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『筧家、秘祭に行く〜他言無用編 』
彪姫 千代jb0742


 とある平和な学園風景。
 職員室で資料を受け取った強羅 龍仁は、見慣れた赤毛を目に止めた。
「鷹政じゃないか。卒業してもお呼び出しか?」
「備品の花瓶を割ってしまってな」
「……。おまえ、いくつだ」
 卒業生のフリーランス撃退士が教師に説教されていると思えば、小学生レベルの理由であった。
 決まり悪く筧 鷹政は肩を竦め、「まあまあ」なんて誤魔化して龍仁の背を押す。
「ああ、おい、筧」
「あっ、はい」
 去り際、再び教師に呼び止められる。
「生徒に渡すのもどうかと思ってな、お前の方で適当に処理してくれ」
「……はい、 ……はい?」
 手渡されたのは、白い封筒。中を確認すると……旅行チケット?
「同僚でも誘って、楽しんでくるといい」
 真意不明の、笑顔であった。


 旅行、旅行ねぇ。
「どうするんだ?」
「とりあえず、どんな内容かも行先もよくわかんないよな」
 それは、聞いたことも無い孤島へのチケットだった。
 胡散臭い内容に、覗き込んだ龍仁も首を傾げている。
 なんとなく流れで肩を並べて職員室を出ると――

「一臣、一臣!! これ、父さん喜んでくれるかな!」
「千代君、どこでそんなの見つけてきたの……」

「なにを みつけたの」
 通りかかった彪姫 千代と加倉 一臣の姿、会話内容に後ずさりながら鷹政は声を掛けた。
 ちょっと前にも、こんなことがあったな、なんてことを考えながら。
 それを、きっと『日常茶飯事』と呼ぶのだろう。
 時計を見て、ちょうど空いているだろう食堂へと四人は足を運ぶ。
 とりとめのない会話の隙を見て、鷹政は先ほどのチケットを取り出した。
「加倉、これ、わかる?」
 ちょっと前と今の間にも時間は流れていて、鷹政と一臣の関係にも少しだけ変化があった。
 変化というには『今まで通り』過ぎる方向だけれど、互いに預ける命の重さが、少しだけ増した。
 姓での呼び捨ては、鷹政が苦楽を共にしてきた相棒や友人たちへの呼びかけ方の一つ。そのことに気づいている者は少ないだろうが、互いが知っていればそれでいい。
「沖縄とかでもない響きですよね。えー、どこだろ」
 スマートフォンで手早く検索を掛けながら、……なかなか出てこない。
 島の名前では引っかからないか? 検索条件を変えて……
「ぶは」
 一臣は、飲みかけていたアイスコーヒーを咽こんだ。

 ――ようこそ、女人禁制『秘祭』の島へ

 フェリーターミナルのトップページにはそんなことが書いてあり、それ以上のことは書いていなかった。
「ひさい」
「秘祭」
「悲惨な予感しかしないんだけど」
「おー!! ひさいってなんだ!? 今から行こーなんだぞー!! みんな一緒なら、楽しいんだぞ!!」


 悲惨な予感しか、しない。




 刷毛で刷いたような白い雲がたなびく空の下、風を切り、フェリーが進んでゆく。
 白い波しぶきに、甲板から身を乗り出して千代が手を伸ばした。
「海ーー! 船ーー!! すごい、すごいんだぞ!!!」
 好奇心で瞳を輝かせる少年を、龍仁が親の眼差しで見守っている。
「乗り掛かった舟とは、よく言ったものだよね」
「どうすんですか、これマジですか」
 顔色がよろしくないのは二名。
 結局、インターネットで調べても、図書室で調べても、それがどんな『祭り』であるのか知る術はなかった。
 とにかく、とりあえず、『祭り』であるらしい。
 面白そう、という千代の言葉に押し切られ、なんだかんだと話は進んで行った。
 連想される内容がどうしても卑猥なものしか浮かばず、つまり悲劇的展開しか想像がつかない二人は、先程から浮かぬ顔と言うわけだ。
「責任取ってくださいね、筧さん。俺、待ってる恋人がいるんですから」
「俺に取れる責任だったらな」
「……やめてくださいおそろしい」
 鬼が出るか蛇が出るか、9割鬼で残り1割は死神じゃないか、そんな予感しかしない。フラグ的な意味で。
「秋といえば、豊穣の祈りだとか、そういう祭りもあるんじゃないか?」
 顔色の悪い二人へ、龍仁が笑いながら歩み寄る。
「ま、行きつく先が何であれ……、こんな景色を見れただけでも、充分に来た甲斐はあると思うがな」
 水平線の向こうに、大小さまざまな離島。
 本土から離れるだけで、解放感は全く違った。
「それは、たしかに」
 遠く飛んでゆくカモメを見上げ、一臣も胸いっぱいに潮風を吸い込む。
 悪いことばかり考えていても仕方ない。
 ひとまず、このゆったりとした船旅を楽しもうじゃないか。
「父さーーん!! カモメ、すごいんだぞー!!」
「こら、千代! エサはあげるなってアナウンスあっただろ、すごいっていうか……すごいな!? 腕、持っていかれるぞ!」
「ウシシシシ!!!」
 スナック菓子を片手にカモメに群がられている千代の元へ、顔面蒼白で鷹政が駆けていった。
「……親子だねぇ」
「平和だな」
 任せておこうとその背を見送り、一臣と龍仁は笑いあった。




 そんなやりとりが、約4時間前のこと。
 孤島へ着いた時には、とっぷりと日が暮れていた。
 薄暗いターミナル……船着き場、と呼んだ方がしっくりくる……へ降り立ち、四人は周囲を見渡す。
「祭り、なんだよな?」
「船は定期便で一日一往復、だから……間違いようは無いんだけど」
 龍仁へ、自信なさげに鷹政が答える。

「男だ」
「若い男だ」
「来た来た」
「来た」

 ターミナルの片隅、闇の隙間からボソボソと声が響き、千代以外の三名が声にならない声を上げる。
「おー!! 誰かいるのか!? オバケか!!?」
 夜を歩く者とはよく言ったもので、怖気づくことなく千代は声の方向へと突き進む。
「まて千代、どう考えても危ない!」
 色んな方向で。
 鷹政が手を伸ばす、襟首を掴もうと―― しまった、半裸だ!!

 パパパパッ、

 急に室内の照明すべてが灯る。
「うわ」
 四方を屈強な老若問わぬ白装束に白面の男たちが固めており、思わず一臣の声が上ずった。
「よくぞ参られた、お客人」
 その中の一人、立派な白髭を顎にたらした老人が、杖をついて前へ出る。
「今宵行なわれる『秘祭』を知っての、おいでかの?」
「知りません、なんッにも知りません」
(あの教師、何を掴ませた!!?)
 悪いものではないと思いたい、が。
 何とか千代を後ろから羽交い絞めにしたところで鷹政が応じる。
 天魔でさえなければ、或いは撃退士同士でさえなければ、何百人に囲まれたところで切り抜けることは出来るだろうが、そういう理屈ではない。
「ほほ。よろしい。ここから先は、他言無用でな。――まずは身を清め、これに着替えてくれたもう」
 小柄な白面の男――少年だろうか? が、黒い浴衣を手に、四人の案内を。
(……。千代、着ないよなこれ)
(千代君、無理だよね)
(出だしから失敗判定だが、どうするんだ)
 大人三人が視線で会話をし、まあとりあえず、と問題を先延ばしにすることとした。




 温泉じゃないのか!!?
 天然の岩で囲まれたそこへダイブした千代が、冷水だと知り悲鳴を上げる。
 寒いだろう、となだめすかしても浴衣を着ようとはしない。
「ま、これで勘弁ってことで」
 夏に鷹政がだまくらかして着せるに至った、上半身を脱がせた状態で無理やりOKをもらう。
「夜の祭り、か。あとは、何があるだろうな」
「あまり、考えたくないね」
 身を清めて、専用の衣装へ。
 もう、この段階で思考を停めたい。
 のんびりと顎に手をやる龍仁の隣で、一臣の声は震えている。
 こういう時、龍仁の天然振りがうらやましい。

「さあ、お客人。こちらへ――」

 少年の案内に、四人は顔を上げた。


 闇の中を歩き、只管歩き、山を登っているのだということに途中から気づき始めていた。
 しかし、木々の間からも民家の明かり一つ見当たらない。どういうことだろう?
「今宵、島は寝静まっております」
 問わず語りに少年は語り始めた。
「島を護る神との交わりを穢さないためにございます」
 あ、やっぱソッチ。
 一臣と鷹政は、何を言うでなく顔を合わせる。
「お客人たちは、神への供物となっていただきます――何、その身を食われるわけではありません」
 くすくすと、少年は笑う。
「ちょっと、掘られるだけにございます。近年、女性の純潔を守るのは難しくなってきましたが男性のうしr」
「「こ れ は ひ ど い」」
 なにがって、理由が酷い。
 なんだってそんな、そんなところだけ時代の流れに合わせてるの!!!
「待って、この島の神様、雑食?」
「神の役は、島の長が代々。心配無用、バイにございます」
「ストレートな回答をありがとう」
「今年は少年青年肉体派、各種取り揃っていて実に豊作でありますね」
「ごめんなさい、もう黙って」
 一臣と鷹政は、眩暈で足を停めそうになる。
 龍仁と千代は、会話内容を理解していない。
(どうすんの、筧さん)
(ここまできたら、夜景も少しは綺麗かなって思ってた)
(戻って! 現実に戻って!!)




 山頂では―― そこだけ、篝火が焚かれていた。
 ああうん、なんとなくわかるよね、という舞台が用意してある。
「ここでのことは、他言無用…… そして抵抗も不可にございます」
 長い刃物を、周囲から鋭く突きつけられる。
(どうすんの、筧さん)
(どうしようね?)
 この程度、四人であれば蹴散らす事は容易い。
 が、帰りのことを考えると――もし、船を封じられてしまうと、力づくはよろしくない。
「供物はさ、『穢れなき』じゃないと……ダメなんだよね?」
「然様。悪いが、何も知らぬ土地からの観光客であれば確実に――」

「残念ながら」

 舞台中央に控える『神』の返しに対し、鷹政は傍らに立つ一臣の襟首を引いた。
「どうしたの、筧さ―― 、ちょ!」
 強引な力に体勢が揺らぎ、引き寄せられるままに唇が重なる。
 角度を変えて、わざとらしく音を立てながらの、たっぷり2ターン。
「……悪いけど、こういうことなんで。ごめんなさい、キレイじゃないの☆」
 呆然としている一臣を引きはがし、鷹政はにっこりと白装束たちへ微笑みかけた。
 『同性の恋人同士』で説得力のある相手、咄嗟の取捨選択による波紋までは、考える余裕などなかった。
「おー!! ずるいんだぞ! 母さんも一臣も父さんとキスしたのに、俺だけまだなんだぞー!」
「へ? ……痛ッ」
 視界の外から、千代が鷹政へ飛びかかる、振り向きざまに唇を奪う。加減もやり方も解らない幼いそれは、歯と歯が強烈にぶつかった。
「あー、違う違う。千代、これはこうやるの」
「ん、うー?」
 尻尾ごと腰を抱き寄せ、教授する。
「筧さん! 筧さん! 千代君、窒息してる!!」
「させてんだよ」
「……おい、鷹政」
 息継ぎの間も与えない濃厚な口づけで顔を真っ赤にしている千代を、悪い笑顔で鷹政は解放してやる。
 頭が痛い、と龍仁は額を押さえながらも、なんとなく、事情は察した。気がする。
「俺だけ放置とは、性格が悪いな?」
(……で、良いのか?)
 背後から、鷹政のシャツの下へを手を差し入れた。たくしあげるように、そのまま胸の辺りを愛撫する。
「!!!!」
「意外だな。感じてるのか?」
 ポーズだけのつもりだったのに、意外な体の反応へ龍仁がポソリと呟く。呟いたつもりだが、周囲には完全に聞こえている。
 ここを触れたときに、反応が強かったか―― もう一度爪の先で引っかけると、「ばかっ」と小声が返った。
「強羅、それ、エロい……」
 うっかり写メりながら、一臣は一言。


(しばらくお待ちください)


 全員の大惨事により、一行は釈放された。
 空き家があるから、そこへ寝泊りすればいい、好きなだけやればいいと放り出される。
「加倉、かーぐら。悪かったって。泣くなよ」
 恋人の居る身へ、芝居とはいえ一番ひどい事をやらかした気がする。
 一間しかない空き家の片隅で、膝を抱えて震えている弟分の肩を、鷹政がそっと叩く。

「よっし、編集完了☆」
「な に を し て る !!!」
「え、衝撃動画の用意」
 千代編、強羅編。
 悪びれずに言ってのける一臣の胸倉を、鷹政が掴む。
「……一臣編なら俺が撮ったが、誰かに送ればいいのか?」

「「すみません許してください」」

 というか、あの状況でどれだけ余裕なのか。どこに隠し持っていたのか。
「あー、でもびっくりした。切り抜けるための、ってのはすぐにわかったけどさ」
 深く息を吐きだし、一臣は壁にもたれかかって天井を見上げる。
「筧さん、男相手に初めてじゃないだろ」
「はははははははははははは」
「おー……? 父さんと母さん、こないだもキスしてたぞー?」
「それは、ノーカウントで」
 人工呼吸は蘇生術です。
 というか冗談だろうと思ったら、後の証言によりそうではなかったと知った時に鷹政の心臓は再び止まりかけたわけだが。
「……ノーカウント、だな」
「待って強羅さん、なんで顔が赤いの」
 ファーストキスじゃあるまいし、とか言ってたのはそっちなのに!??
 驚く鷹政へ、言えない事情を龍仁は抱えている。が、それもまた別の話。
「嗜好は断じてストレートです、やむにやまれぬ事情ってのがあるのよ、大人には」
「フリーランス、怖いな……」
「おー……? 父さんの下のフリーランス、凄いのかー?」
「千代君!!!」
 まさか、事ここに来てそのネタ!!
「……凄いって程でもないだろう」
「なんで強羅は、そこでそのコメントなの!」
「聞くな、弟よ……」
「兄貴、目が死んでる」
 一臣が振り向くと、コメントした龍仁の目も死んでいた。
 二人の間に、いったい何が。聞いたら藪をつついて蛇が出る以上の話が飛び出しそうで、流石にそれ以上は入り込むことが出来なかった。
「で」
 隙間風入り込む空家、あるのは少しの食糧に水、毛布。
「ぜってぇ寒い予感しかしないんだけど」
「おー……? くっつけば寒くない、ってばあちゃんが言ってたぞ?」
「さっきの今で、その勇気はないな」
「なんだ鷹政、あの程度で」
「それをあなたが言いますか、強羅さん!!」
「言うな筧さん、言うだけなんか、墓穴になる……」
 



 かくして、恐ろしい『秘祭』の夜は終わり、朝が来た。
「つまりさ、これって」
 大きく伸びをし、体をほぐしながら鷹政は振り返る。
「何も知らずに食われる観光客を助けるために、なんかしてこいっていう非常に遠まわしな依頼斡旋だったのかな」
「でも無報酬……。筧さん、信頼されてますね☆」
「しょうじき、すまんかった」
 学園の教師から渡された、という段階で、100%の好意なんてないと疑うべきで、いや疑っていたけれどkonozamaだったわけだが。
「お。来てみろ、朝日が凄いぞ」
 外に出ていた龍仁が、三人を呼ぶ。
「おーー!!!」
「温泉の夕焼けも良かったけど」
「山から拝む朝陽も、いいねえ……」
 薄霧を割るように光を放つそれに、皆が言葉を飲み込んだ。
「ウシシシシ! みんなでお泊りも、楽しかったんだぞ!! すげーあったかかったんだぞ!」
「……だな」
 寝癖だらけ、熟睡しきった千代の髪をかき回し、鷹政が笑う。


 『秘祭』失敗、さてこの島はどうなるのだろう??
 新たな獲物を探すのか、それとも…… 
 山を下りたところで、食事処などにありつけるのか、船は出るのか。
 心配事は幾つかあるが、まあ、この四人だったら何とかなるだろう。

 せっかくなのだから、海の幸は味わいたいな。
 そんなことを話しながら、祭りについては一言も触れずそれぞれの胸に秘め、一行は山を下りた。
 今回の件、他言無用でお願いしたい。




【筧家、秘祭に行く〜他言無用編 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb0742 / 彪姫 千代 / 男 / 16歳 / 息子】
【ja8161 / 強羅 龍仁 / 男 / 29歳 / 母】
【ja5823 / 加倉 一臣 / 男 / 26歳 / 叔父】
【jz0077 / 筧  鷹政 / 男 / 26歳 / 父】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ご依頼ありがとうございました。
ざっくり方向性指定の丸投げ。でした。色々と酷いもの、お届けいたします。
た、楽しんでいただけましたら幸いです。
■イベントシチュエーションノベル■ -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年10月15日

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