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『ロザーリア・イン・マスカレイド 』
ロザーリア・アレッサンドリ3827


 この季節、誰もが少し浮き足立っている。
 実りの秋で食べ物は美味しいし、天気だって上々。
 からりと乾いた空には綿菓子のような雲が浮かび、そして空の色は青く澄み渡っている。
 そしてそんなころ、ロザーリア・アレッサンドリの手元に、一通の招待状が届いたのであった。

 招待状には、こう記されていた。

『ロザーリア・アレッサンドリ様
 ●●日の夕方よりパーティを行います。
 ハロウィンにちなみ仮装パーティとなりますので
 その旨お忘れなきよう。
 会場は――』

「……仮装パーティ?」
 ロザーリア――ロザリーは目を丸くしてしまった。
 そもそもパーティの招待状という物自体彼女にとって珍しいものなのであるが、しかも仮装パーティと来た。
「仮装って言われても……何を着たらいいのかなあ」
 なにせロザーリアは見た目こそ二十歳過ぎの女性だが、彼女自身が『ロザーリア・アレッサンドリ』として自我を持ったのはわずかに二年前。
 彼女はもともと、この世界でそれなりに有名な古典的冒険活劇――の書物の精霊だ。彼女の姿はその物語の女主人公ロザーリアをベースとしているため、見た目はちょっと勝ち気なお嬢様剣士風。まあ、生まれて間もないとはいえ、常識や精神性は見た目相応なのだけれど。
 ただ、彼女は凄まじい活字中毒なのだ。読み出したら、他のことなんてほとんど頭に入ってこないくらいの。
 だからパーティに誘われるだなんて、まるっきり頭になかった、と言っても過言ではないだろう。
「どうしようかな……仮装って言っても、なあ」
 ちょっと溜息をつく。表情にも戸惑いがありありと見て取れた。この時期は仮装パーティを催す人が多いとは知っていたけれど、自分にその手紙が来るなんて想定外だったのだろう。
 ぼんやりと窓の外を見る。ああ、悔しいくらいにいい天気。
 街の通りを走り抜けていく子どもたち。きっと彼らはお菓子をもらったりをすることはあっても、ロザリーの抱える悩みなんかまったく理解できないに違いない。無邪気な子どもたちは、よく見れば仮装している。子どもたちもパーティなどが待ち遠しくて、きっと母親の手製であろう仮装を身にまとい、キャッキャとはしゃいでいる。その中の一人、長い金髪の少女がおもちゃのレイピアを取り出して口上を上げた。
「やあやあわれこそはせかいになだかいおんなけんし――」
(……『私』の衣装、か……)
 ロザリーがあらためて確認すれば、たしかに少女の服装は『彼女』――『女剣士ロザーリア』を模している。しかし、それはロザリーにぴんとヒントを与えた。
「……あ」
 そうだ。そういうことなら、きっと面白いに違いない。
 ロザリーは口元を軽く抑えた。それでもこみ上げてくる笑いを止めるのは難しかった。


 さて、パーティの当日である。
 ロザリーは足取りも軽くパーティ会場へ向かっていた。
 服装はいつもと同じ――そう、『女剣士ロザーリア』の服装だ。羽根付き帽子にマントをはおり、右目にはモノクル。装飾の施されたレイピア――どれも、見るものが見れば『女剣士ロザーリアの衣装をまとっている』というふうに理解するだろう。もともと彼女の物語は子どもでも知っているくらいの知名度の高さ。この服装に流れるような金髪、それに銀の瞳という組み合わせなら、ピンと来ないほうが少ないかもしれない。
 確かに誰もがすれ違うたびに振り返るけれど、それは『よく出来た仮装だ』という認識の上でのこと。まさか本人だなんて、普通は思うはずもない。
 だから、この格好で仮装パーティに行っても、全く問題はないだろう。むしろ、よく似合っていると言われるかもしれない。
 そうこうしているうちに、パーティの会場へはあっという間に辿り着いた。招待状を見せると、受付の使用人が恭しく頭を垂れる。
 物語の中でも、『ロザーリア』はこういう場面に何度もぶつかった。時の権力者たちに謁見するシーンもあったのだから、ある意味当然なのだけれど。
「ロザーリア・アレッサンドリ様ですね……『女剣士ロザーリア』の仮装、よくお似合いですよ」
 受付の女性がそっと頬を染めながら、そう言ってくれた。もともと古典的な冒険活劇ということで、老若男女問わず好まれる物語なのだが、どうやらこの女性も『ロザーリア』のファンのようである。今回は受付ということで、仕事に集中しなければならないのが残念――というのが、顔色からありありとわかった。
「ありがとう、嬉しいよ」
 ロザリーはわざと、『ロザーリア』らしく振る舞ってみせる。いや本人だから、そのままなのだけれど、しかしそのたった一言で、たちまち受付嬢の頬が真っ赤になった。
 そんな受付嬢をおいて、パーティ会場に足を踏み入れる。
 会場は既に混雑していた――様々なデザインの仮装をした老若男女が、パーティ会場を闊歩している。ぐるりと会場を見渡してみれば、見覚えのあるデザインもいくつかあった。有名な物語の主人公の仮装となれば、結構な人数がやっているものだ。『女剣士ロザーリア』だけではなく、もっと子ども向けのお伽話や、あるいはソーンの歴史上で高名な人物、中には聖獣を模した仮装をした人もいる。もちろん聖獣は人間の姿ではないので、聖獣の特徴的な部分を付けたような、いわゆる擬人化に近いものなのだけれど。
 そんな中で『女剣士ロザーリア』は、ある意味安定した人気の作品のようだった。『ロザーリア』の仮装はもちろんのこと、原作最大の敵である魔術師兼大臣らしき禿頭や、作中で『ロザーリア』を何かと手伝ってくれる二人の少年剣士、あるいは国王などもチラホラと見かけたのだ。
(なんだか見ていてすごく面白いな……!)
 ロザリーは実に楽しそうにその様子を眺めている。彼女の『ロザーリア』の仮装もやはり目につくらしく、もともと整った目鼻立ちの美人であるロザリーゆえ、彼女の周りにはあっという間に人が集まってきた。とは言え彼女は人付き合いが決して得意ではないので、少し苦笑いを浮かべてしまったのだけれど。
「お嬢さん、それは『女剣士ロザーリア』だよね? すごく似合ってるよ、絵から抜けだしたみたいだ」
 騎士の仮装をした若い男がそう言えば、
「お姉ちゃん、ホンモノみたい! かっこいいー!」
 そんなことを言って興奮気味の少女たちもいる。そう、『女剣士ロザーリア』は本当に大人気なのだ。
「ふふ、ありがとう」
 照れくさいけれどそんなことを言って、にっこり微笑んでみせる。
 いや、これはあくまで仮装パーティ。それも、どうやらいかにもソーンらしく、皆招待状をもらう覚えがない人ばかりだったのだという。
「こんな格好をしてみたけれど、似合ってるかわからなくてさ。あ、でもお嬢さんはよく似あってるよ、女剣士様」
 そんなことを説明してくれたのは、『女剣士ロザーリア』の作中で敵に寝返った剣士の仮装をしている三十路絡みの男性だ。
「ううん、あなたもよく似あってますよ」
「いや、それでもお嬢さんにはかなわないね。子どもの言うことじゃないけれど、まるでホンモノそっくりだもの」
 もちろんここでいう本物とは、作中の描写や挿絵などからのイメージなのだろう。でも、そのくらい『彼女』の作品はこのソーンで浸透しているのだと思うと、なんだかむず痒い気分になった。
「おお、女剣士殿もおったのか」
 と、目の前に現れたのは原作最大の敵――魔法使いであり、国を混乱に陥れた大臣の仮装をした細身の中年男性。作中の描写と同じように、頭が禿げ上がっている。
「いや、これだけ美人のお嬢さんが『ロザーリア』に扮していると、やはり気後れしますな」
 聞くとやはり仮装そのものに慣れておらず、昔から好きだった作品の敵役が一番自分の雰囲気に似ていたからこの服装を選んだのだとか。よくよく見れば手作り感満載だ。
「いえいえ、魔法使いの仮装もよく似あってますよ。そうだ、折角だしちょっと原作のシーンを再現してみません?」
 ちょっぴり意地の悪い思いつきかもしれないが、案外相手も面白そうだと感じたのだろう。手にしていた杖をエイヤッと振りかざし、悪そうな笑みを浮かべる。
「『ほほう……ロザーリアといったか。お主の剣術、所詮その程度のものよ』」
 ――原作の台詞だ! どうやらこの男性、思った以上に『女剣士ロザーリア』を読み込んでいるようだ。ロザリーもなんだか楽しくなって、わざと怪我をしたかのように肩をかばうふりをする。
「『くっ……諸悪の元凶がこの国の大臣だなんて! 国王をどうなさるつもりだっ!』」
 よどみなく口をついて出る台詞。それを見て、なんだなんだと人が集まってくる。ロザリーはそんな人垣ができているのも気づかず、『女剣士ロザーリア』の即興芝居にのめり込んでいた。
「『待て! その手の中にある宝珠は……ッ!』」
「『剣士風情が、やかましいものよ』」
 すっかりその気になっている二人。そしてそれを固唾を呑んで見守っているギャラリー。やがて、やんやの拍手でその状況に気づいたけれど、ロザリーは笑顔だった。
(たまには、こういうのも悪くないな……それに本人だなんて、誰も思わないだろうし)

 ――明日になれば、またきっと普段の生活に戻るのだろう。
 でも、この瞬間。
 ロザリーは、たしかに「主人公」だった――。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 3827/ ロザーリア・アレッサンドリ / 女性 / 21歳(実年齢2歳) / 冒険活劇小説の精霊】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご発注ありがとうございます!
ソーンの世界は独特で、だけれどとても魅力的ですね。
何度かノベルでソーンの世界にお世話になりましたが、魅力的な設定が豊富で、今回も楽しく執筆させてもらいました。
便宜上PC様を『ロザリー』、物語の主人公の名前を『ロザーリア』と区別させてもらっています。
どちらもロザーリア、では混乱してしまいますからね。
しかし面白かったです。執筆して『ロザーリアの冒険譚を読んでみたい!』と何度思ったか。
では、この度はどうもありがとうございました!
魔法のハッピーノベル -
四月朔日さくら クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2013年10月07日

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