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『流れ星を拾って 』
村上 友里恵ja7260


 バスを乗り継いで、乗り継ぐ度に古めかしい車体になっていって、ガタゴトガタゴト揺られること約一時間半。
 車窓の景色は都会からやがて長閑な田園風景へ。
 各停留所で一人降り、二人降り。
 終点を目指す頃には、後部シートに少女二人と青年一人だけ。


「思えば遠くへ来たもんだ」
 具体的な目的地を知らされていない青年が、遠い目をして景色を眺める。
「冒険は、もう少しだけ、続くのですよ」
 傍らの、長い黒髪を降ろした少女は悪戯っぽく微笑み、
「詐欺師を捕まえる時は、役に立てなかったのでな……」
「え?」
「酒井さん、しー、ですよ」
「む」
 他方、同じく美しい黒髪を高い位置で一つに結った少女は、呟きをもう一人の少女に咎められる。
 幸い、青年には聞きとられていないようだ。
「それにしても、驚いたな。村上さんと酒井さん、二人が友達だったなんて。そういえば……学年、同じだったか」
 筧 鷹政が、右に座る村上 友里恵、そして左側の酒井・瑞樹の顔を交互に眺め。
「十年来の、友達というか腐れ縁というか……気の置けない仲間、ですね。普段から色々な衣装を着せたり連れまわしたり、それから……」
「わぁあああ!」
「!?」
 友里恵がなんぞや暴露しようとしたところで、察した瑞樹が止めに入る。
 思わず仰け反った鷹政の、頭が急ブレーキによって更に後方へと激しく打ち付けられた。
 終点、到着。




 耳に降り注ぐ蝉しぐれ。
 トンボを追って、走り回る少年たち。
 湿気の多い風は、それでも僅かに温度を落としていた。
「長閑だねぇ……」
 着いた頃には夕方と呼べる時間であったが、それにも考えがあるようだった。
「今日は、この村の宵宮なんですよ、筧さん」
「へぇ、そうなのか。あ、二人の荷物って、もしかして」
 鷹政の言葉に、友里恵がにっこり笑う。一泊二日にしては、やや量のあるそれは。
「筧さんの分は、こちらの神社の方にお願いしてあります」
「あー、あーーーー。なるほど」
 友里恵は、地方にある神社の三女といってたか。
 その繋がりで、今日のこの祭りの事や、細かな手配ができたというわけだ。

「結婚詐欺に遭った筧さんが、少しでも元気になればいいなと思いまして……。現役女子高生ふたりで、おもてなししますね」

 楽しい小旅行気分からの急転直下、ありがとうございました。
「村上さん、それはさっき、私が……」
「わかってませんね、酒井さん。こういったことは、相手の気分が最高潮まで楽しさに高められた時に抉るのがコツなんですよ♪」
「……ふむ」
「二人が、どういう十年を過ごしてきたか見えた気がした」
 野良猫が一匹、打ちひしがれる鷹政の横を呑気に通り過ぎてゆく。
「元気を出してくれ、筧さん。私では慰めになるかわからないが……」
「ここが田舎で良かった。完全にアウト喰らうわ、今の発言……。お気持ちありがとね、酒井さん」
 瑞樹がしゃがみ込み、鷹政の顔を覗きこむ。
 他意のない、真っ直ぐな眼差しだ。
 伊達や酔狂でこんなところへ案内してくれることも無し、好意は好意として有り難く頂戴しよう。
 気持ちを切り替え、鷹政は元気よく立ち上がった。




 軽く周辺を散策してから、友里恵の伝手で村の神社の、神主の家を訪ねる。
 そこで着替えてから祭りへ繰り出すという段取りだ。

 黒のしじら織の浴衣を借りた鷹政は、女子二人の登場を外で待つ。
 小さな村だと思っていたけれど、案外と人出は多く、家族連れや子供たち、……若者のカップル……?
 なんだか、らしくない組み合わせも歩いている。
「お待たせいたしました♪」
「おめかしして来い、と言われたのでな……」
「おーーー」
 そろりそろりと姿を見せた黒髪美少女ふたりへ、鷹政は思わず拍手を贈る。
 友里恵は涼やかな、白地に金魚柄の浴衣。
 瑞樹は少し大人っぽく、藍色に水仙柄の浴衣。
(……先輩にも見せたかったな)
 瑞樹の内心は、少し複雑だった。せっかくの晴れ姿、本当に見てほしい人は他に居る。
 今回の目的が目的だけに、彼を誘うこともできなかった。
 また別の機会に、披露できるだろうか。そんなことを、そっと考える。
「さぁ、参りましょう。両手に華ですよ、筧さん♪」
「……嬉しくて泣けてくるな」
 すい、と友里恵が鷹政の右手を取る。
「迷子が出ては大変なのだ」
「……そ、そうだね、酒井さん」
 がっちりと左手を握るのは瑞樹。迷子になることへ不安を感じているのは彼女自身のように、思える。
「筧さんのお財布に、期待してますね」
「え?」
「バスの切符を忘れないように忘れないようにとしていたら、お財布を忘れてきちゃったのです」
「  」
 ぽっ、と恥ずかしそうに頬へ片手をあてる友里恵へ鷹政が言葉を忘れる。つまり彼女が手にしている、金魚の色に合わせた赤い巾着袋は空である。
 ぎこちなく、瑞樹も頷いた。
 いや、まあ、女の子二人が出店で遊ぶ程度なら、問題ないが。
 むしろ、ここは大人の甲斐性を見せる場面ではあるが。
(どこからどこまで、計画内なんだろう……)
 今日の鷹政は、大人しめな外見に反して行動的な友里恵の一面に驚かされてばかりいた。
 様子から推察するなら、たぶん、瑞樹も『計画』に巻き込まれているように思える。

 笛や太鼓の音色に乗って、屋台から食べ物各種の匂い、人々の笑い声が流れてきた。
 小さなこと、悲しいことはさておいて、今は祭りを楽しもうか。


「りんごが…… 落ちてしまったのです……」
 絶望的な表情で、大事に食べていたりんご飴の一歩及ばずの姿を友里恵は見送る。
 地表のアリたちが、りんご神輿の担ぎ手として集合していた。
「…………」
「いや、あの、……いいけど、口の中、甘くならない……?」
 涙目で見上げられ、言わんとすることを察するも、鷹政は若干及び腰である。
「次こそは完食いたします。そうしましたら、お食事系の何かが良いかと……」
「筧さん、村上さん、向こう側に『鮎の塩焼き』が屋台であったぞ。あれは、私も食べてみたいのだ」
 三つめのりんご飴を手にした友里恵が、瑞樹の言葉に目を輝かせた。
「この村でしたら、川の上流で獲れた天然ものでしょうか」
「へぇ、それは美味しそうだな、俺も興味ある」
 財布役だろうが何だろうが、楽しいものは楽しい。
 行き交う人々の、明るい顔も良いものだった。
 輪投げでぬいぐるみを獲ったり、金魚すくいで散財したり。
「……むっ」
「あれは」
「まさか」
 アツアツの鮎の塩焼きを頬張る三人が、一斉に動きを止めた。
 視線の先には、黄色の群れ。

 ――ひよこが売られているのは、初めて見た。

「も、もふもふのぴよぴよです……」
「さ、さわったら潰れてしまいそうだな……」
 人工的に毛を染められたり、うどんなどで釣りあげたりなどといった屋台が、その昔はあったというが。
 連れ帰っても育てきれない、育ってもコケコッコーの生活は難しい、というりゆうから衰退していったといわれる幻のひよこ屋台。
 なるほど、この田舎であれば、元気にコケコケ育ててくれそうである。
 小さな小さな、この命の群れが、いつかやがて――
「……せんせい怒らないから、今なにか想像した人は手を挙げてください」
 鷹政の言葉に、非常に非常に申し訳なさそうに、友里恵と瑞樹は挙手をした。
 せめて鮎焼きの前に焼き鳥を食べていなかったら、ひよこに触れることも許されたのかも知れなかった。

「あはは、スイカ割りなんてあるな。酒井さん、挑戦してみない? 武士の心眼をもってすれば、目隠しをしていようとも?」
「容易く斬ってみせる!」
 キリッ、と鷹政の声に応じ、そして瑞樹は続ける。
「尋常に勝負だ、筧さん」
「え、勝負!?」
「武士の心得、ひとつ! 強敵と書いてともと読み、機に恵まれたならば互いに力を研鑽すべきである」
「割るのはスイカ、スイカだからね!!」
「大丈夫ですよ、頭を割られても回復手はここに居ますから♪」
 りんご飴完食からの口直しにみつ豆を手にした友里恵が、にこにこと二人を送り出した。




 歩き回って、たくさん食べて。
 馴れない下駄に、足先が赤くなってきた頃合い。
「そろそろ、行ってみましょうか」
 ラムネを飲み乾した友里恵が、ふぅ、と息をついてから二人の顔を交互に見た。
「流れ星を、探しに行くのだ」
 こくり、瑞樹が頷く。
「準備も、ちゃんとある。社の裏手に荷物を預けてあるから、それを持って少し登ろう。灯りから離れた方が、きっと星も良く見える」

 ――日没から日付が変わるまでの間に、流れ星を見ることが出来たら願い事が叶う

 この村の宵宮には、そんな言い伝えがあるのだそうだ。
「それで、外からの人も多かったんだ」
 バスは、閑散としたものだったけれど……時間をずらして到着していたのかもしれない。
(願い事、かぁ……)
 二人が誘ってくれたのが、これが本命だったのだろうか。
 鷹政は、そんなことを思う。
 女の子たちが好きそうなイベントだ。
 彼女たちは、星に何を願うのだろう。


「根気比べの様な物だからな」
 裏山の開けた場所に出て、瑞樹は荷物から茣蓙を広げる。
「飲み物もあるぞ。備えは万全だ。冷えるといけないので、毛布も……」
「もっふー♪」
 毛布の柔らかな肌触りに、友里恵が反応していた。
「落ちてきそうな星空、ってこういうのを言うんだね……。流れ星を見つけられなくても、なんだか願い事が叶いそうな気がする」
 茣蓙へ寝転がりながら、鷹政は夜空を見上げる。
 細かな星座の名前はわからないけれど、大小さまざまに瞬く光の海は目に鮮やかだ。
「江戸時代には、武士と学者を兼ねた人々が居たと聞く。そういう人にも憧れるのだ」
 同じように寝そべって、瑞樹は夢を語った。
 天文学者もいいなぁ、そんなことをちらりと考えながら。
 自分が天文学者になったら、先輩は……? そこまで想像してから、ひとしきり一人で悶える。

 憧れの話。
 夢の話。
 結婚詐欺の話。

 空を見上げ、三人は色々な話題を挙げる。時折、それは鷹政の心の傷を抉る。
 その反応から、思いのほか、立ち直っている様子を感じ取る。

「筧さんならきっと大丈夫だって、私信じてます」

 流れる星と一緒に、友里恵の言葉が落ちていく。
「なんだろね。俺も、そんな気がする」
 くすくすと、笑う鷹政は流れ星を見逃した。
 掛ける願い事も、うまく浮かばないのだ。
 辛いことも苦しいことも悲しいこともあるけれど、こうして可愛い後輩たちが自分を案じてくれているというだけで、充分に贅沢な気がする。
 生きているという実感さえ掴んでいれば、あとは自分で未来を手にするだけなのだから。
(……ということを、きっと考えているから今回のようなことも繰り返しそうなのです)
 呑気なその横顔を、友里恵は横目で。
 そうだとしても。
 この星に、願いを掛けるとするならば。
(結婚はお相手の都合もあるからな…… 幸せとするならば)


 ――筧さんが、良い相手と巡り合えますように


 それは、値千金の乙女たちの祈り。
 効果があるかどうかは、また別のお話。




【流れ星を拾って 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja7260/ 村上 友里恵/ 女 /14歳/ アストラルヴァンガード】
【ja0375/ 酒井・瑞樹 / 女 /14歳/ ルインズブレイド】
【jz0077/ 筧 鷹政  / 男 /25歳/ 阿修羅】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
両手に女子高生、御馳走様でした……。NPC得な内容で許されるのでしょうか。
内容から判断しまして、今回は分岐なし一本道での納品です。
楽しんでいただけましたら幸いです。
流星の夏ノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年07月29日

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