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『ケチャラー達の集い 〜夏の陣・怯える男編〜 』
鏑木鉄丸jb4187


●全員招集

 画面に表示された名前を見て、鉄丸は慌てて通話スイッチを押した。
「あ、こんにちは、星杜さん! え、あ、はい。……ケチャラー会???」
 思わずおうむ返しに反応する。
 部活『おうちごはん』の先輩である焔は、ときどき謎の造語で攻めて来る。
 初めて耳にする言葉に、鉄丸は首を傾げた。

 マヨネーズを愛好する人の事をマヨラーと呼ぶことがある。
 それに倣ってか、ケチャップを愛する人をケチャラーと呼んでいるらしい。
 要するに焔お手製のケチャップで作った料理を皆で囲んで楽しむ会、の意味のようだった。
「あ、もちろんお邪魔します。楽しみにしてますね!」
 何だかよく判らないが、楽しかったらいいか〜と、元々ゆるっと物事を受け止める鉄丸である。
 焔の言うには、マンションの屋上で栽培したトマトを収穫し、ケチャップを自作しているらしい。
 今回は収穫からケチャップを作る所まで一緒に楽しむことになっているという。
「自家製ケチャップなんて作るの初めてだなあ」
 鉄丸も料理は好きだが、さすがにケチャップを自作するのは初めてだ。
 どんな風に作るのか、それを見るのも楽しみだ。
「あ、もしかしたら。トマトで料理も作っちゃっていいのかな? そうだといいなあ〜」
 たわわに実る赤い果実を想像し、鉄丸の頬が緩んだ。
「そうだ、材料も何か用意して行こうかな」
 いそいそとメモ用紙を取り出すと、トマトを使った料理に使う買い物リストを作成し始める。


●収穫祭

 いよいよケチャラー会の当日。
 焔の後をついて屋上に上がった一同は、意外な光景に驚く。
 真夏の太陽の光を精一杯浴びて、力強く生い茂るトマトの苗。
 太く逞しい茎がどっしりと根を張り、濃い緑の葉陰には赤い果実と黄色い花が覗いている。
 鉄丸が嬉しそうに屈みこみ、葉陰を見上げた。
 手に余るほども大きなトマトがいくつも、赤く色づいている。
「凄くいいトマトが成ってるなあ。収穫収穫〜!」
 日に照らされたトマトはほんのりと暖かく、独特の香りを放つ。
「煮ても焼いても、もちろんそのまま食べても、すごく美味しそうだなあ」
 宝物を扱うように、鉄丸がそっと赤い実を手に包み込む。
「俺の索敵から逃れると思うなよ熟トマト……!」
 何故か身を伏せ、無駄に鋭い眼でトマトを睨む友真。
 心意気だけは天魔を探すかの勢いだが、赤く色づいたトマトはそもそも隠れるつもりがない。
「む、そこか!」
 大きな実に手を伸ばす友真の指が、鉄丸の指と触れた。
「わあ……びっくりした」
「ああっ、ごめんな!」
 思わずお互いに手を引っ込める。別に何も芽生えないけどな!
 友真はそこで、鉄丸とは初対面であることを思い出した。
 ピースサインをキラリと輝く眼元に添えて、ご挨拶。
「ども初めましてっヒーロー目指して日夜修行中、高二インフィル小野友真でっす☆」
 決まった……! けど高二という自己紹介が泣ける感じではある。
「ゆーまくんかあ、俺は鏑木鉄丸、よろしくね」
 鉄丸が余り細かいことを気にしないタイプだったのは、友真にとっても幸運なことだったかもしれない。……下手したらドンビキである。

「おおっこれはすごいな。……すごいすごい……んがんぐ」
 戒の感嘆の声は、何故か最後の方でくぐもったものになる。
 こっそり裏側に回り込み、早々にひとつ失敬していた。
 かぶりつくと、濃厚な汁が滴り落ちる。それはまるで果実のように甘かった。
 酸味が少なく甘みの強い、ケチャップに適した品種のトマトだ。
「これもなかなか……む、少々熟しすぎておるな」
 真紅といえる程に色づいた実は、熟れきって触れると弾けそうだ。
「ケチャップも作るんだっけ? 良く判らんがだったら潰しておけばよかろーか」
 放置すると、まともなトマトが全滅しそうな気配である。
 その危険を嗅ぎ取ったか、焔が声を上げた。
「あ〜、熟したトマトは、採り方にコツがあるからね〜」
 元々生真面目な性質のマキナは、焔の手元をじっと見つめている。
「なるほど、少し浮かせて捻る、という感じですか」
「そうだよ〜良く熟すと、茎が離れやすくなってるんだね〜よくできてるよね〜」
「……本当ですね。これは面白いです」
 早速実践するマキナ。面白い程にポロリと取れるトマトを、次々と収穫して行く。
「マキナさん、お上手ですね。本当に初めてなのですか」
 梨香がまじまじとマキナの手元を見つめていた。
 つまり 焔←マキナ←梨香 の図である。
「俺は教えてもらった通りにしてるだけですよ。ほら、こうして、こう」
 ぽろり。
 トマトは傷むことなく、綺麗に手元に。
「……あら。本当」
 梨香が目を丸くした。
「大八木さんもすぐに慣れると思うよ〜。そうそう、赤いのは全部採ってしまうといいのだよ〜置いておくと、だめになってしまうのだ」
 大きな籠を抱え、焔は慣れた手つきで次々とトマトを収穫して行く。
「こんなにたくさんどうするん?」
 友真がプラスチック製の大きな箱を覗き込んだ。
「ご近所さんに色々配るのだよ〜屋上は共同で使えるんだけどね〜菜園が場所を取ってしまっているからね〜」
 穏やかに笑う焔だが、実はこれも作戦のうち。
 お礼と称してトマトから作ったあれやこれやをマンション住人に配り歩き、着実に餌付けの輪を広めつつあったのだ。
 何処まで行く気だ、焔。


●トマトがいっぱい

 自然の実りを収穫することに喜びを感じるのは、ヒトの内に残る太古の記憶によるものだろうか。
 焔の住居に向かいながら、いつものケチャラー会以上に一同の声が弾んでいた。
「「「おじゃましまーす」」」
 口々に声を上げ、キッチンへ収穫したばかりのトマトを運びこむ。
「自家製ケチャップなんて作るの初めてだなあ」
 鉄丸の声も弾んでいる。
「湯剥きぐらいなら何とかお手伝いできるかと……」
 持参したエプロンと三角巾をつけた梨香が真顔で言った。どう見ても調理実習である。
「じゃあお願いするよ〜あ、きれいな形の物は残しておいてね〜」
 大きな鍋に湯を沸かしている間に、大量のトマトを仕分けていく。
 別に戒が握りつぶしたためではないが、形の悪い物、日持ちがしそうにない物も混じっている。これはケチャップ候補だ。
「ゆむき? トマトをこの鍋に放り込めばいいのか?」
 戒が煮立った鍋に全部のトマトを放り込もうとするのを見て、焔が慌てて飛んできた。
「ええと、煮る訳じゃないからね〜……」
 焔が実演してみせる湯剥きに、戒が不思議そうな顔をする。
「どうせ後でケチャップにするならいっぺんに煮ても同じことだろ」
「そうすると風味が飛ぶからね〜」
「ほむほむのトマトがそれぐらいでまずくなるはずがないな。その程度はきっと些細なことなのだよ」
 そのとき、戒は突如背後から羽交い締めにされた。
「戒、ほむほむの邪魔するんやったら、もうそのへん座っといたほうがマシやな……!」
「まてゆーま、はなせばわかる」
 戒は忍び寄った友真により、コンロの前から引き離される。

「調理して食べる分はこれだね〜あとは生で食べても美味しいのだ〜」
「え、トマト料理も作っちゃっていいの?」
 焔の言葉に鉄丸がぱっと顔を上げた。
 自分で収穫したばかりのトマトを自分で調理して食べる。最高の贅沢ではないか。
 だが逆に友真のテンションはいきなりダウンする。
「なま……」
 収穫している時の明るい表情との落差は激しかった。
 ケチャップを心から愛する一方、実は友真は生のトマトは苦手なのだった。
 なんかドロドロした部分(種の部分と思われる)と生特有の酸っぱい味(友真は甘党だ)が、どうしてもだめ。
(ぜんぶケチャップでもええんちゃうかな……)
 友真の判断基準では、ケチャップ行きがやや多めになっていた。
 その手つきは、何となく鉄丸にある予感を抱かせる。
(あれ、ゆーまくん、もしかしてトマトはだめなのかな)
 バレバレだった。
(よしここは俺がひとつ、美味いトマト料理を作って克服させてやるぞー!)
 小さな親切大きなお世話。と、この鉄丸の決意を聞いたら友真は思ったかもしれない。
 しかし、友真を見守るのは鉄丸だけではなかった。
 いつも通りの穏やかな笑みを浮かべ、主催の焔が友真を見ていたのだ。
 ある程度焔と親しい者なら、その笑みが含む何かを悟ることができたかもしれない。
 この会は、ケチャップを愛する者たちの会。
 だがその裏に隠されたもう一つの目的を、このときの友真はまだ知らなかった。


●キッチンにて

 各人が持ち寄った大量の瓶がズラリと並ぶ。
 それぞれにたっぷり、出来立てのケチャップがとろりと入った。
 マキナは嬉しそうに自分の瓶を眺める。
「以前貰った分が、もうなくなっていたんですよね。ありがとうございます」
 一度手作りのケチャップを味わうと、市販品では物足りなく感じるようになってしまった。
 ケチャラーにとってはある意味由々しき問題ではあるが、これは仕方がない。
 最高のケチャップを分けてもらえただけでも嬉しいのだが、今回は自分が収穫したトマトで作られているのだ。
 きっと口にすれば、より美味しく感じられるに違いない。

「残しておくのはこれぐらいでいいですか?」
 梨香が持つ両手鍋には、まだたっぷりのケチャップが残っていた。
 既に料理の下準備に取り掛かっていた焔が、首を伸ばして鍋を覗き込む。
「そうだね〜それだけあれば、ケチャップフォンデュでも足りると思うよ〜」
 その言葉に、友真が一瞬顔をこわばらせた。
(トマトのケチャップフォンデュ……? いやごめん、できたら酸っぱいのはちょっと、あんまりやめて欲しい感じなんやけどな……)
 だがここでもしも好き嫌いを口にしたら、焔が他の美味しい物を作ってくれなくなるかもしれない。
 それは困るのだ。
(酸っぱないもんでありますように……!!)
 友真は心の中で祈りながら、瓶の蓋を締めて行く。

「何かお手伝いできることはありませんか?」
 梨香に声をかけられた鉄丸が、持っていたにんにくを取り落とす。
「え……あ、こっちは大丈夫だよ。たぶん星杜さんの方が忙しいと思うんだ」
「そうですね、では何かあったら声をかけてくださいね」
 実は鉄丸は女性が苦手なのだ。
 一般的な同年代の女子の規格からはやや外れる梨香だが、何を考えているのか分からない、じっとこちらを見据える眼鏡の奥の目が怖い。
 女性は皆怖い生き物と思っている鉄丸にすれば、できれば避けて通りたい対象だ。
(ごめんね、大八木さん……)
 踵を返す梨香に内心でそっと安堵の息をつき、鉄丸は作業に戻った。

 その間にも、焔は手際よく作業を進める。
 ケチャップフォンデュはトロッととろけたチーズとワインのいい香りを漂わせ、オムライスの中身になるチキンライスは大きなボウルの中で湯気を立てていた。
 一口サイズに切り分けられたフランスパンやソーセージに茹で野菜、フライドポテトも保温器具付きのホテルパンに綺麗に並んでいる。
「ラタトゥイユ作ったよー! カナッペなんかもあってもいいよね」
 キッチンの作業台で、鉄丸が生き生きと作業する。
 焔と同じ部活に所属している鉄丸も、やっぱり料理が好きなのだ。
「ありがとう〜色々あるといいのだ」
 焔が笑顔を向けた。
 料理好きである点以外にも、実は鉄丸にはこっそり親近感を持っている。
(どうやらニューフェイス鉄丸くんは、非モテらしいのだ……)
 女性が苦手なのと非モテとは若干違うような気もするが、そこは焔の判断なので仕方がない。


●もう一つの目的

 広いテーブルの上に溢れんばかりの料理が並ぶ光景は、いつ見ても圧巻だった。
「おおっさすがはほむほむ。見事なオムライスなのだ……!」
 戒が目を輝かせた。
 黄金色の焼き卵に赤いケチャップの彩りが、これでもかと視覚に訴えて来る。
「七種さんの分は、リクエスト通りに薄焼き卵なのだよ〜」
「では早速!」
「「「いただきま〜す!!」」」
 全員が一斉にスプーンを取り上げ、口一杯にオムライスを頬張る。
「見た目だけでなく味も完ぺきであるな! さすがほむほむ。てっちゃんも食べてるか?」
 戒がオムライスをぱくつきながら、向かいに座った鉄丸に声をかけた。
 初対面ではあるが、ケチャップを愛する者に悪い奴はいないと思う戒は、最初からフレンドリーだ。
「えっ、あ、いただきます」
 何故か視線をそらし、俯いたままスプーンを動かす鉄丸。
 
「本当に星杜さんの料理はおいしいですよ。あ、その肉詰めもいただいていいですか」
 マキナは、焔でなくても見ている方が楽しくなるような食べっぷりだ。旺盛な食欲はいかにも男子高校生らしい好ましさである。
 しかも今回は先に収穫や仕分けで働いたので、お腹がすいている。自分が関わった食材と思えば、ますます食欲も増すというものだ。
 勿論それはマキナだけではない。
「本当に美味しいですね。どうやったらこんなに上手に作れるのかしら。勿論、経験も必要なのでしょうけれど」
 しみじみとオムライスを眺めて梨香が呟く。
 完成品をいくら見つめていても、上手くならないことだけは確かだ。
「そうだね〜でも一番大事なのは美味しくなあれ〜と思いながら作ることではないかな〜梨香はやればできる子だと俺は思うのだ」
「そうでしょうか……だといいのですが」
 自分が作った物が人を笑顔にする。焔はその満足感にちょっと油断していて、ついうっかり梨香を名前呼びしていた。お互いそのことには気付いていないのだが。

「梨香ちゃんも頑張ってオムライス作ってみたら? なんやったら俺、毒味役手伝うしな!」
 笑顔の友真。何故オムライス限定なのか。理由は、手元を見ればわかる。
 会話しながらさり気なく、自分の割り当て分のトマトサラダをマキナの方に、エビチリを梨香の方に押しやっていたのだ。
 だがそのような所業が、見過ごされるはずもない。
「これは小野さんの分のサラダですね。俺はもう頂きましたよ」
 マキナが爽やかな笑顔で、サラダの皿を友真の前に置き直す。
「ゆーちゃん……そのトマトはあま〜い品種で、生で美味しいのだ。ドレッシングも甘いタマネギを使った自家製なのだよ。食べてみるとよい」
 焔が穏やかな笑みを友真に向ける。
 だが区切るように語る言葉には、反論を許さない迫力があった。
 そして戒がぴくっと片眉をはね上げる。
「え、ゆーまトマトあかんの?」
「えっ……いや、俺……」
 怯える友真。

 そう、この会のもう一つの目的は、ここにあった。
 ケチャラーでありながらトマトが嫌いという友真を救済しトマト好きに変える会。
 真のケチャラーならば、必ずや乗り越えられるはず!
 仲間意識と親切心が生む、大きなお世話の相乗効果により、友真は今、大ピンチだった。
「ゆーまくん、このラタトゥイユならしっかり煮込んであるから、トマトのエグみとかはないと思うんだ。食べてみてくれると嬉しいな」
 善意100%の笑顔で鉄丸が深皿を差し出す。
「あの……俺、トマトのすっぱいん苦手で……それに、肉と甘いもんがあれば生きてけるから……から……」
「貴様ケチャラーの風上、いや風下にも置けぬわ! 食え!」
 親切心より面白がっている方が明確に前面に出ている戒。
「俺も幼き日は生のトマトを食わず嫌いしていたものだ……きっとゆーちゃんも克服できると信じているよ……だってケチャラーだもの」
 仏の微笑で迫る焔。

 じりじりあとじさる友真は、弾力のある暖かい壁が背中に当たるのを感じた。
「小野さん、皆さんのおっしゃる通りです。往生際が悪いですよ。きっと食べてみれば、意外と大丈夫なはずです。ケチャラーなんですから」
 大柄なマキナの太い腕に羽交い締めにされ、友真は足元が軽くなるのを感じた。
「ちょ……タンマ、タンマ!!」
「諦めろゆーま、今ここでお前がトマトに挑むことは、きっと前世よりの因縁なのだ」
 真顔だが、全身から愉しんでいる気配を漂わせる戒。
 救いを求めて友真の彷徨う友真の視線が、梨香の視線とぶつかる。
「梨香ちゃん、こーゆーときにもやっぱり冷静やな……」
「……判っているとは思うが、止めてくれるなよ大八木氏。これわしかたのないこと」
 戒は大きなスプーン山盛りにトマトサラダをすくい、友真に迫る。
「あ、せやっ! 梨香ちゃんがあーんしてくれたらなー、俺食べられるかもしれへんなー!」
 これは絶対ないだろう。そう確信した友真の逃げは、あっさり封じられる。
「判りました。では僭越ながら、私がその役目お引き受けしましょう」
 いつもあまり表情を変えない梨香が、スプーンを受け取りにっこり微笑んだのだ。
「わあ、俺、できたらその笑顔、今とちゃう場面で見たかったわ……☆」
 心なしか友真の声が震えている。
 自分が怖い目に遭っているような顔で、何故か鉄丸も怯えている。

 だがついにここで友真は観念したらしい。
 死んだような眼の友真の口に、トマトサラダが流れ込む。
 むぐむぐ。
 衆人環視の中、友真はトマトサラダをかみしめた。
「……って、あれ、いけるな……?」
 おお〜っとどよめきが起きる。
「新鮮やからかな……それか、やっぱり品種によるんかな……? 美味しい美味しい、これやったらいける!」
 鉄丸が作ったカナッペもいける。
 カリッと焼いたフランスパンの上にガーリックをすりつけ、トマトにバジル、オリーブオイルをちょっと垂らしたブルスケッタも、なかなかのお味。
 生でも大丈夫だった……!
「さすがほむほむのトマトやな!」
 戒が若干残念そうに見えるのは気のせいか。
(まあちょっと酸っぱいなって思う部分もあるけど、そこは頑張って飲み込んで笑って誤魔化しますね!)
 さすがにケチャップフォンデュは若干酸っぱい感じもしたが、そこは心をこめて作ってくれた人と、自然の恵みに感謝をこめて。


●ごちそうさまでした

 すっきりした風味のシャーベットもトマト色。
 レモンの風味が、ご馳走を堪能した口を爽やかに通り抜ける。
「あー、美味しかった! せめてものお礼に、片付けはやらせてもらうで! あ、ほむほむはちょっと休んでてな」
「そうですね。後は俺たちに任せてください」
 友真とマキナが腰を上げた。
 続いて戒が立ち上がる。
「ふふふ、皿洗いなら負けんぞゆーま。勝負だ!」
「おう、受けて立ったるで!!」
 宿命のライバルは、皿を手に火花を散らす。
 割れやすい皿をいかに手早く綺麗に洗いあげるか。
 まあ子供の手伝いもゲーム感覚でやらせると良いとか何とかかんとか。
 元々友真は皿洗い自体は割りと好きだったりするのだ。戒との競争という点を抜きにしても、割と楽しく作業を進める。

 洗いあげられた皿が積み上がって行くのを見て、梨香が声をかけた。
「そろそろ順に拭いて行きましょうか」
「それじゃあこれを使ってね〜」
 焔が取り出した布巾に、ネタを挟みたくてうずうずしていた友真が反応。
「綺麗な布巾やな! もしかしてサラなんかな!」
 ちなみにサラとは、新品の意味である。
「サラ……皿、だけに……」
 しーん。
 片付けた皿を運んできたマキナと鉄丸も、布巾を持った焔も、固まっている。
 そこに意外な伏兵が現れた。
「すみません小野さんっ! 振られたネタにさらっと反応できないなんて!」
 ここにきて梨香、まさかの素ボケ。
「さら……だけに……」
「ふたりとも座布団、全ぼっしゅーな」
「「おおおう!!」」
 戒の高速膝カックンが、友真と梨香を襲った。

(何なんだろう……やっぱり女の子ってわかんないな……)
 鉄丸の意識の中で、女性という生き物に対する認識がまた歪んでいく。
 張り付いた表情のままでぷるぷる震える鉄丸。
 それを見守る焔の目は、どこまでも暖かかった。


 片づけが済む頃には、夕暮れが迫っていた。
「じゃあそろそろ失礼しましょうか」
 マキナがさり気なく促す。そろそろ長居は迷惑な時間だろうと、生真面目に判断したのだ。
「あ、じゃあ皆これを〜」
 瓶に一杯のケチャップに、容器に詰めたオムライス、綺麗なトマト、日持ちのするおかずなどなど。
 沢山のお土産を分けてもらい、戒はほくほくである。
「……これで一ヶ月は保つな、うむ」
 大体の物はケチャップで煮込めば美味しくなる。戒の判断基準らしい。
 鉄丸は分けてもらったトマトを何に使おうかと考え、また楽しくなってきた。
「とっても楽しい一日になりましたー! 誘ってくれてありがとうございますっ」
 ちょっと怖いこともあったけれど、みんなでワイワイご飯を食べるのって、やっぱり楽しい。
「ほむほむ、ありがとなー! また呼んでな☆」
 友真の笑顔も、今回の収穫のひとつか。
「またおいで〜今度もみんなでいっぱい食べようね〜」
 賑やかに帰って行く友人たちを、心からの笑顔で焔は見送った。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja1267 / 七種 戒 / 女 / 18 / インフィルトレイター】
【ja5378 / 星杜 焔 / 男 / 18 / ディバインナイト】
【ja6901 / 小野友真 / 男 / 18 / インフィルトレイター】
【ja7016 / マキナ / 男 / 20 / 阿修羅】
【jb4187 / 鏑木鉄丸 / 男 / 15 / インフィルトレイター】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ケチャラーの集い、大変お待たせいたしました。
NPCともお話いただきましてどうも有難うございました。
初めてのお食事会は如何でしたでしょうか。
ちょっと怖いこと(?)もあったようですが、お楽しみいただければ幸いです。
尚、最初の章はそれぞれのケチャラー会への意気込みということで、個別部分となっております。
一緒にご依頼頂いた分と併せてお楽しみいただければ幸いです。
この度はご依頼いただきまして、有難うございました。
流星の夏ノベル -
樹シロカ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年09月09日

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