激しくした。
「だいたい龍の奴らがここまで調子こいちゅうは、あんたらの日和見事なかれ主義が原因ぞ! ここでガツンとやっとかにゃあ、あいつら冗談抜きで久遠の都にまで戦争ふっかけてきゆうぞな!」
「か、軽々しく戦争などと口にしてはならん。そのような言動こそが、軍事衝突を引き起こしかねんのだぞ。そもそも久遠の都と妖精王国との間では、不戦協定が結ばれておる。議長を助けるためとは言え、軍を動かすわけには」
「だったら、その協定を向こうに破らせりゃいいきに。戦争やる時の基本ぞね」
 協定などというものは、いずれは破られる。戦争に勝ちさえすれば、戦争前の条約協定の類など、最初からなかったも同然になるのだ。
 物わかりの悪い高官たちではあるが、それがわからない者ばかりではなかった。
「何か良い手があるのか。妖精王国に協定を破らせ、我らが軍事行動を起こす大義名分を問題なく得られるような手が」
「1つ、あるろうが。こういう時しか使えん手が」
「……藤田あやこが立案した、例の作戦か」


 国境付近に予言者を多数配備して探知網を築き、龍族の補給路を監視する。
 補給艦が少しでも動いたら、不穏な軍事行動であると騒ぎ立て、協定違反の罪をでっち上げる。その罪を、久遠の都側から攻撃を行うための大義名分とする。
 藤田あやこが、まだ久遠の都の軍人であった頃、妖精王国との戦争状態を想定して軍上層部に具申しておいた作戦の1つである。
「それが、まさか私がいなくなった後に実行されるなんて……」
 あやこは呟いた。
 議長は助かった。野心号を攻撃していた旧与党の軍勢に、あやこが通信を送ったのである。
 また私の水着姿を見たいのか? と。
 旧与党の戦力を成す龍国の軍は、その一言を聞くや否や撤退した。
 生身で艦隊と戦う藤田あやこの武勇は、龍族にとっては今や恐怖と畏敬の対象となっているのだ。
 かくして議長は九死に一生を得たわけであるが、少し遅かったようだ。
 議長を救出するため、久遠の都の軍勢がすでに行動を起こしてしまっている。
 国境付近に、艦隊が1つ布陣しているのだ。
 その艦隊が中核となって、探知網が構築されている。
 まずは議長救出のため、なりふり構わず攻め込んで来る。その後、探知網に引っかかった補給艦の動きを不戦協定違反とでっち上げ、攻撃の大義名分を事後承諾の形で確保する。
 野心号の危機がまだ続いているようであれば、間違いなくそれが実行されていただろう。
「そのくらいの事……やるわよね、貴女なら」
 艦隊の司令官に、あやこは心の中で語りかけた。
 司令官が誰であるのかは、調べるまでもない。艦隊の動きを見ていれば、何となくわかる。
 足音が聞こえた。
「ここ妖精王国こそが貴女の故郷……という事でよろしいか? 藤田あやこ女史」
 貴族の正装をした、1人の少女。端麗だが、どこか一癖ありそうな美貌である。
 誰かに似ている、とあやこが感じたその少女が、さらに言った。
「久遠の都との間に、戦端を開かざるを得ない状況になりつつある。心揺らす事なく、貴女は我が妖精王国のために戦って下さると。そのような解釈でよろしいか?」
「……不戦協定は、どうなるのかしら」
「その協定を破らんとしているのは、あちらだ。国境に艦隊を配備し、不穏な動きを見せている。これは明らかに、我が国に対する挑戦であろう」
 そう来たか、とあやこは思った。
 久遠の都と妖精王国、どちら側からも相手の協定違反を主張する事が出来る。実際に軍事衝突が起これば、勝った方の言い分が通る事になる。
 戦争とは、そういうものだ。
 戦争を止める。藤田家の冤罪を証明し、娘や姪の名誉を守る。
 久遠の都を裏切る形となってまで妖精王国に戻って来た以上、その全てを成し遂げなければならない。あやこは、そう思っている。
「……ところで、貴女は誰?」
 初対面であるはずの少女に、あやこは今更ながら問いかけた。
「私の知り合いに、似ているような気がするのだけど」
「……いずれ、わかる」
 くるりと背を向けながら、少女は言った。
 隠しようもない憎悪の口調を、あやこは確かに聞き取った。


 野党本部では、ちょっとした騒動が起こっていた。
「旧与党の者どもが龍国と結託している、これはもはや誰の目にも明らかなる事実。何故それを追及しようなさらないのか!」
「政治的判断というものがある」
 議員たちによる突き上げに、党首が傲然と応える。
「それがわからぬ者に、政治家たる資格はない」
「何が政治的判断だ。貴様とて結局、龍族にこの国を売り渡さんとしておるのだろうが!」
 議員の1人が激昂し、剣を抜く。
 党首が、抜刀で応えた。
「刃を抜いた上に、その言葉……もはや後戻りは出来ぬぞ!」
「やめなさい。こんな事をしている場合ではないでしょうに」
 あやこは、うんざりと声を投げた。
 妖精王国人には、何事も決闘で解決しようとする傾向がある。
 名誉を重んじる国民性なのだ。それ自体は、悪い事ではない。
 だが、この国民性が悪い方向に出ると、こうして野党内の団結にも支障が出る。
 あやこの一声で、決闘に及ぶ寸前であった議員も党首も、渋々ながら剣を収めた。
 生身で龍族の艦隊と戦って議長を守り抜いた藤田あやこに、今や正面から逆らえる者などいない。
 これで例の冤罪さえ証明出来れば、妖精王国における藤田家の名誉は完全に回復する。娘や姪に、肩身の狭い思いをさせずに済む。
「冤罪証明には、権力者による支援が必要……それは痛感している事と思う」
 声がした。女の子の声である。
 あやこが知る何者かに似た少女が、いつの間にか、そこにいた。
「ご結婚の意思がおありではないか? 藤田女史。ご主人を亡くされたばかりと聞くが」
「……そうね。格好つけて、死んでいったわ」
 死んだ夫の事に、この少女は遠慮なく触れてくる。なおかつ再婚しろなどと言う。
「亡き与党総裁の御子息……その養父をしておられる方が、貴女への求婚の意思をお持ちなのだ。龍国とも繋がりの深い人物でな。藤田家の冤罪証明のため、大きな力になってくれると思うが」
「謹んでお断りするわ」
 あやこは即答した。
 要は、旧与党が自分を懐柔しようとしてるだけなのだ。
「貴女、何かを憎んでいるのね。それはわかるわ……心にどんな闇を抱えているのか知らないけれど。それは、この国で好き勝手をしていい理由にはならないわよ?」
「…………」
 誰かに似ている少女の美貌が、あからさまな憎悪の歪みを帯びた。
 構わず、あやこは言った。
「心に何か溜め込んでいるものがあるなら、吐き出してしまいなさいな。つまらない事を、しでかす前に」
「私は……綾鷹郁の娘だ」
 耳を疑うような事を、少女は言った。
「母は、黒歴史における戦いで龍国に捕えられ……私を、産む羽目になった」
「黒歴史……?」
「私が、何を憎んでいるのか……いかなる心の闇を抱えているのか……貴様などに理解出来るとは思わん」
 それ以上の会話を拒絶し、少女は背を向けた。そして足早に歩み去る。
 彼女が何を言っているのか、あやこは全く理解出来なかった。
 事情を知る者が、もしかしたら久遠の都にいるのかも知れない。


 自分が艦長に昇格したのは、能力が認められての事ではない、と綾鷹郁は思っている。
 藤田あやこがいなくなって艦長席が1つ空いたから、自分が繰り上げられた。ただそれだけの事である。
「藤田艦長、早く帰って来てよぉ……」
 慣れぬ艦長席で泣き言を漏らす郁に、士官の1人が報告をする。
「艦長、こちらの探知網の一部が綻びております。C13区域ですが……」
「ああ、そこはそれでいいのよ。綻びてるって思わせるのが目的なんだから」
 目的は、敵に協定違反をさせる事である。すなわち、敵が動きたくなるような形を、こちらで作ってやらなければならない。
 もう1つ、報告が上がった。
「艦長、敵が攻めて来ました! D24区域からです!」
「えっ、C13じゃなくて?」
 郁は思わず頭を掻いた。
「まいったな、せっかく罠仕掛けといたのに……見破られちゃったのね。まあいいわ、応戦応戦」
「それは危険です! 1度撤退し、探知網を再編しましょう」
「何言うとるが。せっかく協定違反やらかしてくれたもん、正義の名のもとに堂々とブチのめさんでどうするぞ!」
 郁は思わず、艦長席から立ち上がっていた。
「龍の連中にも、妖精王国の連中にも、いい加減ドタマに来とったところじゃき!」


 野党党首が、旧与党総裁の息子を捕えてきた。
「不戦協定を破って、久遠の綾鷹艦隊への攻撃を命じた、愚か者だ」
 総裁の遺児である青年を、あやこの眼前に引き立てながら、党首は言った。
「煮るなり焼くなり好きになされよ、藤田女史。貴女は、こやつらの一族に大いなる恨みをお持ちのはずだな」
「まあ……ね」
 目の前で怯えている、この青年の父親こそが、全ての元凶ではある。
 その元凶は、あやこ自身の手で取り除いた。
 今はむしろ、この青年の方が、藤田あやこを恨んでいるのではないか。父の仇として。
 恨みよりも恐怖心が勝っている様子の青年に、あやこは微笑みかけてみた。
「綾鷹郁艦長の罠を見破った、ところまでは良かったのにね」
 見破ったのは、この青年ではないだろう。今の旧与党に、そこまでの戦術眼を持った人材がいるとは思えない。
 いるとすれば、ただ1人。
 行方をくらませた1人の少女の事を、あやこは思い起こした。
 彼女が郁の罠を見破り、総裁子息に攻撃命令を出させたのだろう。
「罠の1つ2つ見破ったくらいで、あたしに勝てると思っちゃったわけ? かーわいいなぁ、もう」
 龍族の雇われ艦隊を散々に撃ち破って来たばかりの綾鷹郁が、怯える青年の頭を小突き回している。
 泣きそうになっている青年を、あやこは優しく抱き寄せた。
「好きにしろって言ったわね。この子は、もらうわ……貴方は、藤田公国の王子よ」
 藤田家の冤罪を証明するには、権力者の支援が必要。
 ならば、とあやこは思う。自分が、権力者になれば良いのだ。この弱々しい青年を擁立し、後見する事で。
「綾鷹、わらわについて来い。藤田公国王立艦隊、いざ参る!」
「……ノリノリですねえ、藤田艦長」
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2013年06月26日

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