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『海水浴に行こう!〜ある石化娘の場合〜 』
セレシュ・ウィーラー(mr1850)


夏だ。水着だ。海水浴だ。
「ちょ、ちょっとぉやめてよぉ」
「いーじゃんせっかく海来たんだし!」
浜辺。少女たちが水着姿でじゃれあっている。
身体にかかった後にぱしゃぱしゃと跳ね返る水と仕返しにと応戦する少女の腕が白く映った。
ここはどこかの海、昨今の破滅的な雰囲気を跳ね返すような強い日の光と心地よい暑さがあなたを迎える。



セレシュ・ウィーラー(mr1850)。ユグドラシル学園で幻想装具学を学ぶ、ゴルゴーンの少女だ。
今回の海水浴は友人たちと予定していたものだった。水着に着替えた彼女らがぞろぞろと浜辺に繰り出していく。
「ねえねえ、新しい水着にしてみたの!似合う?」
「めっちゃええやん、可愛い」
「ありがと〜、セレシュのも可愛いと思うよ!」
水着を新調したらしい友人の一人に話しかけられ、セレシュはにっと人懐っこい笑みを作る。
セレシュもその友人も、お世辞でなく本当に可愛い。
各々が日焼け止めやオイルを塗り終わってから、誰かが言い出したのかは知らないけども、ビーチバレーに興じることに。
途中でメンバーを変えながら、試合は勝っても負けても歓声の途絶えることはなかった。
何試合したろうか、軽く疲れてきたところでスイカ割りを楽しむことにしよう、と。
満場一致で賛成多数、そのまま流れで敢行することになった。
何人かが暗中模索のなかスイカを割ることに挑戦し、失敗していく。
そうこうしているうちにセレシュの番になった。目隠しで真っ暗な道を友人たちのサポートで歩く。
「そこ、そこ!」
と、ちょうどこのあたりであるという声援を受け取って、くるくると方向を修正する様は、友人の笑いを誘った。
棒の先でスイカの丸い感触を確かめて位置を確認し、そこに思いっきり振り下ろす。
気持ちいいくらいぱっくりと割れたスイカは、赤い汁を広げて砂浜に転がった。
セレシュが目隠しを外して見てみると。たしかに、しっかりと割れているようだ。
それを友人達で分け合って食べるのもまた楽しい。

一通りの遊びを終えてひと段落、といったところで。一行は昼食をとることにした。
海の家でラーメンというのは定番だけども、皆で食べるものは味はどうであれおいしいものだ。
食べている間これから何をするか軽く決める。ある友人は遠泳へ、またある友人は浜辺で。
中には先ほどのビーチバレーのリベンジを行おうという少女もいた。
「セレシュは行かないの?」
と、遠泳に行く少女たちの一人が振り返って首を傾げる。
「せやな、うちは翼が水吸ってまうと大変やから近くでのんびりするわ」
と言うと、セレシュは水面にフロートマットを浮かべて、その上で寛ぎだした

浜辺で遊んでいた友人の一人である少女が、マットの上でのんびりとするセレシュを見てちょっとした悪戯心が働いたのだろう。
じりじりと近づいていき、セレシュの横たわるフロートマットに手をかけて、くるりと反転させた。
滑り落ちたセレシュ。黄金の翼は海水で濡れて重くなっている。
入水する時に塩辛い水が口の中に入ったようで、セレシュは少し咳き込んだ。
「なにすんねん!」
「きゃっ」
抗議しようとしたその拍子に眼鏡が外れ、裸眼のまま彼女を見てしまった。
最初はつま先から、インクを垂らしたようにじわじわと石の灰色が広がって硬化していく。
灰色はあっという間に全身に広がり、少女は感覚のなくなった手足のせいでバランスを崩して海に倒れていった。
セレシュが午後の遊泳に選んだのは立って足がつく程度の浅瀬だったが、それでも倒れこんだ友人を沈めるには十分な深さがある。

「あっ……ま、またやってもーたぁ!?」

セレシュが気がつく頃にはもう遅く。水中に少女の石像が一体出来上がっていた。
二次被害を防ぐためにも、セレシュは慌てて眼鏡をかけ直してから沈み行く少女を支える
「うっ……お、重い……」
今までに事故で人を石化させてしまったことはそれなりにあったが、海に沈んだ友人を運ぶなんて事態は少ない。
石と化した少女の身体はセレシュが抱えるには重すぎた。
しょうがないと腕を持ち、浮力を無視して沈み行く身体を引きずり出す。
滑らかで弾力のあった柔肌も、今は硬く無機質な物質に変異している。
浜辺にずるずると轍のような跡が残っては、波に流されて消えていった。

さて、石にしてしまった以上はセレシュが責任を取って元に戻すべきだったが。
「こりゃアカンなぁ……」
少女は倒れこんだ時に水を飲んでしまったようだ。ひっくり返せば石像の口から水が零れてくる

石像はセレシュのマットをひっくり返したときそのままのポーズをとり、表情は呆気に取られているように感じられる。だいぶ引き摺ったせいか足……主にかかとの部分はところどころ欠けてしまっているが、まあ接着せずに戻しても問題はないだろう。
どこかコミカルなその様子をしばらく衆目に晒しておいたことを彼女が知ったら怒るだろうか。
しかし、今戻してしまったら彼女は溺れてしまう、とセレシュは溜息を吐いた。背に腹は変えられないというものだ。
水系の魔術に明るい友人は遠泳に行ったっきりだ。戻ってくるにはだいぶ時間がかかるだろう。
その友人を待つ間、セレシュはこの少女の石像と二人で浜辺に座り込んでいた。
時折売店に飲み物を買いに行くぐらいで、あとは砂浜にシートを敷いて寝そべってみる。
「たまにはこういうのもええな」
ふと石像の方を見てみると、日の光で熱されて湯気が立っている。
セレシュが好奇心のまま手を伸ばしちょん、と指先が触れた瞬間に反射で手を引っ込めるくらいには、熱くなっていた。
今、彼女のお腹の上に卵を落としたら目玉焼きが作れそうだ。

「ちょっとセレシュ、またやっちゃった?」
買ってきた飲み物の中身も半分になる頃、遠泳に行っていた救世主が戻ってくる。
救世主こと、水系の魔術を使いこなす友人は面白がって石像に触れようとして、先ほどのセレシュの二の轍を踏んでいた。
友人はそれで石像が造られてからどれほど時間の経っているのか理解し、目を丸くする
「なんで戻してないの!?」
「身体ん中に水入ってもうてな、すぐには戻せんの」
「なら早く言えばよかったのに……と言いたいところだけど、しょうがないか。じゃ、水抜くからちょっと待ってて」
と、友人は軽く詠唱をしてから石像と化した少女に術を為した。
奥まで入り込んでいた海水が見る見るうちに抜けていく。
「もう大丈夫、戻してあげて」

セレシュが石化を解除するのは、これで何回目になるだろうか。
こぼれた灰色のインクは吸い上げられ、石像だった少女に色が戻っていく。
固形化から自由になり元気よく起き上がった少女はきょろきょろとセレシュと友人の両方を見やってから、またセレシュに焦点を戻し頬を膨らませた
「ひどいよ!」
「そっちかてうちのマットひっくり返したやん、お互い様やで」
「だからって石にすることないじゃん!」
「ははは、悪かった、悪かったから叩かんといてや」
冗談交じりの言いあいは、三人に向かって走ってきた少女らによって中断された。
心配したよ、とか、もう遅いし帰ろうよ、とか。口々に放射される言葉をなんとか聞き分けつつ、帰り支度に着手していった。
二人は心配をかけたことを申し訳なく思いながらも、今日の思い出をしっかりと心に刻み込む。
来年もまたみんなで海に行こう。セレシュはふとそんなことを思った。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【mr1850/ セレシュ・ウィーラー / 女 / 外見年齢15歳 / ゴルゴーン】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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★セレシュ・ウィーラー 様

発注の際こちら側のミスで困惑させてしまい申し訳ありません。
精一杯書かせていただきましたが、ご希望に副うようなものになったでしょうか……
発注ありがとうございました。
流星の夏ノベル -
黒木茨 クリエイターズルームへ
学園創世記マギラギ
2013年08月09日

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