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『ウェディングドレスとオトメゴコロ 』
アリサ・シルヴァンティエ3826

 ――ウェディングドレス。
 それは女性なら誰もが一度は憧れるであろう服装。
 それを着てみませんか?
 一切の費用は当方が負担します。
 ウェディングドレスの、モデルをしてみませんか?


「アリサ!」
 エスメラルダ・ポローニオが、いかにも楽しそうな顔で駆け寄ってきた。アリサ・シルヴァンティエは、大きな瞳をパチクリさせながら友人の顔を見つめる。
「何かあったの、エスメラルダさん?」
 エスメラルダは興奮した顔のまま頷くと、その『何か』を話しだした。
「あったのよ、とても素敵なご案内がね! ウェディングドレスのモデルのアルバイトを探してるって、知り合いのデザイナーから聞いたものだから。アリサにはきっと似合うと思うの」
「えっ、でも――」
 詳しく聞いてみれば、エスメラルダの話はたしかにとても魅力的に思える。
 そのデザイナーはとある結婚式場とも懇意にしていて、よくドレスのオーダーも請けているのらしいが、今年に限ってウェディングドレスのモデルが見つからないのだとか。
「よく未婚の女性がウェディングドレスを着ると婚期を逃すなんて言うけれど、そんなのもありがちな言い伝えだと思うのね、あたしは。それよりも、アリサは絶対にそういった華やかなドレスが似合うと思うの。だから、この話をアリサにと思って持ちかけたのだけれど――どうかしら?」
 エスメラルダもうまい具合に興味をそそるような言い方をする。彼女の商人としての性格も、こう言うところで発揮されているのだろう。
「でも、私……こういうの、あまり得意じゃない、というか。……あ、でも」
 ――エスメラルダさんと一緒なら、やってもいいかも。
 そう言うと、アリサはほんの少しだけ楽しそうに微笑んでみせる。せっかくなら親友と一緒にドレスアップした姿も見てみたいというほんの小さなお茶目心の現れだ。
「えっ、あたし?!」
 そう言われると、エスメラルダも僅かに顔を赤くする。
「あ、あたしなんか、アリサに比べたら似合わないわよ! そりゃあ、憧れがないわけじゃあないけれど……」
 女性なら、だれでも一度は憧れるウェディングドレス姿。エスメラルダとて、憧れがないわけもない。ただ、アリサのドレス姿のほうがモデルに相応しいと思った――そこでのアリサのこの一言だから、驚かないわけがない。しかも、エスメラルダにとってアリサは憧れの存在とも言えるから、なおさらだ。
「うーん……とりあえず、依頼主にも相談しないと、だしね」
 依頼主の許可がなければさすがに事は進むまい。そう思って、エスメラルダは予防線を張ってみる。
「大丈夫ですよ、エスメラルダさんは凄くキュートですから」
 それでもアリサは、ふんわりと微笑んでいた。


 翌日――
 エスメラルダはアリサを伴ってバイト先に赴き、昨日の件を依頼主であるデザイナーに話したところ、
「ふたりとも歓迎よ」
 とあっさり言われた。
「本当はカップルとかのほうが、何かと見栄えはいいんだけれどね。それでもこんな可愛い女の子二人がドレスを着てくれるんだから、きっとドレスも喜ぶわ」
 見ればデザイナーだけでなく、バイト先となっている結婚式場のスタッフたちも微笑んでいる。
「ですね。親友同士でお互いを祝福しあえる関係とか、そういうコピーもいいかもしれません」
 式場のスタッフはそんなことも言って気持ちをどんどん煽っていく。そして止めに、アリサが笑顔を浮かべながらのこの一言。
「ね、エスメラルダさん。一緒にやりましょう?」
 ついに、彼女も折れざるを得なかった。
「……わ、わかったわ。あたしも二言はないし、何より依頼人もすごく乗り気だしね。その代わり、今日の報酬はふたりぶん! ちゃんとしっかり支払ってくださいね!」
 エスメラルダは覚悟を決めたかのように、そうはっきりと言い放つ。
 ――この辺り、さすが女性とはいえ商人。しっかりしていた。

 さて、そんな訳でドレスを選ぶ作業に移る。
 アリサはほっそりとしているし、エスメラルダはそれに比べるとやや健康的な体型だ。
 まあ、無駄な肉はあまりついていないということになる。そうなればドレスもよりどりみどり、デザイナーやスタッフたちがこぞってこれはどうかと薦めてくる。
 とは言えすべての服を着つけて、ヘアスタイルなども整えて……などをしていたら、とてもじゃないが一日で終わるわけがない。せいぜい二着、といったところだ。
「アリサさんはこういうのも似合うのじゃないかしら……?」
「あら、こちらも似合いそうよ」
「うーん、それはちょっと色合いが地味じゃないかしら、折角の晴れの衣装なのだし」
 あくまでこれがアルバイトだということも忘れ、服選びにやっきになるスタッフたち。
 でも、それも仕方ないと言えた。だって、タイプはちがうとはいえ美人に類される女性が二人、ウェディングドレスを着るといっているのだから。
 アリサは少しはかなげな感じもする、でも優しげな雰囲気のハーフエルフ。……実態は結構な女丈夫でもあるのだが。それはともかく、ルックスは白い肌に長いストレートの黒髪、そして大きな黒い瞳がとても印象的で申し分ない。
 一方のエスメラルダはいかにも商人らしい、勝気そうな女性。アリサよりは短くしている髪の毛は茶色くて、いかにも元気いっぱいという感じである。こちらもこちらで、アリサとはちがうタイプの美人だ。アリサよりもいくらか若く見えるが、種族の違いがあるので実際年齢はもっと異なる。深く追求すると、またアリサの機嫌を損ねる可能性もあるのでこのくらいだが。
 その二人も、頭をつき合わせて悩んでいる。
「アリサには、こういうのが似合うんじゃないかしら?」
「エスメラルダさんには、それならこういうのもありかもしれませんね」
 女性というのはやはり服装にこだわるものなのだ。
 ――やがて二人が手にとったのは――。


「わぁ、アリサ、こういうのも似合うのね……!」
 エスメラルダが感心しきりに頷いている。
 まずは依頼主たちがチョイスしたコーディネイトだ。
 アリサは髪をアップにして薄く化粧を施し、大人っぽくエレガントなマーメイドラインのドレスを身に着けている。これだけでもアリサは随分と雰囲気が違って見えた。普段の優しさにくわえ、女性らしい色っぽさを兼ね備えているのだ。
「そういうエスメラルダさんこそ、随分と可愛らしいですよ?」
 アリサが微笑む。エスメラルダは髪に軽くカールを付け、そこに花飾りをあしらっている。化粧はこちらも決して濃くはない。そしてドレスは、アリサのそれとは随分と趣の異なる、しかし華やかで可愛らしい印象のプリンセスラインのドレスだった。
 そしてどちらもまるで彼女たちのために誂えたかのようにしっくりと馴染んでいる。
「そ、そう、かな? なんだか少し、照れるちゃうのよね……こう言う衣装、あまり着ることもないし、それに……」
 アリサに手放しで褒められ、エスメラルダはわずかに頬を赤らめる。無理もない。憧れのアリサと二人、女性の憧れであるウェディングドレスをまとって並んでいるのだから。
 二人はそれぞれ渡されたブーケを持ち、並んで微笑む。アリサには白い薔薇のブーケ、エスメラルダにはピンクの薔薇のブーケ。
 それぞれの性格や雰囲気、そんなものもよく掴んだ上でのブーケのチョイスだ。
 そういった小道具を準備され、チャペルの中で絵描きがそれを素早くスケッチする。本来なら何度も来て欲しいということらしかったが、本業を別に抱えるものをここで何日もとどめおくわけにもいかない。おおまかなイメージラフとドレスのデザインをスケッチして、そこから絵にするのだという。
 さすがにこうなってくると、エスメラルダも緊張は続くものの、先程までの照れくささと言うよりも心地よい緊張感のほうが多くなってきた。
「はい、花嫁さんの幸せな笑顔を想像して、うんそうそう」
 絵描きはそう言いながらサラサラと鉛筆を走らせる。もちろん写真の撮影もあるのだが、一枚絵のインパクトというのは案外写真よりも絵画の方が場合によっては強く印象に残るもので、なるほどそう考えればスケッチも納得がいく。
 確かに絵画には、写真にないあたたかみや、様々な効果をつけることも造作ない。効果的な表現方法なのかもしれなかった。
「それにしてもお嬢さんたちは綺麗ですねぇ。いや、お世辞なんかじゃないですよ、心根が美しいというか――それが身体ににじみだしているような、そんな感じですねぇ」
 絵描きはせっせと手を動かしながら、そういって笑う。そう言われて不快に思うわけもなく、随分と嬉しいようなそんな気分になってくる。
 一着目のドレスを脱いで少し遅目の昼食をとったあと、
「もう一着は、お二人の好みを着て構いませんよ」
 式場スタッフからそう言われて、二人は再び頭を突き合わせることになった。


「それじゃあ、せっかくだからお互いに似合うと思うドレスにしない?」
 そう言い出したのはどちらだったか。しかしふたりとも、そうなると躍起になって『相手に似合うドレス』を探し出してきた。
 化粧とヘアセットも、おおまかな指示はこちらからお願いする。
「二人で鏡前に立つ時が楽しみだわ」
 エスメラルダが笑えば、
「私も同じ思いです」
 アリサもふふっと微笑む。
 そして――

 アリサがエスメラルダに選んだのは、少し大胆にも思えるミニ丈のドレスだった。ふんわり膨らんだチュールスカートは膝丈ほど、そして後ろだけ引きずるように裾が長いオーバースカートが付いている。上半身はビスチェスタイルで、胸の谷間を強調するようなデザインだ。
 溌剌としたエスメラルダだからこそ、活動的な雰囲気のドレスになったらしい。色も純白ではなく、淡いピンクの光沢が混じっていた。
 対してエスメラルダがアリサに選んだドレスは、いわゆるAラインにパフスリーブのワンピースドレス。ただし純白の花嫁衣装ではなく、わずかに紫がかった青いカラードレスだ。胸元には大きなパールのブローチがついていて、それがアクセントになっている。シンプルながら、シックな色合いが大人らしさを生んでいて、たしかに彼女によく似合っていた。
「変じゃないですか?」
 アリサが問う。
「ううん、とっても綺麗――」
 エスメラルダはにっこりと微笑んだ。一方のエスメラルダも似合っているか不安だったけれど、アリサの楽しそうな笑顔、それに
「エスメラルダさんもよく似あってますよ。とても可愛らしいです」
 という一言で、そんな不安も吹っ飛んでしまった。
「アリサもね、とても綺麗。宵闇の中に浮かぶ聖獣か何かみたいで」
 そんなことをエスメラルダが言えば、アリサも嬉しそうに微笑んだ。普段はあまり見られない、ちょっと子どもっぽい笑顔。
「花嫁に憧れない人なんていないと思うんです。特に私の場合、時々自分が縁を取り持つことがあるでしょう? 羨ましく思わないほうが無理ですから」
 アリサの裡に眠る女神の加護が彼女自身に幸福を運ぶのかといえば、それはとても微妙だ。アリサ自身はその自覚がないし、実際アリサにファンらしき存在はいてもそういった浮いた話はなかなか訪れないから。でも、と彼女は続ける。
「こういうのってやっぱり女性の夢ですよね。いつか、素敵な殿方が現れるのかしら……?」
 ちょっとだけ夢見がちなことを、珍しくつぶやいてみる。
「……そう、ね。いつか、素敵な男性があたしたちにも現れるといいわね、本当に」
 エスメラルダも、そう思う。普段から男勝りな生業をしている彼女だけれど、別に彼女だって女を捨てたわけじゃない。ただ、今までチャンスがなかっただけだ。……たぶん。
「お嬢さんたち、よく似あってますよ。きっと素敵なお嫁さんになれるんでしょうね」
 二人並んで先ほどと同じように写真とスケッチを取られていると、絵描きがそういって微笑んだ。
「私はね、これでもいろいろなお嬢さんがたを見てきていますから。きっと二人にも、幸せはやってきます。ええ、勿論ですとも」
 その言葉は、今まで多くの幸せな花嫁を見てきたというだけあって自信にあふれている。二人の乙女は顔を見合わせると、くすりと微笑んだ。


 帰り道、二人は記念にもらってきた写真を眺めながら微笑む。
「いい思い出になりましたね」
「そうね……次は、どちらが本物の花嫁衣裳を着るのが早いか、かしら?」
 エスメラルダはそういってくすりと笑う。アリサも微笑んだ。
「負けませんから」
「あたしだって」
 二人の乙女は笑いあう。
 いつか、素敵な相手が現れるのを、ほんのすこし望みながら。
 ――そして、こうやって共に笑い合える親友の存在に感謝しながら。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【3826 / アリサ・シルヴァンティエ / 女 / 24歳 / 魔法医師】
【3831 / エスメラルダ・ポローニオ / 女 / 20歳 / 冒険商人】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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このたびは発注ありがとうございました。
ソーンからということで、緊張しつつも楽しく執筆させて頂きました。
親友同士のきせかえっこがとても楽しく、いかにも有りそうだなと思いながらお二方がいつかステキな殿方を見つける日を楽しみにしております。
では、重ねてありがとうございました。
鈴蘭のハッピーノベル -
四月朔日さくら クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2013年07月09日

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