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『二人っきりの結婚式 』
ブランネージュ・オーランシュ3824

 それは六月の結婚を夢見る者の、一時の幻だったのかもしれない。
 夜、眠った二人の枕元には、鈴蘭の花が花瓶に活けてある。鈴蘭の香りが、甘い夢へと誘う。
 外で降り続く雨の音を聞きながら、現実ではまだ叶わぬ夢を見る――。


☆夢のような結婚式
 満月が美しい夜に、海の近くにある丘の上の教会で、新郎のレイン・フレックマイヤーと新婦のブランネージュ・オーランシュは結婚式を挙げている。
 月の光が色とりどりのステンドグラスを通り抜け、二人に優しく降り注ぐ。
 教会の中にいるのはレインとブランネージュ以外には、結婚式を行う老神父のみ。
 参加者が他にいない中、二人は誓いの言葉を言い、指輪の交換をし、誓いのキスをして、誓約書にサインをする。
 招待客がいない為に式は淡々と、そしてあっさりと進むも、終始レインの顔は真っ赤であった。


「……う〜ん。やっぱり夢でしょうか?」
 式を終えた後、レインは海が一望できる、鈴蘭の咲く丘にある白いベンチに座っている。新郎と新婦が座る用のベンチには、天使や白い百合の花の模様があった。
 レインは風をあびながら、視線を目の前に広がる光景に向ける。
 蜂蜜色の満月は今まで見たことがないぐらい大きく、空は白い雲がハッキリ見えるぐらいに明るかった。海は月の光を受けて、奥の方から手前に向けて濃い青から白い波しぶきをあげている。
「現実にしては海の匂いがしませんし、風をあびている感触も……」
「何をブツブツ言っているんですの?」
「あっ、ブランネージュさん」
 声をかけられて顔だけ振り返ったレインは、花嫁姿のブランネージュを眼に映し、固まった。
 白いウエディングドレスは繊細で美しい刺繍がされており、ブランネージュは着慣れているような微笑みを浮かべている。風にたなびくベールは誓いのキスをした時に顔の部分を上げていて、彼女が優雅に微笑んでいるのがはっきりと見えた。いつもは結んでいない銀の髪は頭の上で結ばれており、顔にも化粧がされている。
 見慣れない花嫁としての姿に、レインの胸は高鳴るばかり。
「どうかしたの? そんなにわたくしのことをジロジロ見て。どこか変なところがあるのかしら?」
 ブランネージュは白い百合のブーケを両手で持ちながら、自分自身を見る。
「あっ、いえっ……。その、キレイだなぁって思いまして……」
 ずっと見ていたことに今気付いたレインは、慌てて視線を彼女から海に戻す。
「ふふっ、ありがとう。レインさんは可愛いですわね」
 微笑みながらウエディンググローブをつけた手で、レインの獣耳を撫でる。
「かっ可愛いって何ですかっ!」
「あら、間違えてしまいましたわ。『カッコ良い』が正解ですわね」
 クスクスと笑うブランネージュを見て、レインはいつものようにからかわれたことを知った。
 レインは白いタキシードを着ているが、体型は小柄で身長は低いせいで、新郎というよりは式に参加している子供のように見えてしまっている。
「隣、座っても?」
「……どうぞ」
「ありがとう。でも無事に式を終えられて良かったですわ」
「『無事』ですか……」
 彼女はそう言うが、レインは少々渋い表情になった。
 ブランネージュは細身である上に身長が高い。その上、今日は白いヒールも履いているせいで、いつも以上の身長差ができてしまっていたのだ。
 更にレインは愛しいブランネージュとの結婚式ということもあり、緊張しまくりだった。
 そんなレインを上手くリードしたのは、ブランネージュ。
 特に誓いのキスをする時、レインに顔のベールを上げてもらう時は少し屈みこみ、キスをする時もその姿勢のままだった。
「……でもあの時のブランネージュさん、とてもキレイでした」
「ん? 何か言いました?」
「いっいえ!」
 レインは真っ赤な顔で両手を振って否定するも、キスする時に特に真っ赤になって緊張していたことをブランネージュは気付いており、今、そのことを思い出していたことも見抜いている。
 だがあえてその話題には触れず、意味ありげに笑うだけ。
 レインは呼吸を整えた後、少し俯く。
「あの、ブランネージュさん。何でボクと結婚してくれたんですか?」
「そうですわねぇ……。レインさんはとても可愛いですし、ああ特にその獣耳こと『けもみみ』がとても素晴らしく、からかいがいがありますから」
「んなっ!?」
「わたくし、好きな人をイジメてしまいますの」
「ええっ!?」
 青や赤と顔色を変えるレインを、楽しそうにブランネージュは見ている。
「では逆に質問させていただきますわ。レインさんの方こそ、何故わたくしを娶ろうと思ったんですの?」
「そっそれはやっぱりブランネージュはとても綺麗な人ですし、ステキでもありますし……」
 小さな声で、それでも必死にレインはブランネージュへの思いを打ち明けていく。
 そんなレインの姿を見て、ブランネージュは可愛いとも愛おしいとも思う。
(本当に素直で良い子ね)
 レインの周囲の人々の印象は、『天才少年であるが生意気』とよく言われている。
 だがブランネージュにとっては、『からかいがいがある可愛い子』だった。
 今まで生きてきた中で、愛を語られたことや求婚されたことが無かったわけではない。
 けれど出会ってきたどの男性にも、ブランネージュの心は動かなかったのだ。
 周囲の人々に「もったいない!」と叫ばれても、彼らをフッたことに後悔などしなかった。
 しかし今、自分の隣にいるレインは違った。
 一目で分かるほど自分への好意を持っていて、それが呆れるぐらい素直に表現している。
 いつもは冷静に研究をしている彼が、自分を相手だと真っ赤になって照れて、上手く自分自身をコントロールできなくなるのだ。
 今ももじもじしながら、けもみみをピクピクと動かし、それでも一生懸命に愛の言葉を語っている。
 そんな彼を見ていると、あたたかくて満ち足りた気持ちにさせられるのだ。
(わたくしをこんな気持ちにさせるなんて、悪い子っ!)
 胸がいっぱいになったブランネージュは、まだ話していたレインを横からぎゅうっと抱き締める。
「うわわっ!? ブッブランネージュさん、いきなりどうしました?」
「いえね、ようやく父のお小言が終わるのかと思いましたら、感無量になりまして、つい」
「ブランネージュさんのお父さん、何か言っていたんですか?」
「しょーもないことですわ。わたくしもいい歳ですからね。『早く結婚しろ』と言われ続けていたのですわ」
 父の小言を言う姿を思い出したブランネージュの表情が、この時ばかりは曇る。
 恋愛をするよりも何かを学ぶことに夢中になっていたブランネージュにとって、ある意味、耳が痛かった。そのせいで家を出て、メイドで二人暮らしをしているほどに。
「ブランネージュさんのお父さん……。ボクを認めてくれるでしょうか?」
 腕の中にいるレインがシュン……と項垂れている姿を見て、ブランネージュは慌てて笑みを浮かべる。
「大丈夫ですわ。わたくしよりも年下で身長も低くても、レインさんなら喜んでいただけますわ」
 グサッ! ザクッ! とレインの胸に、ブランネージュの言葉の矢が突き刺さった。
 しかし今の言葉は悪意無く出てしまった為に、何となく撤回や誤魔化すことができない。
 せめて話題を変えようと思い、ブランネージュは夜空を指さす。
「ああ、見てください、レインさん。夜空に浮かぶ、数多くの星を。美しいですわね。やっぱり星にはロマンを感じますわ」
「えっ……? あっ、本当ですね」
 今夜は明るいせいか、夜空を埋め尽くすほどの数多くの星が見える。
 二人はしばらく黙って、星を見つめ続けていた。
 だが不意に、ブランネージュが軽く笑い声を上げる。
「どうかしました?」
「ああ、ごめんなさい。ただこれからはレインさんと一緒に天体観測ができるのかと想像したら、嬉しくなりまして」
「えっ?」
 キョトンとするレインの耳の近くで、ニヤっと微笑むブランネージュがこっそり囁きかけた。
「夫婦ならば夜遅くまで一緒にいても、おかしくありませんわよ?」
「あっ! ……ああ、そういうことですか」
 教えてもらったレインは、首まで真っ赤になる。
「代わりにと言うのもアレですけど、レインさんの趣味のボードゲームにお付き合いしますわ。わたくしも好きですしね」
「じゃあたくさんのボードゲームを用意します!」
「ええ、楽しみにしていますわ」
 間近で笑い合う二人はふと、顔の近さに気付く。しかし慌てて離れることなく、何も言わずに互いに近付いていった。草原に月の光で作られた二人の影が、一つになる。
 すぐに離れてしまったが、二人は満足そうな表情で、再び海に視線を向けた。
 潮騒の音だけが、この世界で聞こえる唯一の音。
 だけど今はそれだけで充分。
 これからは互への愛を、ずっと語っていくのだ――。


★夢から覚めて
「……あら? 終わってしまいましたわね。良い夢だったのに、残念ですわ」
 ブランネージュはあくびをしつつ、起き上がった。
 ふと視線が、鈴蘭が活けてある花瓶に向く。
「六月であることと、この鈴蘭のおかげで、あんな夢を見たのでしょうか?」
 鈴蘭がとある異国では花嫁に贈られる花だと、レインから聞いたことがある。
 そのせいか結婚式を挙げるのならば鈴蘭が咲く場所でやりたいと、ふと寝る前に思ったのだ。
「まあでも、まだ早い話ですわね」
 苦笑いを浮かべながらも、ブランネージュは夢の中で新郎姿になっていたレインを思い出した。
「今の彼がタキシードを着たら、あんな感じでしょうね。……でも3年後あたりにはどうなっていることやら」
 今のように小さいままだろうか? それとも立派に成長して、自分の身長を追い越しているかもしれない。
 でもそれは、彼が成長するまで側にいれば分かること。ブランネージュにとって3年という年月はそう長くはないのだから、今はゆっくり楽しもう。


<終わり>


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【3836/レイン・フレックマイヤー/男性/15歳/異界職】
【3824/ブランネージュ・オーランシュ/女性/26歳(実年齢78歳)/異界職】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 このたびは鈴蘭のハッピーノベルで依頼していただき、ありがとうございました(ぺこり)。
 二人の初々しい結婚式を書かせていただき、とても楽しかったです。
 夢の中の出来事でしたが、いつか現実世界でも実現されることを祈っております。
鈴蘭のハッピーノベル -
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聖獣界ソーン
2013年07月18日

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