▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『TRIP×TRIP 』
加倉 一臣ja5823

 TRIP:1.旅行 2.外出 3.過ち 4.幻覚、刺激的経験

■9:30 アラン

 いつも通りの朝、いつも通りの日常。
 白漆喰で塗り固められた天井を、アラン・カートライトはぼんやりと見つめていた。
「……朝か」
 壁がけ時計に、ゆっくりと視線を移す。予定よりも少し早い目覚め。これもまた、いつもの光景。
 シーツにくるまり、大ぶりの枕に身をゆだねる。沈み込む時の感触が、気に入っている。
 ややもすると、心地よい眠気が体内に満ちてくる。ここからしばらくはまどろみの時間。
 空白で、至福のひととき。

 覚めきらない意識の中で、アランはこれからの予定を確認していた。
「百々との待ちあわせ……十二時半だったか」
 緩く付き合える気楽な友人。百々清世と今日は久しぶりに出掛けることになっている。
 とは言え、今はまだ朝。約束の時間までには、まだ充分な余裕があり。
 さて、これから何をしようか。
 アランはたっぷりと時間をかけて寝返りを打ちながら、口元を緩めてみせる。

「ま、今日もせいぜい愉快な一日を過ごすとしようか」


■10:00 戒

 私は戒。しがない同人作家である。
 BでLなアレを書いている私の日々は、毎朝アシスタントの一声から始まる。
 ほら、今日もおきまりの台詞が、二日酔いの頭に響いてきた――

「てゆーか先生、次のイベントも落とす気ですか。新刊はよう!」
 アシスタントであるオミーが、必死な表情で叫ぶ。もう五十回は聞いたこの訴えを、私はうんざりした思いで聞いていた。
「うるさいねオミー君。執筆をしようにもフレッシュなネタが無いのだよ」
「ならネタ集めに出かければいいじゃないですか」
 間髪入れぬ返しに、私はやれやれと肩をすくめ。
「フ……窓の外を見てみたまえ。太陽光線がツラいだろう。私の白く美しい肌が焼け焦げる恐れを考えたら、外出などできるわけが」」
「普通に曇ってますよ。今梅雨ですし」
「オミー君、いいかね」
 人差し指を立て、彼の前でちっちっと振る。
「作家というものは本来引きこもって自分と戦うものだ。決してジューンブライド一色の街中がぐぬぬだからとかではなくて」
「よし外出ようか」
「ちょ、オミー無理強いは良くないから! イタタタ私の繊細なアフロを引っ張るのは色んな意味でアウトだから!」
 全力の抵抗に、縦長くなったアフロからようやく手が離される。くそっ、オミーめついに実力行使に出てきたか。そろそろ真面目に仕事しないとやばいと思った所で、ため息が聞こえる。
「わかりましたよ。要は俺がネタ集めに行けってことでしょう?」
「おお、さすがはオミー! 察しが良くて助かるよ」
「まーそろそろ外の空気が恋しいので行きますけど……手加減してくださいよ……?」
「大丈夫大丈夫! さあ、さっさと行ってきたまえ」
 さすがは我がアシスタント。渋々出掛けるオミーの背中を、私はにこにこと見送った。

■11:50 清世

 眠りたいだけ眠る。
 別にこれを信条としているわけでもなく、単に日常の習慣として百々清世は目覚めた。
「んー……もう昼前……?」
 時間を確認しながら、のんびりと呟く。今日は何する予定だっけと思い出しながら、肌に触れるシーツの感触を楽しみ。
「あー……アランちゃんとデートだった。ってーか余裕で寝坊ってやつー?」
 今からだと、確実に待ちあわせ時刻には間に合わない。とは言え、特に急ぐ素振りは見せず。
 しばらくごろごろしてから身体を起こすと、何気なく窓から外を眺める。既に高くなり始めた太陽が、雲間から顔をのぞかせていた。
「あ、晴れてきた」
 差し込む陽差しに、目を細める。どうやら今日は、梅雨の晴れ間と言うことらしい。
 雨の匂いも、今日はどことなく淡く感じられた。

 約一時間の遅刻。
 清世が待ちあわせ場所に着くと、アランは女性と立ち話をしているところだった。
「やーん、遅くなってごめんってばー」
 悪びれず声をかける。清世に気付いたアランは、女性と別れるといつもの笑みを浮かべ。
「別に待ってねえよ、中々有意義な時間だったぜ」
 手にした連絡先メモを、ひらひらと振ってみせる。待つ間、ナンパをしていたのだろう。
「彼女、もういいの?」
「ああ。お前とのデートの方が大事だからな」
「じゃー腹減ったし、どっか食べに行こー」
「いいぜ。何食いたい?」
 問われた清世はほんのちょっとだけ考える素振りを見せた後。百メートルほど先に見える喫茶店を指さして振り向いた。
「あそこのパフェ、美味しいんだって」


■13:40 オミー

 俺はオミー。しがない作家アシスタントである。
 アシスタントと聞けばそれらしい響きだが、要は雑用係。今日も戒先生のネタ集めに奔走していると言うわけだ。
「さて、先生好みの優良物件は……っと」
 街まで出てきた俺は、周囲を歩く青年達に視線を走らせていた。
「んーとりあえず、片っ端から送ってみるか……」
 ちなみに俺と先生は自分の見た映像を念で送り合ったり、テレパシーで会話ができる能力がある。何故かは、気にしてはいけない。
 自宅で待機中の先生に念波を送信すると、すぐさま反応がある。
『キタキタァ……! オミー君、うへへ今日もなかなかなイケメンが揃っていそうじゃないか』
「それは何よりです。で、どの彼がいいんですか?」
『ややっあの金髪と茶髪なんてイケメンじゃないかね!』
 俺の視線の先には、すらりとした長身の二人連れがいる。片方は仕立ての良さそうなスーツを着た金髪の青年。もう一方はゆるい空気を纏ったナンパ系の風貌だ。
「あの二人組ですね。じゃあ、早速追跡開始と言うことで……」
『あっ待ってくれオミー君! あっちの彼もなかなかいいぞ!』
「え?」
 先生の指示した先に立っているのは、これまた長身の青年だった。やや外ハネ気味の黒髪に、優美な微笑。どういうわけか街中で黒のタキシードを身につけている。
 青年を見た俺は、無意識に言葉を発していた。
「いや、あっちは駄目です」
『駄目? 何故だね』
「だってアウトですから不可侵ですから。これ俺とみんなとの大事な約束ですから!」
『ちょ、オミー何言ってるかわかんないんだけど』
「大人ミスターはサンクチュアリですから例え社会的にしんだ俺でもそれだけはできませんから!ら!ミ´;ω;ミ」
『頭大丈夫か。ていうか落ち着け』
 先生の呼びかけにはっと我に返る。慌てて視線を戻し。
「あっ! 先生、あの二人が喫茶店に入っていきました。追跡開始します!」
 こうして俺は最初に目を付けた二人組を追うこととなった。


■14:00 アラン&清世

 二人が入ったのは、レトロな雰囲気漂う落ち着いた店だった。
「あ、俺パフェね−」
 清世がにこにこしながら注文をする目前で、アランが苦笑しながら。
「お前ほんと、そういうの好きだよな」
「好き好きーアランちゃんも食べる?」
「俺は甘い物は苦手だからいらねえ。俺は紅茶とスコーンで」
 運ばれてくるのを待つ間、二人で夏の旅行の相談を始める。
「男二人でどこ行きたい、って無いしねぇ……」
 適当に集めてきたパンフレットを眺めながら。
「じゃあー……イタリアとか。ジェラート食べたいし、どう?」
 清世が指さした先を見て、アランはうなずいてみせる。
「ああ、ミラノもナポリもいい町だ。ラテンの美女は積極的だからな、大賛成だ」
「おっけー……あ、ホテルどーする? お前向こうで男引っかけんならおにーさん女の子に泊めてもらうけど」
 首をかしげる清世に、苦笑を返しながら。
「いや、俺もレディ引っかけるって。好みのイケメンがいたらそれはそれで仕方ないけどな」
「なるほどね、アランちゃんらしー。てゆーかまあ、いつも通りふわっとプラン無しっつーことでOK?」
「いいんじゃねえか? どうせ立てても俺たちまともに守った試しねえし」
 そんなたわいも無い話をしていたところで、注文の品が運ばれてくる。
「あ、パフェ来た−」
 スプーンを手に、嬉しそうにクリームをすくう。そんな清世を眺めながら、アランも紅茶に口を付ける。
「ん。ここのダージリン悪くねえな」
「アランちゃんのそれ美味しそう」
 清世の指す一口サイズのスコーンを、フォークで突き刺し。
「食うか? ほら、アーン」
 ぱくり、と口に入れ。
「美味しー。もうちょっと甘い方がいいけど」
 いつものアランの冗談を、清世は特に抵抗することも無く受け入れる。その緩さが互いにとって心地いいと、知っているから。
「アランちゃんもパフェ食べる?」
「いらねえよ。俺は甘い物苦手って言っただろ」
「あ、そうだった。じゃあおにーさんが食べさせてあげたら大丈夫?」
「お前その理屈はおかしいだろ。まあでもそれも悪くねえけどな」
 笑いながら返す。そんな冗談の応酬も、日常の楽しみ。
 

■14:30 オミー⇔戒

「ふっ……先生、さっきの見ました? アーンですよ、アーン」
 ターゲットに付いて喫茶店に入ること数分。例の二人組が見える位置で席取りをした俺は、コーヒーを飲みつつじっと観察を続けていた。
「ここからならばっちり表情も見えますし。完璧だ」
『何言ってるんだオミー君、角度悪いよ!』
「え」
 予想外の駄目出し。先生はわかってないなと言った調子でまくし立ててくる。
『パフェを食べるところがはっきり見えないじゃ無いか。ほらチロッと出た舌先とか垂れるクリームとか指ですくって舐める姿とか』
「イヤ何言ってるか分かりませんし、そもそもそこまでやってませんし」
『いいからもっと近付けええええ!』
 だめだ、どうやらアーンのおかげで暴走が始まっているらしい。
「先生、これ以上は無理ですって!」
『できるよやれるよ諦めんなよ!』
「いやいやこのままじゃ俺、変質者じゃないですか!」
『今まで違うと思ってたんなら、それは幻想だろ!』
「先生……ひどい! 俺、いつからこうなっちまったの!」
 顔を覆っていると、目の前に誰かが腰を下ろした。
「ここ、いいですか」
「えっあ、はい……ってミスター!?」
 目の前で微笑むのは先程のタキシード姿の青年だった。いつの間にか喫茶店に入ってきたらしい。
『何という幸運。オミー君、ついでに彼の観察もしたまえ!』
「そんなの無理ですよ、だって……だって……恥ずかしいじゃないですか!」
『やかましい仕事しろ』

「どうかしましたか」
 からかけられた声に、俺は飛び上がる。
「いやなんでもないです、ミスターをこれ見よがしにじろじろ見てやろうとかそんなこと考えてませんから!」
 それを聞いた青年は、くすりと笑みを漏らし。思いもかけない言葉を放った。
「別に構いませんよ」
「え」
「別に見られて困ることなどありませんから。どうぞ、見てください」
『フハハハ、聞いたかオミー君。見てもいいと言われたのだから遠慮することは無い。しっかりじっとりなめ回すように見ればいいんだよ!』
「俺には…そんなこと、できない……う……う……うわああああ!」
『しまったオミーのSAN値の危険が危ない! わかったオミー君、さっきの二人の観察に戻るんだ!』
 

■15:00 アラン&清世 × オミー⇔戒

「なんか後ろの方が騒がしーけど?」
 不思議そうに首を傾げる百々に、アランも視線をやりながら。
「ああ……あそこに座ってる二人が痴話喧嘩でもやってんだろ。恥ずかしい、とかそんなことできないとか片方がわめいてたみてえだし」
「なるほどねー黒い方は見るからにSっぽいもんねぇ……」
 アランは口端をあげると、その真紅の瞳を細めてみせ。
「俺は割と好みだけどな」
「S同士って大変そうじゃねー……? 俺めんどいのとかやだし」
「わかってねえな、それがいいんだろ」
「えーわかんなくていいしー」
 それを聞いたアランは、愉快そうに笑う。
「ハハ、お前はそう言うと思ってたよ」
 そして伝票を手に取ると、席を立った。
「そろそろ行くか」

 喫茶店を後にしたところで、清世が思いついたように。
「あ、アランちゃんこれから買い物付き合って−」
「いいぜ。何買うんだ?」
「あんま決めてないんだけどー……夏だし服とか?」
 その言葉にアランはうなずく。
「じゃあ適当にその辺回って、気に入るのあったら買ってやるよ。飼い主の務めだからな」


『ほほう、二人でショッピングとは実にいい感じじゃないかね、オミー君』
 何故かぐったりしているオミーに、戒は声をかける。
「先生……俺もうだいぶ帰りたいかなって」
『何を言っているんだ、まだまだこれからじゃないか!』
 弱気な彼を叱咤激励しながら、戒は萌えパワーの受信をひたすら待つ。
『私は確信している。この先に、更なる萌えシチュエーションが生まれることをね……!』


「あ、悪ぃ。俺ちょっと一服するわ」
「じゃあ、俺も−」
 路地裏に入ったアランは煙草に火を点ける。清世も煙草を取り出して、ポケットをまさぐりながら。
「ライター……あれ、忘れてきたな。アランちゃん火ぃ頂戴」
「ハイハイ、ほらよ」
 アランは既に吸っている煙草を口にくわえたまま、清世の顔に近づける。煙草の先端同士が微かに触れ合って。
 清世がすうと息を吸うと、次第に火が移っていく。
「ありがとー」
 顔を離しながら互いに笑む。
 これも彼らにとっては、いつもの光景。人前でも特に気にすることも無く。
 二人の口元から、細く煙が上がった。


『きたきたああああああ!!』
「せ……先生、とりあえず落ち着きましょうか」
 戒の驚喜の声を、オミーは震えながら聞いていた。
『買い物途中で一服、片方がライターを忘れ……つまりアレか!グイッと胸元掴んで引き寄せて筒先をあわせて吐息が触れあって』
「くっ……そろそろ先生の萌が峠越え……ちょ、ちょ、ちょと先生もうちょい抑え……」
 オミーの制止も虚しく、戒の妄想は最高潮を迎えつつある。
 ちなみに戒の妄想はそのままオミーの脳内へと送り込まれ、彼の念写能力によって作品が生み出される。何故かは気にしてはいけない。
『微かにお互い伏し目がちなのがまたよくてやたら色気を感じると言うか』
「くっ……念写つらい! いくら俺に耐性があるとは言え、どうせなら可愛い女の子の方が」
『首筋とか鎖骨につい目が行ったりなんかして離れる時にちょっとはにかんだりなんかしたらもう最高で』
「ちょ、先生待っ……うわぁあああ!」
『おや、どうしたんだねオミー君?』


「……あれーなんか騒がしいと思ったら、彼さっきのじゃん?」
 崩れ落ちている男の姿を見て、清世が気付く。
「みてえだな。連れの男はいないみたいだけど」
 どうやら一人のようだ。跪いたまま悶えている様子を見て、アランは肩をすくめ。
「関係悪化で自暴自棄になってるんじゃねえの」
「怖いねー。街中で暴れ出したらおにーさん逃げよーっと」
「大丈夫だろ、お前のことは俺が守ってやるし」
「やーんアランちゃんかっこいいー」
 たわいの無い会話を楽しみつつ。二人は当てもなくぶらぶらと買い物を続ける。
 一通り買いそろえる頃には、すっかり日が暮れ始めていた。


■18:00 アラン&清世 × オミー⇔戒

 橙色の灯りが、ぽつぽつと点り始める。
 宵の刻を向かえ始めた街は、昼間とは打って変わって夏の気配を感じさせる。
「あー結構歩いたねぇ。疲れたー」
 軽くのびをしながら、清世がアランを振り向き。
「帰るかー、それともどっかで飲む?」
「そうだな。せっかくだし、飲みに行こうぜ」
「オッケー。この辺美味しいとこあったっけ」
 適当にうろうろしていると、目の前にシティホテルが見えてくる。アランがじっと見上げているのに気付き。
「何、ここがいいの?」
「ここのバーで飲もう。色々なワインを揃えてるから好きなんだ」
「へぇそうなんだ。ホテルで飲みとかちょー久々」
 そう言いながら、ご機嫌な二人は入っていく。

 その姿を遠くから眺めている、一人の男。

「大変です、先生。解散かと思いきや彼らホテルで飲むらしいです」
『何と言うことでしょう、興奮が止まりません。これは次回作はR18確定ですね!』
 大歓喜の戒に向かって、オミーはおずおずと切り出す。
「せ、先生。俺、そろそろ帰りたいかなって……」
『帰りたい? 阿呆かこれからが本番だろ。いいから行けよオミー』
 余裕で切り捨てられ、必死に訴える。
「俺の営業時間は午後6時までなんです! 可愛い恋人が鉋の刃を研いで待ってますし!」
『わかったわかった、とりあえずこっちで削られとけばいいから』
「いやだ俺は帰りたい! 帰って削られ……うわああああ」


「へぇー結構いいホテルじゃん」
 煌びやかだが品のある照明。高く作られた天井は、ゆったりとしたロビーにさらに開放感を与えている。
 琥珀色の絨毯を踏みしめながら、清世は呟く。
「なんかこれ見ると、帰んのめんどくせぇな」
「じゃあ部屋取るか? どうせ二人とも酔うだろうし、ちょうどいいだろ」
 清世の返事を待たずアランはさっさとフロントへと向かう。しかし受付に確認すると現在ツインに空きが無いという。
「あーダブルしか空いてねえのか。別にいいだろ? 百々」
「うん、どっちでもいいよ」
 まるで気にする様子の無い返事に、アランはおかしそうに。
「まあ、今さら気にすることじゃねえしな。お前の裸で寝る癖も慣れてるし」
「あ。じゃあバーで飲み飽きたら部屋飲みしよっかー。アランちゃんの寝落ちを見るのも楽しそうだし」
 悪戯っぽい表情に、笑いながら返す。
「ハイハイ、そう言っていつも先に寝落ちるのはお前だろ」
「だって、アランちゃんなら先に寝ちゃっても怒ったりしないでしょ?」
 その言葉に、アランは当然と行った様子で告げた。
「当たり前だろ、俺は紳士だからな」


■22:00 オミー⇔戒

「先生……俺は、やりましたよ……!」
 手に持った「新作」を握りしめ、オミーは一人感慨にふけっていた。
「SAN値を削られ、精神を削られ、恋人との時間も削られ……もう俺爪楊枝くらいの大きさしか残ってないんじゃないかなって……。でもその甲斐あって、ついに先生の新作を……!」
『よくやった、オミー。それでこそ私のアシスタントだ』
 戒からかけられたねぎらいの言葉に、つい目が潤んでしまう。
 これで次のイベントはもらったも同然。伝説の作家戒先生の新作となれば、瞬く間に売り切れるだろう。
「じゃあ先生、これで俺は晴れて帰れますね」
『ああ、遅くまでよくやったって……おいいオミーあれを見ろ!』
「え」
 先生の示す先に見えるのは、ホテルのロビーでくつろぐ男の姿。やや外ハネの髪に、黒のタキシードを着た……。
「うわああサンクチュアリ出た!」
『さあオミー君、ついでに彼の追跡もやるんだ。今回の新作は豪華二本立て、これは売れるに違いないぞ!』
「ままま待ってください、俺には無理だって言ったじゃないですか!」
『何を言っている! 常に微笑を浮かべた謎のイケメン。実は彼の正体は……でゅふふ妄想が止まらないじゃないかね!』
「いやだ……俺は……俺は……うわあああつまようじいいいいい!!」
『しまった、オミーの精神防御値が限界を超えたか! うわああアフロが千切れるううう』


■10:00 一臣

「――はっ!」
 一臣が目を覚ましたのは、自宅のソファの上だった。
 がばっと身を起こした瞬間、ぐらりと視界が傾く。
「いてっ」
 うっかりソファからずり落ちてしまう。昨夜はここでどうやら寝落ちてしまっていたようだ。
 ぼんやりとした意識の中で、一臣は自分が誰だったかを再確認しつつ。
「……なんだ、夢か」
 随分と濃い夢だった気がするが、はっきりとは思い出せない。
 しかし何だか恐ろしく疲労感が残っているのは、気のせいなのだろうか。
 一臣はソファに座り直すと、放置されているスマホを手に取る。
 そして画面に映し出された内容を見て、苦笑する。ぷんぷんと怒る可愛い恋人の姿が、脳裏に映し出されていた。

「まずは寝落ちを謝るところからだな」

 今日も騒がしい一日に、なりそうだ。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号/PC名/性別/年齢/劇中役/夢】

【ja8773/アラン・カートライト/男/25/イケメンA/快】
【ja3082/百々 清世/男/21/イケメンB/楽】
【ja5823/加倉 一臣/男/26/アシスタント・オミー/乙】
【ja1267/七種 戒/女/18/同人作家・戒先生/暴】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

発注文を見たときに、これは本当に同じノベルなのかと一瞬目を疑いました(まがお)。
イケメン組と同人作家組との落差が素晴らしく、少しお時間をいただいて構成に頭をひねってみました。
楽しんでいただければ幸いです。
尚、今回は21:00以降分岐があります。
大変楽しく書かせていただきました、発注ありがとうございました。
鈴蘭のハッピーノベル -
久生夕貴 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年07月22日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.