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『夏至祭の夜〜SGGK亭若林編〜 』
若杉 英斗ja4230


 朝の訪れが日々早くなり、夜の訪れは日々遅くなる。
 どこか心浮き立つような、そんな初夏の日。もうすぐ夏至がやって来る。
 ある日一枚のチラシが張り出された。

『夏至祭のお知らせ』

 元々はヨーロッパの行事で、無病息災や五穀豊穣、家庭円満などを祈願するお祭りのようだ。
 ハーブや薬草で作った花輪を被り、焚き火の周りで踊る、あるいは焚き火を飛び越える、など詳細は国によって様々。
 その後花輪を川に流すと、恋占いができるなどという話もあるらしい。
 何やら心くすぐる祭ではないか。
 そもそも祭に理由なんて、後付けでもいいのだ。さあ、共に浮かれよう。


●演目募集

『夏至祭を楽しい催しで盛り上げてくれる仲間、募集中!』

 チラシに書かれた一文を目にし、七種 戒に天啓が舞い降りた。
「こ、これは……大喜利やるしかないんじゃね?」
 ちょっと待てよ。夏至祭だよ。ヨーロッパのお祭りだよ。ヨーロッパに大喜利ねえよ。
 ……ないのかな?
 それはともかく、早速仲間に声をかける。

 星杜 焔はそれを聞いて、昔を懐かしむように微笑んだ。
「夏至祭かあ〜俺の母さんの故郷のお祭りでね〜。子供の頃、色々聞いていたけど。こういう催しは目から鱗だね〜」
 幼少の頃、母の語ってくれた話は懐かしくて甘い記憶。だがもう記憶の彼方だ。
 でもたぶん焔の母さん(推定:儚げな微笑を浮かべた美女)に聞いたとしたら、『大喜利』はなかった、って困ったように言うんじゃないかな。

 久遠 栄は、相変わらず変なことばかり思いつく戒を呆れ半分、感心半分で見遣る。
「大喜利……?」
 だがネタ勝負で打ち負かし、戒がぐぬぬと悔しがるのを見るのは面白い。
 などという本音を腹のうちに隠し、優しい先輩の笑顔で答えた。
「よし、やろう! 俺も何かネタ考えてみるよ!」

 小野友真は自分自身の事をとびきり高い棚に放り上げ、憐れむような視線を向ける。
「戒ちゃんのアホさ、俺大好きよ……ほんと可愛いと思うわ……」
 だがもちろん、お祭り騒ぎは大好きだ。
 乗らずにおくまいか! 皆を笑いの鳴門海峡に放り込んだる!
 その日から暫く、友真の眠れない夜は続く。

「大喜利か、まかせとけ!」
 待ってましたの真打ち、若杉 英斗登場。
 ふと漏らす何気ない一言が周囲の人間の腹筋を鍛え上げる、恐るべき男だ。
 一見飄々とした風でありながら、負けず嫌いの心が燃え上がる。
「じゃあ早速、登録に行こうか」

 申込用紙に必要事項を記入し、主催に提出。
「参加人数、え〜と……7名様ですね。はい、当日はよろしくお願い致します」
 ……2名増えてるぞ。どういうことだ。


●大喜利スタート!

 あっという間に夏至祭当日となり。
 ステージには5人分の小さな机。……と、その端、5人が見渡せる位置にもう一席。
 白の着流しに濃紫色の羽織姿のジュリアン・白川が、手にした白扇子で額を支えている。
「……何故こうなるのだ」
「では交替して頂けますか?」
 若竹色に白の朝顔を染め抜いた浴衣姿の大八木 梨香が、能面のような表情で座布団を抱えている。
「すまない、私が悪かった」
 これが強制参加の2名である。

 舞台裏では登場を待つ一同。
 橙色紋付の友真に、戒が突っ込む。
「アレゆーま、さかえんと色かぶってるじゃないかねばかもの! チェンジ! 黄色で!」
「えっ! あれ、俺、しまったあああああ!!!」
 どうやら打ち合わせに不都合があったようだが、そこは何とか。


 やがて賑やかな出囃子と共に、幕が開く。
「では本日の出演者が、皆さまにご挨拶申し上げます」
 白川の声にぱらぱらと拍手が起こった。
 学籍番号順でまずは戒が舞台に出て、軽く頭を下げる。
 蒼色袴に青の紋付羽織、しゃれ紋は丸に白いヤモリを染め抜いている。いつも一緒の守屋さんである。
「え〜わたくし、清純亭戒楽と申します。本日は美人のお客様も多うございますので、普段より3割増しで張り切らせていただきます〜」
 ネタだと思った観客がどっと沸く。
 だが大マジだ。キャッキャと笑う前の方のカワイコちゃん2人連れに、戒が心の中でガッツポーズ。これで今日は勝つる。

 続いてオレンジの紋付羽織に、しゃれ紋は丸に揺れる3本線。但し温泉マークにあらず。わかめを染め抜いた、栄がててんてんてんと軽快に進み出る。
「熱い夏は汗で髪の毛がくるんくるんとなりますね。そうワカメのようにねっ! ワカメの季節、和亀家栄えんをよろしくどうぞーっ」
 ちょっとどこぞの選挙っぽくもあるが、そこはご愛敬。
 こちらもいつもより3割増しで、髪がくるんくるんとうねっている。

 次に現れたのは、英斗である。情熱の赤の羽織には、三角に斜めの線が入った染め抜き紋。何かに似てるような気はするけれど、気にしてはいけない。
「えー、SGGK亭若林です」
 軽く礼をしてから、はっと気付く。
「ちがう、若林じゃないっ! 自分は若杉だ!」
 何故かその背後で梨香がバサッと座布団を落とし、顔を覆った。
 とりあえずSGGKの意味は「すごいぎゃるのげんえいきたこれ」でないことだけは確かだろう。

 懐かしいネタで一定年齢より上の笑いを掴んだところで、焔が現れる。
 黒の紋付に実家の家紋、星梅鉢がくっきりと。
 実家が料亭とあって、幼いころから和服に親しんでいた為だろう、立ち姿が様になっている。
「坊薙亭星守(ぼっちていほしもり)です〜私もアウルに目覚めた時に髪と目の色変わったのですよ〜……元は銀髪で青い瞳なんですけどね〜」
 ホワンと笑顔で着席。
「今日はよろしくお願い致します〜」
 ふかぶかと客席に向かって頭を下げた。

 最後に友真が賑やかに現れる。
 慌てて着替えてきた黄色の紋付に、丸の両脇に小さな三角のしゃれ紋。飴ちゃんのシルエットのようだ。
「いつでもお傍に貴方のヒーロー、英雄亭友真でっす☆ 幸せの飴ちゃんあげよなー!」
 客席に飴ちゃんの飴を撒き、その陰で梨香に手渡す、
「今日はよろしくな!」
 一方で白川に向かって、精密殺撃、もとい、精密狙撃で飴を進呈。
「センセもよろしくな……ってインフィルとしてのアピールをですね! 可愛い生徒がじゃれついてんねん、本気にせんといて!!」
 空を切り裂き飛んできた扇子が、友真の足元の床に刺さった。


●大喜利〜まずはなぞかけ

「えー、少々お見苦しい点もございましたが、早速演目と参りましょうか」
 白川の声に、梨香が『大喜利』と書かれためくり台の紙をぺらりと捲りあげる。
 出てきたのは『なぞかけ』の文字。

「「「はいっ!」」」
 一斉に元気よく手が上がる。


 端から順に促され、まずは戒楽。
「放置したゆでたまごとかけまして」
「ふむ、かけまして」
 白川が合いの手。
「私の本質と解きます」
「その心は?」
「危険なほど、ハードボイルド」
 斜め45度を客席に決める戒楽。だが白川が微妙な表情になる。
「戒楽君、それは『茹で過ぎた』などでないと……」
「危険なほど、腐ってる、ってことにもなるで?」
 友真が茶々を入れると、同意とみえる笑いが起きた。
「しまったぁ……!!」
 戒楽、一生の不覚。
 でもなんだか面白かったので、座布団が進呈された。
 多分本人の狙いとは、ずれているのだろうが。


 続いて栄えんが扇子で、自分の頭をぺちりと叩く。
「鼻づまり時に飲む珈琲とかけまして」
「かけまして?」
「初恋の行方と解きます」
「その心は?」
「どちらも苦い思いをするでしょう、さかっちです!」
 客席から何故か、物悲しい気配が漂ってきた。
「……あれ、俺だけ?」
 そんなことはないと思う。きっと身につまされている人もいる。だから笑えない。
「大八木君、とりあえず1枚あげてくれたまえ……」
 無事に(?)栄えんも座布団に座ることができた。
 何故か栄えん、頭の上にわかめに似た揺れる縦線を漂わせ、三角座りで客席にお尻を向けている。


 ここで若林がすっくと挙手。
「『久遠ヶ原学園』とかけまして!」
「かけまして?」
「『寿司屋』とときます」
「ほう、その心は?」
「『ネタが豊富』でしょう!」
 若林、クールな表情のまま親指を立てる。
「うまいっ! 俺うまいっ!! 寿司屋だけに!!」
 白川が扇子を額に当てた。
「ある意味そうかもしれないね。だが、ネタだけでは困るのだが」
 若林が向き直る。
「勿論、シャリアスもお任せです!」
 シリアスとシャリのひっかけである。
 白川が無言で突っ伏し、梨香が勝手に座布団を置いて行った。なんかツボったらしい。


 続いておっとりとした微笑を浮かべたまま、星守が軽く手を上げた。
「散弾銃で戦う森ガールとかけまして〜」
「散弾銃!? 森ガール!?」
 白川はまず、その両者が並び立つ理由について説明が欲しいと思ったが、星守は構わず続ける。
「夏に食べたいスパイシーな料理と解きます〜」
「……その心は?」
「どちらもかれー(華麗/カレー)です〜」
 にこにこにこ。
 この間、白川の脳内ではマタギスタイルの少女が、仕留めた獲物の肉でカレーを作っている図が浮かんだらしいが、多分そうじゃないなと思いなおす。
 判定基準が不明なままに置かれた座布団に、微笑を絶やさず星守はきちんと座った。


 最後に、黄色い着物の袖をつまんでひらひらさせながら、友真が客席に笑顔を向ける。
「ほんなら行きますね! 学園の一部男子学生とかけまして」
「かけまして?」
「鰹節と、ときます!」
 白川がもう判ったと言うように、黙って片手を上げた。
 だが友真は最後まであきらめない。
「その心は、……削られて……いきてきます……」
 笑顔が自嘲のそれに変わる。
「あ、ちなみに、生きると活きると、かかってるんで……」
「判っている。大八木君、あれを」
「はい、先生」
 何故か座布団の上に、カツオパックの小袋が置かれた。
「嬉しいわ〜ほんま、嬉しいわ〜!!」
 半ば自棄になりながら、友真はカツオパックを額に当てた。


●大喜利〜続いてあいうえお作文

 少し微妙な笑いに包まれながらも、大喜利は続く。
 続いてめくり台に出てきたのは『あいうえお作文/撃退』の文字。
「えー、では、続きましてなぞかけということで。では誰か」
 白川が水を向けると、また一斉に手が上がる。


「では戒楽君、どうぞ」
 白川の指名に、戒楽がフッとニヒルな笑いを浮かべた。
「では早速失礼して」
 息を吸うと、よく通る声で、高らかに読み上げる。

「げ」元気よく挨拶をして
「き」気を逸らしながら
「た」タイミングを見計らって
「い」一気にいく
 ……のが正しいスカートめくりです!

 笑いはとった。例えその半分が失笑だとしても。
「大八木君、座布団全部持ってって」
「はい、先生」
 元々一枚しか敷いていないが、この辺りはお約束である。
 なので、梨香は下の敷物も捲って持って行った。
「ちょ、大八木氏、ひどくね!?」
 戒楽は一応抗議するも、何故かしぶしぶ従う。


「そろそろちゃんとしたのが欲しいところだね、栄えん君どうぞ」
 白川の声に軽く咳払いして、栄えんが居住まいを正す。

「げ」げんなりするような暑い日も
「き」きみと一緒に歩けるならば
「た」たのしい一日
「い」い……いつになったら来るんでしょうかぁぁあっ!

 悲しい叫び。今度も笑えない。
 床に突っ伏した栄えんに、白川の冷淡な言葉。
「大八木君、栄えん君もってって」
「はい、先生」

「いつ来るの。今でしょ。……って、今っていつだぁぁぁああ」
 撃退士は力持ちだ。梨香はそのまま栄えんを座布団ごと舞台脇に押し込んで行く。


「では若林君……は、どうかな」
 白川が一瞬、手元のカンペを見直した。
 これで記憶が上書きされたら、悲劇がまたも訪れるところである。
「では行きます!」
 若林は、眼鏡を輝かせる。

「げ」げぇ、関羽!?
「き」きれいな娘がいっぱいの久遠ヶ原学園
「た」たくさんの希望や夢や妄想を抱いて
「い」いっしょに学園生活をエンジョイだっ!!

 白川が困惑の表情を浮かべた。他はともかく、関羽、どうなった。
(……ひどい出来だなこれ)
 言った当人の若林も、無言で眼鏡を直す。
「大八木君、座布団一枚被せて」
「はい、先生」
 一時的に視線を遮断するための座布団が、若林に配布される。
 というか本当に事故が起きそうなので、もうこの芸名やめて欲しいかも。


「さて星守君、行ってみようかね」
 白川の呼びかけに、星守が綺麗な正座のままで、軽く頷く。

「げ」激辛夏野菜カレーも
「き」きのこハンバーグカレーも
「た」タツタチキンカレーも
「い」いかすみトマトカレーも美味しいよね〜

 にこにこにこ。
 満足そうに微笑む星守だが、結局最初から最後までカレーの話しかしてない。
 だがカレーに深い思い入れのある星守にとって、カレーは特別な食べ物だ。
 お題が「げきたいし」で最後に「し」があったら、シーフードカレーが来ていたことだろう。
「大八木君、とりあえず現状維持で」
「はい、先生」
 白川はジャッジを投げた。


「では笑いへの挑戦者・友真君、行ってみようか」
「お任せやでー!」
 友真が全開の笑顔を向ける。

「げ」現在過去未来でも
「き」期待に応えてみせましょう
「た」たこ焼きから土下座まで
「い」いつも全力、小野友真でっす☆

 片手を上げて可愛くポーズ、併せてあざとくウィンク。
(決まった。俺ってばマジヒーロー)
 友真の目が期待に満ちて、梨香を見た。
(梨香ちゃんの心にヒットしたら、座布団くれてもいいんやで?)
 微笑む友真。
「大八木君、座布団一枚、スイングで」
「はい、先生……え?」
 梨香は思わずノリで座布団を水平に投げようとして、驚いて手を止める。
「ジュリー先生、俺にだけなんか冷たない!?」
「ははは、気のせいだよ気のせい」
 白川としては、最後にオチをつけたかったようだ。


「そこまでいうんやったら、頭作文、先生もやってくれていいんやで?」
 笑いを含んだ目で、友真が白川を見た。
「え?」
 こちらは打ち合わせにない。友真、マジ鬼畜の所業。
 白川は腕組みで宙を睨み、暫し瞑目。
「ふむ、では……」

「げ」元気よく
「き」期待に応えて
「た」体当たり芸
「い」インフィルトレイター、いつからこうなった……

 何故かどっと暗い顔になる白川。
 壇上の2人+舞台袖の1人が、そっと目を逸らした。


 以上で大喜利はお開き。
 どちらさまも、おあとがよろしいようで。


●花輪の行方

 夏至の長い昼も夜に座を譲り、あちらこちらに華やかな明かりが灯る。
「結局、座布団の枚数では若杉君が一番だったのかな?」
 袖に引っ込んでいたので、栄は確認できていない。
「やはり実力のなせる業ですね」
 英斗が真顔で言った。
「さすがシリアル……じゃない、シリアスもいける若杉君だね!」
 栄が慌てて言い直すのに、戒が不満げに呟く。
「ジャッジ担当の人選、ミスったんじゃね? 若者のセンスについてこれなかったんだぜ、絶対」
 白川と別れた後なので、言い放題だ。
 大喜利の後、今度は祭りを楽しむつもりでそぞろ歩く一団。

「すてきな花輪を作ってみませんか?」
 呼び声に振り向くと、ひと際明るいテントの中に、むせかえるような花の香。
「へえ、夏至祭てよう知らへんけど花輪あげるもんなん?」
 友真の声に、焔がほっこりと笑う。
「花輪作って大八木さんと七種さんにあげよう〜未婚の女性が被るものと聞いている〜」
「んじゃ俺も梨香ちゃんにあげよう! はよいこ!」
「えっ? ええ、あ、はい……!」
 わたわたしながら引っ張られるように、梨香もテントへ。
「お嬢さんにこそ、綺麗な花輪が似合うと思うんだぜ」
「ほら戒も、こっちこっち!」
 呼び込みの可愛いお姉さんを口説きにかかっていた戒も、栄のヘッドロックで連行される。

 ユリにミニヒマワリ、カーネーション、クレマチス。緑の麦の穂、ヨモギ、他にも色鮮やかなハーブや草花がいっぱいだ。
「折角のカワイコちゃんだったのに……」
 ぶつぶつ言いながらも、戒が手を動かす。実は戒はかなり手先が器用だ。
 下地になる軽い蔓草の輪に花をあしらって行くのだが、好きな花だけ盛っていてはバランスが悪くなる。
「戒さん、本当にこういうのお上手ですね……」
 梨香が戒の手元を覗き込み、感心したように呟いた。
 そこに両脇から手を伸ばした友真と焔が、花輪を被らせる。
「ほら梨香ちゃん、プレゼントな、可愛い可愛いv 髪ほどいてみーへん?」
 うきうきした声で、友真。
「あ、有難うございます……」
 白いワンピース姿の梨香は、やや俯きながらみつあみをほどく。
「梨香は、普段からそういう服を着るといいと思うのだよ〜」
 相変わらず柔らかな微笑を浮かべる焔だが、白ワンピに花輪まで来たなら森ガール化も遠くはない、と心中で画策する。
「七種さんには、ケチャップ色なのだ〜」
「ケチャップ色……?」
 焔は赤い花をあしらった花冠を戒に被せた。

「花輪を川に流して恋占いか……」
 壁に張られた説明書きを指さし、英斗が向き直る。
「戒や大八木さんはぜひやった方がいいんj」

 ガッ。

「るせえ。この面子でそれを言って良いのは、ほむたんとゆーまだけだ」
 花輪を握ったままの戒の肘が、英斗の顎に鋭く決まる。
 焔が少し身を引きながら、強張った笑顔を浮かべた。りあじゅう認定にはまだ慣れないのだ。
「え、え〜と……五穀豊穣、のお祭りだしねえ……美味しいトマトを沢山仕入れて、自家製ケチャップ大量生産せねばな……!」
「なに、ケチャップだと」
「うわー、ほむほむ、俺またケチャップいっぱい食べたいな!」
 戒と友真が目をキラキラさせて焔を見た。
「うん〜ケチャップ欲しい人は、作る日にうちに来るといいよ〜ついでに何か食べて帰るといいよ〜」
「わーい、ほむほむ大好きや!」
 焔の餌付け計画、着実に浸透中である。


●焚火を囲んで

 花輪は川面をゆらゆら流れ、やがて見えなくなった。
「ちょっと勿体なかったですね……切り花ですし、余りもたないとは思うのですが」
 いかにも名残惜しそうに、梨香が振り返る。
「沈まんと流れて行ったんやから、ええことあるって!」
 友真は笑うが、梨香がため息をついた。
「恋が叶うでしたっけ? ……大前提がですね……」
「え? えーと……??」
 相手がいない状態で、果たしてどれほど有効なのか。流石の友真もそこまではフォローしきれない。
 突然、栄が前方を指さした。
「おっとー、あんな所に大きな焚火が!」
 さかえん先輩、ナイス話題転換。
 耳を澄ますと、軽快な音楽も流れて来た。よく見れば焚火を囲んで、踊りの輪ができている。
「どうだ、ここは皆でダンスでもしていい汗流して、夏の熱さを堪能しようじゃない
かっ!」
 ちょっと前の嫌な汗を忘れるためにも! というのは流石に誰も突っ込まなかった。

「なんやっけ、フォークダンス? やったことないけどやろかー」
 友真は暫く鼻歌交じりでリズムを取っていたが、やがて振り付けを覚えたようだ。
「おもたより簡単やな、結構楽しいで!」
「よし、では勝負だゆーま。あ、負けたヤツ後で奢りな!」
 フォークダンスで勝負とかあるんだろうか。
 だが友真と戒は、器用にアレンジを加えつつペアで踊りだす。
「ゆーま、なかなかやるな……!」
「お前に負けるわけにはいかんのや、戒!!」
(ちょっとこれ、ひょっとしてやばいんじゃね?)
 戒は思った。その時はさっきの言葉はなかったことにしよう。卑怯? 何を言う。時には戦略的撤退を敢行する決断も必要なのだ。

「フォークダンスって、久しぶりです。小学校以来かも」
 なかなか好調に踊る梨香に、焔がやんわり指摘する。
「梨香〜それ男の方の踊り〜」
「あっ……」
 小学校時代、身長が高い女子は、よく男子側に回されることがある。

 キリっと表情を改め、英斗参戦。
「俺の華麗な舞を魅せるときがきたようだな!!」
 眼鏡に映る炎がゴゴゴと燃える。意気盛んに輪の中に……とその前に、少しおさらい。
 音楽に合わせて、手を上げて足を踏み出し、1・2・3。
 ……なんかずれている。
「む、イメージトレーニングは完ぺきだったんだが……」
 もう一度、1・2……3.5?
 どうやら英斗、先天的にリズム感に難があるらしい。
「いいんだよ……どうせ踊る相手なんかいないんだから……」
 夜風に髪を煽られながら、男は脳内ダンスに回帰する。

「ははっ、みんなどうしたんだ? よし、俺がお手本を見せてやる!」
 どうやら英斗の撤退に自信をつけたらしい栄が、張り切って輪の中に飛び込んだ。
 向かい合って、お辞儀をした後足を踏み出し。
「あ、すみません」
 並んで腕組み、スキップしながら左右を変わって。
「あ、ごめんなさい」
 再び向かい合って、お礼の軽いお辞儀が……。
「イテッ、あ、髪が!?」
 栄のウェーブヘアが女の子の髪飾りに引っ掛かる。

「さかえん、敗者は決まったな」
 ドヤ顔の戒が、栄の肩に手を置いた。
「えっ、若杉君よりは踊れてるよね!?」
「負けた人のオゴリなの? だったら俺は負けてないよね?」
 英斗がしれっと言い放つ。
「負けぬための鉄則。つまり勝てない戦いは仕掛けない」
「そんなあああああ!?」
 慌てた栄は、いきなり戒の後方を指さす。
「ほらっ! 戒、あそこに綺麗な浴衣を着たかわい子ちゃんがいるぞっ!」
「なんだと!!」
 即座に戒が振り向く。
(……ふっ、どうやら俺の奢りはなかったことに。高校生なんて可愛いものだな)
 栄がそっと安堵の息をついたのも束の間。
「お嬢さん、一緒に美味しいものでもどうかね。何、もちろん奢りだよ。ほれ財布はここに」
 振り向いたが、戒の腕はがっしりと栄を捉えていた。
「さかえん先輩の! あ、ちょっといいとこ、見ってみったい!」
 友真が軽快な手拍子で追い打ち。
「あっちに美味しそうなインド料理の屋台があったのだよ〜」
「カレー、いいですね。こぼさないようにしなくちゃ」
 割と情け容赦ない焔と梨香。
「ちょっとまってええええ!?」
 叫びも虚しく、居並ぶ提灯の方へと栄は引きずられて行く。


 夏の星座が、そんな人の賑わいを見守っていた。
 夏至の短い夜を経て、もうじき本当の夏がやって来る。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ja1267 /  七種 戒 / 女 / 18 / インフィルトレイター】
【ja2400 / 久遠 栄 / 男 / 20 / インフィルトレイター】
【ja4230 / 若杉 英斗  / 男 / 18 / ディバインナイト】
【ja5378 /  星杜 焔 / 男 / 17 / ディバインナイト】
【ja6901 / 小野友真 / 男 / 17 / インフィルトレイター】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
書いているうちに途中から流星のような気がしてたのですが、鈴蘭の分でした。
夏至祭というお題でしたが、気がついたら大半が大喜利に。
ところでその節は大変失礼いたしました。記憶が上書きされないように、正しいお名前を何度も唱えておきます。
NPC二人はとても楽しいひとときを過ごしたようです、有難うございます。
尚、展開の都合上、今回の納品内容は差分なしとなっております。
ご依頼、どうも有難うございました!
鈴蘭のハッピーノベル -
樹シロカ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年07月18日

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