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『起点 』
因幡・白兎8682)&(登場しない)






 因幡家リビングにて。
 レッスンから帰った白兎が夕食を済ませた後で、シャワーを浴びてソファーに座り込んでいる。
 ドライヤーで雑に乾かした白い髪の毛を櫛を通しながら世話をしているのは、白兎の姉であった。
 長くきめの細かい髪を櫛で通しながら、ちょっとした敗北感を感じてしまうのは女としてなのか、あるいは姉としての矜持なのかは定かではない。

「あぁ、そうそう。ついにウチのもう一人の子が決まったんだよ」
「あら、どんな子なの?」

 白兎の後ろで髪をいじっている姉と、そんな白兎と向かい合って話をしている白兎の母。これもまたこの一家のよくある光景――家族団欒の構図である。

「変わってる子?」
「うーん、変わってるって言えば変わってるかなぁ」

 今度は姉の質問に白兎が答える。

「私達と同じ様な人外のアイドルユニットなんでしょ? その子の正体は聞いてないの?」
「それが、聞いてないんだよねー。緑色の髪の毛に金色の瞳って、何だろう?」

 白兎の言葉に、急に正面に座っていた白兎の母親の表情が強張った。

「緑色の髪に金色の瞳って……、もしかしてリンエスちゃん?」

 驚いたような顔をして尋ねて来る母親の表情に違和感は感じたものの、確か名前が違ったな、と思い返した白兎は首を横に振る。

「お母さん、そのリンエスって人知ってるの?」

 白兎が尋ねる前に、白兎の髪をいじっていた姉が声をかけた。
 そうね、と返事をした白兎の母が、自室に向かって歩いて行く。姉弟で揃って首を捻っていると、母親は小走りで戻ってきて、一冊のアルバムを机の上に広げた。

「お母さんの親友に、緑色の髪をした金色の瞳を持つ子がいるの。えーっと……、ほら。この子なんだけど」

 髪いじりをやめた姉と共に白兎がそのアルバムを覗き込む。

 指差された先に映っていたのは、確かに緑色の髪と金色の瞳を携えた少女だ。
 その姿は年の頃も近いせいか、今日合流した少女とあまりにも似ていた。髪や瞳の色の特徴だけではない。瓜二つというべきだろう。

「……似てる……」

 思わず呟いた白兎の言葉に、母親は気付いていなかったようだ。
 ふと見ると、涙を浮かべてその写真を見つめていた。

「この子はね、生まれたばかりだった自分の娘を他の魔族に攫われてしまったの」

 突然の母の言葉に、白兎とその姉の目が見開き、母親に向けられた。

「ひどい……」

「それで、その娘って?」

「取り替え子となってしまったまま、行方が見つかっていないみたい。今もまだ自分の娘を探しているわ」
















 結局あの後、確証が持てないまま話は流れ、白兎は自室へと戻っていった。

 白兎もまた、今回の母親の言葉は気になっていた。
 せめてその種族だけでも聞いておけば良かった、などと思いつつも、それに対してはあまり興味がないのか、わざわざ聞きに行く気にもなれない。

 ベッドの上に、その華奢な身体を投げ出すと、同じくベッドの上に投げ出されていたスマフォを手に取り、メールを打ち始める。

 同じ【プロミス】のメンバーであり、そして以前から付き合いのある尼天狗の仲間に、だ。

 他愛もない挨拶をしながら時間を過ごしつつ、話題を今日合流した最後の一人である緑色の髪の少女のことについて触れて行く。

 それはつい今しがた母から聞かされた、【取り替え子】についての情報だ。

 白兎もまた、先程見せられた写真を見たが故に確信めいた感情を胸にしながら、一つの仮説を立てた。


 行方不明のリンエス。
 それが、今日合流した最後の一人なのではないだろうか、と。


 取り替え子となって行方不明になったリンエスという名の少女。
 しかし、取り替え子というのは再会も難しい。それはあくまでも、取り替えられた側には記憶など残っていないからだ。

 例えばあまりにも顔が似ていなくても、そういうものだと認識してしまえば、それに気付けるのはずっと後の事だろう。
 DNA鑑定でもすればその限りではないかもしれないが、わざわざそんな真似をしようとする子供など多くはないのだ。

 年齢的にも話を聞く限りでは合っている。
 あまりにも似た容姿と置かれた環境。もはや疑いの余地はないと言える程だ。

 しかし、それはあくまでも確実ではない。
 ただの他人の空似であったりもするかもしれないのだ。

「まぁあくまでも想像だけどね」

 そう付け加えて白兎は濁しつつ、仲間へとメールをした。

『うーん、そう簡単に首を突っ込んで良い問題でもないし、しばらくは様子見だね』

 悠長とも冷淡とも取れるそのメールの文面を見て、白兎は小さく嘆息する。

 確かに簡単な問題ではないだろうが、それでも母親は心配していたのだ。自分の親友が、自分の娘を探し続けているなど、それは心配もするだろう。

 しかし勝手に勘違いするのも早計だ。

 少なからず、白兎の親しい【プロミス】の長身のメンバーの言う『様子見』というのもあながち間違っていない。




 疑問が生まれた、何気ない一日。
 そして、何かが動き出しそうな、そんな一日が、ようやく夜の帳に幕を下ろした。









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ご依頼有難うございます、白神怜司です。

白兎さん編でまさかの理絵子さんの母親と
その正体に触れる一幕が訪れるとは思っていませんでした。

デリケートな問題ですね、実に。

早速三人が繋がりを見せるという展開になるのか、
それとも遠回りしてしまうのか、気になりますね。

お楽しみ頂ければ幸いです。

それでは今後とも、宜しくお願い致します。

白神 怜司
PCシチュエーションノベル(シングル) -
白神 怜司 クリエイターズルームへ
東京怪談
2013年10月15日

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