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『自分の疑問 』
逸見・理絵子8670)&(登場しない)







 初めてのレッスンを終えた理絵子は、今回の自分の行動を悔やんでいた。
 いくら挑発されたからとは言え、ネットアイドル然とした実力をわざわざ披露し、本気になってしまったのは不本意と言えた。

 とは言え、後悔だけが残った結果とは言い難い気持ちが残ったのもまた事実だ。

 幸い自分と同じ立場に当たる二人からは仲間として迎えてもらえるに至ったのだから、これで良かったのかもしれない。



 ――ともあれ、理絵子は現在ティア・クラウンの事務所に設けられた待機スペースで本を読みつつ、そんなちょっとした感傷に浸っていた。




 理絵子の手に握られている本は、ファンタジー系の辞典だった。
 様々な妖魔について書かれたその辞典で、気になる部分のページを無言で読み耽りつつ、理絵子はそれぞれのページに折り目をつけていく。


 彼女の相棒である「ぐれむりん」と同じ名をしたグレムリン。

 あっけらかんとした姉御肌をした長身の女性がそれだと言う尼天狗。

 可愛らしく、それでいて勝ち気な男の娘と同じ兎夢魔。


 人外と呼べるそんな仲間に囲まれる事になった理絵子は、他にもどんな存在があるのかと気にしつつその辞典を捲っていく。
 先ほどまで渦巻いていた後悔の念も、そうしている内に緩和されていく様な気分であった。

「お待たせ、理絵子ちゃん」
「あ……、お疲れ様です」

 待機スペースへとやってきたのは、今回【プロミス】の正式なマネージャーとして就任した、兎夢魔の男の娘をスカウトした女性だ。

 せっかくの初レッスンを迎え、それを終えた理絵子なのだ。
 本気になったかは定かではないにしろ、ティア・クラウンとしては彼女が正式に入る方向で首を縦に振って欲しい所である。

 生憎残りの二人は帰路についてしまったが、理絵子だけはもう少し話をしたいと申し出て、こうして待っていてもらったのだ。

 飲み物を手渡し、あまり広いとは言えない応接室で向かい合って座る二人。
 辞典をそっと自分の横に置いた理絵子を見つめ、女性は確信する。

(……興味がない、という訳ではなさそうね)

 女の勘と言った所だろうか。
 そんな鋭い視線を隠すように目を伏せて飲み物を口に運びつつ、理絵子もそれに倣って飲み物を口にし、一息ついた。

「さて、理絵子ちゃん。初めてのレッスン、素晴らしかったわ。あれだけの実力があるなんて聞いていなかったら、正直言うと驚かされたわね」

 他愛もない会話をしながら、理絵子の気持ちをプラスのベクトルへと促すマネージャーの女性。さすがにプロフェッショナルである彼女のその口調はたどたどしさを感じさせない流暢なものだ。

 恥ずかしそうに目を伏せて否定する理絵子を見て、女性は理絵子の気持ちが少なくともプラスに向いていると確信し、ゆっくりと話を進める。

「理絵子ちゃんは何か感じた事ある?」

「え?」

「今回こうしてレッスンに参加してみて、ある意味貴女の実力は証明されたと言っても良いわ。歌唱力にその柔らかな声質。他の二人にはない特色を持っているもの。
 そんな二人と組んでみて、何か感じる事はあるかしら?」

 やるかやらないか。
 その二択を突き付けるのは、こうして話す上では決して得策とは言い難いだろう。

 そこで彼女がぶつけた質問は、今回の感想のみだ。
 プラスに気持ちが向いているとは言え、それが全てとはおおよそ言い難い。

 ならばこうして、まずは気持ちを聞かせてもらおうと判断したのだ。

 そんな女性の思惑を知ってか知らずか、理絵子はふっと視線を落としてゆっくりと口を開いた。

「……正直言って、驚いてます。人外、って言うか、そういう特殊な人達で構成されたアイドルユニットに、私が選ばれるなんて。だって私、普通の人間です」

 つらつらと自身の胸中を吐露していく理絵子。

 理絵子は静かに、それでいてゆっくりとその感情を語っていく。

「今も調べていたんです。尼天狗に兎夢魔。そういう彼女達って、どんな存在なんだろうって」

 横に置いていたファンタジー辞典をそっと手で撫でるように触れながら、理絵子はそう語った。

「……でも理絵子ちゃん、その髪と瞳は?」

 女性の問いかけに、理絵子はゆっくりと首を左右に振った。

「これは、遺伝でもなくて私だけなんです。何でこういう色なのかまでは分かりませんけど……」

 ただ、と付け加えて理絵子はまっすぐ女性を見つめた。

「ついこの間、不思議な夢を見たんです」

「不思議な夢?」

「最近よく見る夢なんです。雨の中で、私と同じ色を持った女性が、何かを叫んで探していて。それをまるでテレビの映像越しに見ているかの様な、そんな感覚で」

 それは理絵子が夢日記に書いている夢。
 もう何日も、何度もその夢を見続けているのだ。
 ただの夢として片付けるには、説明がつかないだろう。

「もしかしたら、です。もしかしたら、ここでアイドルをしていく内にそれが分かるかも、って思ってるんです」

 確証のない、ただの直感。
 理絵子は漠然とそんな直感に突き動かされていた。

「それじゃあ……」

 女性の言葉の続きは、聞かずとも理解出来る。
 理絵子はその言葉を待たずに小さく頷き、女性に向かって告げる。

「はい。私、やってみようと思います」

 ずっと付き添い続けた疑問と向き合う覚悟を決めた理絵子は、女性を見つめてそう告げると、頭を下げた。

「改めて、これからよろしくお願いします」

 覚悟を決めた理絵子の言葉。
 その言葉を受け止めた女性は、同じく頭を下げて「こちらこそ」と告げると、柔らかな笑みを浮かべて理絵子を見つめた。

「改めてようこそ、ティア・クラウンへ。そして、アイドルグループ【プロミス】へ」

 ここに、【プロミス】の最後の一人、理絵子の正式な加入が決定するのであった。






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ご依頼有難う御座います、白神怜司です。

今回は理絵子さんの付き合っている自身の疑問という事で、
これから向き合う覚悟を持った、という形でした。

お楽しみ頂ければ幸いです。

シチュノベなので本編中には名前は出せませんので、
他の二人の方でもそれぞれの物語が入るという方向で
続きをお届けする予定です。

それでは、今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司 
PCシチュエーションノベル(シングル) -
白神 怜司 クリエイターズルームへ
東京怪談
2013年10月15日

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