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『気付けば周りは賑やかに 』
緋乃宮 白月(ib9855)


 神楽の都に日が落ちる。
 迫る夕闇にぽつりぽつりと灯りだす赤提灯。
「さぁさ、美味しいよ寄ってって」
「お嬢ちゃん、金魚すくいはいかか?」
「お。うまそうじゃん」
「おかあさん、あれ〜」
 立ち並ぶ屋台の呼び込みの声が響き、往来を行き交う浴衣姿の人々。
 今日はお祭り、笑顔にざわめき。
 出遅れた人も、手つなぎ小走りさあ急げ――。



 右に左に流れる人波に、ぴょこんと1本の白い髪の毛。
 ふわふわゆれつつ右、左。
 緋乃宮 白月(ib9855)が赤い浴衣に身を包み、ゆうらりゆうらり尻尾を揺らして歩いている。頭にぴょんこと跳ねた毛も一緒だ。
「わあっ。猫の尻尾可愛い〜」
「あ。猫耳、ぴくって動いた〜」
 すれ違う人たち――主にチビッ子たちからそんな声が聞こえる。
『えへへ。マスター、注目されてますね?』
 深緑の翡翠色の髪に、銀色がかった緑色の翼で浮かぶ上級羽妖精が白月の前にやって来て笑顔を見せる。
 名を「姫翠」という。万緑を思わせる夏の妖精だ。
「あのちっこいの、妖精さん? いいなぁ」
「ちゃんと緑の浴衣着て、合わせもしっかりしてて……」
「浮いててもちゃんと履物履いてるってのが、分かってるね〜」
 今度は家族連れからそんな声も。大人の視線も集めているようで。
「注目されてるのは姫翠のほうじゃない?」
『私なんかより……あっ、マスター。今日はリボンの結び目、変えませんか? 浴衣の合わせがしっかり見えるほうがいいみたいですよっ』
 微笑する白月。姫翠の方は白月の首に巻かれたリボンが気になった。
『いつもは前に結び目がきますけど、たまには横で』
「姫翠がそういうなら、好きにしていいよ」
 ん、と首を出す白月に、姫翠がよいしょと横でリボンを結び直す。いつもは隠れがちになる首元と服の合わせが無防備になった。んん、と手をやる。
『変な感じです?』
「ううん。大丈……」
 聞かれて白月がそこまで言った時だった。
『マスター、あれ何です? 白くてキラキラしてて、赤い何かがかかってます!』
 指差し振り向いて瞳キラキラ。
「ああ、イチゴのかき氷だね。食べてみる?」
『はいっ!』
 早速かき氷屋台に行って一つ購入。羽妖精に一つは多いし、一緒に食べる楽しみがある。
「冷たくて暑気払いにいいよね」
『本当ですねっ。冷たくて美味しいですし、特にシャクシャクした感じも楽しいですっ』
 しゃくしゃくしゃくしゃく……。
「ちょっと姫翠? あまり一度に食べると……」
『うぅ……』
 嬉しそうにパクパクと勢い良く食べていた姫翠、突然食べるのを止めて額に手をやりふらふら〜。
「頭がキーンって痛くなった?」
『ちゃんと二人でそろって食べられるようになってるんですね』
 白月、不覚にも「もしかしてそうなのかも」とか思ったり。
 周りでは恋人同士が一つのかき氷をあ〜ん、とかしている。あれなら頭は痛くならないだろう。



 好奇心旺盛な姫翠の冒険は続く。
『マスター、これなんか面白そうです』
 袂をつかんで指差し飛ぶ姫翠に連れられついた先は、射的屋台。
「いや……。さすがに羽妖精用の銃はないんじゃないかなぁ」
「いらっしゃい。ここぁ開拓者にも楽しんでもらえるよう、おチビちゃん用のも置いてんだ」
 がっかりすることになるんじゃないかなぁ、などと思い描いていた白月だが、屋台の店主は抜かりなかった。羽妖精や人妖用の射的銃を差し出して、ニカッ。
――ぱん、ぱんっ!
『えへへ〜、どうですかマスター、また当たりましたー!』
「おっ、倒れた。……おめでとさん。あの的の賞品はべっ甲飴だよ」
 台の上から身を乗り出して狙っていた姫翠、的が倒れてぴょんこと浮かび上がって喜ぶ。
 そして、現実を見ることとなる。
――ぱん、ぱんっ!
 白月の撃った弾はいずれも外れ。
 しょも、と猫耳猫尻尾が垂れる。
「まあ、そういうこともあらぁな。……ほいよ、これはおまけだ。いいか、嬢ちゃん。脇をしっかり締めて狙うんだぞ」
 屋台の店主が親切にもコツを教えてくれることになったのだが……。
「ええと、僕は……」
「おっと、すまねぇ。お嬢ちゃんじゃなくお兄ちゃんだったか」
『やりました、マスター。今度は小さな的を倒しましたよっ』
 どう説明しようか困った様子の白月に、ぱしんと自らの額を叩く店主。その間にも絶好調の姫翠が存分に腕を発揮していた。
「おおっ! チビちゃん、やったね。そら、一番いい賞品だぞ」
――ぱん、ぱん!
 盛り上がる姫翠と店主を尻目に、教えを守って的を狙う白月だった。

『えへへ……。マスター、甘くて美味しいですね』
「うん」
 射的屋台を後にした白月と姫翠、ともに棒に刺さったべっ甲飴を舐めていた。
『マスターがあのまま何も当てなかったらと思って頑張ったのですが、無用の心配でしたね』
 姫翠、にこにこと白月を見る。
「弾をおまけしてくれて、コツまで教えてくれたおかげだけど」
 主人思いの姫翠はそう考えて頑張った様子だ。もちろん、白月が格好いいところを見せてくれたおかげで無用の心配となった。満足そうな主人を見て、またにこにこ。
 その時、月のない星の夜空でひときわ大きな光が生まれた!
 振り向く――いや、見上げる白月と姫翠。
 視線の先で、大きく、鮮やかに……。



『わあっ』
――どぉん、ぱらぱら……。
 まるで彼岸花のような、菊のような光の花が夜空を焦がしていた。
 大きな音と共に。
 そして美しく咲かせた大輪は、一瞬。
――ひゅ〜ん……。
 次が上がった音がする。
――どぉん、ぱぱん、ぱらぱら……。
『凄いです、マスター。こんなに近くで……』
 わあっ、と口を開け瞳を開き見上げる姫翠の顔が赤に黄色にと次々染まる。空では赤の花火が雄々しく花開き、続いて黄色い花火が小さくいくつも咲いていた。
「そうだね。前は遠くで眺めていただけ」
 白月も見上げていた。白い顔が、金色の瞳が花火の色に次々染められていく。
「前は……」
 思わず繰り返した。
「遠くで」
 そっと、首に巻いたリボンに手をやった。
 いつも身に着けている緋色のリボン。
 目の前、大きな音と光の大迫力に見惚れる瞳に――いや、脳裏に去来したのは、母親の面影だったかもしれない。もういない、大好きだった母親の……。
『マスター?』
 雰囲気が伝わったか、姫翠が振り返った。白月の顔を覗き込んでくる。
「花火、奇麗だね」
『はいっ』
「……姫翠に出会えてよかった」
『はい』
 姫翠の言葉が、元気の良かった響きからしっとりした響きに変わった。
 あるいは、白月自身の声がそうだったからかもしれない。
「……が嫌で開拓者になって、一年」
 どぉん、という花火の音が被った。姫翠、白月の言葉を上手く聞き取れなかった。が、何となく何を言ったか分かったような気がした。
 と、ここで白月の表情が戻った。
「そう。開拓者になって丁度一年。……うん、本当に姫翠達と出会えて嬉しかった」
 いつも笑顔で姫翠を見る。
 一年、いろいろあった。
 収穫祭の敵、大蟷螂のアヤカシを退治した。
 武天の集落を襲った巨大な狼騒ぎの調査にも赴いた。
 そして姫翠を他の羽妖精や人妖らとともに歌姫として活躍させもした。
 そんな、万感の思いを込めた視線。
『はいっ!』
 姫翠は今日一番の返事。思わず背筋も伸びている。
「これからも宜しくね」
『はいっ。これからも宜しくお願いします、マスター』
――どぉん!
 見詰め合う二人の向こう。
 ひときわ大きな花火が夜空に咲く。
――ぱらぱら……。
 儚く散る残照に、二人の笑顔が照らされるのだった。


●おまけ
「今日は疲れたんだね」
 もう終りそうな祭りの中、白月は頭の上を気にしながら雑踏を歩いていた。
『すー、すーっ』
 姫翠、いつも……いや、たまにするように白月の頭の上にぽにっと腹ばいになってすやすや眠っていた。そんな相棒を愛おしく思う。
 と、ここで一大事。
「今度はあっちに行こう!」
「わああっ!」
 元気な子供たちの集団が走ってこっちにやって来ているではないか!
「一番どべは一番速かった奴におごりな!」
「おおっ!」
 しかも競争しているっ。
 もう、通行人の迷惑を顧みず少々ぶつかってもどん尻にならない覚悟のようだ。
 瞬間、呼吸を整える白月。
 右への足運び。
 左への体捌き。
 子供たちの流れは止まらない。
「おわっ!」
「こらっ! 悪ガキども!」
 周りで混乱が起こる中、白月だけは平静を保った。
 やがて騒ぎは収まる。
「姫翠は……」
『すー、すーっ』
 どうやら起こさずに済んだらしい。ほっと一安心の白月。
――ぱちぱち……。
 響いた拍手に、ん? と振り向く。
 すると、先に遊んだ射的屋台の店主がいた。
「その体捌き。お兄ちゃん、泰拳士だったんだな!」
 射撃はアレでもやっぱ違うネェなどと感心しきり。
『ほみ……?』
 バランスを保ったことで先の騒ぎでは起きなかった姫翠が目を覚ました。面白そうな話題に反応したらしい。
「あ、起きちゃった?」
 白月は口元を猫柄の団扇で隠し、ででん、とでんでん太鼓を叩いて微笑。
『あ。さっきのおじさんですっ。べっ甲飴とでんでん太鼓、ありがとうございました』
 どうやらでんでん太鼓、姫翠が一番小さな的を倒したときにもらえた賞品だったようだ。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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ib9855/緋乃宮 白月/男/15/泰拳士(獣人)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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緋乃宮 白月 様

 いつもお世話様になっております。
 楽しい祭りに上級羽妖精の姫翠ちゃんと一緒におでかけ。浴衣のピンナップに合わせて描写しました。
 花火の段落はどうしようかかなり迷ったのですが、このノベルだけを読んでも「設定になにかあるのかな?」と思ってもらえるようにしました。白月さんの感謝の大きさが伝わりますように。
 おまけ部分が長いですが、姫翠ちゃんはやっぱりこれだよな〜、というのと白月さんが射的でやや残念なことになっていたのでイイところも見せてあげなくちゃとか思った結果です。お気に召していただけると幸いです。

 この度はご発注、ありがとうございました♪
流星の夏ノベル -
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舵天照 -DTS-
2013年09月02日

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