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『南瓜彩る魔法の街へ――素敵な余暇のつかいかた 』
百々 清世ja3082

●序
 私立久遠ヶ原学園は撃退士養成機関の側面を持つ学園だ。下は小等部から上は大学部まで、茨城県の東にある人工島全体が巨大な学園都市になっている。
 あらゆる学齢期の少年少女が大多数を占める撃退士の学び舎では、天魔に対抗するという過酷な運命などものともしないような、世の少年少女と変わりない青春があった。

●少し早目の放課後は‥‥
 進級試験も終わり後は終業式を待つばかり――そんな日の事だった。
 皆が同じ時間に一斉に下校してゆくのを、廊下の窓から地領院 夢(jb0762)は眺めるともなく眺めていた。
「んー」
 窓から切り取って見える秋空が綺麗だ。からりと晴れて澄み切った青空、ほんの少し冷たさを孕んだ風が雲を流してゆく。
 鞄と一緒に羽織りものを胸に抱えて、夢はぼんやり考えた。
(何しようかな‥‥)
 特に予定はない。試験は終わったし宿題も出ていない。急いで家に帰らなきゃいけない用事もなければ、寄り道する当てもないと言えばない。
 とっても良い天気だ。休日のお出かけとまではいかなくとも、折角早く学校が終わったのだから何処かへ出かけたいな――などと思っていると。

「おーい」

 窓の下から声がした。
 夢が、鞄を抱えたまま窓から身を乗り出して見てみると、中庭の花壇の傍で百々 清世(ja3082)が手を振っている。
「百々さん‥‥?」
 お姉ちゃんの知り合いで、依頼でもご一緒した事があって、色んな事を知っているとっても素敵なお兄さんだ。
 清世も撃退士だし学園の大学生だから居てもおかしくはないのだが――しかしここは中等部校舎、何故に清世が?

「大学も、今は試験明けなんですかー?」

 窓の下へ向かって尋ねてみた。
 すると清世はへらりと笑い、気負う風もなく見上げて言ったものだ。

「校内ふらふらしてただけー、おにーさん、暇人だからー」

 その他愛ない反応に夢はくすりと笑う。百々さんはいつも余裕があって、本当に大人! って感じ。
 夢の心中を知ってか知らずか、清世はマイペースだ。

「おー、丁度良かった。おにーさんとデートしない?」
「喜んで!」

 もちろん夢に否やはない。膝上のフレアスカートを翻し、夢は小走りに中庭へと出て行った。

●ハロウィンに染まる街
 黒にオレンジ、おどろおどろしくも愛嬌のあるデザイン――
「もうそんな時期なんですね!」
「そーだねー、ハロウィンカラーだね〜」
 街では既に月末の様相に染まりつつあった。10月末のイベント、ハロウィンが街を占拠し始めている。仮装衣装にキャンディーポット、どれも架空のモンスターをモチーフにした秋色のアイテムだ。
「夏、終わっちゃったねぇ‥‥なにか楽しいこと、あった?」
 今年は殊に酷暑だったから秋の訪れは嬉しいはずなのに、何だかちょっぴり名残惜しい。懐かしむように尋ねた清世を見上げ「夏ですか?」と、夢は初々しい笑顔を向けた。
「えっと‥‥友達とお祭り行ったり、お姉ちゃん達とキャンプ行ったり、沢山遊んで勉強しましたっ」
 中学生らしい可愛らしい返答に、清世も楽しげに笑う。可愛い女の子の笑顔は良いものだ、健全なデートも悪くない。
 シンプルなネックラインのシャツから覗く華奢な鎖骨、揺れるフレアスカートから伸びる幼さを残す脚。恋の駆け引きには早いけれど可愛い後輩が笑顔を向けてくれるのが楽しいし嬉しい。
「百々さんは?」
「俺はねぇ、まあ‥‥いつも通りかな。遊び行ったり、色々ー」
 いいなぁ、と夢。
 大人のお兄さんは色々と楽しい事を知っているから、夏もきっと沢山楽しんだんだろうと清世の言葉に適当な補完を加えて想像している。
「今度一緒に行こっか?」
「はいっ。来年は一緒に是非!」
 じゃ、約束。清世は夢と小指を絡ませて夏の思い出を予約する。どんな風に楽しませてあげよう――そんな事をとりとめなく頭に浮かべて、ふと気付いた。
「そういや、夢ちゃんアイスとか好き?」
「アイス?」
「ハロウィンつったらアイスでしょ、限定フレーバーとか激アツ」
 大真面目に主張する清世に感化されて、夢はそわそわわくわく。月変わりの、期間限定秋味アイス!
「アイス好きです! 限定物‥‥」
「奢ったげるよー 行こ行こ?」
 ほらあそこ。夢のお小遣いじゃ中々行けない、ちょっとお高めなアイスクリームチェーン店を指差して、清世は夢の手を取った。

 ポップカラーの店内にテキパキ明るい店員さん、ショーケースには色とりどりのアイスクリーム。女の子達が大好きそうな、見た目からして甘そうな場所は放課後を楽しむ中高生で一杯だ。
 夢を伴い女子エリアを訪れた清世の姿は、別の意味で人目を惹いている。
「さ、どれにしよっかー?」
(あの人カッコいいよねー)
(彼女かな? 妹かな?)
 自然と場に馴染む清世のさりげなさに対して、同年代の少女達の視線の意味が測れてしまうものだから夢はどきどき。お店のお姉さんの視線すら釘付けにしてしまう清世の隣で、夢は限定フレーバーを選びかねて緊張している――
「えーっと‥‥『カボチャプディング』『ウィッチマジック』、『悪魔のケーキ』や『ハッカの秘薬』も美味しそうです‥‥」
「じゃあさ、ふたつ選びなよー ん、そっち? じゃ俺はこれとこれくださーい」
「かしこまりました♪」
 清世に声を掛けられたお姉さん、とっても愛想良くダブルカップに盛ってくれた。ハロウィンデコだろうか、それぞれのカップには可愛らしい魔女帽を被ったカボチャ型のチョコが乗っかっている。
「わぁ、可愛い!」
「かわいいねー おねーさん、ありがとー」
 代金を支払い終えた清世は店外へと夢を誘った。
 店の外は階段状のモニュメントを中心に、ちょっとした広場になっている。夕方以降はインディーズバンドがライブを開いたりもするけれど、今はまだ寄り道学生しかいない。
 階段の中ほどに並んで座り、夢はアイスに手を付ける前に礼儀正しく「ありがとうございます」と頭を下げた。夢の律儀な様子に清世はへらりと笑って応える。
「いーのいーの気にしない‥‥って、気を遣うかな? じゃあ奢る代わりに、あーん、ってしてくれる?」
「あーん、ですか?」
 きょとんと首を傾げた夢の反応を気遣って、清世はさりげなくフォローを入れる。
「いや、そっちの味と迷ってたんだよね」
「ああ、『カボチャプディング』王道ですよね! 百々さんって意外と甘党?」
 ちょっと意外。でもそれはそれで何だか嬉しい。だって同じものを一緒に楽しめるって素敵な事だもの。
 いいですよと快諾した夢、カラメルの香り漂うオレンジ色のアイスをひとさじ掬って、清世に向き直った。
「あーん‥‥」
 スプーン咥えて味わっている清世に「美味しいですか?」と微笑いかけ、夢は『悪魔のケーキ』をリクエスト。
 お互いに相手のアイスを試食し合って、夢は笑顔で言った。
「二人だと色んな種類を食べられて、お得な気分ですっ♪」

「次どこ行こっか‥‥」
 階段に腰掛けたまま、街ゆく人々を眺めるともなく目で追いかける。そう言や向かいの筋にゲーセン入ってたっけ。ビデオゲームは置いてないけど、プライズ系とプリくらいならあったはず。
「ゲーセン行ってプリとかどう?」
「はい! 行きたいですっ」
 夢は満面の笑顔で応えた。お兄さんとツーショット――きっと素敵な思い出になりそうだ。

 広場を離れて数分、ゲームセンターもまたハロウィンカラーに彩られている。
「百々さんっ、ハロウィンフレームが出てますよ! ‥‥あ」
 プリントシール機の筐体に駆け寄った夢が清世を振り返り――プライズゲームに釘付けになった。
(かわいい‥‥)
 透明な箱の中は夜空を模した背景に星がちりばめられている。背景のところどころに景品のぬいぐるみがディスプレイされていて、その下にはディスプレイと同じジャック・オ・ランタンのぬいぐるみがうじゃうじゃ、箱から救い出されるのを待っていた。
「ん? どした?」
 近付いてきた清世は夢の視線の先を追って――合点がいった。
「気に入ったかぁ、おっけークレーンゲームなら任せろー」
 バリバリ音を立てはしなかったけれど、傍目には分かり難い変化だったけれども、清世は結構真剣だ。何せ女の子が欲しいと言うなら得手不得手関係なく頑張れてしまうのだ。
「あの子でいーい?」
「はい! 百々さん頑張って!」
「まっかせといてー」
 一回目は様子見、二度目で感覚掴んで、三度目の正直!
「百々さんすごいっ」
 ころんと落ちてきたジャック・オ・ランタンを取り出して清世が手渡すと、夢は目をきらきらさせて喜んだ。
 その笑顔が何よりの報酬、良かったねーと微笑んで、清世は夢をプリントシール機へと誘う。
「一緒にプリしよっか。その子挟んで、ね♪」
 ハロウィンフレームの真ん中に、ジャック・オ・ランタン飾って笑顔のあの子と――今日の記念に一杯落書きも盛っちゃおう!

●夕暮れの約束
 ゲームセンターに結構長く居たらしい。外は随分日が傾いていた。慌てて夢はバッグからスマホを取り出して時間を確認。
「あ、もうこんな時間」
「あー‥‥そろそろ帰さねぇと、お姉ちゃんが心配するな」
 中学生じゃなければもう少し一緒にいよって言えるんだけどな、と苦笑する清世。
 夢の姉兄とは知り合いだし仲も良い、だからこそ心配掛けさせちゃいけないと思うから、今日はそろそろ帰ろうかと清世は駅へと足を向ける。

 改札前で、ぴょこんと夢は頭を下げた。
「送ってもらうまでしてもらっちゃって、今日は有難う御座いましたっ」
 本当に律儀で可愛らしい。まだ中学生の可愛い後輩だ。こちらこそ今日は楽しかったと微笑して、清世は柔らかく付け足した。
「また付き合ってよ。今度はちゃんとデートに誘うからさ」
 冗談とも本気ともつかない優しい誘い――だけど、夢は無邪気に応えたものだ。

「はい、また是非! 今度はお姉ちゃんも一緒に!」



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ja3082 / 百々 清世 / 男 / 21 / 素敵な大人のお兄さん 】
【 jb0762 / 地領院 夢 / 女 / 14 / 真面目で可愛い女の子 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 おお、おにーさんが健全だ‥‥(笑)

 第一印象は↑でした。
 いつもありがとうございます。周利芽乃香でございます。
 女の子ごとに違う楽しませ方をなさる清世さん、和みながら描かせていただきました。
 ご指定の某アイスクリームショップは、周利の地元をモデルに描いてみました。限定フレーバーをネットで確認して書いていたら、何だか食べに行きたくなりました‥‥カボチャプディング、本当に美味しそうです(笑)
魔法のハッピーノベル -
周利 芽乃香 クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年10月10日

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