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『一本の宿命の糸 』
閻羅(ic0935)


「ったく、あいつらどこ行った。しかし、これが祭ってもんか……」
 親友に誘われ、とある神社の祭にやってきた閻羅だが、今はひとり。どこかで仲間とはぐれてしまったのだ。彼は仕方なく、来た道を戻る。
 誰を探せばいいのか、どの辺まで行けばいいのか。だいたいの当てがあるから、この苦労も面倒とは感じない。屋台も実に華やかで、行灯や提灯の火は、まるで閻羅に道を示すかのように明るかった。
「もしや、食い気に押されたか?」
 おぼろげな光に照らされれば、どんなものも魅力的に映るやも知れぬ。青年はそこらの店を覗き込むが、客引きの声は意に介さない。適当にはぐらかして、先を急ぐ。


 この時から、宿命の糸が張り詰めていた。キリキリ、キリキリ、と……

 このまま堂々巡りになるのはゴメンだと、閻羅は人間の顔も見るようになった。親友はいずれも恵まれた体躯を持つが、こうも人が多くては見分けがつかない。やはり、見るべきは顔なのだ。
 彼は不意に、小麦色の体をすり抜ける夜風を感じ、少し戸惑った。心の底に刻まれた記憶が、瘴気を纏った森の奥を呼び覚ます。人の声、雑踏、明かり、そして己が心。すべてを薄暗く彩る、忌むべき記憶……閻羅は目尻を上げながら「チッ」と舌打ちし、何度か首を振る。そして静かに目を瞑り、ゆっくりと開く。すると、見える景色は色を帯び始め、徐々に明るさを得た。
 しかし、ある一角だけ漆黒のまま。閻羅は自然とそちらに目を向ける。それは人混みの向こう側を移動する「女」だった。彼女は永久の闇を模した浴衣姿で歩いている。
「ま、まさか……」
 閻羅は思わず目を見張った。その女、見覚えがある。いや、しかし……彼はそのまますれ違うも、疑念を晴らすべく振り返る。しかし、その時には姿は消え失せていた。
「……いや、有り得なくもない、か……」
 彼の声は、戸惑いに揺れる。それを知るためには、再び過去を呼び覚ますしかなかった。それがいかに、不本意であろうとも……


 宿命の糸は、まだ張り詰める。キリキリ、斬リ、斬リ、ト……

 閻羅の胸に、過去の故郷の様子が浮かび上がる。
 祭の明るさは煌々と燃える炎と化し、人々はアヤカシによって冥土へと蹴り出された愛すべき者たちへと姿を変えた。
 崩れ燃える屋敷の奥には、血濡れた刀を持って立つ女の姿があった。その足元にはふたつの遺体……それは紛れもなく、父と、兄。冷たい骸と無感情な刀は、滴る血で繋がっている。
 それを持つ女は、どんな顔をしていたのだろうか……その場を去った彼には見えず、また幼き頃の記憶はたどれず。いよいよ憎悪が煮えそうな頃、近くにあった篝火の爆ぜる音で、閻羅は「ハッ」と我に返った。
 その後の記憶は、冷たい風が呼び覚ましたアレへと繋がる。故郷から無我夢中で逃げ出したはいいが、気づけば魔の森へと入り、この世の地獄を彷徨っていた。ここより出でしアヤカシの凶行で故郷は滅亡したかと思うと、声にならない無念が幼子の胸を締め付けた。
 その後、運よく開拓者に救われたが、閻羅は親から授かった名を、そして修羅である象徴をも捨てた。すべては今を生きるため、と割り切っての行動だったが……
「もう、これには構うまい」
 閻羅は鬱々とした気持ちを振り払うかのように首を振り、親友探しに戻ろうと踵を返す。気づけば、よくわからぬところを彷徨っていた。元の道に戻らねば……彼は再び、歩みを進める。


 宿命の糸はゆっくりと弛み、少しずつ弾ける。キリキリ、キリキリ……

 あれから親友探しに専念しようとしても、どこか心に靄がかかった感じになっていた。無論、こんな状態で見つけられるわけもない。
 閻羅は祭の中を彷徨っていることに、わずかだが苛立ちを感じ始めていた。雑踏はその耳を塞ぎ、人混みは視界を遮る。彼の胸をよぎった記憶は、それほどまでに大きな傷であった。こうなると人探しどころではない。これは一服やむなしと、大きな篝火の近くに腰を下ろそうとした。
 その刹那、篝火の音と熱、そして人混みの声をひときわ大きく感じた。
 身を焦がすほどの熱は停滞する今と昔を焦がし、音は今の自分への目覚めを導く。しかし、人混みから聞こえた声は、それらに相反する言葉に聞こえた。それは、己を呼ぶ声。それは縋るような少女の声である。
「気のせい、か……」
 閻羅は懐かしさを感じたが決して振り向かず、その場から立ち去った。ただ進むべき、前へ進むべき。そう言い聞かせるように、祭の雑踏を縫うようにして歩く。
 今、自分には親友がいる。過去に囚われる必要はない……彼は意を決し、まるで未練を振り切るようにして、その場を去った。


 その気持ちに応じ、宿命の糸はまた張り詰めていく。
 宿命の糸が導く先には、いったい何が待っているのだろうか。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 ic0935 /   閻羅   / 男 /  22  / サムライ


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、市川智彦でございます。
この度はご発注いただきまして、誠にありがとうございました。

以前納品させていただいた作品に関連付けて、とのことでしたが、
できる限り、彼らしい描写を盛り込んでみましたが、いかがだったでしょうか。
またの機会がございましたら、ぜひよろしくお願いします!
流星の夏ノベル -
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舵天照 -DTS-
2013年08月22日

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