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『暴力装置と戦争機械.2 』
藤田・あやこ7061)&綾鷹・郁(8646)&ギルフォード(NPCA025)

 ――20世紀 ミール島。
 数え切れないほどの旧ソ連軍が集まり、物々しい雰囲気の中核実験の準備を行っていた。彼らのその行動に紛れ、敵を迎撃するため未来から事象艇が続々と遡及してきている。
 そんな中、葬送の涙が乾かぬ内に郁の昇進し、艦長席に座った。
 固い、無機質な手触りの椅子。その椅子に座ると、郁はどうしてもあやこの事を思い出してしまう。
(どうして、こんな事に……。あやこさん……)
 郁はきつく瞳を閉じ、同時に肘掛に置いた手をきつく握り締めた。
 こうしている間にも、敵からの進撃の手は一向に止まる気配はない。
 しばらく押し黙っていた郁だったが見据えるように顔を上げる。こんなところで、うじうじしていても仕方がない。駄目もとで怪獣となったあやこと交渉してみよう。
 そう決めた郁は、ステイン戦争機械内にいるあやこにモニターを繋いだ。
 映し出されたあやこの顔を見詰めると、郁は胸が掴れるような思いに駆られるが毅然と向き合う。
「あやこさん。我々と和平を結んで下さい。このままではどちらにとってもきっと良い結果にはならないはずです」
 そう切り出した郁に、あやこは目を細め苦笑を浮かべる。
『和平だと? くだらぬ交渉だ。そんなもの必要ない』
「いいえ。互いの為に必要です」
『要らぬ。何のための和平だ? 私を陥れる為か?』
 思いがけない言葉に、郁は言葉に詰まった。
 そんなつもりは毛頭ない。
 小刻みに体を震わせながら、郁は下唇を噛み一度視線を下げる。そしてもう一度顔を上げた時、胸に引っかかっていた思いをぶちまけた。
「あやこさん。なぜ、こんなことをしようとするんです? 何がそうさせるんですか」
 その問いかけに、あやこの表情が硬くなり冷たい眼差しを向けてくる。
『Y染色体の劣化で男性不足に悩む人類と、同じく女日照りに喘ぐ龍族がこれまでも争ってきた。が、それもこれもステインが漁夫の利を得るべく裏工作して来たのだ。もうすぐ我らが覇者になる」
 淡々と語ったその言葉に、郁は蒼然とした。
『話は以上だ』
 一方的に話を打ち切られ、モニター画面が消える。
 何も言えなかった郁に、傍にいた部下が彼女を見据えながらハッキリとした口調で口を開く。
「あなたに従っても信頼する者はいない。なぜなら、あなたは慎重だが果敢ではないから……」
 そう言いはなった部下に、郁は呆然としてしまう。
 言葉がない。部下の言う言葉に偽りがないからだ。返す言葉などなかった。
 今のままでいいはずはないのだ。分かってはいるのだが……。
 その時、迎撃作戦の司令官から郁の元に通信連絡が入る。
『ぼんやりしているわけじゃないだろうな。藤田は勇猛で惜しい人材だったが死んだ物と思え。大分に潜伏する奴の支援者も皆処刑した』
 サバサバとした口調であっさりと切り捨てる発言をした司令官の檄を聞き、迷いを抱いていた郁は心を決めた。
 思い出に縛られているわけにはいかないと、あやことの思い出を払拭する。
「例の作戦の準備は?」
 そう問いただすと、司令官はふんと鼻を鳴らし含み笑いを浮かべた。
『問題ない。順調だ』


               *****

 大分。エルフの隠里。
 無残なほどに、あちらこちらに血の雨が降り多くの亡骸があった。
「一人残らずあの世逝きだぜ」
 次々と力尽きていくエルフ達の命を奪っていたのはギルフォードだった。耳につけた通信機からの信号を聞き、くっと嘲笑う。
「内通者の掃討? 知らねぇな。俺はただ、命令通りに戦うだけさ」
 ニタリとほくそえむギルフォードの顔は冷徹そのものだった。
 そんな彼の手にかかって行く住民達は、あやこの到来を信じつつ斃れていく。そんな彼らの霊が、郁にまとわりつきながらあやこ奪還作戦を囁きにやってきた。
 あやこ奪還……。その言葉に、郁は深く頷く。
 その為に、自分ができる事をするまでだ。そう心に決めた郁はじっと空を見詰めた。
「まもなくミール島に到着します」
 部下の声がかかり、郁は外を見た。そして驚いたように目を見開く。その目には、友軍の残骸があったのだ。
「何てこと……」
 愕然とするも、今はここで立ち止まっている場合ではない。
 意を決して椅子を立ち上がると部下を振り返った。
「今から出撃する。私について来い!」
 郁は囮の事象艇で戦争機械に特攻しにかかる。それを見ていたあやこは口の端を引上げた。
「無謀で場当たりな小娘め! そんなものは無駄だ!」
 その時、別働隊が戦争機械内部に突入し、あやこを捕らえた。
「何……っ!?」
 背後を睨むように顔を傾けたあやこは後頭部に激しい痛みを覚え、顔を歪め意識を手放した。


 旗艦に引き摺られるようにして連れてこられたあやこを前に、郁は立ちはだかる。
 周りの乗員達は捕らえたあやこを解して戦争機械をハッキングするべく懸命な作業が続けられていた。
 郁はすぅっと息を吸い、瞳を閉じる。
 自分の持てる共感能力を使い、戦争機械の核心へのアクセスを試みる為だ。
 郁のあやこへのセッションが始まると、ふいにあやこが嘯いた。
「……私は貴様らに提言する為に旗艦に留まる」
 その言葉に、郁の表情がぴくりと動いた。そしてカッと目を見開くと郁は激昂した。
「これも想定内か!?」
 そう叫び、郁は共感能力を全開にするとあやこの精神を支配した。
 あやこの意識を伝い、戦争機械の核心へ……。彼らを動かす大元へ。
 郁は眉間に深い皺を刻み、額から汗を流す。
「……うぐぅ……が、あぁっ!!」
 セッションを始めて間もなく、あやこは苦しげに呻きながらもカッと目を見開いた。そしてその動きはぎこちないマリオネットのようにぎくしゃくとしている。
 暴れ出した彼女に、危うくセッションが途切れそうになりつつも何とかそれを抑える事に成功する。
(敵の願望を探り、充足しなければ……)
 その一心で郁は核心を探っていた。
 様々な人間たちの願望が、まるで走馬灯のように駆け抜けていく。その無数とある中の一つを見つけ出さなければ……。
 やがて、これまで埋め尽くすほどにあった願望たちが突然一掃されていく。
 静かになった空間の中に一つ残った願望がある……。
 郁がそれを探り当て、あやこは目を見開いてぎくしゃくと体を動かしながらぽつりと呟いた。
『墓に……墓に入りたい……』
 郁はそう呟くあやこを見詰めた。すると、あやこは続け様に呟く。
『夫と同じ墓に入りたい……』
 そう呟いたあやこの言葉に、郁はハッとなって目を見開く。
 夫と同じ墓に……。そう願うのは既婚女性の究極願望だ。
 ステインがあやこを駒にするためにわざと残した人間味。それを彼らが残したことがこの勝負の敗因要素になる。
「あやこさん……」
 郁は静かに彼女の名を呼んだ。
「あやこさん。その願望は叶いますよ。あなたは、旦那さんと同じお墓に入っていいんです」
 あやこの乙女心を促すと、途端にステインは自壊を開始した。
 ――鬼籍入りシタ……イ……。
 ステイン達のその言葉を最期に、機械は凄まじい爆音を上げ、こっぱ微塵に爆散したのだった……。


 地面にくず折れたあやこを膝に抱き上げていた郁は、小さく呟く。
「悪夢を忘れたい……」
 郁のその言葉に、あやこはフンと鼻を鳴らして弱々しく口の端を引き上げて笑った。
「私は、全て憶えている。艦を危険に晒した無謀娘め……」
「あやこさん……」
 力なく笑うあやこは、ステインの軛を離れて人間に戻っていた。そして、ポンと軽く郁の胸元を叩き、眠るように瞳を閉じた。
「あやこさん……っ!」
 郁は眠ったあやこを胸にきつく抱き寄せ、ぼろぼろと涙を零した。
「ありがとう……ございました……!」
 泣き崩れながらも、心から精一杯の礼を述べる。
 勇将が大勢死んだ……。
 こうなることを見越していたかのように、辞令を寄越してきたあやこの代わりはもうきっと自分しかいない。
 郁はあやこをそっとその場に寝かせ、手を胸の前で組ませるとゆっくりと立ち上がり涙を拭いた。そして空を見上げ、チカチカと瞬く星を見て誓った。
 次代を担う豆艦長は私だ……!
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2013年07月05日

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