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『宵空に響く祭り囃子と迷子の天使 』
木花咲耶jb6270

 宵の帳が降りた。
 濃紺色の空に針を刺して穴を開けたように、ぽつりぽつりと星が瞬けば夏の暑さを連れ去ってすっかりと辺りはひんやりとした夜風が支配する。
 蝉時雨も泣き止んで、あんなに強く輝いていた陽も無く少しだけ寂しいような気もして。長い石段を登って広がる人々と祭り囃子が織り成す喧噪に、少し怯えるような視線も輝き出す。
「これが、夏祭りかのお?」
 木花咲耶の瞳に、きらきらと輝く提灯が揺れて、そわそわと心も浮き立ち始める。
 人界で生活するのはどれ程になるのだろう。はっきりと覚えては居ない。
 けれど、まだまだ人界には知らないことが沢山で、夏祭りもそのひとつ。
 社交的に見えて、意外と引っ込み思案な咲耶を見かねた友人に連れられて、初めて夏祭りへとやってきた。

 会場に到着して、まず、周囲を見渡してみた。
 わたがし、射的、たこやき、りんごあめ、金魚すくいにベビーカステラ。
 沢山の屋台に、ひとつひとつに灯る電灯がまるできらきらと輝く宝石のよう。そんな煌めきを受けた咲耶の目も輝いていた。
「見てみるのぢゃ」
 羽を得た鳥のように、小さな天使は人混みの間を縫うように露天を見て回る。
 その様子はまるでおのぼりさんのよう。
 何もかもが物珍しくあっちこっち移動した先の露天で桜の簪を見つけて友人に見せようと振り返ると雑踏の中、見知った姿は無い。
 軽く名前を呼んでみても、この喧噪の中聞こえるはずもなく、ポツリと
「ふむ、迷子になってしまったかの。仕方ない探しに行くのぢゃ」
 ちょっと肩を落としながら進む。
 探すためと雑踏を掻き分けて捜索する。だけれど、直ぐに周囲の出店に目を奪われて覗き始める。
「お、真っ赤な金魚がたくさん泳いでおるぞ」
 じぃっと水槽を眺めると、水面をゆらゆらと小さな金魚が悠々と泳いでいた。
 金魚すくい。水槽を泳ぐこの金魚達を掬う遊びなの
「やってみるのぢゃ!」
 笑顔でポイを受け取り、
 横目に上手に救う女性を見倣い、気合と共に振りかざす!
「む、むぅ……」
 けれど、力を入れすぎた。水圧で破れた紙を擦りぬけて我関さずと泳ぎ続ける金魚。悔しい。頬を膨らませて金魚を眺める。
「お嬢ちゃん、どの金魚が欲しいんだ? 」
 その声に顔を上げた咲耶。目の前で小さな網を持った金魚すくいの屋台の店主が穏やかな笑みを浮かべていた。
「取れなかったのぎゃぞ?」
「掬えなくても必ず上げることになってるんだよ」
「ほんとかの! じゃあ、のう……」
 咲耶が、ずっと二匹で泳いでいた金魚。なんだか仲が良さそうでずっと気になっていたから。引き離すのは可哀相だから出来れば二匹ともと願う。一緒に手網で掬い小さなビニール袋に金魚を入れて咲耶に手渡した。
 金魚袋を受け取って、その中でゆらゆらと揺れる金魚に思わず笑みが零れる。
「おお、こっちは真っ赤なりんごの飴ぢゃ」
 金魚すくいの後に立ち寄ったのはりんご飴の屋台。電球に照らされて輝くりんご飴達。透き通り光ってまるで輝く宝石のよう。
「おう、嬢ちゃんはりんご飴好きかい?」
 きらきら輝いてとても綺麗ぢゃと笑顔で頷き応える。
 すると、じゃあ特別にサービスだと、釣られたようにりんご飴屋台の店主も笑顔を浮かべてりんご飴を差し出す。
 ありがとなのぢゃ。そう答えて屋台を後にする。
 りんご飴の袋を早速取って舐めてみると、甘い飴の味が伝わってきた。
 けれど。
 友達の姿を探していたはずだった。
 しかし、気付いてみれば、すっかりと道草を満喫していていて、本来の目的を思いだして。

 そうだ。ひとりぼっちだった。

 探さなければ、踏み出して。歩き続けて、どれくらい経ったのだろう。
 気が付けば少し外れた場所に居た。先程まですぐ傍にあった喧噪も、今はこんなにも遠い。
 賑やかな声に紛れていた寂しさと仄かな不安が、ふわりと何処からか沸いてくる。
「どこに、いるのかのう……?」
 大きな幹にもたれ掛かって、木々の隙間に見上げた夜空には沢山の星々。
 綺麗だなと思う光景も離ればなれになった星々の隙間。今はちょっと寂しくて。
 夜空に溜息が零れる。

 ドォン。大きな音が夜空を揺らす。わっと沸き上がる歓声。
「……花火ぢゃ」
 もっと近くで見よう。
 夜空の花をもっと綺麗に見える場所へ。
 そう、足を進めた時だった。
 二発目のヒュウッと風切る音が聞こえて、夜空に赤く大きな花が咲く。

 光より少し遅れた、花火の大きな音がまた夜闇を揺らす。
 けれど、今度は其処に混じり聞こえる友人の声が確りと咲耶の耳に届いていた。
 もしかして、その声に振り返って見ると、少し呆れつつも満更でも無さそうな表情を浮かべた友人の姿。
「待ってたのぢゃー!」
 振り返りパッと走り出した小さな天使の顔には花火より尚華やかな笑顔が広がっていた。
 帰る場所。小さな天使の、小さな冒険は此処で終わった。


 夜空に咲いては散ってゆく花火。次々と打ち上げられてはあっという間に消えてゆく。
 夏の想い出。刻まれた新たなる記憶の1ページ。小さな天使の日常は沢山の夢を積み重ねていってまた、季節は廻る。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb6270 / 木花咲耶 / 女 / 6 / 陰陽師】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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お待たせいたしました。納期いっぱい頂いてしまい申し訳ありません。
後編も必ず予定通りにはお渡ししたいと思っておりますので、もう暫くお待ち頂ければと思います。
この度はご発注有難う御座いました。
流星の夏ノベル -
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エリュシオン
2013年09月17日

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