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『海へ行こう、ふたりで。 』
百々 清世ja3082


 西暦2013年、夏。
 時間通りに、百々 清世(ja3082)は待ち合わせ場所に向かっていた。
(待ち合わせ苦手だけど、きっと早目に来てんだろうなー)
 彼女はそういう娘だから。待ち合わせ時間には間に合うはず、だけど頑張る。
「‥‥お」
 今、ちょっといい女に擦れ違った。清世よりひとつふたつ年上くらいか、すらりとした体躯に纏うマキシ丈のスカート、サンダルの間から僅かに見える白い踝が色っぽいが、他の女に目を奪われている場合ではない。何せ今から可愛い娘とデートなのだから。
 駅改札前はもうすぐだ。待たせてはいけないと清世は足を早めた――ほら、柱に凭れる小柄な赤い髪。慌てた様子は見せたくないから、ほんの少し歩く速度を緩めて息を整えて、いつもの朗らかなお兄さんの顔をした清世は、スマホを弄っている後姿へ声を掛けた。
「ごめんねー 待った?」
 小柄な娘が振り返る。
 着こなしが難しいだろうマキシ丈のワンピース、水色のそれをさらりと着こなし綿麻カーディガンを羽織った上品な姿。
 先ほど擦れ違った女よりもずっと良い女だ――振り返った奥戸 通(jb3571)に笑顔を向けて、清世は思った。


 この日、二人が約束したのは海。
「ぉー‥‥人が沢山ですね」
「おー、流石に混んでんな」
 二人揃って顔を見合わせる。盆前の時節柄、真夏の海は人で溢れかえっていた。
 一旦分かれて着替えを済ませ、再び浜辺で待ち合わせ。
「うんうん、似合ってる」
 白地に赤青ボーダー柄はお揃いで。サーフパンツの清世に褒められて、ビキニの通はほんのり顔を赤らめた。実は今日の為にダイエットしたのだ。
「奥戸ちゃんは可愛いねー」
 知ってか知らずか、清世は通の髪をぽふぽふ撫でた。
 均整の取れた小柄な通に減量的意味でのダイエットが必要ないのは誰の目にも明らかだ。だけど水着を着る為に、何より自分の為にダイエットしてくれる通の女の子心を、清世は健気だと思う。
「可愛い‥‥ですか?」
「頑張る女の子、おにーさん好きだよぉ」
 おずおずと見上げた通に、清世は目を細めて笑った。

 健気で可愛い女の子をいつまでも眺めていたかったけれど、日差しは強くなるばかり。さて泳ごうかと清世は通の手を取った。
「‥‥え、と」
「あれ、もしかして奥戸ちゃんって泳げねぇ系‥‥?」
 通が見せた、ほんの少しの躊躇いに気づいて清世は首を傾げた。こくり頷いた通の反応に「かーわいー」清世が言ったものだから、通は少女のようにはにかんで俯く。
「そっかー。水辺で遊ぶのもいいけど、折角だしおにーさんが手ぇ引いてあげるから、頑張ってみ?」
 そんな訳で、急遽清世先生の水泳教室開催決定。
 浅瀬に入った清世は両手の掌を上にして通へと伸ばした。
 これが片手なら姫をエスコートする王子のそれだ。対する通はおずおずと、何だかちょっとあどけない。
「だいじょーぶ、絶対離さないから」
 清世の頼もしい言葉を信じて通は手を繋ぐ。
 大きな手。清世と一緒なら泳げるようになるかも――と思ったものの。
「清世せんせ、無理‥‥‥‥‥‥」
 手を繋いだままぶくぶく沈んでゆく通は筋金入りのカナヅチだった――

 ともあれ、ひとしきり泳ぐ練習を頑張ってみたところで。
「頑張った奥戸ちゃんに、ご褒美。海の家でカキ氷でも食べようか」
「わーい☆」
 イチゴにレモン、みぞれにメロン――暑い日のカキ氷は何故あんなに美味しいのだろう、それが海なら尚更だ。
 海の家で一休みした後は浮き輪を借りて、波間に揺れてのんびりと。
 さすがのカナヅチ通も浮き輪があれば安心だ。さながら膝枕ならぬ浮き輪枕で、通の浮き輪に頭を預けて浮かんでいる清世の顔を覗き込み、通は小首を傾げて名を呼んだ。
「ももたん」
「んー?」
 いつもと違う呼び方でも清世は反応する。彼に片思い真っ最中の通は他愛ない問いを口にした。
「ももたんは、どうして浮かべるの?」
 清世は通に視線を向けて「んー」おもむろに答えた。
「肩の力を抜いて、なりゆきまかせ?」
 何だか清世の生き方にも通じるような、含蓄ある一言だった。
 清世はいつでも天衣無縫だ。沢山の女の子を等しく甘やかし、誰に対しても優しく、飄々として本音が見えない。
「そっかぁ‥‥」
 通は清世の頭を撫でた。通は清世が大好きで、清世も通が大好きだ。しかし二人の大好きは同じではない。だけどそれでもいいと通は思う。だって大好きで大好きでたまらないのは自分自身の偽らざる気持ちだから。
 自然体で――ほんの少しだけ、水に浮けるような気がした。


 陽射しを浴び海で過ごした心地良い疲れと共に、二人は海辺のホテルにチェックインした。
「暗くなってきたら綺麗な夜景が見れそうですねー」
 わくわくと窓からの景色を眺める通、荷物を置く清世。恋人付き合いしている訳ではないけれど別個に部屋を取ったりはしない。そんな二人なのだった。
「砂でざらざら‥‥先入って来ていいですよ」
「あれ、一緒シャワー入らねぇの?」
 さすがにそれはない。やだ冗談だって、と赤くなった通の頭をぽふぽふして清世はバスルームに消えた。
 清世を見送り、通は再び窓の外を眺める。バルコニーが見える――夜風を浴びるのに良さそう。後で二人で出よう。そんな事を思いつつ、清世と入れ替わりにシャワーを浴びる。さっぱりと身支度を整えて、二人は夕食を済ませた。

「バルコニーへ出ませんか?」
「夜景見よっかー あー、やっぱ風あるとちょっとはマシだねぇ」
 猛暑だ酷暑だと年々暑さが増してゆく昨今の夏だけれども、夜の海から吹いてくる潮風が心地良かった。
「この時間になると潮風が気持ちーですね」
 そう言って、通は清世に寄り添った。
 まだ半年、もう半年。様々な思い出が通の脳裏を過ぎってゆく。
「奥戸ちゃん?」
「えへへ‥‥こうやってお話出来る仲になってもう半年も経つんですね‥‥早いわぁー」
 照れ隠しに、頭をうりうりこすり付けて甘える通を、清世は笑って抱き寄せた。
「もう半年? そりゃあこうやって甘えてくるようにもなるわ」
 清世にとって通は可愛い後輩だ。決して恋人ではないけれど、他の女の子同様に目一杯甘やかせたい大好きな子。だから今は、通が望むように、甘えるがまま甘えられておこうと思う。
「楽しいと、時間立つの早いっていうもんねー」
 そんな事を言いながら顔を上げると、一際赤く輝く明るい星が見えた。
 夏の星座だろうか、きっと冬の星座を眺めるのもすぐの事だろうと、清世はぼんやり考えつつ空を見上げていた。

 ――明け方。
「喉渇いた‥‥」
 半覚醒でもそもそ起きた通は、清世を起こさないようにそっとベッドから出た。乾きが欲するままコップ一杯の水を飲むと半覚醒の頭がすっきりする。
 再び眠ろうとベッドに戻りかけた通だが、覚醒した視界に清世の寝姿が入って来た。
「寝顔可愛い‥‥ももたん足裏に傷が出来てる‥‥砂浜でかな?」
 何か踏んだのだろうか、裂傷が気になって通はポーチを取り出した。中には絆創膏が入って――いたが。
「見えないところだし…いいかな?」
 愛らしい柄付き絆創膏を足裏に貼り付けて、通は今度こそベッドに潜った。幸せに浸りながら二度寝する為に。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ja3082 / 百々 清世 / 男 / 21 / 女の子みんなの味方 】
【 jb3571 / 奥戸 通 / 女 / 21 / 片思い真っ最中! 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 海デート、クラゲが出ない内にお届けするはずが‥‥!
 お待たせしまして申し訳ありません! 周利芽乃香でございます。
 この度はご指名ありがとうございました!

 あれから半年‥‥おにーさんは相変わらずですね?
 女の子みんな等しく可愛い、通さんは可愛い後輩で恋愛感情はなし‥‥という現状維持。
 彼女の気持ちには気づいてらっしゃるのかな、清世さんならきっと気付いてらっしゃいますよね、などと考えつつ書かせていただきました。
 すっかり遅くなってしまいましたが‥‥少しでもお楽しみいただけましたら幸いに存じます。
流星の夏ノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年09月17日

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