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『突撃サマーバトル! 』
御手洗 紘人ja2549


 カッ、
 灼熱の太陽が照り付ける。夏。そう、夏である。
「サマーバーゲンの季節だよ、お兄さん!! 行こうよ☆」
「いーねーー」
 行くならいつ? 今でしょ☆ 手を叩いたのはチェリー。
 ゆるーっと話に乗るのは百々 清世。
 今年の新春バーゲンは、それはそれは楽しかったな。

 夏休みを迎え、顔を合わせる友人も少なくなっている学園。
 冷房の利いたカフェテリアでお茶をしていたチェリーと清世は、他愛ない雑談から思い付きに至る。
 興味を惹かれる依頼も斡旋所にはなかったし、そんな日は。


『学園卒業生・筧 鷹政くんの家へ遊びに行って、集りに…… 否、おねだりしちゃおう☆』

 ツッコミ不在の、夏休みのとある日のことであった。




「筧ちゃんの事務所も久しぶりー。相変わらずやってんのかねー」
「ねー☆ 学園で会う方が多いけど、相変わらず不健康な食生活なのかなー?」
 最寄り駅に降り立ち、どことなく懐かしい街並みを前にして。
「まあアポ無し突撃だし……。流石にお土産なしってのもどーかな、アイスでも買ってく?」
「買ってく!! チェリーだってタダで奢って貰うつもりはないよ!」
 相変わらず、手料理を作ってくれるような女の子も居ないんだろうか――そこまで思い至り、清世はチェリーを振り向いた。
 戦闘態勢に入っているチェリーだって、最低限のマナーは忘れていない。
 前回、事務所を訪れた際に近隣の店はチェックしている。
 手土産を用意する場所の目星はついていた。

 スーパーの食品コーナー。ひんやり冷房の効いた辺りを、二人はカートを押してゆっくり歩く。
「筧ちゃんは、ガリガリ君とか似合いそうよねー」
「噛り付いて、キーンとするところまでがご褒美なんだと思うよ☆ 梨味は豪華すぎるね、コンポタ味かなー☆」
 2、3、カゴへ放り込んで。
「うん? チェリーちゃん、張り切り系?」
 ダッツ12個入りを手にした彼女を、清世は上から覗き込んで小首を傾げる。
「こっちは別会計、領収書用ー☆」
「なるなる。じゃあ俺もー」
 清世は季節限定品を手に取った。
 



 とあるマンションの一室、『筧 撃退士事務所』のプレート。

「かーけーいーちゃーん あーそーぼー!」

「あーとーでー じゃない!」
 清世がタイムを連打すれば、ノリの良い返答と共に扉が開かれる。
 バンダナ代わりに頭にタオルを巻いた、赤毛のフリーランスが姿を見せた。
「嫌な予感しかしない取り合わせだね、いらっしゃい!」
「なにそれ、失礼しちゃう! お土産持ってきたのにー」
 驚きはしたものの軽い笑いで済ませ、鷹政は二人を招き入れる。
「アイス買って来たんだよ、こっちは冷凍庫に入れとくー☆」
「へぇ、ありがと。なつかし…… いや、斬新だな!?」
「やだ鷹政くん、知らないのー? いま人気絶頂の新味なんだよ☆」
「……冷えたコンポタ缶の味だね」
 さっそく喰らいついてはキーンとして蹲っている鷹政の後ろで、チェリーは冷凍庫へダッツ詰め合わせを押し込む。
「それじゃーしゅっぱーつ」
「へ?」
「アイス食べた? 食べたよね? じゃあショッピングモールいこー!」
「筧ちゃん何やってんの、早く準備してよねー」
「まったく話が見えない!!」
「タダでアイスが食べられるなんて、そんな甘い話があると思った? 現実はアイスより冷たいんだよ!!」
「嫌な予感で体感温度は一気に下がった」
「沢山買ってもらわないと! この時期を逃したら駄目だからね!」
「あったりまえじゃん。だって主役は女の子だしー」 
 違う意味で頭を抱え、デスクワークの残量を確認してから、鷹政は二人に引きずられるように事務所を後にした。




 てっきり、女性ブランドのショップへ入るのかと思いきや、真っ先に向かったのはメンズ。
 チェリーの後ろで、鷹政がまばたきを繰り返す。
「どうせファッションとかどーでもいーって思ってるでしょー! そんなんだからモテないんだよー!」
「いやあのな、別にモテないわけじゃなくてですね」
 学園へ持ち込むようなプライベートでもないだけで。結婚詐欺は、まあアレだったけれど。
(……まあ、いいか)
 強く言い募って主張することでもない。
 清世なら理解してくれる部分もあると思うけれど、女子高生の前で話題にする必要はないと判断してすぐに引き下がる。
 その判断が、往々にして惨事を招いているわけだが。
「じゃ、チェリーちゃんの手腕に期待しますか」
 『ファッションとかどーでもいー』に関しては、否定の余地がない。
 実用性重視で選んでいるから、こうして誰かに選んでもらうのは楽しいと思う。
「ちゃんと鷹政くんに似合いそうな服をコーデするんだからね!」
 何より。張り切るチェリーの姿は微笑ましい。
「なんか、贅沢な気分だね」
「荷物持ちは、俺がしますし」
 賑わう百貨店は、それだけで疲れそうなものだけれど、小物までアレコレ見繕うチェリーを見守りながらの雑談で、男二人も楽しく時間を過ごしていた。
「OK! 次は、お兄さんのコーデだよー☆ お店、変えるからね!!」
「え、試着とかは」
「チェリーの眼力を甘く見ないでよね。お正月に剥いてチェック済…… じゃなかった、データに入ってるから平気☆」
「今、さらっと怖いこと言わなかった……?」
「筧ちゃんの気のせいじゃね?」
「……そか」
 チェリーから荷物を受け取った清世が、そんなことより次次ー、と鷹政を促す。
「お兄さんは、何でも似合いそうだから逆に難しいよね☆ 腕が鳴るよ!」
「わーい、ありがとー。けど、チェリーちゃん優先で良いのよ?」
「お楽しみは一番最後だよ☆ チェリーは自分でちゃんと自分でコーデして買わせるから大丈夫!」
「……買わせ? え?」




 最後に、地下フロアで食材を買い込んで、帰還。
「わー、蒸し暑いーーー!」
「筧ちゃん、ここのシャワー狭いよ」
「一人所帯に贅沢言わないでください!!」
 荷物を置いて、クーラーを掛けて、ブーイング。
「チェリーちゃん、先に使いなよ。それまでに部屋、片づけておくし」
「えっ、やだ鷹政くん、なんの準備……!?」
「たぶん、想像してるのとは違うから安心して」
「乙女の秘密を知ったら万死に値するからね!」
「はいはい、大丈夫だからゆっくりどうぞ」
「そうやって流すからモテないんだよ!!」
「お披露目会は晩飯食いながらねー」
 あ、この流れは正月再来だな? と、シャワールームへ向かうチェリーの背を眺めて鷹政は感じ取った。
「ビール貰うよー」
 事後承諾で冷蔵庫を開けている清世から、鷹政も缶ビールを1本受け取る。
「おにーさん、お疲れ様」
「筧ちゃん、ごちそうさま」
「……うん」
 全部、領収書を自分名義で切られていた事実は、なんとなく予想していた。
 缶を鳴らし、クーラーの効き始めた室内でのんびりと。
「煙草、吸うだろ」
「あー、でもチェリーちゃん居るし、吸う時はベランダ出るよ?」
「換気扇回しておくから、とりあえず今は大丈夫じゃない?」
「そいじゃ、遠慮なく」
 差し出された灰皿を受け取ると、清世はそのまま奥のソファベッドへ向かう。
「疲れたーぁ」
「え、差し向かいで飲むんじゃないの」
「ゴロゴロ優先ーー」
 入り口から持ち込んだ応接セット椅子は無かったことにされて、鷹政がガクリと。
「寝たばこで火ィ着けるなよー」
 力なく笑って声を掛ければ、寝返りと共にひらりと片手が挙がる。
「まかしとけー」
 女の子と買い物、楽しいけどねー
 清世は付け足しながら、楽しいゆえに疲労の反動も大きいのだと態度で示す。
「うん、俺も久しぶりに楽しかったなー、ああいう空気」
 鷹政もまた、大きく伸びをして天井を仰いだ。




「さっ、腕によりを掛けて夕飯作るからね!! チェリーのコーデ、見せて見せてー!!」
 湯上り美人のチェリー、しっかり髪を乾かしている間に行水系メンズが順次シャワーを済ませて出て来る。
「明日は、みんなでお昼食べに行こうね☆」
「お手頃価格のところで頼む。……って、若いな、これ!」
「どうせ実年齢より若くみられるんだから!!」
「そうだけどさ!?」
 箱に袋に、丁寧にアクセサリー類まで揃えられていて、鷹政の声が震えた。それに対して、チェリーの返しは身も蓋もない。
「お兄さんは、サイズどう?」
「おー、バッチリ系ー」
 渋めの色合いの七分丈パンツ、淡い色のジャケットの下は七分丈シャツにスクエアペンダントをアクセントに。
 チャラさ控えめカジュアルコーデ。
「あ、なんか印象変わるね」
「そう? 新たな魅力発見しちゃった?」
「発見発見」
 二人の会話を、背中に耳を付けてチェリーは耐える。
 料理を作り終えたら、ご褒美に堪能するのだ!
「つーか、靴まであるのか」
「未使用だったら、室内でも平気っしょー」
「え、そういうもの?」
「チェリーちゃんが選んでくれたのよ?」
「……ですよねー」
 インナーの黒タンクトップ、ライトグレーのジーンズまで穿いたところで謎の箱に気づいた鷹政だが、清世の正論に頷くしかなかった。
「あー、ジーンズのポケットにワンポイントあるんだ。こういうの、確かに自分じゃ選ばないなぁ」
「そもそも、ああいう店に行かないっしょ」
「まぁね……」
 ボタンや袖口に白のラインが入った黒基調のシワ入りシャツを羽織ったところで、改めて全身を見る。
「あっ、ちゃんとアクセも着けてね!!」
「後ろに目でもついてるの……?」
 なんか、束縛されるッぽくて苦手なんだよな、と犬のようなことを言いながら、チョーカーとバングルを取り出す。
「いんじゃないの、外見年齢相応に見えるよー」
 ブラウンの革靴の紐を締めたところで、清世が手を叩いた。




 夕飯の前から、チェリーは満腹そうであった。
「すごい達成感だよ……☆」
「おいしー、筧ちゃんとか女の子の手料理とか久々なんじゃない?」
「気が付くと、チェリーちゃんに作ってもらってばかりな気がする」
「やだ、誤解しないでよね、チェリーには彼氏がいるんですからね!!」
「わかってます。ありがたく頂きます」
 両手を合わせ、鷹政は大盛りのサラダを取り分ける。
「それでナンパでもしたら、成功しそうなのにねー」
「テクニックばっかりは、服装じゃどうしようもないしねー」
「あとで年齢詐称でフラれそうだしね☆」
「なんという言いたい放題」
 言われたい放題だが、鷹政も楽しそうだ。
 こういう贅沢の仕方は新鮮で、連れ出してもらったことは純粋に楽しかった。
 何より手料理が美味しいので文句を出すより胃袋へ詰めたい。


「チェリーのお披露目は、明日ね! 美少女とデートできるんだから感謝してね☆」
「すげー楽しみー。で、此処ベッドあるんだっけ?」
「ソファベッドが一つだけだって、知ってて来てるよね……?」
 夜更かしは美肌の大敵。
 チェリーの就寝タイム到来で、清世が話を振った。
「じゃ、チェリーちゃん使いなよー。俺と筧ちゃんは…… 床か」
「百々君の分くらいは、なんとか」
「マジで?」
「床よりは楽だと思う」
 応接セットの椅子をつなげる。
 長身の清世では脚が少々はみ出すが、スプリングが効いているから床よりは寝やすいはず。
「これはこれで、悪くないかも」
 ギシリ、弾力を確認して、清世はブランケットを受け取る。
「夏場だからコレで済むけど…… 今度、冬に突撃受けたら厳しいな」
 床へ寝そべった筧が、苦く笑った。




 幸せな朝食の香りで目を覚ます。
 朝からテンションの高いチェリーの声と、低い清世の手だけの返事。
「おにーさん、ベッドに移る?」
「やだ鷹政くん、まだ朝なのに!!」
「チェリーちゃん? チェリーちゃん?」
 きっと清世は安定の昼までスヤァだろうから、午前中はノンビリと。
 乙女の準備は時間がかかるから! と主張するチェリーには丁度いいだろう。
(今日も、暑くなりそうだなあ)
 窓を開けずともわかる、夏の日差しの強さ。
 昼は、二人をどこに連れて行ってあげようか。
 近場のオススメ飲食店を、いくつか頭の中に思い浮かべる。


 振り返ると、チェリーはゴキゲンな顔でダッツを食べていた。
 その領収書までは、身に覚えがなかったな……?




【突撃サマーバトル! 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja2549/御手洗 紘人 / 男 /15歳/ ダアト】
【ja3082/ 百々 清世 / 男 /21歳/ インフィルトレイター】
【jz0077/ 筧  鷹政 / 男 /26歳/ 阿修羅】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
筧事務所に集ろうず☆サマーバーゲン編、お届けいたします。ほ、本気を見ました……。ありがとうございます。
内容から判断しまして、今回は分岐なし一本道での納品です。
楽しんでいただけましたら幸いです。
流星の夏ノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年09月11日

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