▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『夢の理由 』
逸見・理絵子8670)&(登場しない)





 灰色の線が地面へと打ち付け、ノイズが走っている映像の様にその視界を遮ろうとしている。
 雨足は激しく、ザーッと全ての音を呑み込む様な勢いのまま、その静けさを埋め尽くしているかの様だ。

「――――ッ!」

 雨に打たれながら、誰かの名前を叫んでいる翡翠色の髪をした女性。
 自身が濡れる事も厭わず、それでも叫んでいるその姿は悲痛とも取れる様な、そんな気がする。

 そう考えながら、その姿を見つめていた少女は胸を締め付ける様な感覚に襲われる。

「――――ッ!」

 また叫ぶ。

 誰かの名前、だろうかと少女は考える。名前を呼んで捜している女性。
 彼女は一体誰を捜しているんだろうか。

「…………ッ」

 ついに膝が折れ、その場で俯いた女性。
 その姿を、まるでカメラ越しに見つめている様な感覚で少女は見つめる。

 鋭く荒々しい雨音が、いつも彼女の言葉を、その叫んでいる名前を打ち消す様に打ち付けるのだ。

「――絶対に、見つけ出すから……ッ」

 そうしていつも、この言葉だけは雨音の間をすり抜けて、少女の耳へと届けられるのだ。

 ――そう、いつもこの言葉だけはしっかりと。





 少女は意識の淵から浮かび上がる様に目を開いた。
 見慣れた自室を見回し、先程まで見つめていたあの光景は夢なのだと理解する。

 寝起きの頭というのは、思ったよりも働く。とは言え、思考を巡らせながらも行動に移せるか、と言われれば微妙な所だが、何故か思考だけは普段以上に雄弁であったりもするのだ。

 そんな事を思いながらも、少女は呟いた。

「……また、あの夢ですか……」

 小さく呟いたその言葉は、起き上がらせた身体から捻り出されたものである。

 部屋の中は理路整然と整理されていた。これは少女――逸見・理絵子(いつみ・りえこ)の性格を顕著に表していると言っても過言ではない。

 そんな理絵子は、ついぞ起き上がり、机に置かれた一冊のノートを手に取った。

 夢日記。
 彼女の日課であり、その日その日に見た夢を日記として記している一冊のノートだ。

 今日も見た、さながら路地裏の様な場所。激しい雨に打ち付けられながら、翡翠色の髪をした女性がああして何かを捜している夢。

 それを細かく描写し終えた理絵子は、パラパラと前のページを見つめた。
 そこには同じ内容が書かれている。

「……もう十日連続……」

 ここ最近、同じ夢を見る理絵子。いい加減見慣れてしまったものだが、同じ夢を見慣れる程に見る、というのは些か不思議な気分であった。
 今の夢が続くその前までページを遡れば、そこには何の脈絡もない夢ばかりが記されているのだ。
 それがこの十日間、一切の変化もなく同じ光景を見ている。これを不思議と言わずに何と言えば良いのか。

「……あの人は、どなたでしょう……」

 そう呟いた理絵子は、夢日記を机に戻す。その時、理絵子のスマフォがメールの受信を知らせた。

《どうせ夢だろ?》

 今しがたまで呟いていた理絵子の疑問に答える様なそのメール。本来であれば、誰かが聞いているのかと周囲を疑いたくもなる光景なのだが、理絵子はそんなメールを送ってくる相手を理解している。

 そのメールの主は、枕元に置いてあった赤いぬいぐるみ、“ぐれむりん”その人(?)である。

 理絵子の近くにぐれむりんがいる時、ぐれむりんは理絵子にメールという方法を用いて話しかける。これはぐれむりん特有の特殊な能力であると言える。

「もう、夢も馬鹿には出来ないの。正夢もあるんだから」

 ぐれむりんに向かってメールの代わりに言葉で反論する理絵子であった。



 ネットアイドル『LICO』。それが理絵子のもう一つの顔であった。
 引っ込み思案の元引き籠りというマイナス要素はあるものの、今では外へ出る事も可能である。というのも、彼女の持つ稀有な才能がそれを可能にさせたのだが。

 彼女の地は、先程の独り言からも見て取れる様に、礼儀正しく丁寧な言葉を使う、どちらかと言えば大人しい性格をしている。
 それがある意味では引き籠りの状況を増長させた、とも取れるのだが、それは本人にとって長所でもあり、短所でもある。

 そんな彼女が外に出る際、彼女は一種の“コスプレ”をする。
 そうする事によって、彼女はそれに成り切る事が出来るのだ。これは彼女の持つ天性の素質が起因している。

 衣装やメイクによってその性格を変化させ、雰囲気も変える。そして様々な声を出せる彼女は、いつしか本当の自分がどれなのかも忘れてしまいそうな程に、様々なキャラクター――否、一種のパーソナルを作り出している。


 どうやら今日は、その地毛の色を利用したコスプレの様だ。
 長い緑色の髪を左右でツインテールにまとめ、菱型の独特のリボンでそれを留める。
 袖のないシャツに緑のネクタイを締め、二の腕から手のひらまで伸びるアームカバーをつける。
 スカートはプリーツスカートで、黒基調に緑色のフリルがついたもの。そしてニーハイソックス。

 まさにそれは、某電脳歌姫の格好であった。

 メイクも終え、そこには理絵子が生まれ変わったかの様にその場に立ち、姿見の鏡の前で軽くポージングをしてその出来栄えを確認する。

 納得したのかくるりと廻り、ぐれむりんを抱き上げた。

「今日は異界へ行こうっと。今日はレア衣装あるかな?」

 ツインテールを揺らしながら、ぐれむりんを抱いて理絵子は部屋を後にするのであった。





■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

ご依頼有難う御座います、白神 怜司です。

今回は異界のご依頼と、こちらのプロローグ的なお話、
ご依頼有難う御座いました。

キャラクター設定なども織り交ぜて書かせて頂きましたが、
お楽しみ頂ければ幸いです。

それでは、追って異界の方も納品させて頂きます。

今後とも、宜しくお願い致します。

白神 怜司
PCシチュエーションノベル(シングル) -
白神 怜司 クリエイターズルームへ
東京怪談
2013年07月16日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.