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『夏色【のとう&千尋&縁】 』
大狗 のとうja3056


 夕暮れ時になると秋の訪れを肌で感じる。
 熱気を含んだ風は、どこかひんやりとし、頬を撫でていく。
 そっと瞼を落とせば色鮮やかに思い出せる夏の思い出――
 私はこの色を鮮明に思い起こす……

 ***

 傍目に見ても、ご機嫌なのが良く分かる。
 尻尾でもあれば、ぶんぶんっと床がぴっかぴかになりそうなほど磨いていただろう。
 大狗のとうは、真野縁から受け取った写真を大切そうに机の上に並べて、眺めてによによ……。
「お、これこの間言ってた写真ー?」
「凄い沢山あるねー!」
「おー! いっししし! そうなのだ!」
 気が付けば、見せて見せてと人が集まってきていた。
「これどこー?」
「おー、それはな……」


 やってきました温泉旅館!
 夏休みを利用して仲良し三人組での小旅行。
 温泉に入りたい、蛍が見たい、美味しいご飯もてんこ盛り! みんなのしたいを叶えてくれる場所。
 緩やかな坂の上に建つ大正ロマン溢れる温泉旅館を見上げ藤咲千尋、のとう、縁の三人は横一列に並んで感嘆の声を上げる。
「いえーぃ! 着いたー!!」
「楽しみなのなっ! にまにまが止まらないのにゃっ!」
「うにー! わくわくなんだね!」
 真っ青な空に子どもの落書きのような白い雲。山の緑。そして、BGMは蝉の鳴く声。その全てにわくわくが詰まっている。
 まったりのんびり汽車を乗り着いで辿り着いた先、思えば遠くに来たもんだ。
 縁は早速記念の一枚ぱしゃり☆
 三人の記憶にはもちろん残る。色褪せることもきっとない。けれど、こうして目に見える形で、沢山の人にこの楽しい時間を分かちあえるように、伝えたい人たちに伝えられるように、残していきたいと思った。
 三人はそれぞれ顔を見合わせて、にまりと笑みを浮かべ、次の瞬間には、
「俺が一番にゃー!」
「あー! のと姉フライングー!」
「二人とも、待つんだよー」
 笑い声と共に、駆け足始めっ。
 肌に感じる夏の暑さすらどこか清々しく心地良い。

 一足先を走っていたのとうが足を止め、その場でとっとっと……と足踏み。くるりと身を翻すと、両手に二人を確保して
「やっぱり、三人で一番な!」
 いっししし! と快活の良い笑顔を浮かべる。
「はじめの一歩もーらった♪」
 と、いうわけで揃って御入館だ。


 正面玄関を潜りチェックイン。左手には吹き抜けに沿った螺旋階段。仲居さんの案内を受けて、二階の客間に通してもらう。部屋の隅に並べて置いた三つの鞄には、お揃いのゆるキャラマスコットがこちらを見ている。
 建物施設の説明を受けて温泉の場所など確認。お茶とお菓子を用意した後退室した仲居さんを目で追いかけて外扉の引き違い戸が、すすっと微かな音を立てて閉まりきる。
「見て見て! 凄い綺麗だよ!」
 三枚窓の向こうは、手入れの行き届いた庭と垣根の向こうに緑豊かな景色が広がっていた。
 千尋が、からからと窓を開けると優しい風が吹き込んでくる。風に運ばれてきた夏の匂いと……
「おぉっ、これは温泉の臭いなのな!」
 いって窓を開け放ったのとうに千尋も、にこにこと頷く。
「あ! あっちに見えるの小川だよ! 雑誌に載ってた蛍が見えるっていうのあの辺りじゃないかな?」
「本当だな! 散歩に出るならあの辺だな」
 にこりと同意した声が足りない。 
 縁はー? ……と振り返れば、
「ご飯! 美味しそうなんだよっ!」
 パンフレットを開き夕食メニューに釘付けだった。
「うん! 楽しみだね! でも、ご飯の前に……裸の付き合いいぇーぃ!!」
 ぱん、ぱんっ☆と、千尋はのとうと縁にハイタッチ♪


 館内に入るとちらほらりと目に付いた色浴衣姿。
 もちろん、三人も借りることにする。部屋一面に並べられた色とりどりの浴衣。
「おー、浴衣綺麗なんだね!」
 目移りして当然、とう、ぜん……だが、
「俺ってば、これな!」
 のとう即決だった。手に取った赤い浴衣は、確かにお日様のように明るいのとうの雰囲気にも、紅い髪の色にも良く映えるだろう。
「縁は、白い浴衣にするんだよー」
「お? これってばサイズがあるのか。縁、それじゃ君には大きくないか?」
「うに?」
「こっちじゃね?」
 隣で物色していた縁にそう声を掛け指さしたのは子ども用浴衣。
 かくりとのとうが首を傾げるのに合わせて、縁も「うに?」と首を傾ける。
「わたしは薄緑に、青い帯。緑と青はね、大事」
 千尋は再確認するように、手に取った薄緑色の浴衣と青の帯を見つめて頷く。その姿に、縁とのとうは顔を合わせ訳知り顔で、にんまり♪
「もぅ! 縁ちゃんは決まった?」
「縁は、これと菫色の帯にするんだよー」
 それぞれに着替えの浴衣を確保して、いざ露天風呂へ!

「縁ちゃんの長い髪、お湯に浸からないようにアップにしてあげるねー」
 脱衣所の一角に並んでいる化粧台を一つ陣取って、縁の長い金糸に櫛を通す。蛍光灯の柔らかい明かりがきらきらと流れて落ちる。
「綺麗な金髪、お人形みたいでちょっと羨ましいな!!」
 瞳を細めた千尋を鏡越しで見つめた縁は、足をぱったんぱったんと跳ねさせて
「うに? せっちゃんの髪の方が綺麗なんだよー! 艶々なんだね!」
 顎をあげ後ろを仰ぎ見るようにしてにこり。
 急に矛先が自分に向いたので、千尋はほわりと頬を染めて、そっかなとどこか照れ臭そうに口ごもる。流れるような黒髪には天使の輪が落ちていた。
「おー! 温泉だー! 露天だー!」
 がらがらがらっと大きく引き違い戸を開け放ち、のとうは歓喜の声を上げる。タイミングがよかったのか他に利用客はいなかった。
「はい、縁ちゃん、出来上がりだよ!」
 ぽんっ☆と千尋が縁の肩を叩くと、ありがとうなんだね! とにこり、ぴょんこ♪ のとうに続けと二人も露天風呂へ続く擦り硝子の扉を潜る。


 ―― ……かぽー……ん。

 ほわりと湯煙に包まれて、桧の香りと緑の香り。黄昏時の空。赤と藍の入り交じった不思議と綺麗な空の色。
「―― ……」
 暫し、三人とも景色に飲み込まれるように、一枚の絵画を目の前にしたときのような感動が生まれ、じ……っと魅入る。
 たまゆらの刻。
 ぽちゃん……っ 湯船に落ちる水滴の音。はっと我に返った三人は互いにくすくすと笑い、早く入ろうと、掛け湯をした。

「にゃー……湯船に浸かってまったり気持ち良ぃー……って……千尋?」
 湯船の中で遠慮なく大きく足を延ばして一息吐いたのとうは、隣りからの熱い視線に首を傾げる。そして、気づかれたことに気づいた千尋は「ねーねー」と熱い疑問を投げかけた。
「のと姉って、ホントにFなの?」
「うん? 胸のサイズは確かにそうだけど……お、おぉー? 千尋、その手は何だ?」
 意図せず? 意図して? 既に千尋の手は揉みの構えだ。
「触っていいー??」
 目がマジだ。色々な期待を込めてきらきら☆わくわく♪
「いや減るもんじゃないし別に良いけど!」
 最後までのとうが言い終わったか定かではない。おっかなびっくり、ちょん……っ、触り……。
「わー、ふわふわー!!」
 至福のマシュマロ。
「千尋だって貧乳って言うわりにはあるよなっ。やられたらやり返す!」
 きりりっと言い放ってのとうも千尋に手を伸ばす。
「ひょおおお!!」
 にやにやと堪能中だったから吃驚だ。千尋は目にも明らかに肩を跳ね上げびくりっ☆
「お腹は触っちゃ駄目だよー脂肪がー!!」
 二人の大騒ぎに跳ねるお湯が小さな明かりに煌めく。その様子をまったりのほほんと見つめながら、縁は湯の質感を確かめるようにぱしゃぱしゃと小さな手で水面を弾く。肌に吸いつくよなトロリとした泉質はしっとりと心地良い。
「しっとりすべすべになるかなー?」
 言いつつ、ぱしゃりと頬にお湯を滑らせる。
「……ふわー、癒されるんだよー」
 いつもの日常がここにもあることはとても幸せなことで、賑やかな中に、笑い声の中に……癒しも存在する。


「……うに……丈め!……」
 美眉を寄せてうなった縁に千尋はくすくすと笑い大丈夫! と力強く微笑む。
「大は小を兼ねるからね、お端折りを多めに取って……」
 腰を屈め千尋は縁の浴衣を手早く整えていく。
「せっちゃん、ありがとなんだよー」
「縁、千尋出来たかにゃー?」
 きゅっと締めた帯を、ぱんっと弾いて振り返ったのとうは、可愛いらしくなって行く二人を目にしてにぱっと笑みを深め歩みよる。
「のと、知ってる? 浴衣とか着物って胸の小さな人向けなんだよ……」
 じぃ……と、のとうの一点を見つめ縁はにこぉ……
「削いじゃう?」
 オーバーリアクションで、後ろへと飛び退いたのとうに、言った縁も千尋も大笑い。

 そして――
「お風呂の後はー」
「ご飯ー!!」
 千尋の煽りに、縁は大きく腕を上げぱぁぁっと花が咲くような笑顔で答える。


「うにー! すっごく美味しいんだよー! これも! あれもー!」
 お風呂の間に部屋に用意してされた料理は目にも鮮やか。天ぷら、煮物、焼き物、小さなお鍋も湯気を上げ……色とりどりの山の幸が並ぶ。
 ジュースでの盛大な乾杯が終わったあとは、目の前のご馳走に舌鼓を打つ。
 縁の箸の進み具合につられるようにどんどん箸が進んでいく。
 良い食いっぷりの縁を見つめ、千尋も料理を口に運ぶ。天ぷらもさっくり衣で揚げたて、肉厚の椎茸は始めてみるくらいジューシーで深い味がした。
「のと姉、わたし好き嫌いないから苦手なものは食べてあげるよ!」
 一つの鉢の上で箸が止まったのとうに気がついた千尋は声をかける。
「ぬぬぬぬ、苦手なのなー。里芋は千尋にあげるのにゃ」
「うん! 喜んで貰うよー!!」
 にこにこっと屈託なく笑う千尋にのとうも難しい顔をしていた表情を和らげた。
 そして、宴もたけなわ――
「おかわりなんだよー!!」
 元気な縁の声が飛ぶ。
 飛ぶ……ぇと、何回目かな? ふと、二人が縁に視線を送ると、積みあがった器、お櫃……漫画みたいだ。
「え、縁ちゃん。そろそろご馳走様しよっかー」
 女将さんの血の気が引いてるよー、と続けられた千尋の言葉に縁はようやっと自分の周りの空の器に気がついたというようにきょとんとした。
 その縁らしい可愛い様子に、のとうは満腹になったお腹を抱え、いっしししし! それにつられて、二人も笑ってしまう。


 からころ……からん、ころん……♪
 三人の下駄の音が、静かな畦道に響き広がって消えていく。
 ほっそりとした月明かりに三人の影は仲良く伸びて歩く動きにあわせて楽しげに揺れる。
 部屋の窓から見えた小川。
 川から吹いてくる風は優しく頬を撫で、背の高い草を揺らして、ザァァァ……と心地よい音を奏でる。
 蛍がちらほらと、数匹飛び交っている。
「蛍、ずっと前に見たっきりなんだね! 綺麗なんだよー」
 石の橋が架かる場所で、並んで歩いていた列から、縁がぴょんこ、と跳ねる。
「暗いし足元には気をつけるんだぞっ!」
「うに! 大丈夫なんだね」
 けん、けん、ぱっ☆
 足を止めると大きく深呼吸。
「マイナスイオンー! なんて!」
 振り返ってにっこり。
 その様子に、のとうと千尋もちらりと顔を見合わせて、せーのというように深呼吸。そして……
「マイナスイオンー♪」
 刹那落ちる沈黙――
「ぷ、く、あはははは」
「ふふっあははは」
「いっししししっ」
 笑い声が川面に響く。それに驚いたように、わぁっと蛍が舞い上がった。

 ――ぁ

 思わず呼吸することすら躊躇う。伸ばせば届く距離で明滅を繰り返す美しくも儚い光。
 あの夏の日も三人で見上げた。荘厳な情景は今も大切な宝物だ。あの日三人で願ったことは今もなお健在。
 季節が一巡りした分。それぞれも沢山の経験を重ねた。それでもやっぱり変わらないものは、三人の関係。
 声を掛け合った訳じゃない。
 目で合図をした訳じゃない。
 けれど、それはごく当たり前に、ごく自然に……三人の距離は縮まり……無言で手を繋ぐ。
 互いの手は温かい。ぎゅっと力を込めると同じだけで握り返す。
 感極まって、じんわりと目頭が熱くなる。思わず、ぎゅっと目を閉じた。
「縁ちゃん、のと姉、見て見て!!」
 ぐぃっと千尋に手を引かれ、のとうと縁は上を向いている千尋に釣られて上を見る。
「おー……!」
「わぁ……!」
 悠久の時。遥か昔の光を今届け輝き続ける天の川。
 控えめな月の光のお陰で、今夜はより鮮明に明るく輝いている。
「空は星でいっぱい、地上は蛍でいっぱいで、宇宙にいるみたいだね!」
「だな! いっししし! ……しあわせ、なー」
 満足気なのとうに合わせ自然に首肯する。
「写真! 写真撮るんだね!」
 小さな巾着から取り出したデジタルカメラ。
 縁を真ん中に、のとうがカメラを掲げて千尋がシャッターを押す。
 互いのほっぺが触れ合う距離。三人揃って、にぃっと笑顔を作って
 ――カシャリ……


「なーんか、コレ見てると行きたくなるよな」
 並べられた写真の一枚を手にとってひらひらと。
「なるなる! だって、すっごい楽しそう」
 そういってくれる仲間達を見ながら、のとうは満足気に瞳を細める。
 自分達が楽しかった思い出をこうして、また、新たな人たちも重ねるかも知れない。色んな人に新しい思い出が生まれて、積み重ねって行く。
 そのきっかけに慣れるなら、凄く嬉しい。それが、笑顔いっぱいのものなら、凄く幸せだと心から思う。

 ***

 私の夏色。
 楽しいが一杯詰まった、笑顔が一杯詰まった
 幸せの色――
 三人一緒なら、秋の色もきっと……綺麗に染まるはず……。


【夏色:終】



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3056 / 大狗 のとう / 女 / 18 / ルインズブレイド】
【ja3294 / 真野 縁 / 女 / 12 / アストラルヴァンガード】
【ja8564 / 藤咲 千尋 / 女 / 17 / インフィルトレイター】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもありがとうございます! 汐井サラサです。
今回も仲良し三人組さんの思い出の一端を綴らせていただけたこととても嬉しく思います。
一話ごと、私もみなさんと一緒に思い出を重ねているようで、そのアイテムが一つずつ増えていくこと、凄く幸せだなと思います。
流星の夏ノベル -
汐井サラサ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年09月30日

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