『それは、素敵な……。 』

フェイリュア（jb6126）

●真っ暗な星の夜
　暗く静かな部屋に、たったひとりぼっちで佇んでいた。
　見渡す限りの静寂の闇。その闇に溺れて息も出来ないように、ただ孤独に揺れていた。
　あまりに冷たい夜。暗い闇。ただ静かに揺れる静寂を割ったのは、ことり、と小さく何かが落ちた音。
　その音に顔を上げて、黒い床にただ落ちていた白い封筒に気付いた。
　拾い上げて、封を開けてみれば零れ堕ちた砂が星のように散らばって、床一面に広がった。其れはまるで、星空のよう。

――探して。

　便箋に書かれていたのはたったひとことの、そんな言葉だけ。
　だけれど、その小さな囁きに誘われてフェイリュアは部屋の扉を開けて、踏み出した。


●ひとりぼっちの夜空
　街の灯りは遠くに、ゆらゆらと揺れていた。
　秋の夜風も突き刺すように冷たい。夜の紺色に染められた真っ白だった手紙を手に、ひたすらに闇の中を歩いていく。
　だけれど。
（どこにいけばいいの？　何を探せばいいの？）
　胸にぽっかりと浮き出てきたのは、そんな疑問。
　縋るように、空の星を見上げて訊ねてみても、きらきらと輝く沢山のお星様達はみんな知らんぷり。
　ひとりぼっちの夜空。何処までも続く寂しさに、思わず気持ちまで沈んでいってしまいそう。
　だけれど。

――こっちだよ。

　そう告げるかのように。沈んだ心を再び浮かばせるかのように一番小さくて優しい星がか細い尾をひいて濃紺色の空に流れていった。

（あっちにあるの？　フェイが探していたもの。フェイが見つけなければいけないもの）

　まるで、星の道標。きっと、向こうに探していたものがある。
　だけれど、何を探していたのだろう。何を、見つけなければいけないのだろうか。
　微かに思い出す。
　掴めそうで、手を伸ばすと消えてしまう蜃気楼のように、ともすれば幻のような記憶を手繰り寄せる。
　そうだ、探していたんだ。大切なもの。
　何よりも大切だった何かを探していたんだ。けれど、なんだったかな。なんだったのかな。
　思い出せない。思い出したいのに、思い出せない。

　空を見上げた。余りにも静かな黒い夜空を見上げた。
　ひとりぼっちの夜空。きらきらと輝く星達の楽しそうな歌声に、寂しさがどんどんと広がっていってしまうようで。
　ぽつり。頬を流れた小さく、暖かな雫。小さな星の光を映しておちていった。
　涙だって、気付きたくは無かったけれど、どうしても滲む世界は認めなさいって言うようなんだ。

　静かな夜だもの。何処までも静かで、何も聞こえない夜だもの。
　真っ暗な夜だもの。何処までも暗くて、何も見えない夜だもの。
　泣き叫んでも、呼んでも。ねぇ、届かないの？　誰にも、誰にも、何もかも。この声も、この想いも誰にも届かないの？
　ねえ。わたしは此処にいるよ。ねえ。此処で泣いてるのに。
　王子様は来てくれない。小人だって陽気に歌ってくれない。御伽噺はみんな嘘つきで、人魚姫は涙の海に沈んでいく。

　だけれど、消えたはずの星が言った気がしたんだ。

――大丈夫。後少しだからね。

　その言葉に勇気を出して、フェイリュアはまた一歩ずつゆっくりと踏み出す。
　先程まであれほど強く輝いていた星達も滲んで、光る道が少しずつチラチラと消えていってしまう。
　ちょっとすこし、あとすこし。消えてゆく星の道に追われるように只管進んだら、やがて見えたのは大きな扉。
　それは、フェイリュアの背よりずっとずっと大きな扉。フェイリュアのか細い腕じゃ押してもびくともしなさそうな硬くて重たい扉。
「かぎ、もってないの」
　当然だけれど。フェイリュアはそう、首を振った。
　けれど、そのフェイリュアの声に応えるかのように扉はギギギッと鈍い音を響かせ立てて、呆気なく開いた。
　そうして、扉の隙間から漏れ出したのは光。それは余りに眩しかったからフェイリュアは思わず目を瞑る。

――いち、に、さん、し。

　少しだけ、心の中で数を数えて、ゆっくりゆっくりと瞳を開く。
　消えていった星空の代わりに其処に在ったのは大きく笑って楽しげな光を撒き散らし輝くカボチャ達と、黒い猫。無窮の星々のように散らばるのは、色とりどりのお菓子達。
（どういう、こと……？）
　フェイリュアの戸惑いの声は音にはならない。けれど、顔にはしっかりと出てしまっていたようで。

――くすっ。

　そんな小さな笑い声は少しだけ柔らかな響きを乗せて耳をくすぐった。
　フェイリュアは驚いて、その声が聞こえた方へ目をやると、星を閉じ込めたように強く優しく煌めくランプを手に持った少女が笑っていた。

「ようこそ。待っていたよ、寂しがり屋の小さな星の御姫様」

　そうやって、姿勢を正した彼女は暖かな微笑みを浮かべた。

　そうだ。
　探していたのは暖かさ。
　求めていたのは優しさ。
　見つけたのは、大切なフェイだけの居場所。

　見つけたよ。思いだしたよ。
　探していたもの。大切なもの。

　忘れていたのは、寂しさに揺れていたから。
　思い出せたのは、大切なフェイのお友達。

　思い出せた。見つけ出した。
　大切なもの。大好きなもの。

　星のようにきらきらとかぼちゃのランプが光る。楽しそうにゆらゆらと。
　ねぇ。
　それは、きっと素敵なハロウィンの魔法、だよね。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【jb6126　／　フェイリュア　／　女　／　14　／　アカシックレコーダー：タイプB】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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きらきらと星が煌めいて、ゆらゆらとランプの灯りは揺らめく。
そんな夜って、なんだかわくわくしますよね。

こんにちは、水綺ゆらです。
いつもと違う文体で、詩的に表現してみた――つもりですが、如何でしょうか？
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。

ご発注、有難う御座いました！

魔法のハッピーノベル

水綺ゆら

エリュシオン

2013年10月15日