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『流星の夏ノベル 〜セレシュ・ウィーラー〜 』
セレシュ・ウィーラー(mr1850)

 耳を澄ませば聞こえてくる蝉の声。
 息を吸い込めば胸に届く潮の香り。
 瞼を開くと飛び込んでくる色鮮やかな景色。

――夏到来!

 いざ行かん、夏の思い出作りに!!

 * * *

 豊かな気候と自然に恵まれた平行世界『アトラス』。この世界には幾つかの都市が存在し、その中の1つ『アクロポリス』と呼ばれる都市には名物となる物が沢山ある。
 ユグドラシル学園に通うセレシュ・ウィーラーは、夏休みの時間を利用して、このアクロポリスに足を運んでいた。
「あっついわぁ。なんやのこの暑さ」
 ユグドラシル学園も夏真っ盛りだが、それ以上に夏らしいこちらの気候にゲンナリする。
 セレシュは自らの能力を抑えるために掛けている眼鏡の位置を整えると、柔らかな動作で額の汗を拭った。
「眼鏡、外れんように気ぃつけんとダメやね」
 これが外れてしまうと大惨事だ。
 セレシュは小さく息を吐くと止めていた足を動かし始めた。
 彼女が目指すのはアクロポリスの中央にあると言う噴水広場だ。幸いなことにこの都市は碁盤の目のようになっており迷子にはなりにくい。
 それに道の間の至る所に水路が設置されていて、その源流を辿れば都市の中央に出れるのだ。これならば、余程酷い方向音痴でもなければ迷うこともないだろう。
「ああ、あれやね」
 ある程度進んだ所で、ようやく噴水が見えてきた。となれば目的地はもう直ぐだ。
 セレシュは最後の気合いと言わんばかりに足を速めると、噴水広場に足を踏み入れた。
 その瞬間、彼女が目指していた看板が飛び込んで来る。

――アクロポリス観光案内所『コンビーニ』。

「あそこやな」
 ようやく着いた。
 この平行世界を過去に訪れた学生から事前に聞いていたのだが、この都市には周辺の案内をしてくれる場所があると言う。それがここ『コンビーニ』だ。

 カラン、カランッ。

 扉を開けると軽やかな鈴が鳴り響く。と、そこへ鈴音に負けない軽やかな声が響いてきた。
「いらっしゃいませ、ようこそコンビーニへ♪」
 看板娘よろしく然として姿を現したのは、コンビーニの名物案内人コンビ・ニーアだ。
 彼女は緑の長い髪を背に流したまま、黒のセパレート型の水着を着ている。その縁と胸元には緑色のレースとリボンがあるのだが、ちょっと待とうか。
「何で水着やねん!」
 まったくもってその通りである。
 セレシュは観光案内所の扉を開いたのであって、海や川、ましてやプールの扉を開いた覚えもない。
 けれど目の前のコンビは水着姿と言う、室内ではあるまじき姿だ。けれど彼女はそんなツッコミもなんのその。
 笑顔でセレシュに駆け寄ると、嬉しそうに顔を寄せてきた。その仕草にセレシュの足が一歩下がる。
「驚かれましたか? 今年は特に暑いので、所長さんに許可をもらって水着可にしてもらったんです♪」
「室内で水着っちゅーんは不自然やろ」
「そうですか? とっても涼しいですよ♪」
 そりゃ、それだけ布が少なければ涼しいだろう。とは言え、暑いのは確かだ。
「まあええわ。それよかさっきの言い方やと、アトラスにも四季があるん?」
「アトラスに四季……あ、お客様はなんたら学園の学生さんですね! そうなんです。アトラスには四季があって、その時々で色々な表情が見れるんですよ♪」
 ほら! とコンビが広げて見せたのは、アトラスの四季を描いた絵だ。その枚数はかなりな物だが、確かにその絵からは四季が見てとれる。
「今は夏なのでどこも緑が綺麗です。青々とした緑が夏の日差しを反射する姿なんて、思わず火を吹きたくなるくらい素敵なんです♪」
 火を吹くかどうかはさて置き、確かに濃い緑が日差しを受けて輝く姿は綺麗だろう。
「おススメのスポットはあるん?」
「この季節におススメの観光スポットでしたら、ここなんてどうでしょう♪」
 そう言ってコンビが広げたのは、どこかの湖の絵だろうか。中央に遺跡らしき物も見えるが……。
「湖に沈んだ遺跡やろうか。綺麗そうやけど、遺跡があるんやったら中には入れんやろ?」
「水質調査も済んでますし、安全に遊ぶことが出来る遺跡です♪ ちなみに遺跡はカタコンペと言いまして、以前は内部に入る事も出来たのですが……あはは、いろいろあって今では破壊されて湖の底に」
 笑うことではないのだが、コンビは何かを振り切る様に明るく振る舞っている。その様子に引っ掛かりを感じながらもセレシュは頷いた。
「ではここに案内して下さい」
「畏まりました! 湖上遺跡カタコンペ温泉郷に1名様ご案内〜♪」

  ◆◇◆

「コンビさん。1つ気になることがあるんやけど」
 観光案内所でコンビが貸し出してくれた水着に着替えながら、セレシュは出発前に彼女が言っていた言葉を思い返す。
「ここがカタコンペって遺跡なんはわかったけど、温泉郷ってどういうことなん?」
 確かにコンビは『湖上遺跡カタコンペ温泉郷』と言っていた。先程の絵を思い返す限り湖の遺跡であることは間違いないだろうが、温泉郷とはこれいかに。
「これも説明すると長くなるので割愛しますけど、ここの水質調査に来たとき、そちらの学生さんが間欠泉を発見して温泉を出してくれたんです」
 それからは温泉産業も発達して、今では立派な観光名所なんですよ♪ と笑顔で説明するコンビにセレシュは感心したように目を瞬く。
「なんや、ここの遺跡は災難まみれやけど良い感じに再生してるんやな」
「転んでもただでは済まさない! これが私の心情なんです!」
 トンッと無い胸を叩くコンビ。その彼女が浮き輪を取ろうと身を屈めた時だ。
 セレシュの目に覚えのある物が飛び込んできた。それは龍の鱗。厳密に言うと龍の逆鱗だ。
「コンビさんは龍族なんやね」
「あ、見えちゃいましたか!?」
 慌てて首を隠す彼女に笑って頷く。
 セレシュらユグドラシル学園の生徒からすれば、他の種族の者など見飽きている。
 現にセレシュ自身も人間ではない。
 彼女は変化の魔術で変えている髪を本来の姿に変えると、それを金色の翼と共にコンビに見せた。
「うちはゴルゴーンいう種族やねん。元は遺跡の守護をしてたんやけど、いろいろあって今では学生生活を謳歌してるんや」
 どや? そう言って見せられる髪と翼にコンビの目が吸い寄せられる。それに伴って紅潮してゆく頬は、彼女が興奮している証だろう。
 コンビは満足するまで彼女の髪や翼を眺めると、ほうっと息を吐いた。その瞳が夢見がちに揺らいでいるのは気のせいではないだろう。
「えっと……コンビ、さん?」
 大丈夫だろうか。そう目の前で手をヒラ付かせた瞬間、セレシュの手が凄い勢いで取られた。
「凄いです! セレシュ様、キラキラしてて太陽の神さまみたいですよ! て言うか、神様です!!」
「何断言しとん!」
 幾らなんでも話が飛躍し過ぎである。
 けれど当のコンビはそんな事などお構いなしに大興奮のまま続ける。
「セレシュ様がいた遺跡はどんな感じなんでしょう? やっぱりゴーレムとかがいて、侵入者を狙撃するんでしょうか? あとあと、セレシュ様はその翼で飛んだりできるんですか? 私は龍化すればできますよ!」
「ちょ、待っ……落ち着くんや。ここ足場悪――」
 ジリジリと迫るコンビに、セレシュの足が下がった。その時だ。

 どっぼーん☆

 湖上に盛大な飛沫が上がり、キラキラと光の粒が舞い落ちる。それを見たコンビの目が見開かれ、その直後には――

 どっぼーーーん☆

 もう1つ、盛大な飛沫が上がった。
「セレシュ様、大丈夫ですか!!」
 落ちたセレシュを追い駆けて湖に飛び込んだコンビが、浮き輪を着けたまま駆けつける。
 それを視界に留めながら、セレシュは湖に落ちた反動でずれた眼鏡を直していた。もしこれが外れたりしたら大事である。
「コンビさん、もう少し落ち着いた方がええで。その見た目で龍族やったら相当な年のはずやろ?」
「へ?」
 突如として湧いてきた年齢の話題にコンビの目が瞬かれる。
「龍族は長寿って常識やろ。それに当てはめて考えると、コンビさんは相当な年や」
 そこまで言うと、セレシュはゆっくり泳いでコンビに近付いた。そして周囲の目を気にするように声を潜めて囁く。
「うちの予想やと4ケタは軽く超えてるんやないか? うちもそれくら――っ!?」

――あんぎゃあああああっ!

 うちもそれ位の年やから同い年やね。そう言おうとしたところで、けたたましい叫び声が響いた。
 声はセレシュの目の前で上がり、その声の主が龍化したコンビだと気付くのにそう時間はかからなかった。
「な、なんやの。コンビさん、落ち着くんや!」
 何が起きたのかさっぱり。慌てるセレシュを他所に、ミニマムドラゴン化したコンビは湖上をくるくる回りながら火を吐き出している。
 緑の鱗に覆われ小さな龍は、一見すれば可愛いがその暴走ぶりはハッキリ言って凶悪だ。
「あかん。観光客に攻撃する前に止めんと!」
 セレシュは濡れた翼を広げると、勢いよく空に飛びあがった。そうしてコンビと向かい合うのだが、彼女は好き放題に暴れていて目を合わせてくれない。
 そもそも何が原因だったのか。
「もしかして年齢が言葉の逆鱗なんやろか。せやったら申し訳ないことしたわ」
 全ての原因が自分なら仕方がない。
 セレシュは大きく腕を広げると、意を決したようにコンビに接近した。そして両の腕で彼女を抑え込む。だが、

――ぴぎゃあああああああっ!

「ぶぉふっ☆」
 雄叫びと共に顔面へ炎が直撃。
 「けふっ」と煙を吐き出したセレシュの顔は、こんがり焼けて美味しそう――じゃない、痛そうだ。
 けれどそれこそ気にした様子もなく顔の焦げ目を拭うと、彼女はコンビを抱き締めたまま湖に舞い戻った。
「少ぉし頭ひやそうなっ」
 そぉれっ!

――ひぶぎゃっ☆

 もだもだばしゃばしゃ!
 凄まじい勢いで暴れる龍と、それを湖の中に沈めて押し込むセレシュ。ハッキリ言ってこのままだとコンビが死にます。
 だがこの攻防。予想に反して1時間も続いた。
 そしてその結果。
「……せ、せれしゅしゃま……ごめいわくを、おかけしましゅは……」
 ぐったりと湖畔に倒れるコンビ。その隣には同じくぐったりと倒れるセレシュの姿がある。
「あかん……うでがしびれとる……」
 コンビを湖に押し付けていた時間が長かったせいだろう。プルプル震える二の腕を支えてセレシュが呟く。
「……しばらく動けそうもないわ……ぜんぶ、コンビさんのせいやな……」
「もうしゅわけ、ありましぇ〜ん……」
 グスッと鼻を啜るコンビに思わず笑う。
 そうして一通り笑いきると、セレシュはどこまでも続く青い空を見上げた。
「……うし、コンビさん泳ぎに行くで!」
「ふぇ!? わ、私はまだ無理――きゃっ!」
 セレシュは勢い良く立ち上がると、未だに倒れたままのコンビの手を取った。そして彼女を引き摺るようにして駆け出すと、勢いよく湖に飛び込んだ。

―――END



登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 mr1850 / セレシュ・ウィーラー / 女 / 外見年齢15歳 / 幻想装具学(幻装学) 】

登場NPC
【 mz0151 / コンビ・ニーア / 女 / 1025歳 / アクロポリス観光案内所の案内人 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびは『流星の夏ノベル』のご発注、有難うございました。
如何でしたでしょうか。
何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!
流星の夏ノベル -
朝臣あむ クリエイターズルームへ
学園創世記マギラギ
2013年08月23日

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