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『Final GAME 』
二階堂 光ja3257)&斐川幽夜ja1965)&梅ヶ枝 寿ja2303)&栗原 ひなこja3001)&桐生 直哉ja3043)&桐生 凪ja3398


 Prologue

――国際空港ターミナル。
 複数の観光客に紛れて駆けてくる少女がいる。その手にあるのはキャディーバッグだ。
「はあ、はあ……約束の時間、ギリギリになっちゃったです」
 額に浮かんだ汗を拭って呟くこの少女の名は澤口凪だ。
「もう搭乗手続き、終わらせちゃったでしょうか?」
 あう。と視線を落とした時だ。何か柔らかな感触が頭に触れた。
「まだ誰も手続きはしてない。大丈夫か?」
「あ、直哉さん……それに、幽夜先輩、ひなこ先輩、寿先輩に光先輩! おはようございますっ!」
 勢いよく頭を下げた凪に、名を呼ばれた面々が笑みを浮かべる。それを見てほっこり笑うと、凪は自分の頭を撫でてくれた桐生直哉を見上げた。
「直哉さんの荷物はそれですか? すごく量が多い気がしますが……」
「半分以上は食料だからな。思った以上に荷物が多くなった」
「半分以上って……ナオ、それ検疫とーるのか?」
「問題ないだろう。殆どレトルトだからな」
 そう言って荷物を覗き込む梅ヶ枝寿は「へぇ」と声を零す。それを聞き止めて、二階堂光がクスリと笑った。
「レトルトでその量。さすが直哉くんだね」
 直哉の荷物はボストンバック2つにキャディーバッグが1つ。彼の言う通りであれば、相当量のレトルト食品が入っているはずだ。
「直哉さんのいくら食べても太らない体質。羨ましいですっ」
「そうか?」
 凪の真剣な声に目を瞬く直哉に、彼女は力いっぱい頷いて見せる。
 そんな姿を間近で見ていた栗原ひなこは、自身のネックレスに手を伸ばすと、チェーンに通してある指輪を手に取った。
「良いな……あたしも一緒に来れれば良かったのに」
 はあ。と零したため息に羨ましさが募る。
 凪と直哉は恋人同士。ひなこも年上の恋人がいるのだが、今回は予定が合わずに一緒に来る事が出来なかった。
 だが友達同士で旅行と言うのも悪くない。そう思い直した所で斐川幽夜の声が届く。
「雨、ですね。予報では降るとは言ってなかったですが」
 この声に皆の目が外に向かう。
 空港のターミナルにある大きな窓に水滴が付着してゆく。その光景を見た光の表情が一瞬だけ曇るが、彼は直ぐに笑みを浮かべると「大丈夫」と彼女の背を叩いた。
「この位の雨なら飛行には問題ないよ♪」
 ね? そう笑って光は荷物を持ち上げた。
 そこにこの6人ではない、別の足音が近付いてくる。
「久遠ヶ原学園の生徒さんですか?」
 突如立ちはだかるようにやって来た人物に皆の目が向かう。そこに立つのはサングラスに黒服という明らかに不審な出で立ちの男だ。
「そう、っすけど……何か?」
 胡散臭い。そう問う寿に、男は頷きを返すとこう告げた。
「久遠ヶ原学園の学園長から貴方がたを丁重にお迎えするよう言われています。搭乗手続きはこちらで済ませてありますので控室の方へ移動して下さい」
「学園長先生が?」
 如何言う事だろう。
 首を傾げるひなこは勿論、他の面々も訝しげに視線を合わせる。
 学園には確かに旅行許可の申請をした。故にこの場所が知れている事も問題はないのだが、それでも状況がおかしい。
「学園長からの書面もございます。お確かめ頂ければ事実ほどはおわかりになるかと」
 男はそう言うと、1枚の書面を6人の前に差し出した。
 そこに記されるのは、学園側から彼等に向けての行動指示。指示と言っても大したことはない。
 単純に人目に着く場所ではアウルと発動しないこと。そのための処置として、現地へは用意した機関を使うこと。と言うものだ。
書面の最後には学園長直々らしい署名と学園の角印も押されている。
「これ、本物?」
「真偽のほどは後ほどお確かめいただければわかるかと思います。まずは控室方へ……貴方がたの身に宿る力は一般人にとって脅威にもなり得ますので」
 確かに一般人とアウルを持つ者を比べればその能力は歴然の物だろう。だがここまで危険視される覚えもない。とは言え、思うことは皆同じ。
「ま、もしこれが本物だったら、断るわけにもいかねーんじゃね?」
 寿のこの呟きに、皆が不安そうに視線を揺らす。
 信じて良い人物かどうかも不明。この書面自体の真偽も定かではない。
 それでももしこれが本物だったら……。
「行こう。何かあっても俺たちなら大丈夫だよ!」
 明るく皆を促す光。その声にひなこが不安げに頷き、次々と他の面々も頷きを返す。そうしてそれぞれが完全ではなくとも納得すると、彼等は自分の荷物を手にし、黒服の男が案内する控室へと歩いて行った。



 First day

――The morning

 ……チ、チチオ……ッ。

「ん……んん……」
 ごろりと寝返りをうった頬に草の感触がする。それに耳を打つのは小鳥の声だろうか。
 凪は小さく身じろぐと、重くなった瞼を開けた。
「! なんですか、これ……っ」
 目に飛び込んできた深い青。そして緑。
 明らかに空港のターミナルでない場所に、凪の鼓動が早まる。
「みんなは……なん、で?」
 自分は確か空港のターミナルに居たはずだ。皆で黒服の男に警戒しながら。
 だが今目の前に在る状況は何だろう。
 みんなの姿もなく、空港でもなく、見覚えもないその場所に凪は息を呑む。そして状況を確認しようと体を起こす。
「あの男が、何かしたのです?」
 外傷はないようだが、頭が少しクラクラする。何かの薬品を嗅がされたのか、それとももっと何か別の――
 そう思った所で、凪はある事に気付いた。
「これ、何?」
 首にガッチリと嵌められた首輪のようなもの。
 凪の記憶が確かなら、空港のターミナルに居る時はこんなものは着けていなかった。それに何だろう。
「……すごく、嫌な予感がするのです」
 そう口にして震えを抑えるように自分自身を抱き締めた時だ。
『久遠ヶ原学園の生徒諸君、聞こえるかね』
 突如聞こえた声に、凪の手が首輪に触れた。
「首輪から声が……」
『音声の状況は悪くないようだね。おはよう、諸君』
 凪の動きに反応するように声が響くと、彼女の目が飛んだ。それが捉えたのは監視カメラだ。
『ここは日本国が所有する無人島だ。諸君らはこれより3日間をかけて、国防上必要な戦闘シミュレーションを行ってもらう』
「戦闘、シミュレーション?」
『難しいことはない。単純に最後の1人になるまで殺し合いをしてもらうだけだ。食料その他、必要であろう物は諸君の傍に置かせて貰った。確認して生存に役立ててほしい』
 今、何と言った?
 声の主は『最後の1人になるまで殺し合う』と言っただろうか。
「何それ……どういう、こと……」
 何かの聞き間違い?
 首輪に触れていた凪の手が震え、監視カメラを睨み付けた。その視線は明らかに殺意を含んでおり、見る者に恐怖心を与える。
 だが声の人物だけは、臆する事無く言葉を続けて行く。まるで今伝えている言葉は、記録されたただの「台詞」であるかのように。
『3日の内に決着がつかない場合は、諸君ら全員の命を絶たせて貰う。首に着いている首輪は起爆装置になっており、こちらからの遠隔操作は勿論、自ら外した場合にも爆発するように設計されている。逃げようなどと考えるな。これは久遠ヶ原学園の学園長の意向でもある』
 言われて空港のターミナルで見せられた書面を思い出した。
 学園長の署名と角印が押された書面。明らかに不審な内容だったのに凪たちは信じた。そして信じたが故に訪れたのが、この始末。
 ああそうだ。と、音声は思い出したようにこう付け足した。
『生き残った1人には無事に帰還をして貰う。また一生涯の保証もしよう。この戦闘シミュレーションはそれだけの価値があると踏んでいるのでな』
 こうして音声は一方的に切れた。
 残された凪は監視カメラから視線を逸らすと、苦々しげに地面を見詰めた。
 馬鹿げているとしか言いようがない。
 それでも……と、視線を落とした凪の目に、荷物らしき物が見えた。
「これは……さっきの声が言っていた食料です?」
 手を伸ばして開くと、確かに食料らしきものと水が入っている。だがその量は1日を乗り切るだけの分。
「3日を期限と言って食料は1日分だけですか……それに、これ……」
 荷物の端に隠れるように居座る拳銃に目が行く。
 凪の荷物は携帯も含めてすべてが無くなっている。あるのはこの荷物だけ。
「……ああ、結局……相手が天敵か同胞かの違いですか」
 撃退士として命のやり取りをすることに疲弊していた凪にとって今回の出来事は、受け入れる以前にどうしようもないやりきれなさを生んだ。
 結局の所、アウルを持つ自分達は命のやり取りをする道具でしかないんだ、と。
「殺しに行きましょう……っ」
 殺されるのであれば殺さなければいけない。
 凪は落ちていた荷物を拾い上げると、その中にある地図を取り出して歩き出した。
 空港のターミナルではぐれてしまった仲間を探して……。


――Afternoon

 打ち寄せる波。それを見詰めながら、直哉は足元に置いた荷物に目を向けていた。
「腹減った……」
 そう呟く彼の荷物にも1リットルの水が見える。その他に地図や時計、懐中電灯も見えるのだが「あるもの」が決定的に欠けている。
「……俺には1日分の食料じゃ足りない」
 そう。彼の荷物に足りないのは食料だ。
 支給されて僅か。彼の食料は瞬く間に消費された。
 それは彼が空港に持ち込んだ食料の量を考えれば容易に想像できることだが、このままでは戦う前に飢餓で死んでしまう。
「食料は皆が持ってるだろうな。けど……」
 仲良しな皆と闘う事など出来ない。
 直哉は深く息を吐くと、項垂れたまま立ち上がった。そうして懐に仕舞ったアーミーナイフに手を添えて歩き出す。
「さっきの奴は無人島だって言ってたな。探せば食料になるモノがあるかもしれない」
 考えていても腹は減る一方。ならば手段は限られた物しかない。
 食料をこの島で調達するか、誰かを襲うか、だ。
「まずは探そう……皆を襲うのだけは、絶対にダメだ」
 直哉は自分自身にそう言い聞かせると、荷物を持ち上げて歩き出した。そこに茂みを割って近付く音がする。
 ゆっくりと、でも確実に近付く音に直哉の表情が険しくなる。
 仲間の誰かが襲う可能性は捨てたい。それでも万が一と言うこともある。
 直哉はナイフを取り出すと、揺れ動く茂みに視線を注いだ。そして注意深くその動きを探る。
「……誰だ」
 徐々に近付く音。それが確実の物になると、直哉は堪らず声を零した。
 これに音の主が反応する。
「その声……桐生くん?」
「ひなこちゃん、か」
 茂みを割って姿を現したのはひなこだ。
 彼女は真っ赤になった眼を擦ると、安堵したように微笑んで駆け寄ってきた。その姿に直哉の顔にも安堵の表情が浮かぶ。
「本当に桐生くんだ! 良かったぁ。あんな放送がされたから、あたしっ」
 そう言って笑う彼女に直哉は頷いて見せる。
 ひなこも直哉と同じ荷物を背負っている。その中には自分と同じく1日分の食料が入っているのだろう。と、そこまで考えて直哉の首が横に振れた。
「ダメだ……それだけは……」
 グッと拳を握ってナイフを仕舞う。
「桐生くん?」
 不思議そうにこちらをみるひなこに、何でもないと首を横に振って見せ、直哉は彼女が来た道を見遣った。
「ひなこちゃんは、1人?」
「あ、うん。とりあえずみんなと合流しなきゃって思って」
 にこっと笑うと、ひなこは地図を広げて見せた。そこには自分が通って来た道を樹液で辿った跡がある。
「それにしても先生たち、酷いよね。こんな嘘」
「え?」
「演習なら演習って言ってくれないと、みんなが怖がっちゃうよ」
 ね! と同意を求めるひなこは、どうやらこの出来事が学園側が急遽実行した演習だと思っているようだ。
 楽観的に笑って見せる彼女に、何故だか胸の奥がモヤモヤする。
「……これは、そんな生易しい物じゃない」
 そう口にして、直哉は歩き出した。その背をひなこが必死に追いかける。と、その瞬間、強烈な眩暈がした。
「っ」
 まだ先だと思っていたが、もうすでに空腹がピークに達しているのだろうか。それにしたってタイミングが悪すぎる。
「桐生くん、大丈夫!?」
 慌てて駆け寄るひなこを手で制して踏み止まる。だが彼女の荷物が目に飛び込んで来た時、彼の理性が飛んだ。
「ひっ!?」
 突如目の前を裂いた閃光にひなこが飛んだ。
 ヒラリと舞い落ちた前髪に、彼女の唇が小刻みに震える。そして潤んだ目を直哉に向けると叫んだ。
「桐生くん、行き成りどうしたの!? なんで――きゃあっ!」
 全てを冗談だと、嘘だと思っていたひなこに、直哉の攻撃は衝撃的なことだった。
 咄嗟にアウルを発動しようとするが彼女の目が驚きに見開かれる。
「えっ!? なに、これ……」
「アウルが使えない、だと?」
 直哉も同じだったのだろう。
 訝しげに自分自身を見下ろす彼につられてひなこの視線も落ちる。だがそれも一瞬の事。
「……使えないなら」
 直哉はすぐさまひなこに斬り掛かった。
 皮膚を裂き、溢れ出る鮮血に彼女の表情が変わる。ガクガクと震えながら取り出したのは、直哉と同じナイフだ。
 それでもそれを彼に向けるのを躊躇う彼女に、直哉は言う。
「闘わなければ死ぬだけだぞ」
「で、出来ないよっ! 誰も殺したくない! なのに……なのに、なんで、桐生くん!」
 更に攻撃してくる直哉のそれを避けようとしたところで彼女の足がもつれた。そして倒れ込む瞬間を狙って彼の刃がひなこの胸を貫く。
「――ッ!」
 息を奪う様な痛みに彼女の目が見開かれた。
 そして小さく音を立てたチェーンの音色に手を伸ばすと、それとは違う、冷たい感触が触れて涙があふれる。
「あ……あぁ……」
 これは嘘じゃなかった。現実だった。
 首輪も痛みも、全部本物。
 なら自分は――
「……、…ふ……ぁ……」
 何か言葉を紡ごうとするが痛みが邪魔をして出て来ない。代わりに伸ばした手がチェーンを絡め取ると、彼女はそれを握り締めて空を見詰めた。
「……ごめ……、ね……言葉……ば、…よか、った……」
 頬を伝う涙がチェーンを握る手に触れると、ひなこは静かに瞼を伏せた。
 その姿を見て直哉の目が、彼女から彼女の持つ荷物に向かう。そしてそれに手を伸ばそうとした時、銃声と共に彼の手が弾かれた。
「直哉さん」
 響く声に直哉の肩がビクリと震える。
 そうして振り返った先に居たのは、険しい表情で銃口を向ける凪だった。


 Second day

 無人島に到着した次の日。寿は1人静かに森の中を歩いていた。
「よーし、これで全部だな」
 そう言いながら見下ろしたのはここに来て支給された地図だ。そこには監視カメラの位置や、周辺の状況などが記されている。
「予定より時間くったけどーまだだいじょーぶでしょ」
 妙な宣言がされてから1日。
 仲間の目を掻い潜って島全体を回ってみたが、意外と用意周到なもので、島には食料になりそうなものなど?Tつもないことがわかった。
 その他にも、黒幕が隠れられそうな施設や、島を抜け出すための道具なんてのも見当たらない。
 それでもまだ仲間は無事だ。そう思うのには理由がある。
「みんながそー簡単におもいどーりになるわけねーじゃん」
 信頼している仲間たち。その彼等が簡単に言うことなど効く筈がない。そう思うからこそ、独自に調査を進めることが出来たのだ。
「でもまー……ゆーえきな情報はなし、か」
 零れるため息を口中に仕舞い、寿は地図に目を落すと歩き出した。
 目指すのは自分の声が届く場所。
「かくせーきでも、届かなそーな場所はあるからなー」
 そう言ってのらりくらり歩き出す。
 今まさに、仲間同士の殺戮が繰り広げられているとは知らずに……。

 差し込む朝日を頬に受け、凪は覆い被さるような体制で自分を見下ろす直哉を見詰めていた。
 その胸には深く突き刺さったナイフがある。
「ご飯……足りません、か……」
 小さな擦れた声が届いたのだろう。ハッとなって目を見開いた直哉の顔が蒼白に染まってゆく。
「凪……俺は……」
 昨夜、ひなこを殺害した直哉を見て、凪は一瞬だけ殺意を覗かせた。だがそれだけ。
 彼女はすぐさま銃を下ろすと、理由も聞かずに直哉と共にあることを選んだ。そして一夜明けた今――
「……お腹…空きます、よね……」
 聞こえる声は「わかっていた」と言わんばかりのもの。その声に直哉の手が震える。
「私の、ご飯……持って……くだ、……ぃ……」
「だ、ダメだ! そんなこと、出来る訳……っ」
 空腹に耐えかねたのは自分。
 凪を刺したのも自分。
 じゃあ、本当に彼女を……凪を殺したかったのか?
 違う、違う、違う! 最愛の人をこの手に掛けることなどあってたまるか!
 直哉は彼女に突き刺さるナイフに手を添え、それを引き抜こうとした。だが、彼女の手がそれを遮る。
「何を……今すぐ、助けっ!?」
 伸ばされた手が直哉の頬に触れた瞬間、思いの外強い力が彼の顔を引き寄せた。そして互いの息が交差し、唇が触れるか触れない彼の位置まで来て――
「凪? 凪!! うあああああああっ!!!」
 頬を滑り落ちた手に、直哉の悲痛の叫びが響く。
 そして次の瞬間、凪に刺さっていたナイフを抜き取ると、直哉は自らの胸にそれを突き刺し、崩れ落ちた。


――Second afternoon

 強い日差しを避けるように身を置く森の中で、光は合流した幽夜と共に他の仲間を探して歩いていた。
 その胸中に在るのは黒幕に対しての敵対心。そして仲間を想う心。
「大切な友達を殺すなんて出来ない、帰る手段はあるはずだよ」
 そう言って幽夜の背を叩く彼のこの言葉に、何度助けられた事だろう。
 元より仲間を殺すつもりも、傷付けるつもりもない幽夜にとって、彼の言葉は心の支えと言っても良いほどだ。
「そうですね。首輪一つで心は縛れません。全ての自由を奪われても、心の自由は残るはずですから」
 幽夜はそう呟くと瞼を伏せた。
 耳に届く小鳥のさえずりも、木々のざわめきも。今起きていることとはあまりにかけ離れていてホッとする。
「それにしても、みんなどこにいるのかね」
 進めど暮らせど、どこをどう探しても見つからない。あとは海沿いを進むしかないのだが、万が一を考えると遮蔽物がない場所は危険だ。
「って、万が一ってなんだよ……」
 チッと舌打ちを零して息を吐く。
 どうにも昨日から嫌な予感が拭えない。それでもなんとかそうした明るく振る舞うように努力しているのは幽夜のため――いや、違う。
 これは自分のためだ。
「もやちゃん、海の方に出てみよっか?」
 臆病なのも、仲間を信じきれないのも自分が弱いせいだ。
 そう言い聞かせて提案すると、幽夜は「良いですよ」と快諾した。だがこの行動が凶と出る。
「な、んだ…これ……なんでっ!」
 海に面した森を抜けた光と幽夜を待っていたのは、重なるようにして倒れる直哉と凪の姿。そして茂みに隠れるようにして倒れるひなこの姿。
「……、…何故こんな」
 遠目からでもわかる。
 3人は既に息をしておらず、蘇生も無意味だ、と。
「せめて弔いを――」
 そう幽夜が口にした時だ。聞き慣れた声が周囲に響き渡った。
『あーあー、みんな聞こえるかー!』
「梅くん?」
 この声は間違いない。
 昨日から姿を見なかった寿が、拡声器か何かを使って声を発しているのだ。
「梅くん、無事だったんだ」
 よかった。そう安堵するものの、光の脳裏に嫌な想像が過る。それを、首を振ることで振り払うと、彼は幽夜と共に声の方へ急いだ。

 寿は声の通りそうな崖の上に居た。
 光と幽夜はそんな彼を崖の下から見上げて叫ぶ。
「梅くん! こっちに下りておいてでよ! みんなで協力してこっから脱出しよう!」
「首輪の無力化する方法を探しているんです。是非梅さんも一緒に――」
「この島に逃げ場はなかった!」
 唐突に告げられた言葉に息を呑む。
「俺はーこの島を全部回ったつもりだよ。でも、逃げ場はなかった。完全な孤島なんだ」
 彼が言うには、この島は完全に孤立しており、食料の調達は愚か、脱出も不可能らしい。
 そして黒幕をこの島で探すことは無理だとも、彼は言った。
「俺さー、試したいことがあるんだよねー」
「試したいこと?」
 ゴクリと息を呑んだ光と幽夜に、寿はニッと笑んで拡声器を放った。それを落ちる寸前の所で光が受け取り、訝しげな視線を向ける。
「もやさー……この首輪の無力化するほーほー探してるんでしょー?」
「梅さん、止めて下さい。何かしらの方法はあるはずです」
 駆け出した彼女を見て寿の眉間に皺が寄る。
「来んなっ!」
「ーー」
 彼にしては珍しいほど真剣な声で、幽夜は思わず足を止めてしまう。
 その姿を見て笑みを浮かべると、寿は震える自身の手を見下ろし、そして首輪に手を添えた。
「……チキンにはチキンなりのやり方ってもんがあるっつーの」
 そう口中で呟き、光と幽夜の姿を見詰める。
 きっと残り3人もどこかでこの声を聞いているはずだ。だから、自分がしてあげられる最大限のことをしたい。
 そして黒幕には絶対好きにはさせない!
「爆発しなかったらさー、みんなでコレ考えたヤツぼこりにいけばいーし、そーじゃなけりゃ……お前らで俺のかわりにぼこっといて」
 頼んだ。そう言葉を残し、寿は勢い良く首輪を引き抜いた。
 瞬間、激しい爆音と風が吹き荒れる。
 それを幽夜を抱き込む形でやり過ごすと、光はなんとも言い難い表情で彼女の体を抱き締めた。


 Third day

 並んだ4つの墓。
 ただ土を盛っただけのそこに視線を注ぎながら、光は悔しげに唇を歪める。
 たった2日、それだけでこんなにも多くの仲間が亡くなってしまった。それと言うのも全てこの事態を仕組んだ黒幕の所為だ。
 光はそう心で呟きながら拳を握る。
「俺は絶対に殺しなんてしない。だって、皆が好きだから。大切だから」
 そう言いながら唇を噛み締める。
 だが彼は気付いている。
 たった2日間であれ、ここまでで色々なことがあった。それも全て自分の予想外の出来事ばかり。
 そして残り時間は僅か。
 このまま放置すれば幽夜も自分も死は免れないだろう。
「俺……」
 握り締めた拳から鮮血が滲み落ちる。と、その時だ。
 背に感じた気配に咄嗟に振り返る。
 そうして拳を握って構えを取ると、彼はすぐさまハッとなってそれを解いた。
「申し訳ありません。驚かせるつもりはなかったのですが……」
 そう言って逸らされた視線に沈黙が走る。
 今の行動でわかってしまった。
 仲間を信じると言いながら募った疑心。それらはもうすぐ膨れそうな程に大きくなっている。
 光は決意したように顔を上げると、幽夜に向き直った。
「もやちゃん、ごめん」
「……何がですか?」
「俺……もやちゃんのこと、疑ってる。いつか、殺されるんじゃないかって」
 目尻に浮かんだ涙は偽りじゃない。
 仲間を疑うことが怖い。仲間を疑っている自分が嫌い。
 今のこの状況も、何もかも!
 光は懐に仕舞っていた小瓶を取り出すと、その蓋を開けた。その姿に幽夜の目が見開かれる。
「二階堂さん、それは?」
「青酸カリだよ。俺にはこれが支給されたんだ」
「待って下さい。一緒に生き残りましょう……必ず生き延びる術はあるはずです」
 そう言って口に運ぼうとする彼に駆け出す。だが、光の動きは止まらない。
 優しい言葉を発する幽夜に微笑んで、そして――
「この戦いは必要悪ではない……ならば単に悪。何れ世界中の世論に訴え黒幕を潰したいです……お願いです、二階堂さん。一緒に黒幕を暴きましょう」
「ごめん」
 一気に煽られた瓶から、光の中へと毒が落ちて行く。そして幽夜が彼に触れるのと同時に、光の体は地面に崩れた。
「二階堂さん?!」
 抱き上げた彼の体はまだ暖かい。
 だが鼓動は止まっている。
 2度と動かない。
「っ……何故、自分から……」
 光も、他の仲間も、みんな優し過ぎる。
 幽夜は彼の体を抱き締めると、静かにその身を離して立ち上がった。そして視線を監視カメラへ注ぐ。
「……私が生存者です……」
 極々小さな声。
 浮かぶ憎しみも、悲しみも、まだ涙には変えない。
 絶対に諦めない。
 そう決意した声が風と共に消えると、鋭い痛みが幽夜の胸を貫いた。
「ーーっ」
 よく見ると、監視カメラの一角から銃口らしき物が見える。それを目にしてようやく理解した。
「……帰す気、なんて……はじめ…から……」
 ドサッ。
 鈍い音共に幽夜の体が地面に落ちると、彼女の懐から使うことのなかったナイフが落ちた。
 そして同時に何もない無人島の上空に無数のヘリコプターが現れる。その中の1つに乗っていた男が、モニターに映っていた一部始終を思い返し呟く。
「所詮、この程度か……撤収する。島は完全に消しておけ。痕跡は残すな」
 そう言い置くと、男を乗せたヘリコプターは空高く消え去った。

――Fin…
■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
朝臣あむ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年07月09日

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