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『暴力装置と戦争機械 』
藤田・あやこ7061)&綾鷹・郁(8646)&村雲・翔馬(NPCA028)

 ここは、クレーター以外跡形もないギル植民地。
 綾鷹・郁はこのギル植民地から救難要請を受けてやってきた。
「何もない……」
 降り立った瞬間、思わず口を突いて出たのはその言葉だった。
 唯一あるクレーターに、手に持っていたGPSを覗き込むとそこが都心であることを示している。
「こんなところが都心だと言うの?」
 その大きく窪んだ箇所を見詰めながら、愕然と呟く。目の前にある窪地は、水晶生命体の襲撃に良く似ていた。
 郁はそのクレーターに近づくと、はっとした。
「残留思念……? と言う事は、これは願望砲の弾痕……」
 チカチカと光るGPSを見やりながら、敵襲を導き出した。
「そうだわ……。これはあの時の……」
 郁は急ぎ手にしていたGPSをポケットに仕舞いこむと、足早に艦隊旗艦へ戻っていった。

               ****

「願望砲?」
 旗艦へと戻った郁から報告を受けたあやこは、頓狂な声をあげ郁を見詰めた。
「間違いないの?」
「はい。私の持って行ったGPSに、残留思念が検出されました」
「……なぜ敵がそれを所持しているのかしら……?」
 あやこは唸るように呟き、親指の爪を噛む。そしてしばらく悩んでいたがふと顔を上げた。
「村雲を呼んで」
「村雲、ですか?」
 郁は不思議そうに小首を傾げると、あやこは大きく一つ頷く。
「えぇ。今回の件に彼は必要な人材だわ」
 まるで挑むかのようなあやこの眼差しに、郁は気圧されながらも頷いた。


「急に呼び出して、何のようだ?」
 それからほどなく、呼び出された村雲が旗艦へとやってくる。
 あやこは彼を快く迎え入れ、ひとまず客室へと案内した。
 ソファに座らせ、自分もその向かい側に座るなりあやこは話を切り出す。
「あなたに聞きたい事があるの」
 そう言うと、あやこは郁が持ち帰ったギル植民地でのことをあらかた村雲に伝える。すると村雲は顎に手をやり、考え込む。
「そうか……」
「何か知っているようね?」
「いや、ステインとの遭遇からまもなく一年になる。進化した連中が七万年後から現代へ進撃しているという話があってな」
「……やっぱり。私の考えに間違いはなかったようね」
 村雲の話にあやこは眉間に深い皺を刻んだ。そしてふと何かを思い出したように顔を上げると、机の引き出しから一枚の封書を差し出した。
「何だこれは」
「これは綾鷹宛ての辞令よ。必ず渡してちょうだい。そして村雲。対ステイン専門官のあなたは副長候補としてこれから勤めてちょうだい」
 あやこの言葉に一瞬目を見開いた村雲だったが、すぐにニヤリとほくそえむ。
「そいつぁ光栄だ」
「頼んだわよ」
 あやこはそう言うと村雲の肩を叩いた。
「了解」
 村雲は深く頷き、了承するとすぐに席を立ちその場を後にした。そしてそのまま郁のいる場所までやってくると手にしていた辞令を手渡す。
「これ、私に?」
「あぁ。あやこから預かった」
 受け取った封書をまじまじと見詰め、郁は不思議な顔を浮かべながらその封を切って中を見ると、目を見開いた。
 中に入っていた紙にはハッキリとした文字で「綾鷹・郁 確かな技量を持と指揮能力も高いことから、艦長として抜擢」と書かれている。
「私が、艦長……?」
 昇進の話は素直に嬉しかった。突然の嬉しい報告に胸が一杯になる。だが、それと同時に不安な気持ちも沸きあがった。
 昇進は嬉しいが異動は……。
 黙りこんだ郁に、村雲は首をかしげて彼女の様子を窺う。
「どうした? 素直に喜べないか?」
「……そうじゃない。けど……私、異動はしたくない……」
 郁は辞令を胸に抱き締め、一人悩んだ。


「村雲の話では、来年の筈が明日にも敵襲の可能性がある。願望砲や水晶生命体を自力開発した敵の進化に、今の私達は追いつけないわ」
 司令室に集まった村雲と郁。あやこの話に耳を傾けていた。
 敵がそんなものまで開発出来ていたとは驚く以外のなにものでもない。
「私達はこれから、敵襲を迎え撃つ準備に入る」
 あやこがそう言った瞬間、モニターに久遠の都から敵接近の報告が入った。
「来たわね」
 あやこはすぐに映し出された富士山ほどもある立方体を睨むように見詰める。
「あれを倒すには殲滅しかない……」
 見れば、人間の思念を束ねて投射する願望砲、あらゆる力を養分にする樹木樹の水晶生命体を装備している。
 あやこはすぐに僚艦に陽動の指示を出した。
「ミールで迎撃! あそこに民家はないわ」
「了解!」
 彼女の指示に従い、旗艦はミールに向けて移動を開始した。


 ミールへとやってくると、敵もまた同様にその場に現れた。
『藤田あやこ。出頭せよ』
 遭遇と同時に、あやこに出頭してくるよう敵からの要請が入った。
「出頭? 何をわけの分からないことを……。迎撃の準備、急げ!」
 あやこは敵の要請を無視し、攻撃の準備を始めるよう周りに指示を下す。彼女の指示に乗員はテキパキと攻撃にむけての作業を開始する。
 そんな彼らの動きを見ていた郁はその場に立ち尽くしている。
「どうした?」
 村雲が声をかけると、郁はピクリと反応を示し目を見開いた。
「……藤田あやこを、献上……せよ?」
「何だと?」
 郁は呆然としていた。あやこが敵の要請を無視した直後、敵は郁の心にそう命令を下してきたのだ。
 村雲はそれに驚き、目を見開いたがすぐに冷静さを取り戻す。
「綾鷹。肉を切らせて骨を内から断て」
「え?」
 困惑したように村雲を見ると、彼は真剣な表情で郁をみた。
「お前の共感能力を逆用するんだよ」
 村雲の提案に郁は固唾を飲み深く頷いた。
 郁は自分の共感能力を逆手に使い、相手の動きを乱そうと試みた。
 それが上手く行けば、敵の進撃を止める事が出来る。そう読んだ村雲の話に乗ってみることにしたのだ。
 郁は敵に対して自分の能力を使うと、これまで進撃を進めようとしてきた敵の動きが乱れ、やがて止まった。
「よし」
 敵の動が止まった事を見計らい、村雲は自分の部下にあたる人材を引き連れて敵陣に乗り込む。
 立方体の中には無数の株が実っている。その一つ一つの中には冷たい銀色のボディを抱え込むようにして、ステインの個体が入っていた。
「こいつが……」
 村雲はその株たちを青ざめた顔で見詰める。
 こいつらは敵の攻撃を学習し素早く耐性を得る素質を持った実に厄介なものであるという情報は既に入手済みだ。
「株を破壊する。一つ残らず全て破壊しろ」
 彼の命令で、共に乗り込んできた乗員たちは一斉に株の破壊に乗り出した。


 敵内部にあったステインの株は全て破壊。これ以上の進撃は抑えられたと戻った村雲から連絡を得たあやこは、短く息を吐いた。
「よくやったわ。これで何とか……!?」
 あやこがそう呟いた時だった。突如、旗艦内に敵が現れ背後からあやこを羽交い絞めにし、あやこは悲鳴を上げる間もなく消え去った。
「あやこさん!?」
 何が起きたのか、咄嗟の事に思考が追いつかない郁は狼狽した。そんな彼女を振り返り村雲は声を上げた。
「綾鷹! 副長の座を俺に譲れ!」
「で、でも……」
「でももへったくれもねぇだろう! お前が副長の座を明け渡さなけりゃ、俺はいつまで経っても自由に動けねぇ!」
 叱りつけられた郁は、怯んでいたがぎこちなくも首を縦に振った。
 そして彼と共にあやこ奪還に敵陣に赴いた郁の目の前に、見慣れた物が落ちていることに気付く。
 郁はそれを拾い上げ、はっとなる。
「これは、あやこさんのスカート……」
 みれば点々とあやこの着ていたボロボロになった衣服が辺りに落ちている。郁はそれらを拾い上げると、その背後から激しい爆発が起きた。
「綾鷹!」
 咄嗟に傍にいた村雲が郁を庇った事で怪我はなかったが、凄まじい威力の爆発にもうもうとした煙が立ち昇っていた。その煙の先を見詰めていると、機械のビキニを来た雌龍が立っていた。
 その姿を目視した郁と村雲は驚いたように目を見開き、言葉を失くす。
「私は怪獣アヤキルアン。ステインの代弁者だ。降伏せよ副長。命令だ」
「あ、あやこさん……?」
 変わり果てたあやこの姿に、郁は愕然とした。
 その直後、外からは激しい爆音が響いてくる。村雲が弾かれたように外の様子を見に駆け出すと、願望砲の一閃が船を裂き、水晶樹の怒号が乗員を苛む。
「な、なんてことを……」
 まるで地獄絵図のような状況に、村雲は固く拳を握り締める。
「拙い社会は権威に弱い。我々は宇宙最強の船と艦長を虜にしたのだ。傅け、愚民共」
 ニタリと不気味にほくそえむあやこに、郁はただ愕然とし何も言えずに固まっていた。そんな彼女を後ろに庇うようにして村雲が前に出て彼女を諫めた。
「やめろ、あやこ!」
「小細工や時間稼ぎは無駄だ。人類の知識は全て渡した。降伏せよ」
 淡々とした口調は変わらず、突如あやこの鋭い爪が村雲の胸を貫いた。
「い、いやぁああぁーっ!!」
 郁は目の前に倒れた村雲を見て、悲鳴を上げる。
 一体何がどうなっているのだろう。
 わけも分からず、倒れた村雲に駆け寄ると彼は顔を顰めたまま動かない。
「し、死んじゃった……」
 郁は成す術もなくその場にくず折れた……。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2013年06月28日

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