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『人と使途と天使と君と 』
マクシミオ・アレクサンダーja2145
●誰そ彼時の戯れ
 茜色に泥む黄昏時、誰かと見間違えた、誰かの影。
 その後を追って駆け出した彼らは、万聖節の前夜の魔力に惹き込まれてしまう。

 ――誰の声も聴こえない。
 ――何の音も聴こえない。
 ――誰も居ない何も居ない。
 ――彼女も居ない、彼も居ない。

 心の深層、
 物事の真相、
 実の実の奥の奥、
 深くて不快な淵の底、
 何所までも落ちて往ってしまった二人を襲う、『××××』。

 ハロウィンの夕べ、誰そ彼時に迷い込んだ時空の歪みで彼らが出逢うのは――。

●並行世界の平行線
 まず、二人は恋人だった。
 ただ一人きりを想い睦み合う関係とはまた少し違っていたが、二人は確かな絆で結ばれる恋人同士だったのだ。
 不思議な――追い掛けずにはいられない影の後を追った二人は、唐突な眩暈と共に、見知らぬ路地裏に立っていた。
 そして次に、マクシミオ・アレクサンダー(ja2145)は目を疑った。
 大方天魔の仕業だろうと察しはついていた。ついていたが、――。
「御機嫌よう、――マクシ、マックス、マクシミオ、……まあ何でもイイけどよ」
 そう語り掛ける男は自分自身と瓜二つ、ひとつ変わるとすれば背から生えた大きな一対の翼。
 マクシミオ・アレクサンダーそのものが、目の前の薄闇に立っていた。
朱色の翼を広げた天使は眼前で笑う。せせら笑う。何を?
 それもまた、直ぐに察しがついた。ついてしまった。
 何故ならば、その天使の傍らには寄り添うように付き従う青年の姿が有ったからだ。――永宮 雅人(jb4291)。マクシミオにとって大切な、心の支えでもある恋人。
 しかし、その存在もまた良く知る彼とは別物なのだと判る。何故ならばマクシミオの隣に、本物の雅人が立っているからだ。
「……これってどういうこと?」
 雅人は怪訝な様子で問い掛ける。その問いに答えるように天使はまた、笑う。
「可愛いな、雅人。お前も俺の使途になっちまえばイイのに」
「――使途?」
「そうだよ、ただの人間の、可哀想なマクシくん」
 マクシミオが懐疑的に呟いた台詞に、眼前の”雅人”は柔和な笑みを浮かべて頷いた。穏やかな表情と反して台詞には冷めた色が窺える。
 天使、使途。撃退士であるマクシミオと雅人は、十二分にその存在について理解している。だが、人間そっくりの見た目を持った天使と使途なんて話は聞いたことも無い。
 警戒は怠らずとも、唐突過ぎる存在の出現に戸惑う二人は顔を見合わせる。
 天使の姿を持つ自分と、天使に身を寄せる使途であるという自分。
 余りにも理解の範疇を超えた状況に、マクシミオと雅人は言葉を喪っていた。
「理解出来ねェのか? ――俺たちは、有り得たかも知れない”お前たちの姿”さ。お前が俺だったかも知れねェし、俺がお前だったかも知れねェ」
 つらつらと語る天使は饒舌で、そして雄弁だった。
 その傍らで自身の唇を撫でる使途は艶を帯びて笑う。
「僕たちは完成されている。だけど、君たちは不完全だ」
「何だって?」
 使途であると自称する雅人は天使であるマクシミオに凭れ掛かりながら言う。
「君たちが可哀想だって言ってるんだよ、雅人、マクシくん」
 同じ顔、同じ声、同じ筈であるのに決定的な何かが違う存在に、二人とも動揺が隠せない。
 そんな彼らに気付いているのかいないのか、茶化すように銀の眸を眇めた天使マクシミオが片手を翳す。
「見せて遣るよ、俺たちの”世界”を」
 皓々と瞬く煌き。
 それがアウルの発露の光に似ていると気付いた瞬間、二人の意識はアカシックレコードの海に沈んでいった。

●彼が使途として産まれた日
 ある世界、ある場所に住んでいた青年の名を、永宮雅人と言う。
 彼が使途になった切欠は、様々な糸と意図の絡み合った結果だった。
 その世界でもまた、天魔と人との戦いは変わらず繰り広げられていた。
 日常的にぶつかり合う天魔の戦いの余波を受け、大勢の人が亡くなっていく。
 対抗し得る力を持たないただの一般人である彼もまた、逃げ惑って暮らす他なかった。
 そんな中、ある日雅人は朱翼の天使マクシミオと出逢う。
 街中、夜更け。彷徨う天使との邂逅。
 自分は助からないだろう、そう思った矢先、マクシミオは「よォ」と気さくに笑ってみせた。天使は使途が欲しいと言い、雅人に使途にならないかと持ち掛けた。
 両親からの強い束縛を受けていた雅人はその天使の荒唐無稽な――そして魅惑的とも取れる誘いに対し、力無い声で無理だと返した。
 ならば可能にしてやろう、と告げた天使。……その結果が、天使による大規模なサーバントの投入作戦。
 大勢の犠牲者が出、雅人の両親もまた、死亡した。
 由緒ある家系、エリートたれと言い、彼自身のレールを潰してまで彼らの道を歩ませようとしていた両親。
 憎しみしか感じていなかった筈が、亡くして初めて喪うことの哀しみに気付いてしまう。
 ――そこで生まれるのは戸惑いだ。
 自分は両親を憎んでいると想っていた。死など些細なことであり、無関係なことであるのだと思っていた。それなのに、何故――。
 そんな時に、再び目の前に現れたのが天使、マクシミオだった。
「さァ、枷はもう無ェ。俺の元に来いよ、――雅人」
 天使の甘言。
 辛いことは無い、苦しいことは無い、すべて、無い。
 生来甘言に耳を貸す程純粋な人間ではなかった筈の雅人は、その朱色の翼を携えた天使の声に酔った。
 彼はその時既に壊れてしまっていたのかもしれない。
 両親の深い呪縛から解き放った恩人であるのだと、自分を救い出してくれた恩人であるのだと信じ、見るべき現実から目を逸らした。
 そうして作戦を講じたのがマクシミオであると知りながら、雅人はその手を取った。
 ただの人間だった永宮雅人が、使途になった日の話。

 雅人は両目を瞠る。
 呆然とした様子に対し、使途、永宮雅人は可笑しそうに笑っていた。
「君も殺して自由になればいいのに」
 過去に力を持たなかった永宮雅人は言う。
「その力で、あの憎ったらしい父さんも母さんもさぁ――!」
 有り余る力で殺せば良い、壊せば良い。
 この世から消してしまえばすべての呪縛から解放されると、傷を抉られることももう無くなるのだと。
 圧倒する気迫。滲み出る狂気。
 笑いながら泣いているようにも見える自身を目の当たりにすると同時に、隠していた、隠し続けていたかった側面が露になっていくことに背が戦慄く。
 結局の所、撃退士になったことは逃げでしかない。
 両親が狭い狭い小さなキャンバスに思い描いていた未来の自分。
 敷かれた窮屈過ぎるレール。
 逃げ出した先で、なお苦しめ続けてくる存在は未だ消えない。
 雅人は唇を噛み締め使途たる己を睨め付けると、片手を伸ばして傍らのマクシミオの手に触れた。
 そこで気付く。
 彼の手が、震えているということに。
「僕のマクシくんはずっと僕の傍に居てくれる……僕だけを見てくれる……死に別れることもなく、永遠に……!」
 死に別れてしまった家族への後悔と寂寥の念。
 雅人の目から使途は未だ、断ち切れない苦しみに苛まれているように、見えた。

●彼が人として産まれた日
 直接脳に語り掛けるように。
 直接心を打ち震わせるように。
 マクシミオを襲った念波は、彼の塞ぎたい過去を奥底から無理矢理に引きずり出す。
「――そもそも人間なんかに産まれたこと自体が間違いだったンだ」
 人間。母から産まれ育て上げられる、人間。
 それが間違いであると言うのなら、これまで築き上げてきた人生がすべて間違いだったとでも言うのだろうか。
 天使マクシミオは言う。
 始めからうち棄てられた箱庭に、何かが棲めるわけがない。何かが育つわけがない。
 最初からゼロですらない存在が、誰かに何かを与えられる筈がない。
 そして、誰かから何かを与えられる筈もまた、ないのだと。
 そんなマクシミオが、不幸で堪らないのだと。
「……ッ」
 蘇る記憶。母親の怒声、愛されない箱庭の記憶。
 ずきずきと痛み凍みる頭に、マクシミオは眩暈を覚える。
 与えられたことのないものを、誰かに与えることが出来るのか、なんて――。
「不幸なお前は本当に愛して、愛されてンのかよ?」
 憐憫に満ちた声音の天使は笑い、指先で長い朱色の毛先を弄びながら言う。
「浮気されて、他所向かれて。それでも愛してる、愛されてるって言えるのか?」
 猜疑、疑心。
 与えられる愛情にも、与える愛情にも自信を持たないマクシミオにとって、その質問は致命的だった。
 足許が、立っている地盤がぐらぐらと揺れる感覚。
 誰も救ってはくれず、誰も救うことが出来ない。
 愛されたいのに、愛されない。それが、――人間に産まれてしまった、自分。
「使徒にしちまえば浮気される事も無ェ、別れ話も無ェ……羨ましかろ?」
 羨ましくないと言えば、嘘になる。
 今この瞬間は、間違いなくそうで。
 マクシミオは呆然と、そして、蒼白で立ち竦んでいた。
「俺は雅人を愛してる。この世界を何に変えても構わない程、どんなモノより、な」
 対して天使は尊大に告げる。
 ――愛情の重さを較べられるものなんて、どこにも存在し得ない。

●人と使途と天使と君と
 苦悩に揺れるマクシミオの隣で、雅人はその手を固く握り締めた。
「僕はさ、マクシくん」
「人として生きてる君が好きだよ」
 合わせて乗せるのは、皮肉めいた笑み。
 マクシミオは胸中で、絡まりほつれていた糸が解ける思いを覚えた。
「……雅人」
 恐らく雅人には悟られないだろう表情で、マクシミオは息を吐く。
 彼から贈られる感情。それがすべてなのだと、改めて知った。
 雅人が絡めた手指から伝わってくる熱を受け入れ、自身もまたきつく握り返す。
「……さんきゅ」
 小さな礼の言葉は薄闇に消える。
「何とか言ったらどうだ? それとも何にも言えなくなっちまったか」
「煩いなぁ」
 天使の煽りに臆することなく使途に目を向けた雅人は肩を竦める。
「確かに父さんも母さんも憎くてたまらないけどね。わざわざ殺そうと思うほど落ちぶれても居ないつもりだよ?」
 使途は目を丸くする。反論を受けるとは思っても見なかったからだ。
「黙って聞いてりゃ不幸不幸と馬鹿の一つ覚えかオイ」
 マクシミオも口を開くと、朱翼を広げる天使に向けて舌打ちついでに告げてやる。
「そりゃあ俺はあんたから見りゃ不幸だろうさ。――不幸で結構、負け犬上等。生まれに文句言う程惨めな性格してねぇんだよ!」
 繰り返された肯定に、天使もまた眸を瞬かせる。
「それになァ、明日は見えねぇからこそ今を愛すンだよ」
 固く結んだ互いの指は、絆を見せ付けるように。
 人が人たる証、天使と使途の契約とは異なる繋がりの証。
「今日限りでも構わねえ、雅人の隣に居れるだけで、俺は勿体無ェ程の幸せモンだよ」
 それは、確たる勝利の宣言。
 自らを不幸と認めた上で、今を愛する姿に敵うものなど何もない。
 マクシミオは雅人の手指を固く握り、自分たちと瓜二つの天使と使途をきつく睨み付ける。
「精精歯噛みしながら憐れむンだな天使野郎」
 天使は暫しマクシミオと雅人を見詰めていたが、一度目を伏せるとため息を洩らす。
「……まァ、俺はそんな無様で不幸な様は御免だけどな」
「わからず屋には何を言っても無駄、ってことだね」
 負け犬の遠吠え。
 そう評するに適した答えを小さく呟くと、天使マクシミオは大きな朱翼で使途雅人を包み込み、文字通りその場から掻き消える。
 残されたのは、身を寄せ合うマクシミオと雅人のみ。
 一度二度の瞬きの後、次第に辺りの空間は元居た場所――通学路の裏道に、戻っていく。
 辺りを探れど、ディアボロや、何者かの気配はない。
 二人が全く同時に見た幻覚――そう言えば、今日はハロウィンだった気がする。
 もしかしたら、万聖節の夜が見せた幻影、だったのかも知れない。
「いつ離れるかも分からない。だからこそ、自分の意思で傍に居る今に価値がある……なーんてね」
 雅人の冗談めかした台詞に瞬いたマクシミオは、破顔するとその唇を塞ぐようにキスをひとつ。
 いつだって支えてくれる恋人に、感謝の意を篭めて。
 ――誰にも変えられない、たったひとりの恋人。彼が他の誰かの元へ行っても構わない。自分自身の情が信じられずとも構わない。今は、そう。まだ、共に歩く時間はたっぷりと有るのだから。
 幻に身を焦がし、胸に確かな愛を抱いて、彼らの夜は更けていく。
 二人は繋ぎ直した指に絆を携え、帰路に着いた。

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja2145 / マクシミオ・アレクサンダー / 男性 / 25歳 / ディバインナイト】
【jb4291 / 永宮 雅人 / 男性 / 18歳 / インフィルトレイター】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 初BLになりますので諸々不備がありましたらお申し付けください……!
 心情が多く、とても楽しく書かせていただきました。また、PC様個別部分は「●人と使途と天使と君と」になります。
 気に入っていただければ幸いです、どうも有難う御座いました!
魔法のハッピーノベル -
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エリュシオン
2013年10月16日

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