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『Lucky Go Happy days 』
加倉 一臣ja5823


 ――拉致られてみない?

 それは、とっても魅惑的な、恋人からのお誘いの言葉。
 撃退士としての依頼。
 学生としての勉強。
 傍らで引き受けている仕事。
 大切な誕生日当日は、あわただしい毎日に押し流されてしまったけれど、だからこそのとっておきを。


 夏休みに、二人で海へ。南国の島でゆったりと。
 加倉 一臣がファイルケースから取り出したパンフレットに、小野友真は一も二もなく飛びついた。
 楽しい楽しい夏休みは、もうすぐそこ!




 濃厚な空の青、映す海の透明度。
 クルーザーの切る風が、気分を高揚させてやまない。
「ひゃぁあああっ!! 見てみて、一臣さん! さかな! さかなが! さかながあんなに!!」
「見えてる見えてる、ほら、気を付けないと落ちるぜ?」
 大きく身を乗り出す友真の肩を、笑いながら一臣が抱き寄せ、自身の膝の上に乗せる。自前の安全ベルト。
 友真にとっては初めての海外旅行で、手続きアレコレは一臣に丸投げしたものの島へ到着するまでの疲労はそれなりに。
 それさえも、吹っ飛ぶほどの解放感!
「いるかーーー!!」
 遠くへ視線を移すと、イルカの群れが海面を跳ねている様子が見えた。
「おいおい、そんなに最初から飛ばしてて大丈夫か?」
「だって!!」
 抱えられた体勢で、友真は一臣を見上げて。
(だって)
(最近の一臣さん、ずっと忙しくしとって)
(ようやく、ゆっくりできて)
(ふたりっきりで)
(今は知らへん人だらけの所やし国外やし)
(同性って事も他人の目もいつもよりは気にせんでもいいんかもって)
(思ったら)
(思ったら!!)
 気持がいっぱいで、言葉にならない友真の眼差しが何よりも雄弁に語る。
 一臣は、さらりとした前髪を梳いてやり、頭の上に顎を乗せた。
「だよなー」
 多くの言葉は要らない。
 だって。
 そうだろう?
 離れていかない温度が、何よりもの答え。


 程なくして、クルーザーがホテルのある島へ滑り込む。
 長い桟橋が二人を出迎えた。
「さ、手荷物はこちらへ。何せ本日の主役、王様ですからね」
 友真を解放し、一臣は恭しく荷物を受け取ると桟橋へと降り、並び立った友真は……
「来たで南国ー!!」
「あ、俺、放置?」
 全力で駆け抜けてゆくその背へ、残された一臣がポツリと呟いた。
(愉しんでいただけて何より。……仕事がんばって良かったな)
 その仕事のせいで日程が押してしまったけれど……それでも『良かった』と、思える。
 ゆっくりとした足取りで、一臣は南国の潮風を吸い込んでから先で息切れを起こしている友真へ向かった。

 


「友真」
 ホテルのエントランスで手続きを済ませ、一臣が振り返る。
 物珍しげにあちらこちらを歩き回っていた友真が、ハッとした風に反応した。
「先に、ウェルカムドリンクもらおうぜ」

 宿泊するのは水上コテージ、ここから少しだけ離れている。
 その前に一度、長い移動の疲れを落とそうと、そういうことだ。
 ティーラウンジのソファに腰掛けると、程なくして運ばれてくる。
「……何これ美味しいな!」
「うん、南国っぽい」
 カッと目を見開く友真に、一臣もこくりと頷きを返しながら。
 日本人だけを対象にしているわけではないから、こう…… 独特で、新鮮な味わい。
「外国なんやなー」
「大阪と北海道も、国内で充分に外国感覚だと思ってたけどね」
「あれは、あれで、すごく……海外やったな」
 北海道で迎えた新年を思い出し、友真は実に神妙な顔でうなずいた。




 鍵を回し、二人だけの部屋の、扉を開ける。
「……俺のテンションが留まる所を知らへんのやけどどうしたらいいと思う?」
 目の前に広がる光景に、真顔で友真が呟く。
「俺も留まる所わからない系だわ」
 待っていたのは広々としたリビングとベッドルーム。
 中へ入ると、シャワーと浴槽が別の快適そうなバスルーム。
 テラスにはサマーベッド、そして海への階段が伸びている。
「あのな、一臣さん。英語は勢いで何とか――って、思とったんやけど」
 荷物を置いて、友真が不意に素の声で。

「周りが外国の人らばっかりやから、一臣さんの声、すっごい良く聞こえるんやな」

 きっと、今なら島の端から叫ばれても気づけると思う。
 真っ直ぐな言葉に、一臣は反応に詰まる。
 照れ隠しに茶化す必要も、今日は無いのだ。
「? どしたん? 耳、赤いで?」
「この子ったら!」
「あ、探索しよ! 部屋調査は基本やんなー♪ ……お札チェックはいらへんよな、海外やし」
「この子ったら……」
 身を乗り出しかけた一臣は、そのままの姿勢で打ちひしがれる。
 全く気付くことなく、友真は壁にかけられた絵画の裏をひっくり返してキャッキャしていた。


 一通り備品の確認を済ませると、一臣がオーディオにスイッチを入れる。古いジャズがコテージを満たした。
 日陰のテラスに吹き込む風は、ほどよい温度。
 サマーベッドに横たわれば、気分は最高。

「やっべ、天国……」
 このまま、寝落ちで一日が終わってしまいそう…… うとりうとりした、その横を。

「コテージから海直結とか。ならば飛び込むしかなかろう!」
 
 不穏な声が、走り抜けていった。




「……一臣さん、南国って寒いんやね……?」
「暦の上では冬、だな。道産子的には初夏ですが」
 予約をしているシュノーケリングでは、ウェットスーツを借りることになっている。
 そういう温度、というわけだ。
「水泳は得意やけど、寒いんは苦手です……」
 シャワーを浴びてホカホカしてきた友真がションボリしている。
「水上サイクル! サイクルしよう!! それなら濡れへんし!!」
「はいはい」
 切り替えの早い恋人に釣られて笑い、一臣も外出の支度を始めた。


 小さな島を散策しながら、水上サイクルの受付場へ。
「俺は水面をぱしゃぱしゃするんに忙しいから、運転と行先は任せた!!」
「オーライ、後悔するなよ相棒」
「魚すげえ、パンあげてもいいかn…… 一臣さん!!」
「任せたって言ったろー♪」
 頭から海水を被った友真が牙を剥く。
「安全運転でお願いします!!」
 南国気分にテンション上がりっぱなしで、構ってもらえないものだから。
 こっちを見てほしくてつい、だなんて言ったら、――流されるだろうな、今日なら。
 諦め半分、けれどそこまで喜んでくれたなら本望。
 強弱をつけた運転で、ときおり友真の悲鳴と怒号を誘いながら一臣は青い空に目を細めた。




 あっという間に、一日目の日が暮れる。
「レストラン? ホテルまで戻るん?」
「初日は、カッチリ……といっても、ビュッフェだけど。行ってみようぜ」
 それも旅行プランに盛り込まれている。断る理由は無かった。


 現地ならではの新鮮な魚介類を用いた料理をここぞとばかりに盛り合わせた友真がテーブルへ戻ると、一臣が笑顔と共に――
「Happy Birthday、友真。遅れてごめんな」
 バースデーケーキを用意して、待っていてくれた。こっそり、ホテル側へ伝えていたのだ。
「え 一臣さん、え」
「『物より思い出』とは言うけどさ……。去年の誕生日は色々あってろくに祝えなかった分、今年は、ね」
 片目を瞑って見せる恋人へ、友真は返す言葉が見当たらない。
「……一臣さん」
「うん」
「愛しとる」
「飛んだな!!?」
「南国やし!!」
 飛んでいる。
「……ノンアルコールで祝いますか」
 一臣に促されるまま、友真はコクリと頷く。
「本物で、祝えるようになるとええな」
「それは、もちろん」
 グラスを鳴らし、出会いに感謝を。
 これからの未来に向けての、乾杯を。




 涼やかな朝の陽ざしがコテージへ差し込む。
 大きく伸びをして一臣はベッドから身を起こした。
 朝に弱い友真は、まだ夢の中に居るらしい。悪戯で鼻先をつまめば、面倒そうに手で払われる。
「友真くん、朝ですよー カヌーに乗って朝ご飯が来ましたよー」
「マジでか!」
 寝癖だらけで即起きするものだから、一臣は体を折って笑った。

「海浮かびながら食べるんも、いいんやないですかこれ!」
 淹れたてコーヒーとフレッシュオレンジジュースがテーブルに並んだところで、友真は感動に震える。
「そや。今日は、どうするん?」
「気温が高いうちに、シュノーケリングしようぜ」
「あっ、昼はバゲットとか買って島の散策したいでっす!」
「いーねぇ」
 小さな島だ、滞在期間中にあっという間に周りつくしてしまうだろうけれど、二人だったらいつまでだって楽しめる。
「面白発見あるかなー♪ 海も海鮮類もめっちゃ大好きなん、ほんま嬉しい!!」
「ホタテがなくて残念だな……?」
「ホタテは、一臣さんの実家で会えるし、今はええんや」
「この子ったら!!」
 会話に精密殺撃を織り交ぜるのはどうにかなりませんか!!
 コーヒーを咽こみながら、一臣はテーブルを叩いた。




 カラフルな魚たちと。
 長い長い夕焼けと。
 真っ白な砂浜と。ただただ静かな波の音。

 普段の忙しさから切り離されたような、数日間もあっという間に最終日を迎えた。
「もう、最後なんやな。寂しいな」
「寂しい? じゃ……時間まで街で観光と土産を探そうか」
 荷物をまとめていた一臣が、友真の背へ呼びかける。それに対し、友真はふるふると首を振った。
「一臣さんを独り占めして、こうして一緒に居られる事が最後やん」
 ガン、一臣は柱に頭を打ち付けた。角だ。これは痛い。
「誰にでも優しいし、そこがええとこやって知っとるけど、けど、おおっぴらに独り占めはでけへんもん」
 友真が、ここまでストレートに独占欲を示すのも珍しい。
(ああ、それで)
 滞在中、ずっとテンションが高かったのは――
「だから。最後まで。今日は、独り占めする」
 ……きゅ。一臣の長い指へ、自身のそれを絡める友真の耳は先まで赤い。
「お。おう」
 握り返す一臣も然り。


 自分たちのことを誰も知らない南の島で、秘密のバースデーバカンス。
 そこにあるのは後ろめたさではなく、清々しい解放感。
「ありがと、凄い幸せな誕生日やった」
「ばっか、続くんだよ。――あ、でも今後5年間はプレゼント『じゃがりこ』でもいいかなって思ってる」
「幸せな! 誕生日! やった!! 2013!!!」
 この夏を、きっと忘れない。
 クルーザーが上げる飛沫に頬を濡らしながら、二人は遠のく島を見詰めた。




【Lucky Go Happy days 了】


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja5823/ 加倉 一臣 / 男 /26歳/ インフィルトレイター】
【ja6901/ 小野友真  / 男 /18歳/ インフィルトレイター】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
南国の潮風と、凝縮パッションバースデーリゾート、お届けいたします。
内容から判断しまして、今回は分岐なし一本道での納品です。
楽しんでいただけましたら幸いです。
流星の夏ノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年09月09日

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