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『筧家、ハロウィンパーティーを行う〜2013秋 』
彪姫 千代jb0742


「ハロウィンパーティー?」
『おー! ハロウィンなんだぞー!!』
『急な話だが、週末辺り、どうだ?』
 通話越しに、彪姫 千代の元気な笑顔と強羅 龍仁の苦笑いが目に浮かぶ。
「週末ね。OK、空いてるよ」
 事務所のカレンダーを確認し、筧 鷹政が了解の意を返す。
『千代が、やると言ってきかなくてな』
「なるほど。主催は千代か」
 親しい友人にでも聞いたのだろう。学園の喧騒が背景に響く。
「寝落ち対策万全にして、待ってるよ」
 楽しみにして、楽しんで、張り切って、張り切りすぎて電池切れ。
 そんな千代と、何くれとなく季節のイベントを共にしている。
 行動パターンは読めている、とばかりに悪い笑みを浮かべ、鷹政は通話を切った。
「トリックorトリート、ねぇ」
(俺からも、何か用意しておくかな?)
 千代からは、身に余るほど愛情を向けられていることを日々感じている。
 龍仁に対しては、年長者ということもあって鷹政がついつい甘えがちだ。
 場所の提供、というだけでは足りない気がする。
 クリスマスや誕生日、特別なイベントは数あるけれど、気を遣わせない程度に何かをするなら……
 口実には、良い日に思えた。




 かくして、週末。日はまだ高い。
「トリックorトリート!! なんだぞー!」
「おうおう、よく来たよく来た。で、その意味わかってんのか、千代?」
「おー……? わかんねーけど、こう言うと良い物もらえるって母さんが言ってたぞ!!」
「だいたい合ってる。ほら、悪戯小僧にはアメちゃんをやろう」
 笑い、鷹政は握っていたキャンディを雨のように千代へ降らせた。
「おー? おおっっ!?」
 一つも取りこぼしてなるかと、尻尾アクセもフル回転で千代は手を伸ばす。
「今日はお招きありがとう、だ。……あまり招かれてる感じもしないな?」
 多少はここで作ることになるが、簡単なオードブル程度は持参した龍仁が千代に続く。
 なんだかんだと、見慣れた事務所兼自宅になっていた。
「はは、だけど千代と強羅さんが揃ってウチに来るのは夏以来じゃないか? 狭苦しいけど、どうぞ」
 夏。三人で海へ出かけ、千代が電池切れで眠りこけてしまってから。
 千代が捕った(釣った、ではない)魚を捌くためにここを訪れている。
 それ以降も顔を合わせる機会は多かったから『久しぶり』という印象は薄い。
「ま、我が家だと思って」
「筧家、だしな」
「なんだぞー!!」
 和やかな笑いに包まれ、一日は始まると――誰もが思っていた。

「鷹政。キッチン、借りるぞ」
「……強羅さんの方が冷蔵庫の中身把握してるよな」
「誰が嫁だ! 千代、そこの棚から大皿を3つ出してくれ。一番上の段だ」
「おー! 母さん、これかー?」
「良い子だ、千代」
「なんで強羅さん、食器棚の位置関係把握してるの……」
「誰が嫁だ、誰が。鷹政は冷蔵庫から卵と――」
「やばい、変な涙出てきた」
 最近買い足した小さなテーブルに、千代が所狭しと食器とグラスを並べて。
 鷹政が、龍仁の持ち込んだオードブルを盛り付けて。
 湯気を上げた料理が更に届く。
「千代は、未成年だからオレンジジュースな。強羅さん、今日はアルコール度数低目だから!」
「それをお前が言うのか、鷹政」
 だって! と龍仁を振り返る鷹政の手元に並んだグラス。
「おー……」
 じっと見つめ、千代はズボンのポケットに入れていた『とっておき』を思い出した。




「はーー、満足満足…… なんか、ぜんぜんハロウィンぽくないな」
「まあ、こんなものじゃないか?」
「父さんと母さんと一緒だから、俺、楽しいんだぞ!」
 仮装するような年でなし、プレゼント交換なんてイベントでもなし。
 美味しい料理を満喫して、宴もたけなわ。そんな頃合い。
 アイスでも食べようか。鷹政が立ち上がり、躓いて、転ぶ。立ち上がった時、世界は一転していた。
 一転していたのは、三人の姿、であるが。


「強羅さん。俺たち酒は飲まない方が良いんじゃないかという提案」
 ブカブカのTシャツの襟首から、幼い体が覗いているのは鷹政。
 小学校低学年くらい、かろうじて一桁といった年齢だろうか。
「いったい、なにが どうして こうなった…… しゃけが わるかったか……?」
 両手で顔を覆っているのは龍仁、しかしその指はあまりにも小さい。言葉はたどたどしい。
 完全なる幼児だ。
 ピジョンブラッドの瞳はクリクリと愛らしく、よもや30数年後にはあんな、と思わせるほどの中性的な顔立ち。
「おー!!? 俺、大人になったんだぞー!!!!?」
「事故だよね」
「……じこ だな」
 当イベント、最大の事故。

 千代、大人になる。 ※外見だけ

 オレンジジュースだった千代まで変化しているから、きっとアルコールは関係ない。
「やばい。千代が虎に見える。強羅さんの現役時代位のサイズ?」
「げんえき いうな。ああ、まあ たいかくは ちかいか?」
「……すべすべのふわっふわじゃないんだぞ」
「ムキムキのかっちかちだな。かっくいーぜ、千代」
 10年もしたら、こんな感じだろうか―― そこまで考えて、鷹政の動きがピタリと止まった。
「きおく なんかは そのままで…… からだだけ、ようじか している みたいだな」
 自身の体、それから鷹政の体をペタペタ触りながら龍仁は確認する。
 瞳や髪の色は、アウルに目覚めたあとのものだ。
 龍仁の言葉を耳に入れながら、鷹政は嫌な予感に思考を肉付けしていく。
(まさか いや、けど、もしかして)
「たかましゃ?」
 舌ったらずに、龍仁が呼びかける。
 この恐怖の異変に心当たりがあると?
「千代。お前、ここに来る前、学園で、どこかに寄ったか? 例えば閑話部とか」
「おー! 見たことない薬があったんだぞ!! トリックorトリート!! なんだぞー!」
「だいたい合ってる……」
 閑話部。
 鷹政が顔出ししている――というか、ほぼ常駐の部活だ。
 設立時の部長――現在、研究職に専念しているようで連絡が取りにくいのだが――は、鷹政と学園生時代からの腐れ縁で、色々な薬を開発するのが趣味であった。
 例えば、そう、年齢が変化するような薬、だとか。
「げんきょうは、たかましゃか…… よしょうは してたが」
「舌ったらず可愛いねー、龍仁ちゃん」
 やわらかなほっぺたを、小学生鷹政がエイとつまむ。
「なじぇ、しぇんだいがおとなで、たかましゃは しょうがくしぇいなのに、おれが ようじなんだっ」
 小さな体では、言葉を発するのにも体力を要する。発音だってうまくできなくて、もどかしい。
 払いのけようとしても身長75センチから繰り出す攻撃は小学生に大したダメージを与えらr
「まさかのヴァルキリージャベリン(幼児版)」
 調子に乗っていた額を直撃し、鷹政は床にうずくまる。

「こらー! ケンカはよくないんだぞ!」

「「!!」」
 見た目は子供、中身は三十路オーバーの二人が顔を上げた。
 そうだ。しまった。現在、何より厄介なのは子供になった自分たちではない。
 パン、二人の眼前すれすれに、記憶にある太さから8倍ほどに倍増した尻尾アクセサリーが打ち付けられた。
 ――直撃したら、死ねる。
 龍仁と鷹政の心が一つになる。
「大人な俺が頑張らないと!! なんだぞー!!!」
(記憶は、そのまま? ということは千代は、子供のまま、体だけ大人?)
 龍仁の顔から血の気が引く。
 普段でさえ、余りある体力の、あの千代が。
(ここは、鷹政を使ってなんとか千代を抑えなければ!!)
「強羅さん、殺意のこもった目で見るのやめてくれますか……」




 阿鼻叫喚、という四文字で、お察し頂きたい。

「母さん、いつも優しくしてくれるし、今日は頑張って世話するんだぞ!!」
 幼児といえば。
 龍仁の小さな体を抱き上げて、千代が豪快に振り回す。
「……惜しい。ちょっと違うな」
 高い高いをしたら天井に打ち付けかねないから、ぐるぐるスウィングくらいでいいのだろうか。
 あ、棚のガラスが割れた。
 強羅さんの腕、もげないかな。そんなことを考えつつ、鷹政はキッチンで洗い物をしていた。
(全部、食べちまったもんな……。夜はピザでもとるか?)
 幼児化しても撃退士。たぶんこう、物理的に悲惨なことにはならないと信じたい。
 薬が閑話部のものであるなら、効果も知れている。一日保つかどうか。そこらだ。
「おー! 父さん、お手伝い偉いんだぞ!!」
「もげる! 首が、もげる!!」
 後ろから、思い切り頭を…… たぶん撫でているのだ。凄い握力で、勢いで、鷹政の肩から首が抜けそうになっているが。
「どうして、しょんなにやる気なんだ、しぇんだい……」
 割れたガラスを拾おうとして、危険だからと伸ばした腕に弾きかえされた龍仁は、コロコロと部屋を転がりながら呟いた。
「今日は、俺が大人だからな!! 父さんや母さんにしてもらって嬉しかった事、いっぱいやるんだぞー!」
「……りっぱになって」
 そういうことか。その意気やよし。
 千代に悪気はない。
 そこにあるのは、溢れんばかりの いや、溢れ出て災害避難レベルの愛情だけ。
 それが解るから、龍仁も鷹政も強く止めることはできないし、被害は拡大するし。
「筧家らしい、のかねぇ」
「しょうじき、たかましゃを いけにえに だしぇば、おれだけは たしゅかると おもう」
「おい、幼児、おい」
「夜ごはんは、俺が作るんだぞ! ウシシシシ、今なら母さんより美味しい料理、作ってやれる気がするんだぞ!!」
((それは、気のせいだ!!))
 子供二人は涙をこらえるのに必死であった。




 鷹政に抱き上げられた龍仁が、キッチンに立つ千代へ料理のあれこれを指南する。
 勢い余ってまな板を両断したり、炎が壁を舐めたり、残った食材全てが炭化し、結局ピザを取ったり、ひとつひとつに莫大な体力を要し、盛大に笑った。
 恐怖の限界を超えると、どうやら人間は笑うしかできないらしい。
 姿かたちは変わっても、真っ直ぐな千代の気性は変わらない。
 真っ直ぐで、素直で、純粋だ。あと、豪快。
 

「10年後、一足早く覗いた気分だったな」
 電池切れは、相変わらずだったらしい。
 薬の効果が切れるのとほぼ同じくしてパタリと眠りに就いた虎を、鷹政がソファベッドへと運ぶ。
「普段とは、違う意味で泥沼だったな……」
 思い切り振り回されて、体の節々が痛い。肩を回しながら龍仁は息を吐きだす。
「……そういえば」
 ちら、と龍仁が視線を後ろに逸らした。
 向かい合わせのワークデスク。一つはパソコンと書類にうずもれ、一つは聖域のように何も置かれていない。
 かつての相棒の席なのだと知ったのは最近だ。
「引っ越しは、どうなった?」
 少し前に訪れた際、目にした賃貸情報誌。引っ越しを考えていると、鷹政は話していた。
「うん。部屋を借りることにしたよ」
 ソファベッドの縁に腰掛け、鷹政は千代の頬を指の背でそっと撫でる。
「ここで騒いだ後、家族が寝泊まりしても大丈夫なように、ね」
 千代の短い髪を梳くその指先で、鷹政は階下を指した。
「下に。借りた。落ちついたら内密に改築して繋げるよ。寝泊りは、今度からそっちでできる」
「……おまえ、馬鹿か?」
 住居付きテナントだったり、そういう仕様のマンションだったりを借りなおした方が安くつくだろうに。
 そういう情報を、集めていたのだろうに。
 呆れかえる龍仁に対し、鷹政も苦笑いしか零れてこない。
「だいじだからね、俺にとっては……。この場所も。ここへ来てくれる皆も」
 手放せない『聖域』がある。他人から見れば、降ろせばいいのにと言われるだろう背負う十字架がある。
 それは、龍仁にも身に覚えのあることだから、それ以上は何も言えなかった。
「俺から返せるものって、案外と少ないな……」
 大事にしたい。嬉しい。愛しく思う。それらを形にして伝えることは、なんて難しいのだろうか。
「鷹政?」
「なんでも。体が戻ったところで、飲み直す? おとなしく寝とく?」
 明るい表情に戻し、鷹政は顔を上げた。
 少し間をおいて、龍仁が応じる。

「……そうだな。親子川の字で寝るか」
「それは無理だな!!」

 ゆっくりと、秋の夜が更けていった。




【筧家、ハロウィンパーティーを行う〜2013秋 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja8161/ 強羅 龍仁 / 男 /29歳/ アストラルヴァンガード】
【jb0742/ 彪姫 千代 / 男 /16歳/ ナイトウォーカー】
【jz0077/ 筧 鷹政  / 男 /26歳/ 阿修羅】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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ご依頼、ありがとうございました!
秋深まり、家族感深まる感じのハロウィンパーティー、お届けいたします。
内容から判断しまして、今回は分岐なし一本道での納品です。
楽しんでいただけましたら幸いです。
魔法のハッピーノベル -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年10月23日

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