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『その宿敵に求める物は 』
君田 夢野ja0561


●星明りの下で

「せっかくだし、帰りにどっか、よって行きへん?」
 始まりは、この一言であった。

 とあるディアボロの討伐依頼。無事、終わらせ、皆帰ろうとした所で、何を思ったのか、亀山 淳紅が、周囲のメンバーを誘ったのである。
「準備できたぞ」
「ん、これでよし、っと」
 マキナが持って来た薪――彼の得物は斧であるからして、それで割ったのだろうか――に、君田 夢野がライターで着火する。
 一足先に、火の隣に座る黒夜に習い、皆もまた、座り込む。

「やっぱ、夏の夜は焚き火ですね」
「それと星空やね!」
 マキナの言葉に淳紅が応じ、空を見上げる。
「見てみてーっ、綺麗な星空ちゃうっ?まさに心歌うっちゅーやつやなぁ!」
 曇り一つない空の下。星はきらきらと輝いていた。
 昔話と未来の話。その何れをするのも、絶好の日だったのである。


●燃え盛る炎

「そう言えば、ここに居るメンバーは全員、『八卦』の誰かしらと、戦った事があるんだっけか」
 夢野の言葉に、全員の表情が、多少苦々しい方向へと変わる。
「‥‥ウチと君田は『地』‥‥カイン。マキナと亀山は『火』‥‥バートだっけか」
「俺もバートとやりあった事はあるんだけどな」
 黒夜の言葉に、やや寂しげに夢野が答える。

「前の俺は、バートを相当憎んでいた」
 思い出すは、岡山に於ける、バートの最初の出現‥‥そして、その際の惨劇。
 全滅を代償として、何とか病院の患者を逃がした物の‥‥彼らを待っていたのは、最悪の結果。
 避難先に於いて、バートの能力で爆弾を埋め込まれた一般人が大爆発を起こし、ほぼその場を全壊させたと言う苦い思い出だ。
「ま、今はもういいんだけどな。復讐なんてクダラナイ、そんな自己満足の為に命懸けになるのは馬鹿馬鹿しい」
 岡山に於ける、八卦たちの総力戦。
 この一戦に於いて、夢野と淳紅は、多大な犠牲――夢野は脇腹を爆破され、淳紅は全身を焼かれ、二人とも長期間の病院生活を強いられた――を払いながらも、一矢報いた。二人の連携攻撃は、バートの右腕をほぼ灰塵同然と化し、さらに重傷を負わせたのだ。最も、最後に他のヴァニタスたちに邪魔され、完全にその命を刈り取るには、至らなかったのだが。
「だから、バートを倒すのは亀やんに任せた!」
 ポンっと、夢野の手が淳紅の肩を叩く。
 岡山の一件以来。夢野が、バートに関わる依頼に参加した事は皆無だ。それは果たして――彼の言う通り、拘りを捨てたからか。それとも――
 その心中を知っているのは、恐らく彼本人のみ。だが、淳紅の肩を叩いた際に浮かべた僅かな、淋しげな微笑が、その一端を、或いは示しているのかも知れない。

「それでも‥‥きっと何があっても自分は、あいつも自分も許すことはできへん。許されたらあかん」
「ああ。‥‥遠慮なく一般人を巻き添えにする、そのスタイルは‥‥認められませんね」
 新たなる惨劇を目の当たりにした淳紅とマキナの胸には、未だ、バートへの憎悪は燃えている。
 ――子供であろうと、それが己の障害となるのならば。その斧は遠慮なく、薙ぎ払った。
 ――子供であろうと、それが己の敵の子ならば。その手は遠慮なく掴み上げ、見せしめのためにと、焼き払った。
 容赦も情けもない。この悪魔を許すことは、彼らには出来ないのだ。
「どんな出自、理由があれど。力ある者に向けて力を振るわず、力無き者を甚振るのであれば、話合う余地はありません」
 つぶやくマキナのその胸には、この凶敵への憎しみと共に。その凶行を止められなかった自分たちの不甲斐無さを嘆く心もまたあるのかも知れない。

「‥‥バートはとにかく、技が無茶苦茶なイメージがあったけど、そんなに凶悪な面もあったんだね‥‥」
 黒夜がため息を付く。彼女だけは直接、バートと戦った事がない。知るのは、報告書に記述されている面のみ。
「実際に戦った人じゃないと、あの感覚は分からないですからね」
 空を見上げるマキナ。
 ――バートの特徴として、己の目標を達するためには如何なる物も利用する、と言う作戦傾向がある。その為には、彼は自らの弱点を補うための技をも編み出す事があり、また己の技を環境と組み合わせて扱う事もある。
「確かに攻撃は苛烈だったけど‥‥どちらかと言えば、純粋なパワータイプではなく、人間のようですね。‥‥元々は人間だったから、当然っちゃ当然ですけどね」
 けれど、最初は殆ど届かなかった攻撃も、最近は届くようになった。
「後はこちらが倒すか。向こうが生き延び続けるかですね。‥‥次は絶対、倒すのみです。斧の腕では俺が上だと、見せ付けてやるまでですよ」
 それを成すためにも、この仇敵の様に、敵の技術を見習う事も必要かも知れないと、マキナは思いを星空に馳せる。
 
「前回は頭突きしてきたしな。‥‥ほんま腹立つ。次絶対頭突き仕返したんねん!」
 未だ傷跡残るおでこをさすり、淳紅が僅かに残る痛みに顔をしかめた。
「もう大丈夫なんですか?爆破まで受けてましたけど‥‥」
「うん、ちょっと痛むだけや」
 心配そうに問うマキナに、自信満々の淳紅が頷く。
 体術、斧術、そして魔術‥‥多彩な攻撃手段を運用し、襲来するバート。
 だが、淳紅が知りたいのは、彼のそんな「攻撃手段」や「技」よりも、もっと深くにある、その根源――
「自分は知りたい。あいつが何の歌が好きで、どう生きて来て、何を失って武器を振るってきたんか。想いも罪も知った上で、自分はバートの炎に飛び込みたい」
 全てを知ったとて、許す事は恐らくできないだろう。
 ヴァニタスが、無数の関係ない人間を巻き込んだ事は、紛れもない事実なのだから。
 だが、それでも知り‥‥そして、知った上で戦いたい。
 それが恐らく、淳紅とマキナの間にある‥‥違い。
「その為にも、強くならんとな‥‥」
「強くなるのに毎度入院するんですか?」
 茶々を入れるマキナに、淳紅の顔が赤くなる。
「そ、それは言わん約束やったやん!!」
 ぽかぽかと可愛らしく叩く淳紅。しかしマキナは知らん振りで更にそれをからかう。
「もう彼女からも許可が出てるじゃないですか。看護婦さんと電話番号交換していいって」
「だからそれは言いっこなしー!」
「ちょ、魔法はやばいです‥‥っ!」
 僅かに爆発音が響き渡る中、炎がゆらゆらと揺れる。


●地を揺るがす者

「落ち着いたか?」
 ふーふーと息が荒い淳紅の頭を、宥めるようにして夢野が撫でる。
「マキナ君も、からかい過ぎ」
「す、すいません‥‥」
 何とかふくくっと笑いを抑えながら、マキナが答える。

「そう言えば、君田さんは、バートを追わなくなった後――別の八卦を追うようになったんですよね?」
 マキナに聞かれた夢野は、苦笑いし――シャツの前をはだけさせ、腹を見せる。
「これが、その結果の一端だけどな」

 そこにあったのは――ほぼ腹を横に一周するような、縫い跡。
「危うく『君/田』になる所だった。‥‥この傷は、恐らく一生治らないだろうな」
「あんな技を使ってくるとはね‥‥」
 技自体を付近から見ていた黒夜が、心配そうに彼を見る。
 その視線を察し、おどける様に夢野は笑う。
「心配は無用だ、黒夜さん。生きてるのでノープロブレム、そういう事にしてくれ」
 苦笑いする黒夜。

 土石を集め、巨大な大剣と化し‥‥それを振り回すヴァニタス。「地」のレオン。
 夢野の腹部に、巨大な傷を刻んだのは、彼が使った捨て身の一手だ。

「あいつも、意外と怒りやすいもんな‥‥」
 初めての遭遇の際、黒夜は彼の配下であるグールに囲まれ、食われかけた。
 それが、一時はトラウマになっていたが‥‥今となっては、憎しみを感じることすらない。
 そう言えば、あのヴァニタスには、同じヴァニタスである兄弟が居たようだが‥‥
「兄弟が居る、ってのは‥‥どんな感じなんだろうなぁ」
 生まれた時に、既に双子の姉は死んでいた。故に、黒夜は兄弟が居ると言う感覚を知らない。
 自然とその目線は、この中では唯一明確な兄弟‥‥『姉』が居る淳紅に向けられる。

「う?うーん‥‥そうやなぁ。何か、偶に騒がしくて喧嘩もするんやけど‥‥家族が一人多い感じかなぁ‥‥」
 上手く言えないのだけど、と付け加え。
 この感覚ばかりは、各家族、各人自身で違ってくるのだろう。故に形容が難しいのは仕方ないだろう。
「そっか‥‥」
 改めて、思考を、ヴァニタス本人へと戻す。
(「毎度、ナイトアンセムで目隠ししようとしてるけど、上手く行ってないなぁ‥‥」)
「ちょ、黒夜さん?周囲暗くなっとる!」
「えっ!?」
 はっとする。どうやら、考え事をしている間に、無意識で発動していたようだ。
 慌ててスキルを中断する。

「あれは怒りに任せて襲ってくるタイプだからな‥‥」
 だが、その技は何れも広域に及び。配下のグールたちが死体に戻った際に爆弾化させる能力と合わせ、面倒な状況を毎度、生み出していたのである。
 土石等、無機物を操る能力は、それ以外にも多数の運用方法を生み出し。
「と言うか、八卦は皆、毎回毎回‥‥面倒で厄介な状況にしてくれるな‥‥」


●全ての力

「他の八卦も、大概能力が厄介ですね」
 マキナが相槌を打つ。
 回復能力をを持っていたり、機械や風‥‥果ては、重力までも操作できる者が居たりする。
「戦いたくないのは、湖と風の二人‥‥かな。ゲームとかで頭を使うの‥‥得意じゃないし」
「ロイはそうだな。俺も同感だ」
 黒夜に答えたのは、夢野。
「岡山の時は幻覚に相当、悩まされた」
 バートの爆発能力と組み合わせ、ロイは幻覚の地雷を作り出していた。
 果てはバート自身の幻影まで作り出し、撃退士たちの攻撃に対する囮としていた。
「一人だけでも厄介な八卦だが、協力し合うとさらに面倒になってくるな。‥‥現在の状況じゃ、そんな事は余り起こっていないのが幸いだけど」
 だが、これからも起こらないとは限らないのが‥‥ぶるりと、軽く体が震える。

 それを振り払うようにして、大きく夢野が手を挙げる。
「考えてても仕方ない。過去は一旦置いておいて‥‥未来に目を向けて、奴らを討つ事を考えようか!」
 その手に宿るは、アウルの炎。
 脇腹に打ち込まれた、炎の爆弾の一撃により、覚醒されたアウルの炎‥‥身に刻み込まれた、炎の刻印とも言うべき物。
 空に向かってそれを掲げ、夢野は口を開く。
「未来は明るくあるべきだ‥‥だから。俺たちはここに‥‥その光を遮る、八卦と言う闇を晴らすと誓おう!」
 他の三人が、夢野の手の横に合わせる様に、拳を付き合わせる。

「無事終わったら、院長さんの墓に、謝りに行きたいな。嘘ついてごめんなさいって」
「ああ、その時は皆一緒だ。そして、謝るだけではなく‥‥その敵を取ったと、院長先生に報告するんだ」
「院長先生だけではなく、あいつらの犠牲になった全ての人々に、報告しないとな」
「ああ、そいで、先輩の驕りで焼肉か寿司食べいこーや!」
「亀山先輩、それ明らかな死亡フラ――」
「フラグ言うなし!もーっ、約束!約束やで!」
 マキナの突っ込みに、明らかに先輩らしくない淳紅が、ぷーっと頬を膨らませる。
 そして、彼は、星空を見上げ――
「これは絶対の約束や! お星様も見てるから、破ったら隕石降ってくんねんからな!」
「――皆、絶対に無事に‥‥勝利して、帰ってくるんや!」
 極上の笑顔を浮かべ、腕に僅かに力を入れ‥‥淳紅は周りの仲間たちと、拳をぶつけ合う。
 ぱちぱちと、火花がキャンプファイヤーから跳ね上がり、流れ星が一筋、天蓋を横切る。
 それはまるで、彼らを祝福するかのように。

「おい、お前ら、何やってんだ。次の依頼来てるぜ?」
「あ、すいまへん、すぐいきまー」
 学園から迎えに来たのは、いつも八卦が関連する依頼で彼らを案内している、隻腕の先輩。
 とてとてと言う音が似合いそうな感じで駆けていく淳紅。
 苦笑いしながらそれについていくマキナ。
 手に宿る火を消し、その後にキャンプファイヤーもまた消して、続く夢野。
 最後に立ち上がり、その後に続こうとした黒夜だったが、闇にて行動する事に慣れていた彼女の五感は、その僅かな、異様な気配を察する。

「誰だ!?」
 周囲を警戒する。
 しかし、何も反応は無く‥‥怪しげな気配は、消えうせていた。
(「勘違いか‥‥」)
 首をひねりながら、黒夜もまた、皆に続き、学園へと戻っていく。

「危なかったですね‥‥」
 闇に包まれた中。銀髪に白スーツの男の姿が現れる。
「しかし、面白い話でございました」
 誰にでもなく、男は一礼し‥‥その姿は空気に溶けるようにして消え去る。

 その後、帰途に於いて、淳紅が別の八卦参加者を見つけてうれしさの余り飛び掛ったのだが‥‥それはまた別のお話である。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ja7016/マキナ/男/20/阿修羅
ja2261/亀山 淳紅/男/18/ダアト
jb0668/黒夜/女/12/ナイトウォーカー
ja0561/君田 夢野/男/18/ルインズブレイド


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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どうも、剣崎です。
今回は心情系に分類される物でございましたので、剣崎の得意ジャンルとは異なる事になりましたが、何とか頑張って見ました。
如何でしょうか。
心情系は如何に元の意を壊さずにアドリブを差し込むかに非常に悩みます。問題ないと思って頂けたのであれば、幸いでございます。
また、機があればよろしくお願いします。
流星の夏ノベル -
剣崎宗二 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年08月08日

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