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『でこぼこな天使と少女の、不器用な優しさと夏の夜の夢 』
ラファル A ユーティライネンjb4620


●迷子の天使と素直になれない少女

 夕焼けの橙色は次第に宵の藍色に塗りつぶされていくように、昼は夜へと変わる。
 先程まであれ程に元気よく輝いていた太陽の代わりに、夜空にポツポツと針で穴を開けたように煌めきだす無数の星々。
 鳴き叫ぶような蝉時雨も途切れて、暑さも夜風がすっかりと連れ去ってしまい、ひんやりとした風だけが辺りを支配していた。

 からんころんと弾むような唄声を立てる下駄を鳴らして、少女達が向かう先は神社。
 街からは少し離れた神社からは人々の喧噪と祭り囃子が絡み合って、賑やかな音楽を奏でている。
「これが、祭りかのう……?」
 そう、祭りの縁日だった。
 社交的に見えて意外と引っ込み思案の小さな天使。人界で過ごすようになってからどれだけの年月が流れたのかはよく覚えていない。
 けれど、夏祭りというものを経験したことはなく初めて見る光景に、木花咲耶の瞳は祭り提灯より強く輝いているようだった。
「ったく、ウロチョロと動きまわんなよ。こんだけ居ると探すのも面倒くせぇから」
 そんな咲耶の隣、紺色の般若柄の浴衣に身を包んだラファル A ユーティライネンのが、少し呆れた口調でそう告げた。
 けれど、迷子になったら探すと言っているようなラファルの言葉は、実に彼女らしい物だった。

 思い返せば、夏休みも半分が過ぎたある日のことのだった。
 いつものように茶を片手に過ごしていた昼下がり。何となく流していたノイズ混じりのラジオが何処か遠い街の夏祭りの様子を告げていた。
 祭り囃子と楽しそうな声が折り重ない織り成す音に、咲耶が興味を示したのはある意味当然のことだったかもしれない。
「なつまつり、とは楽しいものなのかのう?」
「そういや来週、近くの神社であるって言ってたっけな……」
 小さくきょとりと首を傾げた咲耶に、近くの神社であることを思いだしたラファルがそう呟けば身を乗り出す勢いで食いついた小さな天使。
「行くのぢゃ! 行きたいのぢゃ! ラルーラルー! いっしょに行くのぢゃー!」
 頷いた咲耶の笑顔は、真夏の太陽よりも元気に強く輝いていた。

 飽くまでも、手を繋ぐわけではない。そう、あくまでも迷子になられると探すのが面倒臭いから繋いでおくだけだ。
「おい……」
 咲耶を呼び止めて、手を繋ぐぞと言おうとしてそちらを見た時
 先程まで瞳を輝かせていた小さな天使の姿は、もう何処にも無かった。
 早かった。
「ほら、言わんこっちゃねぇ……」
 それは、一瞬の出来事だった。余りにも、早かった。
「仕方ねぇ、探しに行くか……」
 行きたいと言っておいて勝手に迷子になった咲耶に色々な意味で腹を立てながら人混みの間を縫うように進む。
 歩き出したラファルの金色の髪と汗が屋台の光を受けて、少しだけ輝いた。

 この頃、迷子になっていた張本人はりんご飴だの金魚すくいだの、全力で夏祭りを満喫していたわけだけれど。
 そうとは知らず探し回るラファルの額には大きな汗の玉が出来ては、落ちていった。



●とっておきの場所から見上げた花火の色

 結局、咲耶が居たのは祭り会場を少し外れた大きな木の下だった。
「ったく、このチビ天使!」
 金魚を手に空を見上げていた咲耶。その手には金魚が泳ぐ袋、思いっきり満喫していた様子に思わず呆れてしまう。
 打ち上がった花火の大きな音に紛れたラファルの声。だけれど、確りと咲耶の耳に届いたようで、気付いた咲耶がパッと振り向く。
「ラルー!」
 パァっと花火のように明るい笑顔を湛えた咲耶が抱き着くように両腕を広げて、駆け寄ってきた。
 だけれど、ラファルはひょいっと避けて勢い余った咲耶の腕を掴む。
 そうして、そのままむっとした表情でラファルは咲耶の顔をじーっと眺める。
「どうしたのぢゃ? ラル。花火、見ないのかの?」
 もう打ち上がり始めてるのぢゃ。今も上がり続けているというのに、ラファルは黙って咲耶の顔を見るばかり。
 おかしそうにきょとりと首を傾げる咲耶。
 相変わらず何も言わないラファルは咲耶の腕を掴んだまま、引っ張るように歩き出した。
 花火会場とは反対方向へ。一つ一つ咲いては。花火の光
「なぁ……ラル、どうしたのぢゃー? もっと良く見えるところに行くのぢゃよ」
 花火を背にして歩き出す格好だった。
「ラル、ラル! 花火が遠くなるのぢゃ」
 ぶさくさと文句を告げる咲耶を気にせず、ラファルは大股で先へ進んでいく。

 花火からどんどん遠ざかって、人も疎らになってゆく。
 祭りの提灯が遠ざかって、暗くなっていく。
 祭り囃子も人の喧噪も、全てが遠ざかって響くのはふたりの下駄の音。
 何も言わないラファル。不安そうにラファルの背中を見つめるだけの咲耶。
 引っ張るようにから、引きずるように。
 ずいずいと、言葉も無いままに突き進む。

 からんころん。
 来る時には弾むように唄っていた下駄の音も今は、怒るように鋭い音を立てて泣き叫んでいた。

 暗い路地裏を通った。
 余所様の塀や屋根の上も通った。
 垣根を潜って、小さな用水路も飛び越えて。
 星々の光を木々が遮って、仄暗い山道も通った。

 頭には木の葉の髪飾り。裾は少しだけ土の色に汚れて。
 浴衣もちょっとだけ着崩れた。

 道中、何度も引き返したがった咲耶を無視して、構わず進んだ先――。
 その『目的地』が目視出来た瞬間に、ラファルの表情がニヤリとした笑みを浮かべたけれど、引きずられるように後ろを歩く咲耶からは何も見えなかった。
 どれだけ歩いたのだろうか。やがて、辿り着いたのはとある寂れた神社。
 あちらこちらに少しだけ人が散らばるだけで、とても静かな場所だった。
 先程の祭り会場と対照的過ぎる場所。とても祭りや花火と言った雰囲気ではなかった。

 神社の境内の丁度中心辺り。
 ボロボロになった石畳を歩いていたラファルが立ち止まった。少し遅れて咲耶も立ち止まる。
 からころと鳴り響いていた下駄の音が止まると同時、花火の音が聞こえなくなる。
「ラル……怒ってるのかの?」
 咲耶の声は、少しか弱かった。
 勝手に行動したから? ラファルが探して居たのにりんご飴を舐めていたから? 金魚すくいをしていたから?
 自分から行きたいと言っておいて、ラファルを置き去りにして、ひとりだけで楽しんで。
 もしくは、もっと別のことだろうか――。だから、友人は怒ってしまったのだろうか。

 不安そうに咲耶はラファルを見上げようとしたその時だった。
 ラファルの背中越し。
 今までより、ずっと、ずっと大きな花火が宵空のキャンパスに広がった。
「わあー!! すごいのぢゃ、大きいのぢゃ!」
 きゃっきゃと声を上げて、ついでに飛び上がって喜ぶ咲耶は次々と上がる花火に夢中になっていた。
「どうよ?」
 そんな咲耶の隣で、ラファルは少しだけ得意げな笑顔を浮かべる。

 咲耶が夏祭りに行きたいと言い出したあの日、とりあえずは仕方ねぇなと誘いにのったラファル。
 だけれど、咲耶と別れた後、真っ直ぐに少しでも花火が綺麗に見られる場所をと探し回っていた。
 この寂れた神社は地元の限られた人しか知らないような、花火鑑賞の穴場。
 流石に、この場所を見つけ出すのには少々骨が折れた。

 しかし、ラファルは何も言わないし、表情にも出来るだけ出さない。
 底意地が悪くても、口が悪くても小さな天使の真っ直ぐな好意に、これだけの好意を返せる。
 ラファルはそういう少女だった。

 当然、咲耶はそれに気付くことは無かったけれど。
「とーっても、綺麗なのぢゃ! 凄いのぢゃ!」
 小さな小さな天使の、大輪の花火よりも大きな笑顔は、どんな物よりも晴れやかに。

(……ったく、そーだな)
 そんな咲耶の大きな笑顔につられるように、天邪鬼な少女は心の中で満足そうに笑った。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb4620 / ラファル A ユーティライネン / 女 / 16 / ナイトウォーカー】
【jb6270 / 木花咲耶 / 女 / 6 / 陰陽師】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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中秋の名月も過ぎて、9月もそろそろ終わりそうな気配を見せてきましたね。
こんにちは、水綺ゆらです。
……本当にお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。

まさか後編までご発注頂けるとは思わなくて、こちらこそ嬉しかったです。
でこぼこしているおふたりだけれど、それが不思議と上手くかみ合っていて、とても素敵なコンビだと思いました。
不器用なツンデレさんも元気な小さな天使さんも、描かせて頂いてすごく楽しかったです。

WTRPGエリュシオンでは学年が変わる、丁度そんな頃合いですね。
これから益々空気も冷えていって、秋から冬へと変わってゆきます。
そんな移り変わる季節の中で、少しでも素敵を見つけられますようにと祈りを込めて。

少しでも気に入って頂けたら幸いです。
この度はご発注有難う御座いました!
流星の夏ノベル -
水綺ゆら クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年09月24日

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