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『ヤギの縁結び 〜私の運命の人はどこに〜 』
エルレーン(ib7455)

●乙女の朝
 エルレーン(ib7455)が、ある朝目覚めると――彼女の顔を覗きこむ何かがいた。

「‥‥え‥‥わたし‥‥」
 まだ夢を見ているのだろうか。ぬいぐるみサイズのヤギが2匹、黒いのと白いのが両側から覗き込んでいる。白ヤギが言った。
「起きたやぎか? 人手が足りないから手伝って欲しいやぎよ」
「ヒトデが足りない‥‥?」
 まだ覚醒しきっていない頭で反芻する。ヒトデ――海へ行って集めるのだろうか。
「まだ寝惚けているやぎね? 人が足りないやぎ! 早くしないと結婚式が始まるやぎ!」
 黒ヤギが前脚でエルレーンの頬をぺしぺし叩く。蹄はないのに結構痛い。夢ではないという事か。
 叩かれた頬を撫でながらエルレーンは起き上がった。半身を起こした彼女の膝にちょこんと乗って、ヤギーズは口々にエルレーンを急いた。
「「さっさと着替えて手伝うやぎ!!」」

 言われるがままとりあえず起き上がり、エルレーンは寝巻きを脱ごうと――
「あの‥‥そこにいられると、ちょっと‥‥」
 エルレーン、花も恥らう年頃の娘さんである。性別不明とは言えオスかもしれないヤギーズの面前で脱衣など出来るはずもない。
「何してるやぎ! 早く着替えるやぎ!」
「‥‥だったら早く部屋出てって!」
 何時になく強気なエルレーンの悲鳴に、ヤギーズは慌てて衣装を置いて逃げ出した。
 部屋に残されたエルレーン、ドアが閉まるのを確認してから屈みこむ。ヤギーズが残してった白い衣装を手に当惑の声を漏らした。
「‥‥え‥‥これを‥‥着る‥‥の?」

 ――がちゃり。

「もう着たやぎかー?」
「!! ☆%#$@*!?」
 出てってから1分も経ってやしない。咄嗟に投げた内緒のパッドが、黒ヤギにぽこーんと当たった。
「痛いやぎ〜」
「急ぐやぎ! 手伝うやぎよ!!」
「いやぁぁぁぁ!!」
 白ヤギが果敢にもエルレーンにタックルを仕掛ける! 闖入者に悲鳴を上げるも、エルレーンはあれよあれよとヤギーズに――
「えっ!? ‥‥え、えっと、その‥‥な、なんで?」

 ――純白のウェディングドレスに着替えさせられていたのだった。

「‥‥ああっ、もうおヨメに嫁けない〜」
 まだ嫁入り前なのに、ヤギに着替えさせられるなんて!
 さめざめと泣くエルレーンだが、その姿は花嫁姿にほかならない。
 遣り切った顔でヤギーズはご満悦。泣き崩れるエルレーンの両手をそれぞれ握って引っ張り、言った。
「「似合ってるやぎよ?」」
「‥‥えへ」
 乙女の夢、純白のウェディングドレスを着ているのだ、褒められて嬉しくないはずがない。寧ろ何だかうきうきする。
 パフを片手に白ヤギが、涙の跡が残る顔に白粉をはたきはじめた。
(うふ‥―人に化粧して貰うのって何だか気持ちいい‥‥人じゃなくてヤギだけど)
 軽く瞼を閉じてされるがままになるエルレーン。
 ぽふぽふ――白粉の上に、ほんの少しチークも乗せて。ピンクのルージュを引いたらできあがり。素が良いので薄化粧で充分だ。
(仮装パーティーか何かかな‥‥?)
 そんな事を暢気に考える余裕も出て来たエルレーンに、ヤギーズは口々に急かして手を引いた。
「できたやぎ! さあ急ぐやぎよ!」
「ヤギたちの手に掴まるやぎ!」
 そうして一人と二匹は部屋を出た――はずだった、のだが。

●結婚‥‥式!?
 一歩出た先は、式場でした。

「!?」
 トンネルを抜けると何処だった、という話はよく聞くが、自室を出たら式場だったなんて話は世界広しと言えどもザラにはないだろう。
「間に合ったやぎー!!」
 いつのまにか手を引くヤギが一匹になっている。もう一匹は何処行った――と視線を巡らせた先に、別の人物と居るのを発見した。
 その人物は――

「‥‥‥‥」
「‥‥‥‥」

 さすが兄妹弟子、揃ってぽかんと同じ顔をして相手を凝視している――理解が及ぶまで暫し、最初に言葉を発したのはどちらだったか。
「貴様はエルレーン!」
「馬鹿ラグナ!」
 ほとんど同時に言ったもので、それぞれに従っていたヤギたちは首を傾げて言った。

「「お知り合いだったやぎ?」」

 知り合いも何も、一触即発、運命の仇敵同士だ。尤も、仇敵だの最大最強の敵だのと思っているのはラグナ一人だが。
 何で貴様が此処に、お馬鹿さんこそ何でいるのよと口論が飛び交う膝下で、彼と彼女の事情など知ったこっちゃないヤギーズは互いに前脚を握り合って喜んでいる。
「お知り合いなら大丈夫やぎね!」
「末永くお幸せにやぎー♪」

「「‥‥は!?」」

 ここへ来て漸く、エルレーンとラグナは自分達が仮装ではなく、正真正銘花嫁花婿役なのだという事に気が付いた。
「「‥‥という事は‥‥」」
 互いに指を指し合って、( ゜д゜ )な表情で見詰め合う。
「この貧乳女が私の花嫁だと!?」
「私が花嫁‥‥馬鹿ラグナの!?」
 ほぼ同時、本当によく似た兄妹弟子だ――などと言っている場合じゃない。
 何せこの二人、兄妹弟子にして宿敵のライバルであり仇敵(※ラグナ視点限定)なのだ。当然険悪な雰囲気は激しい罵倒合戦に発展する訳で――

「馬鹿とは何だ、相変わらず口の聞き方を知らぬ品性の低い女だな!」
「お馬鹿さんを馬鹿と言って何が悪いのよ! ラグナが馬鹿なのは間違いないんだから!」
「何を言う、この品行方正完全無欠完璧美形のラグナ・グラウシードに馬鹿という形容はない!」
「ないんじゃなくて、すっこ抜けてるだけなんじゃないの? 馬鹿、馬鹿ばか、お馬鹿さん!」

 口論は一向に治まる気配がない。
 花嫁エルレーンが朝に見せた、ぼんやりおどおどした様子は微塵もなく、花婿ラグナが自宅で見せた、ふわもこふぁんしー趣味の甘々男子っぷりも全くない。
 ヤギーズは戦慄した。
「「とんでもない新郎新婦を選んでしまったやぎ〜;;」」
「「新郎新婦!?」」
 手を取り合いぶるぶる震えるヤギーズ。つい漏らした不用意な一言を聞きつけた二人にギッと睨まれて更に縮み上がった。
 二人を何とか取り成そうと、勇気を奮って黒ヤギが前に進み出る。
「‥‥そ、そうやぎ。だから二人とも、落ち着いて、仲良くするやg‥‥」
「「誰が!!」」
 最後まで言わぬ内に二人同時に即座に否定された。
 ぴーぴー泣いて白ヤギの後ろへ隠れる黒ヤギ、その首根っこを摘み上げたエルレーンが戦闘時並みに迷いなくキッパリと言いきった。
「花婿が馬鹿ラグナなら、黒ヤギと結婚する方がまだマシよ!」
「‥‥やぎ?」
 突然のプロポーズに目を白黒させる黒ヤギ、負けじとラグナは白ヤギを抱き締めて絶叫する。

「ごめんお、うさみたーん!!」

 ――あれ?
 しかし言いたい事は何となく通じていた。最愛のうさみたんには悪いけれど、この場で選べるのはエルレーンかヤギーズの3択。ならば残っている白ヤギしか選択肢はない。
「ちょ‥‥性別不明の白ヤギなのよ馬鹿ラグナ!」
「私より先に貴様が彼氏持ちになるのが許せんのだ!」
 さあ今すぐウェディングドレスを着ろと白ヤギに迫るラグナ。うさみたんへの不義を詫びながら白ヤギ抱えて壇上へと駆けたラグナは、厳かに置かれていたペアリングを白ヤギの手首らしき箇所へ嵌め込んだ。
「ああっ、白ヤギが新婦になってしまったやぎ!」
「負けてられないわ、私達も、さあ‥‥!」
 エルレーンに迫られ、じりじり後退する黒ヤギは困惑気味に突っ込んだ。
「白ヤギも黒ヤギも、性別不明やぎよ‥‥」

 二組のカップルに宣誓と口付けの時が迫る――
 ――シンロウシンプ ヨ ショウガイノアイ ヲ チカイマスカ――?
 
●タキシードの黒ヤギさん
「ひゃぁぁぁぁぁっ!!!!!」
 絶叫と共に瞼をこじ開けた。
 金縛りにでも遭っていたのか、呼吸さえ止めていたようだ。目を見開き叫んだ途端、漸くまともに息ができるようになって、エルレーンは半身を起こしてぜぇぜぇと呼吸を繰り返した。
「‥‥わ、たし‥‥」
 寝汗で寝巻きがぐっしょり濡れている。相当苦しい夢を見たようだ。湿った胸元を抑えて、彼女はどんな夢を見たのか思い出そうとした。
「え‥‥っと‥‥」
 何だかすごくスッキリしない夢を見たような気がする。だけど詳しい事は思い出せない。モヤモヤした感じ――きっと悪い夢でも見たのだろう。そんな時は思い出さない方がいい。
 気分を変えて、エルレーンはベッドから出て、違和感に気付く。
「‥‥あれ? こんな子、いたっけ‥‥?」

 ベッド脇に鎮座している黒ヤギのぬいぐるみ。
 ヤギだから角があって然るべきなのだが、その黒ヤギは何処か兄弟子に似ている――ような気がする。
「へぇ‥‥よくできてるんだぁ。タキシード、似合ってる♪」
 黒いタキシードを着た黒ヤギのホッペに軽くキスをして、エルレーンは黒ヤギを背中向きにしてから着替え始めた。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ib7455 / エルレーン / 女 / 18 / 白ヤギさん 】
【 ib8459 / ラグナ・グラウシード / 男 / 19 / 黒ヤギさん 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 大変お待たせいたしまして申し訳ありません!
 いつもご用命ありがとうございます。周利芽乃香でございます。

 ヤギーズを巻き込んでの結婚式(?)は、夢だったようですが‥‥何故かヤギぬいが手元に。
 夢か現か判りかねる奇妙なオチは夏だからなのか、彼女が万屋でゲットしたのを忘れているだけなのか、それとも‥‥黒ヤギさんの正体は、エルレーンさん次第なのです。。。
鈴蘭のハッピーノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2013年08月08日

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