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『Selective attention 』
綾鷹・郁8646)&草間・武彦(NPCA001)


艦隊旗艦。郁は身に纏った華やかなドレスを翻し事象艇に乗込んだ。
乗員に突如下った隠密調査。
時間学会の晩餐会場。
学会の有望株が次々と倒れ伏す奇妙な宴、会期中に陰謀を暴かねば来年の開催が危ぶまれる。
渦巻く陰謀を暴くのが今回の任務だ。

さて、まずは、と救護室で情報を集めることにした。
郁に同行した、いや郁が武彦に同行しているのか……武彦は既往歴の調査にあたったが、しかしどこにも不審な点は見当たらない。
「俺は会場付近を調べてみる」
「あたしは?」
「そこで待ってろ」
ちぇー、と頬を膨らませるも、今の状況で余計なことを言ってもしょうがない。
今出来ること、その場に居る者から聞き込みを行うことにした。
ちょうど項垂れている研究者を見つけた。ちょうどいい、彼から聞き出してみよう。
「どうかしましたか?」
「あ……いや……とくに何かあるわけじゃないんだが……」
「あたしはあなたたちのような病人について調べてます。なにかおかしいところがあるなら教えてください」
何かを隠そうとしている研究者に、郁は慣れた手つきでそっと囁いた。
その美しい容貌に熱に浮かされた研究者は数回咳払いをした後、証言する。
「その……研究に対する熱意が失せたというか……」

他にも数人の証言を得たが、どれも確証に至れるほど確かなものではない。
郁の聞き込みも空振りだ。しかし、それなら手段を変えるまで。
一人待つ郁の元に届いたのは、会場から有害物質は検出されなかった。という報告だった。
ちょうどその時に武彦も戻ってくる。
「不審者の出入りはなかったみたいだぜ」
「……会場にもなにもなかったわ」
「嘘だろ……?」
患者に何か問題があるわけではない。
不審者の出入りも無い。
会場に有害物質があるわけでもない。
普通はあるはずのものがないということが、この事件に不気味な印象を残していた。
なるほど、‘怪奇探偵’草間武彦が今回の調査に呼ばれたのも頷ける。

捜査低迷、そんな中若い学者がふらふらと覚束ない足取りで救護室に入ってきた。
その様子を見るにパーティーから抜け出してきたのだろうか。顔が真っ青だ。
二歩、三歩、数歩踏み入れた後の昏倒。
突如現れた急病人、救護室は騒然とした様子でそれを受け入れる。
救急搬送に随伴を許してもらった郁はそのまま倒れた学者の証言を聞くことにした。

病室の白いベッドの脇、椅子に座る郁。
「自分の研究がなんだかちっぽけなものに見えてさ……」
丁寧な処置の結果、立ち直った学者はそう証言する。
その表情は可哀想なことに、憔悴しきっていた。
「会場で辛いことが?」
「……わからない、だけど気が滅入るんだ。自信なくすっていうか……」
ぽつぽつと、郁の言葉に応えていく。
郁に備わった素質のおかげか、安心して心を開いた学者からいくつか手がかりになりそうな証言も引き出されていった。
「……もう沢山だ。引退したい」
……というのが、証言の最後に溢した彼の言葉だ。
新進気鋭の彼に何があったのか、謎は深まるばかり。


厨房。
郁に倒れた学者を任せている間、武彦は厨房の様子を見ることにした。
もしかしたら料理になにか仕掛けがあるのかもしれない、と見てのことだが。

「煙草は別のところで吸ってくれませんかね」
「なに、大した毒じゃない」
シェフに諌められてもなお武彦は紫煙を燻らせて、嘯く。
それの銘柄は武彦自身もよくわからない。ただ煙が出ればいいと安物を適当に買ったのだから、別にわからなくても些細な問題である。
清潔に保たれていた厨房の空気は紫煙で淀みつつあった。
「何事も控えめですな。長生きしたいのなら」
そう凄む給仕はどこか含みのある様子で。

「……趣味悪ぃな」
眩暈を覚える。配膳台を一瞥した武彦がそれに零した純粋な感想だ。
たとえば紫色の茄子料理の隣に檸檬を並べる、といった何も考えられていない滅茶苦茶な配列。
この作業を行っているのは給仕か、なんてセンスのない。そう内心で呟いた武彦から吐き出された煙で、空気は更に汚れていく。

「……たしかに、どこかおかしなところはなさそうね……」
ぱしゃり、とシャッター音が雑踏の中のアクセントになる。
その音色は郁の持っているカメラから出されたものだ。
あれから郁は事象艇で開催日まで遡って、不審な点をとことん洗い出すといった作戦に出た。
「……?……なに、これ」
会場を撮影している途中、奇妙な色合いが目に入る。
武彦が厨房で見た気分の悪くなる配膳だ。それは開催日当初からも変わっていない。
それを見て本命の男以外はなんでも創れる、聡明な彼女の頭の中で推理が組み立てられていく。

「……っ、わかったわ!」

閃いたのか。時間旅行から戻ってきた郁はとんとんとテーブルを指で叩いた。
テーブルの上には滅茶苦茶に飾られた料理が載っている。
どういうことだ、説明しろ。ちょうどその場に居合わせた武彦はそういった視線を郁に向けた。

「カクテルパーティー効果…雑踏の中でも自分の名を呼ばれれば気づく人間の本能。
ある種のサブリミナルを悪用して配膳の中に意気消沈を招くメッセージを仕込むとは考えたわね」
「つまり、犯人は……」
「あの給仕よ、早く通報して!」

その後、武彦の通報により給仕達は逮捕された。
後に聞いた情報によれば、あの給仕はドワーフ、アシッド族が化けたものだったらしい。
ともかく、彼らの陰謀も潰え、会場にひと時の平穏が訪れた。

郁は一仕事終えた開放感から、大きく伸びをして。脱力してから武彦の腕を組む。
「任務かんりょー!さ、祝宴しましょ!今夜は寝かさないわよ!」
「どういう意味だ、それ」
武彦の額に一筋、冷や汗が流れた。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
黒木茨 クリエイターズルームへ
東京怪談
2013年07月29日

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