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『夏と言ったら華麗でしょ? 』
強羅 龍仁ja8161


「わぁー華麗に遐齢をとった鰈を嘉例の日に佳麗に振舞いながらも乾飯で作ったカレーを加齢した人に出すという家例を作るお父さん見てみたいな!」


 日本語で頼む。




「鷹政、責任を取れ!!!」
「状況説明を頼む!!」

 学園でその姿を見つけるなり、強羅 龍仁は筧 鷹政に向けて審判の鎖を放ち縛り上げ、担いで拉致という凶行に及んだ。
「しかし鷹政……。麻痺効果が生じるのは冥魔相手のはずなんだが……、お前は本当に人間か?」
「新世界の神と呼んでくれていいよ。……違うね?」
 状況説明を頼む。
 今は使われていないらしい空き教室、放置された机にたまった埃を指先ですくいながら、鷹政は溜息でそれを吹き飛ばした。
 まあ、ある程度は予想がつく。
 発端は、龍仁の息子さんなのだろう。
 そうでなければ、温厚な龍仁がここまで取り乱すことはないように思う。
 取り乱すべきだろう、というところで平然と明後日の方向へ切り返すのが通常時の龍仁であるから。
 天魔相手に悠然と立ち向かう龍仁の、根本から揺るがす存在は血の繋がった彼の息子以外に鷹政は知らない。
「……ん。親子の何気ない会話の筈だった。何があいつの逆鱗に触れたのか、全く分からなくてな……」
 額に手を当て、龍仁は教壇に座り込んだ。
 そして、今朝の出来事を話し始める。




 ――夏と言ったらカレーだよね!
 誰が言ったか企画したやら、久遠ヶ原学園において盛大なカレーイベントが開催されたのは先日のこと。
 紆余曲折を経て、龍仁は見事、優勝を飾るに至った。

「今週会社でイベントがあってな……。父さん、華麗なる強羅さんなんて呼ばれてしまったよ。ハハ」
 高校生になる息子へは自身が撃退士であることは伏せ、一般の会社勤めをしていることにしている。
 そしてまだ、イベントがどんなものであったかも話していない。
 しかし。
 何かのスイッチが入ったかのごとく、息子は立て板に水で弾ける笑顔で無茶振りを告げたのであった。




 怒っているのか、からかっているのか、本気なのか冗談なのか、その区別もつかない。
 どうすれば、愛息子は満足するのか納得するのか……
 鬼気迫るその笑顔だけが、瞼の裏に焼き付いて離れない。
「『華麗なる強羅さん』なんて、鷹政が呼ぶからいけない」
「華麗なる責任転嫁だな!!?」
 一部始終を聞き終えて、その第一声に鷹政は咽こんだ。
「どうすれば息子は許してくれるだろう」
 しかし、龍仁は真剣だった。
 許す――その言葉が出るということは、無意識下に『息子は怒っている』と受け取っているのだろう。
 まあ、然もありなんな会話内容だ。
(どうするも、こうするも)
 机に腰掛け、落ち込む龍仁のつむじを見下ろしながら、結果から言えば鷹政にはわかる気がしていた。
 しかし、直ぐに答えを教えてもつまらない。

「華麗なる強羅さんが外連味なく可憐なフリル付エプロンで不可変の思いを込めたカレーを振舞うというのは

 言い終える前に、ヴァルキリージャベリンが鷹政の顎から脳天にかけてを貫いた。
「ふざけるな」
「真面目に痛い件について」
 意識の吹っ飛ぶ手前で耐えきり、鷹政は呻いた。
(残弾1か……。屋内でコメットはないとして、レイジングアタックをフルで使われたら詰むな。俺の命が)
 そして恐らく、今の龍仁であれば、フルで使う。
 むしろ、回復魔法を掛ける様子も伺えないので、華麗なる重体路線が完全なるビジョンとして脳裏に浮かぶ。
 何故、阿修羅には自己回復スキルがないのだろう、事故が起きた際に自己責任を取ることすらままならないとは事後報告さえできなくなる可能性がつまり痛い。
「そうだねぇ……」
 少々ずれたような気のする顎の位置を直しながら、鷹政は神妙な顔をした。

「真面目な話をするけど」
「なんでもいい、頼む」
「強羅さん、ずーっとかれいのにおいさせてんじゃん」
「誰が加齢臭だ!!」

 ジャベリン、2発目入りました。


(気絶からの回復まで、しばらくお待ちください)(頑張れ阿修羅の特殊抵抗値)




「カレー! カレーライス!! 学園で、引き篭もって作ってたんだろ!!?」
 カハッと血の塊を吐きだしながら、鷹政は蘇生した。
 その数、流れる星の数ほど……およそ1000食と聞いている。狂気の沙汰だ。
「……む、それは」
 追撃のタイミングを計っていた龍仁が、言葉に詰まる。
「残業とかなんだとか言い訳はできるだろうけど、そんな言い訳をしながら連日おいしそうな匂いを纏っての帰宅だよ。そりゃ怪しむよ」
「怪しまれて……いたのか?」
「わかんないけどさ、俺、息子さんと面識はないし」
 高校生にもなって、父の帰りが遅いからと拗ねるようなことはなかろう、とも思うが……親子の距離感は、それぞれだ。
 面識はなくても、少なくとも、龍仁からのベクトルは伝わる――現在進行形で身体を張って。
 何も其処まで―― とは、言わない。
 洗いざらい吐きだすことのできない、奥さんへの思いも聞いた。
 息子さんをどれだけ溺愛しているか、大切にしようとしているかくらいは感じ取ることが出来るし、冷やかすつもりもない。
「あのさ、凄く……言いにくいんだけど。強羅さん、イベント終盤って」
 ふう、深く息を吐きだして。

「死相を浮かべて信じられないほど一心不乱に獅子奮迅で挑んでたよね」

 イベント終了直後、死んだように寝入っていたことは聞き知っている。ので。
「そこまでして打ち込んでた相手がカレーで、業務と関係のないイベントで、……怒ったっていうか呆れたのか反動なのかまでは、わからないけど」
 笑顔で無茶振りをしたくなる程度には、心を動かしたに違いない。
「そういうものだろうか」
「第三者の見解としては。心配するしかできない身には、色々と考えるしかできないし、さ」
「……そういえば」
「うん?」
「それをお前が言うのか、鷹政?」
「……それはまた、別のお話?」
 笑ってごまかし、さて、それでは解決策となると。


「カレーを一緒に食べる家例、作れば良いんじゃん?」
「なげやりか」
 龍仁が拳を鳴らす。
 こちらは、こんなにも真剣だというのに!!
「槍を投げつくした人が! 何を!!」
 至近距離レイジングアタックを避けるべく、鷹政は縮地離脱の構えを取りながら。
「言葉を額面通りに受け取るんじゃなくってさ、本当はどうしてほしいかって考えると、やっぱ『かれい』でしょ」
 見え透いた嘘を――本当を織り交ぜながらの嘘に、怒ったのだろうと思う。
「『華麗なる強羅さん』と言わせしめた極めたカレー、一緒に食べてあげなよ。佳麗に振舞いながらさ」
 
 渾身のレイジングアタック、入りました。




 撃退士であることは明かせない。
 どんな行事であったのか、具体的に説明しようとすればするほどボロがでるだろう。
 だったら。

「会社の行事で、寝る間も惜しんで美味しいカレーのスパイス配合から研究して試作を山ほど作った結果の華麗なるカレーで優勝おめでとう華麗なる強羅さん。ある意味、嘘はない」
 隠し味に、具材に鰈を入れるのもいいんじゃない、は流石に鷹政も飲み込む。
「そこまでして勝ち取った優勝を、その味を、家庭で慣例として楽しむのも答えじゃない?」
 これでNGだったら、その時また考えよう。
「俺が持てる責任は、ここまで、ね? あとは強羅家の食卓に期待。あ、おすそ分けは大歓迎だけど」
「それは構わんが、お前、自炊もちゃんとしてるのか……?」
 調子のいいあとづけへ、龍仁は半眼で鷹政を見遣る。
「やってますぅー。もやし一袋フライパンに放り込んでから考えてる。せっかくだから、今日はカレー炒めにするな」
 龍仁が落ち着きを取り戻してきたとみて、ようやく鷹政は安心して立ち上がった。
 再三、攻撃を受けて体のあちこちが痛い。
 埃っぽい空き教室に、夏の終わりの夕陽が差し込み、全体を茜色に染める。
(もう、そんな時間か……)
 教壇に座り込み、頬杖をついていた龍仁が、ふと顔を上げた。

「!! 鷹政、お前、酷いケガしてるじゃないか!」
「誰のせい!?」
 これだから!
 強羅さんは、これだから!!



 さて、その夜の強羅家の食卓がどうであったかは――……。
 カレーのみぞ、知る。




【夏と言ったら華麗でしょ? 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃
━┛━┛━┛━┛
【ja8161/ 強羅 龍仁 / 男 /29歳/ アストラルヴァンガード】
【jz0077/ 筧 鷹政  / 男 /26歳/ 阿修羅】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました。
テーマは『かれい』。
『かれい』については序盤で単語を出し尽くされた感がありましたので、色々と力技でお届けいたします。
優勝おめでとうございました、華麗なる強羅さん!!
流星の夏ノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年09月24日

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