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『薄氷に咲く鈴蘭 』
御手洗 紘人ja2549


 幸せが、再び戻りますように。

 鈴蘭は、そんな花言葉を持っているのだそうだ。
 再び、ということは、一度は逃している。という――
「…………」
 久遠ヶ原の職員室に、何とはなしに活けられていた花を、筧 鷹政は睨むように眺めた。
 戻ってきてよかったな、正面の教師は悪い笑みで分厚い封筒、それから小さな箱を放り投げてよこした。
「は、は、は、本当に…… 学園の皆さんにはかんしゃのことばもありません」
 ズシリと腕に来る重みは、そのまま心を沈ませた。
 乾いた笑いで、鷹政は場を辞そうとし……

「鷹政くん、結婚詐欺にあったんだってー!? ぷふー☆」

 側面から、言葉のマジックスクリューが鷹政を抉った。
 〜朦朧判定から回復するまで、しばしお待ちください〜




 学園内はまずい。
 とりあえず移動しよう。
 そういったわけで、近場のカフェへと移動する。

 アイスカフェオレへガムシロップを入れながら、チェリーは矢継ぎ早に問い質す。
「ねぇねぇねぇ、結婚式ってどんな感じだった?」
「あっ、ドレスはレンタル? オーダーメイド? もちろん、鷹政くん払いだったんだよね!!」
「チェリーもコンテストでウェディングドレスは着たことあるけど…… やっぱり本当の結婚式には敵わないよね!」
 〜スタン判定から回復するまで、しばらくお待ちください〜

「いっそ、清々しいね……」
 削られ切った鷹政が、ホットコーヒーを一口飲んでから、ようやく顔を上げた。
「気になってたのはホントだよ☆」
「ありがとう」
 鷹政が学園へ出向いていたのは、数日前の騒動による被害に関して、戻ってくるものが戻ってきたという連絡を受けたからだ。
 風紀委員まで動くほどの事件であり、被害者は鷹政一人ではない。
 直近の被害者だったため、処理が早かっただけだ。
「けど…… そっか。あの鷹政くんが、結婚式かぁ……」
 指先を絡め、視線を落とし、独白のようにチェリーは言葉を落とす。
 さらりと銀の髪が胸元に落ちる。
「鷹政くんにだって、できるのにね」
「あのねぇーー」
 何かを考え込むような表情を見せたのは、ほんの一瞬だけ。すぐに普段の調子に戻る。
「そうだそうだ。彼女とは、どこまでいってたの!?」
「ぶは」
 咽こんだ珈琲で舌を焼き、鷹政がそのまま蹲る。
「どこって」
「やだ、サイテー鷹政くん! 花も恥じらう乙女を相手に、どこまで話すつもりなの? ヤダー☆」
「…………」
「? どうしたの? チェリーに見惚れちゃった??」
「アイスクリーム、追加しよっか」




 知られてはいけない。
 気づかれてはいけない。

 けれど、気づかれているのかもしれない。
 予測されているのかもしれない。
 何より、自身が一番恐れている。


 未来、というものを。


 『普通』が羨ましい、ということを。
 今はきっと、花が咲き誇っている時期。
 分かち合い、自由に、伸び伸びと葉を広げ、太陽の下で花を咲かせていられる時期。
 しかし根を張る大地は豊かな土壌ではなく、乱暴に踏み込めば割れて溶ける薄氷だということを、知っている。
 『今』が永遠に続くわけではないことを、知っている。


 成長という言葉は、時としてひどく残酷だ。




 目の前で溶けてゆくアイスクリームを、チェリーはぼんやり見つめている。
「あれ。苦手だった?」
 案外と甘味好きの鷹政は既に食べ終え、添えてあるウェハースをかじりながら。
「知らないの? 鷹政くん。最近のアイスは、これくらいになってからミックスして食べるのが流行りなんだよー☆」
 実にわかりやすい嘘だ。
 先ほどまでマシンガンのように捲し立てていたというのに、今度は急にだんまり。
(まぁ…… 思春期だし)
 そんな一言でザックリ流す鷹政も、大人として如何なものか。
 高等部二年。
 大人と子供の中間地点。
 その年頃の鷹政はアウルに目覚める前で、悩みと無縁の学生生活を送っていたけれど。
 久遠ヶ原の撃退士として戦いにも赴く生徒たちは、きっと違う視点で生きている。
 『自分がその年の頃には』なんて、年長染みた発言なんてできるわけがなかった。
 『今』を共に生き、共に『未来』へ進む。
 できることは、それだけ。
(未来かー)
 色々と不安に思う時期だろう。
 鷹政に至っては、年頃どうこうではなく現実的な問題で将来に不安を抱えている。
 二人で組んで活動していたフリーランス、その相棒と死別して約一年。
 単独で活動するにも限界があった。
 チームへ所属しないか、という打診も幾つか受けている。とはいえ……親しんだあの事務所を手放す決断には踏み切れていない。
「たとえばさ」
 コーヒーのお替りを頼みながら、鷹政が考えていることを言葉にする。
「将来なんて、わかんないけど。チェリーちゃんが、俺んとこに来る可能性も無きにしも非ずなんだよな」
「え 何そのプロポーズ。遅い、100万年遅いよ、チェリーは売約済みだよ?」
「違う!! 事務所にさ。今の生徒の皆だって、いつかは卒業するだろうし。うーん」
「時給次第で、別に今でもバイトに行くよー☆」
「そうなるよね!」
 両手で顔を覆う卒業生へ、チェリーはゴキゲンにアイスを一すくい、差し出した。




 仕事の連絡が入ったらしく、鷹政が席を外す。
 チェリーは小さく溜息をつき、時間つぶしに適当な雑誌を手に取った。

 ――将来なんて、わかんないけど

 その言葉で、思い出していた。そうだ、鷹政は『知らない』のだった。
 チェリーを、どこにでもいる可憐な美少女だと信じている。
 戦場を共にした時も、チェリーは『チェリー』だったから。
(だけど)
 もしも知ったら―― ――……それでも、きっと対応は変わらないように思う、けれど。
(結婚式も ウェディングドレスも 『普通の女の子の夢』は……)
 将来と呼ばれる、その頃には。
 ぱらり、窓から吹き込む風が、好みに合わないファッション誌のページをめくる。
 何の気なしに、特集コラムが目に入った。


「ごめん、チェリーちゃん。急ぎで戻らなくちゃいけなくなった」
「時給次第で御一緒するよ☆」
「サンキュ、今日は俺一人で平気」
 椅子へ引掛けていたジャケットを拾い、それから鷹政はチェリーの額を小突いた。
「なんとなく、鷹政くんがモテない理由、わかった」
「……いや、別にモテないわけではなくてだな」
「ふふー。いいから、いいから!! お仕事なんでしょ!」
「どしたの、急に元気になって」
「女の子には、少し影があるものだよ☆」
「そういうものかねぇ……」
 チェリーに背を押され、釈然としないまま鷹政は会計へ向かう。

(『少し影のある女の子の方がモテる』! もしかして鷹政くん、チェリーの魅力にメロメロー?)

 見かけたコラムの内容には、ドンピシャなことが書いてあった。
 引っかかる男のあしらい方まで丁寧に。
 なるほど、鷹政が引っかかりそうなパターンで。


「チェリーったら罪なお・ん・な☆ なんてねー!」


 何を罪かというのなら、恐らくは鷹政不在時に追加オーダーしまくったテイクアウト用のケーキの数が、それなのかもしれなかった。
 今日も明日も、蕾がある限り花は美しく咲く。




 カフェのカウンター、一輪挿しに飾られている鈴蘭。
 幾つかある花言葉は、
 意識しない美しさ。
 そして―― 幸福が、訪れる。




【薄氷に咲く鈴蘭 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja2549 / 御手洗 紘人/ 男 / 15歳 / ダアト】
【jz0077 / 筧  鷹政 / 男 / 25歳 / 阿修羅】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼ありがとうございました。
悩める乙女心と結婚詐欺事件、お届けいたします。
将来という言葉は時として力となり、時として刃となり。
キーワードと共に、普段とは違う表情を、覗かせることができていればと思います。
楽しんでいただけましたら幸いです。

鈴蘭のハッピーノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年07月25日

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