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『例えば、こんな休日の過ごし方 』
百々 清世ja3082

 雨雲が天を覆い月も見えな真っ暗な宵の空。
 雨音を聞きながら本を読もうとデスクライトを付けた清世はふと思い出す。
 この頃暇をしているという後輩。もう夜も更けてきたけれど、後輩のポラリスは起きているだろうか。
「暇してるって聞いたけど、良ければおにーさんと夏入る前にデートでもいかが?」
 携帯電話を手にとって試しにメールを送ってみた。すると、返信はすぐに来た。
『さくらんぼ狩りに行きたい! あと温泉! もちろんドライブデートね!』
 遠慮無く要求をずらずらっと並べてくるポラリスからのメール。女の子の頼みであれば全力で叶えようじゃないか。
「りょーかい。おにーさん、頑張っちゃうぞー」
 送信ボタンを押し、引き出しからロードマップを取り出して、場所と時間の確認をする。
 結構な距離があるから、相当早く起きないといけないだろう。少し苦笑いを浮かべてメモを取った後、眠りについた。

 翌朝。
 昨夜の雨が嘘のように止み、蒼く心地良い空が梅雨の晴れ間を湛えていた。
 清々しい空気に欠伸が漏れる。正直、朝は弱い。けれど、可愛い後輩の為と頑張ろう。眠気を吹き飛ばす為に自販機で買った飲み物を呷り車へ向かう。
 イグニッションキーを回してエンジンを掛ける。目指すポラリスの寮。
 その途中にコンビニへ寄りサンドイッチとジュースを買ったら寮へと向かい、入り口前で待つけれど、しかし、待ち合わせの時間を過ぎてもポラリスは出てこない。
 携帯を手に取り、時間を潰しているとポラリスが出てくるのが見えた。
 ごめん、遅れちゃったと謝るポラリスに気にしなくていいと清世は告げて、ふたりは車へと乗り込んだ。





 滑るように走り出す車。車窓には流れる景色。開いた窓から入る爽やかな朝の風が頬を撫でる。
 助手席に座るポラリスはうつらうつらと舟を漕いでいた。
「まだ着かないから、寝てていいよー?」
 その様子をちらりと横目で見た清世は少しだけ苦笑を浮かべて言うけれど、ポラリスは折角運転してもらってるし寝ないで頑張ると決めていた。
 だから、彼女は眠い目を擦って眠気を覚ます為に質問を考えて、投げかける。
「じゃあ、おにーさんの好みのタイプとか聞いちゃおうかなー?」
「えー? ポラリスちゃんみたいな子かなー」
 朗らかに応える清世。もー、と笑うポラリス。
 その後も他愛のないことを話し合って、ただふたりを乗せた車はただ道を進んでゆく。





 果樹園に着いた頃にはお昼前。既に日も高く初夏の太陽は燦々と煌めいていた。 
 車を降りて、軽く伸びる。
 少しずつ上がる気温。それはまるで夏がやってくる足音のよう。証拠付けるようにじんわりと蝕むように梅雨の晴れ間の今日も、既に蒸し暑い。
 受付を済ませてパンフレットと籠を受け取り、ビニールハウスの中に入ると蒸し暑さは更に増す。
 けれど、ふたりの興味は目の前に立ち並ぶサクランボの木へと向いている。先から聞こえる声が重なり合って、とても賑やか。ビニールハウスの中は休日ということもあり、それなりに混雑していた。
「んー、パンフレットには色んな品種が書いてあるけど、全然わかんねぇや」
「佐藤錦が甘くておいしいって受付の人言ってたけど、どれがどれなのか解らないよねー」
 ふたりで一緒にパンフレットとにらめっこ。じぃっと眺めて見ても、イマイチよく解らず首を傾げる。
「よく解んないから可愛いの食べよーっと」
 結局、顔を見合わせて出た結論が考えていても仕方が無い。
 ポラリスは一番手近な木に移って身眺めていたら見つけたのは、ハートのような形をしたさくらんぼ。
 早速もぎって、振り返り清世に見せる。
「ねー、こんなの見つけたー。ハート型で可愛くない?」
「おー、本当だ。珍しいねー」
 よく見れば所々に変わった形のなさくらんぼが揺れている。
 スーパーで見かけるものはまん丸く揃ったものばかり。初めてのさくらんぼ狩り体験は何だか凄く新鮮だった。
「こんな可愛いさくらんぼ食べられなーい」
 サクランボのヘタの先を持って、揺らしながら言うポラリスはさり気なく女子力をアピール。
「ポラリスちゃんのハート頂きっ」
「あっ」
 そして、そんなことをしていたら清世に食べられてしまった。
 それに対してポラリスは、ぷーっと頬を膨らませて怒ったぞアピール。
「ごめんごめーん」
「許さなーいー」
「どうすれば許してくれる?」
 言葉に反して、清世の口調は冗談混じりの軽いもの。顔だって悪戯っぽく笑っている。
 そんな、ポラリスだって別に怒っているわけじゃないからお願いも、ほんの可愛いもの。
「じゃあ、あの辺りのさくらんぼ取ってよー」
 そう、ポラリスが指差した先にあるのは高い場所になっているさくらんぼ。
「お、あの辺り美味しそうだもんね」
「いいでしょ、とってよー」
 清世の裾を引っ張って、おねだりするポラリス。その願いを断るはずもなく。
「勿論、高いところはお兄さんに任せろー」
 手を伸ばせば高所になるさくらんぼだって容易く取れた。
「美味しそうなのが取れたよー、ほらあーん」
「あーん」
 清世の差し出すさくらんぼをぱくりと食べて、口に広がる瑞々しい甘さに、思わず浮かぶポラリスの笑顔も満足げ。

 もぎたてのさくらんぼは、なんだか普段より甘く可愛い、そんな味がした。





「ね、おにーさん。温泉はっけーん」
 行きは少し眠たくて、余り外を見る余裕は無かったから、ずっと外を眺めていた。
「入ってく?」
 あまり遅くならないうちに帰ろうと車に乗り込んだから、時間的な余裕は充分にある。
 うん、と頷いて看板を見ると別浴の文字。
「混浴じゃねぇのかー、残念」
「混浴な訳ないじゃーん」
 ぺちんとふざけているようにツッコミを入れたポラリスだけれど、わりと本気で照れていた。
 そんな様子を微笑ましく想う清世はちょっとふざけるように。
「嘘嘘、湯上がり美人に期待してますよー」
「もー」
 そんな互いの間に笑みが咲く。
 さくらんぼデートといえど、ふたりの間に恋愛感情はない。
 清世にとっては、恋人にするには、まだ彼女はちょっと子ども。
 ポラリスにとっても、恋愛対象というより、よく構ってくれるお兄さん。
 けれど、楽しいからそれでいい。デートって言ってもただ遊びに行くようなもので。
「じゃ、30分後くらいに此処でねー」
 暖簾をくぐるポラリスの背中を見送って、自分も温泉へと浸かる。
 頃合いを見て上がり脱衣所を出てもポラリスが上がってくる様子を見せなかったから、未成年が相手だからと我慢していたタバコを一本取り出して吸う。
 一本目もほぼ吸い終わったところでポラリスが脱衣所から出てきた。
「あんま、見ないでよー!」
 湯上がりのポラリスはメイクを落としたすっぴんフェイス。湯上がりのほんのりと桃色に染まった頬でふざけるように笑顔を浮かべている。
「ほら、湯上がり美人だ」
 スタンド灰皿に吸い殻を捨てた清世は、ぽふぽふと頭を撫でた。


 寮に着く頃には、空は綺麗な夕焼け色に染まっていた。
 茜と橙。痛い程に強く二色に分かれた空の色。何処か懐かしさも感じさせるような不思議な色。
 夕陽は強く、そして優しく世界を茜色に染めている。
「楽しかったー! 今日はありがとー!」
 車から降りたポラリスは。目の前に並ぶのは長く映し出されたふたつの影。
「そりゃ、おにーさんも嬉しいよ。今日はありがとね」
「こっちこそ! そーだ、おにーさんが次空いてる日はいつかしら?」
 冗談っぽく笑うポラリスに清世も同じような笑みを返して。
「ポラリスちゃんのためならいくらでも予定開けるからさ、また遊んでね」
「うん! 約束だからねー。じゃあ、またね!」
 その言葉とともに、車に乗り込んだ清世を見送った。
 夕陽に照らされたポラリスの笑顔。
 また明日。また今度。また会おう。
 またね。そんな、小さな約束を繰り返して続いていく、綴る日常の1ページ。

 見上げた夕焼けはただ世界を照らしている。
 ただ、明日を待つ色を浮かべた空は今日も澄んでいた。だから、きっとまた、明日も晴れる。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3082 / 百々 清世 / 男 / 21 / イフィルトレイター】
【ja8467 / ポラリス / 女 / 17 / イフィルトレイター】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 どうにも果物狩りに行くと何故か毎回大雨か台風に見舞われる水綺ゆらです。
 行き先が悪いのか、運が悪いのか。はたまた果物狩り限定の嵐女なのか。
 その辺りは置いておき、ハートのさくらんぼは可愛かったのです。

 ポラリスちゃんと清世さんのノベルは一部、違うところがありますので両方読んで頂けたら楽しみも増えるといいなーとか思いつつとちらも楽しく描かせて頂きました。
鈴蘭のハッピーノベル -
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エリュシオン
2013年07月23日

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