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『乙女たちの夏☆実習 』
セレシュ・ウィーラー(mr1850)


「おかしい!」
――ざしっ!
 夏の日差しの森の奥にそんな鋭い音が響いた。
 じじじ、と周りの木々で響いていた蝉時雨も一瞬止まる。
「絶対おかしい。何であたしら折角の夏休みをエンジョイせずにこんな穴掘りやってんだ」
 ユグドラシル学園の赤毛の女子生徒が今しがた地面に突き刺したスコップに足を乗せてぐりぐりやりながら怒りを爆発させている。白い大層服姿が強い日の光と影の中、眩しい。
「せやね〜」
 セレシュ・ウィーラー(mr1850)もここにいた。先の女友達と同じく白い体操服で、スコップ持って地面を掘っている。
 一体、何をやっているのだろう。
「仕方ないじゃない。学園の発掘調査実習なんだから」
 別の女友達が麦藁帽子を被った頭を上げて至極真っ当なことを言う。
 そう、授業の一環なので仕方ない。
「ないわ〜。こんな猛暑日に発掘調査実習なんて、たまらんわ〜」
 赤毛の女子生徒は首に回したタオルでぐいと汗を拭うとぐだぐだいいつつスコップを振るう。
「せやね〜」
「って、セレシュ。あんたさっきからそればっかりじゃない!」
 体操着の胸元をぱたぱたさせつつ生返事を繰り返すセレシュ、ついに突っ込まれた。
「せやかて仕方ないやん〜」
「でもセンセが説明したよ。森の中にこんな広間がぽつんとあって石畳の道もある。遺跡があってもおかしくない。学術的に大変興味深いって」
 麦わら帽子の女友達がそう言ってなだめる。
「まあ、ただの土掘ってるわけじゃないんならいいんだけどね。ほら、セレシュ、もうちょっと頑張るわよっ!」
「せやね〜」
「って、セレシュ。あんたまた〜っ!」
「せやね〜」
「大丈夫、セレシュちゃん? 相当へばってない?」
 そんなこんなでもうちょっと頑張るが、学園の実習発掘程度で大発見などもあるわけもなく。
「はい、今日の実習は終了で〜す」
「終わったー」
 発掘終了の合図が、この実習中一番の歓声だったとか。


 その後、発掘現場からかなり離れた森の中。
「あまり知られとらん泉のようやし、ヘーキやろ」
 ぱさり、と臙脂色のブルマが枝に掛けられた。同じく枝に掛けられた着替えのサマードレスが隠す向こうで、ちゃぽんと水に漬かる音。
「キレーな泉やなぁ〜。この水なら翼とか髪についた埃もよう落ちるわ〜」
 青い瞳を上品に伏せるセレシュ。瞳白く細い腕が長い金色の髪を丁寧になでる。
 ちょうどいい岩があるので胸と腰を片手ずつで隠して移動し、本格的に腰まで泉に漬かる。強い日差しの中の作業で火照った体に、水の冷たさが心地良い。
 と、ここで話し声。
「おー。素晴らしい泉があるじゃない」
「わー。セレシュちゃんも連れて来ればよかったね〜」
「ん?」
 名前を呼ばれたような気がして岩越しに声のするほうを見る。
 するとっ!
「後からみんなも来るって言ってたから、きっとセレシュも……」
 麦藁帽子の女友達が、帽子を取ってタオルで前を隠している。
「案外、もう来て水浴びしてるんじゃ……」
 赤毛の女友達が身を屈めて白い足を踏み換え今まさに臙脂色ブルマを脱ごうとしていた。
 が、それぞれの言葉はそれ以上続かない。
「あちゃ〜っ。またやってもうた」
 セレシュ、眉間に指を沿え痛恨の様子。
 そう、 自らの能力【石化の視線】を抑制する眼鏡状魔具を掛けていないのだ。あまりの開放的な泉の光景に、身も心もすぽぽぽ〜んと開放的になっていたのだから仕方ない。
 そしてこの一瞬がさらなる悲劇を呼ぶ。
 ぐらり……。
「あっ!」
 セレシュ、気付いて右手を伸ばすがもう遅い。
――がしゃん。
 バランスが悪い時に石化しただけに、転倒して砕けた。
「あかんあかんあかん〜っ」
 慌ててタオルを手に駆け寄るセレシュ。
 まずは麦わら帽子を被っていた女友達に駆け寄る。砕けたのは麦藁帽子と前を隠していたタオルのみ。破片が大切なところをことごとく隠している奇跡に恵まれている。
「日ごろの行いがええんやろーなぁ」
 とか何とか言いつつ持参したタオルを腰に巻いてやり、胸はちょっと迷った末自分の手の平で隠すと同時に出っ張りに手を掛けた状態に。ずりずりと木立の中に引きずっていく。何とか手の平に収まる大きなふくらみ。「胸、ひんやりしとるな」とか呟いたところで彼女の表情に気付く。石化時にセレシュに気付いていたのだろう。笑顔で知り合いを見た喜びに溢れている。ずりずり引きずりながら「ホンマ、すまん〜」と心の中で両手を合わせておく。
 そして、赤毛の女友達。
「下着姿なんで後回しにしたんやけど、すまんなぁ」
 こちらはなぜか足首とふくらはぎに絡んだブルマは砕けずショーツもややセーフで、上着のみくだけてインナーがむき出しになっている。下を向いていただけにふわふわしていた体操服の上着は相当脆かったようで。
「とにかくこっちに隠して、と……」
 曲げた腰の部分を組み体操のように腰に抱えて、ずーりずーり。かかとやブルマがショベルのように地面の砂を削っているがそれはそれ。屈んだまま「あれ?」と上目遣いしている表情は可愛いが、この格好では滑稽でしかなく。
「あとは、服の破片を集めて魔法で修復して……」
 とたた、と戻って散乱した服やタオルの破片を集め、修復修復。「あ。このリボ゛ン、下着のやな」とか、「ふうん、シルクなんやろうけど、石になったら肌触りはコットンと変わらんのやな〜」とかぶつぶつ言いながら。というか、いろいろこの機会にべたべた触っているがはたしていいのか?
 とりあえず、服を復元して石化も解除。
「ちょっとセレシュ、ブルマの中がじゃりじゃりしてるじゃないっ!」
「ひどい。私、裸のままだったのね……」
「ホンマ、すまんて。このとーりや」
 とりあえず服を着た二人が怒り、セレシュはぺこぺこ。
 改めて裸になって泉に入った沐浴では、背中に水を掛けるなど侍女よろしく二人に尽くすのだった。


 そしてキャンプに帰って、皆で協力して夕食作り。
 飯盒で米を炊いて、カレーを作って。
「うわ、すごい水蒸気やな」
「セレシュちゃん、眼鏡取ったら駄目よ?」
 カレーを覗いたセレシュの眼鏡が曇りつるに手を掛けるが、麦わら帽子の女友達がその手を押さえた。
「そんな殺生な〜」
「火のあるところで石化騒動なんて起こしたくないだろ? 曇ったまま我慢しろって」
 赤毛の女友達がここぞとばかりにセレシュを苛めたりも。
「おおい、キャンプファイヤーするって〜」
 別の女子生徒たちの誘う声がした。
 時は夕暮れ。
 一番星が輝き始め、キャンプファイヤーの炎がうねりつつ天に昇る。
「うわあっ」
「発掘調査合宿って、あまり気乗りせんかったけど……」
 燃える炎に照らされつつ見惚れる二人の友人の顔を見て、セレシュも改めてキャンプファイヤーを見る。
「少しは夏休みっぽいか」
 セレシュも眼鏡に炎を映しつつ、来て良かったと感じた。
 キャンプファイヤーを囲んで夕食を食べてちょっと遊んで、そして解散。
 もう、結構夜が更けた。
 あれだけ燃え盛っていた炎も、いまはちろちろとその余韻を残すのみ。
「あ〜。後はテントに戻って寝るだけか〜」
 赤毛の女子がごろんと草むらに寝転がる。
「せやね〜」
「ふふ。セレシュちゃん、今日はそればっかりね」
 セレシュと麦わらの女の子もごろん。
「わ。今まで気付かんかったけど、満天の星じゃない」
「わ〜っ、すご〜い。ねねね、セレシュちゃん、一緒に見よっ。ロマンチックよ?」
「せやね……やなくって、女同士で見てどうすんねん」
「だったらセレシュが男になればいいじゃない。こんなおっきなけしからん胸はタオルでこうやってぎゅーって潰して」
「苦しい苦しい、堪忍や〜」
「あははっ。セレシュちゃん、ようやく生返事以外のことゆってくれたね♪」
「それはえーから助けてや〜」
 川の字に寝転がったポジションから、どったんばったん。
「こら〜っ。明日も早朝から体操と発掘実習があるんだから、早く寝なさ〜い」
 遠くで注意する先生の声。
「うへっ。やべえ」
「戻るしかあらへんな〜」
 赤毛の娘とセレシュが急いでテントに退散しようとする、その背後で。
「星も……もしかしたら、太古の遺跡なのかも」
 麦わらの娘が改めて満天の星を仰いで呟いていた。
「はぁ?」
「あ。だって、昔の人もきっとこうやって星を見上げていたはずよね? もしかしたら、星に独自の名前を付けて、星々を結んで独自の星座を描いてたり……」
「土を掘るんやのうて、夜空を見上げて星空を掘り返していたい気分やね〜」
「お、セレシュうまいこと言うじゃん」
 立ち上がったまま三人でロマンチックに盛り上がるが、遠くから再び「聞こえましたか〜?」とか先生の声。
 うへえ、とテントに退散した。
 そしてまさかの悲劇が起こるッ!


 テントの中に明かりが灯り、三人娘の影が映っていた。
 寝袋を広げる姿の横で、荷物を整理する影が。
「あれ?」
 その影が止まった。
 正座したままぱんつを掲げる陰がテントの幕に映る。
「なんか昼間にはいてたシルクのショーツ、前のリボンが逆になってる……」
「そういえば私の麦わら帽子も、少し形が変わってるようなのよね」
 隣で正座する影は帽子を掲げていた。
 その二つの影が同時に、ぐりんと後を振り返る。
 ぎくっ、と肩を竦める影はもちろんセレシュ。
「い、いやほら、あの時は裸だったり下着姿だったりで急いどったんやし……」
 遅い。
 すでに二人の影は立ち上がり、両手をわきわき動かしてるぞ。
「セレシュのぱんつのリボンも逆にしたる〜っ!」
「セレシュちゃんのばか〜っ!」
 どったんばったん。
「こらーっ!」
 テントの外から響く、先生の怒鳴り声。びくっ、と縮こまる三人の影。
 反省してすぐ静かになり、明かりが消えた。
 が。
「……その、ごめんな?」
「いいよ、もう」
「セレシュちゃんとは友達だもんね」
「しっかし、ホント男に縁がないなぁ」
「しっ。センセの巡廻や」
――ざっ、ざっ……。
 し〜ん。
「……なんか、寝苦しい」
「せやな……って、ちょい、うちの方に転がってこんといてえな」
「セレシュちゃん、胸を押し付けてこないで〜」
――ざっ、ざっ……。
 し〜ん。
「セレシュ、寝たの? 寝たよりネタ披露してや」
「おもろないこといいつつほっぺつんつんせんといてぇな」
「すー、すー」
――ざっ、ざっ……。
 し〜ん。
「……ねえ、セレシュ。この娘、ホントに寝たのかな? タヌキ寝入り?」
「髪の毛で鼻くすぐってみよ。ちょいまってな」
「……くしゅん。ひっどい、セレシュちゃん。本気で寝ようとしたのに〜」
――ざっ、ざっ……。
 し〜ん。
「……ええ加減、気合い入れて寝るで!」
「おおっ!」
「こんな調子で明日、大丈夫かなぁ?」
 大丈夫じゃなく、睡眠不足で三人ともぐだぐだだったという。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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mr1850/セレシュ・ウィーラー/女/15(外見)/ゴルゴーン

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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セレシュ・ウィーラー 様

 いつもお世話様になっております。
 そういえば久し振りの石化騒ぎのような?(笑)。
 そして最後は中盤の見せ場で配した伏線を回収しつつぐだぐだに。最近本当に寝苦しいのが影響していますというのは内緒です。

 では、楽しいご発注ありがとうございました。
流星の夏ノベル -
瀬川潮 クリエイターズルームへ
学園創世記マギラギ
2013年08月16日

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