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『厨学生観察日記 』
栗原 ひなこja3001


 人間、誰しも他人には見せない一面がある。
 無理やり暴き立てるでも、面白おかしく広めるでもない、ただ――観察し、記録に留めておきたい。
 趣味の範囲だ。あくまで。
 日々の観察の中で、賑やかな友人たちが『ひとりきり』になるタイミングを調べつくし、一日で全てハンディカムに収録できる『たった一日』を打ち出したのも、あくまでも趣味である。


 これは、栗原 ひなこが綴る、友情と友情と、ほんのり涙の記録である。



●act1.
 放課後。
 誰かと会話を交わすでなく、クールに教室を出てゆくのは水枷ユウ。
 感情の動きが少ない銀色の瞳が求めるものは、親しくない通りすがりの生徒たちにはわからないだろう。
 ハンディカムは、彼女の後姿から、その先へとスッとズームに。
 玄関へ向かう前に、購買前の自販機―― 予想に違わず、バナナオレ補給。
(ここまではお約束、として)
 さて、本題はここから。
(ユウちゃんの放課後……。どこ行くのかな)
 ユウは白衣の裾を翻し、バナナオレの紙パックを片手に校門を出てゆく。
 ひなことユウは同学年、クラスも近い。
 けれど学園生活の過ごし方はそれぞれなので、知らないことも多くあった。


 秋の褪せた陽光に、銀色のツインテールが光を弾いてはふらふらと揺れる。
 ファインダー越しに見る少女の姿はどこか幻想的で、ふとした拍子に消えてしまいそうな儚さを孕んでいた。

 しかし、その背景は学園近辺の商店街。

 カフェやゲームセンター、手近な日用雑貨が揃うスーパーなどがひしめいている。
 怪しげな古書店、古道具店などなども、つらっとして並んでいるので『さすが久遠ヶ原』といえようか。
 何を目的に訪れたとしても、いくらでもカモフラージュできる場所であった。
(街に出てきたけど、いったい何をして―― あ、スーパーに入った)
 バナオレ補給タイム?
 かくりと首を傾げ、出入口の見える場所でひなこは足を止める。
 さすがにカメラを手に店内に入ったら、店員さんからストップを掛けられてしまう。
(せっかく回し続けたのにな)
 一度停めて、追う?
 出て来るのを、待つ?
 紫の瞳をパチパチと見開きし、ひなこが思案することしばし。
 ヒュウ、と冷たい風が吹き抜ける。
「なかなか出てこないし、行ってみようかな」
 だって。マイスターの称号を背負う彼女がバナナオレ以外の物を買い込んでいるとしたら、それはスクープだ。
 えい、と足に力を入れて物陰から進み出た、その瞬間に背後に冷気。

「……ヒナコ、なにしてるの?」

 クールまじクール。
 買い物を済ませたユウは、気まぐれに別の出口を利用したところでカメラ片手のひなこを発見、気配を消してその後ろへと回り込んでいた。
「みんなの日常、こっそり覗き見しちゃ……おっかな、って……」
 てへぺろ☆
「…………」
「……………………」
「……みんな?」
 こく。
 真正面からの視線に耐えられず、ひなこは予定にある三名を伝えた。
「……貸して、ヒナコ」
 バナナオレを飲み終えると、ユウはハンディカムへと手を差し伸べる。
 ぎゅ、と手の中のそれを一度握りしめ、ひなこは己が魂の分身とも呼べるそれを友へ託した。
(ユウちゃんの気配なら…… もっと衝撃映像を撮れるかもしれない!!)
 真っ先にユウを選んだのは幸運だったに違いない。
 持ち前ポジティブシンキンで、ひなこは次のターゲットへと行動を移した。



●act2.
 街へ出たものの、そこからゆっくりと学園へと戻るルート。
「ユウちゃんが最初に帰っちゃうからね、真っ先に撮っておかないとって」
 ひなこの説明に無言で頷きながら、ユウは後ろをついてゆく。
「あ、ここを右に曲がるの」
「……? 遠回り、だよね」
 見慣れぬ通りへ差し掛かり、銀髪の少女が首を傾げる。
 学生たちには縁のなさそうな住宅地。主に、島内で商売をしている一般人たちの居住区の一つだ。
「そうそう。遠回りするとね……」
 悪戯っぽく、ひなこは片目を瞑って唇に人差し指を宛てる。『静かに』という合図。

「どうしたにゃ〜ん?」

 角の向こうから、とろっとろに溶けそうな、甘ったるい声。
 聞き覚えのある声質だが聞き覚えのない声音だ。
「ここかにゃ〜?」
 一瞬、ユウのクールが崩れかかる。
 これは。この声は。
(……モモカ)
 無言無表情をなんとかキープ、カメラを回すユウ。
 レンズが追うは、野良の黒猫を相手に、天使もかくやといわんばかりの笑顔でじゃれているのかじゃらしているのか森浦 萌々佳の姿であった。
 普段から、おっとり系で笑顔を絶やさぬ彼女であるが、違う。これは違う。
「ここが気持ち良いのかにゃ〜〜ん? ああん、爪は立てちゃらめぇ〜」
「……何プレイ?」
 しまった。つい、ツッコミしてしまった。
 ユウの声に、がばっと音がしそうな勢いで萌々佳が振り返る。
 文字通り矢面に立っていたのは、ひなこだ。
「な、何見てるの〜!」
 白い肌を一瞬にして赤く染め上げ、萌々佳は照れ隠しの高速後ろ回し蹴りを繰り出す!!
「わわわっ、ぼーりょく反対っっ」
 頭を庇うひなこのポニーテールが風圧で揺れる。寸止めだ。
 友人を血に染めたりなんかしない、だって萌々佳は天使だもの。ヒロインだもの。
「そ・れ・で。何を見てたの〜?」
 ぐぐぐぐぐ、握力でカメラを潰す勢いでレンズを塞ぎ、ヒロインは友人二人へ笑顔で尋ねる。
 ああ、この声なら知っている。いつもの萌々佳だ。
 何故かどこか安心しながら、降参ポーズで二人は事情を打ち明けた。
 黒猫が一鳴きし、塀へ飛び乗って去っていった。



●act3.
 夕暮れの差し込む教室。
 窓から冷たい秋風が吹き込み、カーテンを柔らかに揺らす。
 床へシルエットを落とし、机に腰を掛けて愛銃の手入れをするのは――小野友真であった。
 磨き上げたリボルバーを手に、茜色の空へ照準を合わせる。
「今やったら…… 天国まで、届くやろか」
 この弾丸(おもい)は。
 届きそうな気がする。
 今、だったら……
「……もうちょい身長欲しいな。……並んで、見栄えする位」
 銃を降ろし、ふっと呟きを落とす。さらり、前髪が額を滑る。
 哀愁に染まったその瞳から、切なさが滲み出ていた。
(あのひとと、並んで――)
 それは、切実な願い。

「どっちが本命なの? ゆーまくん」

「どっちとかやないですぅ、恋人は一人だけで部長はひとr」
「…………」
「…………」
「……ユーマ、視線、こっち」
「忘れて下さい」
「部長ってだれ〜? ゆーまちゃん?」
「すんませんすんません、ちょっと並行世界飛んでました許してください勘弁してくだs
 ――スパン
 一気に距離を縮めて放つ萌々佳の鋭い蹴りが、ピンポイントで友真の首に入った。

(ひなこちゃんがライトヒールを掛けています 友真君が並行世界から戻るまでしばらくお待ちください)

「ゆーまちゃん、おかえりなさ〜い」
「今、ホンマに川向こうまでいくとこやったで、萌々姉……」
 ケホッと咽こんでから、友真が意識を取り戻す。
「……なかなか、良い寝言を撮れたと思う」
「ヤダはずい、しねる。ユウさん止めて、お願い!!」
 淡々とカメラを回し続けるユウへ、友真が取りすがる。
 その背後に萌々佳が立ち、肩をそっと掴んだ。あくまで柔らかく、優しく、掴んだ。
「誰かにお願いをするときって、相応しい態度があるよね〜」
 にこにこ。
 にこにこにこ。
 にこにこにこにこ。




 ひとりがふたり、ふたりがさんにん、そして四人となった撮影部隊は、陽が落ち切る手前の校内を歩く。
 影が、廊下へ長く伸びる。
「ひなこちゃん、次でラストやんな? これ完成したら、皆で見れるん?」
 撮られたものは仕方ない。
 気持ちを切り替え、友真は発案者へ振り向き訊ねた。
「うふふ〜 ゆーまちゃん?」
 しかし、答えたのは萌々佳である。
「なんでやー! ずるいやん、先に撮られたもん勝ちって!!」
「ゆーまくんは、夕日とワンセットだと厨二効果すごいだろうなって……期待通りだったから……」
「……せやな」
 ひなこの説得力が、勝利した。
 いや、それはそれ、これはこれ。話をずらされた、と三歩進んでから友真は気づくが、時すでに遅しである。



●act4.
 ぼそぼそと、話し声が聞こえる。
 そっと戸の隙間から、四人は中の様子を伺った。
 薄暗い教室内に、人影が一つ。
 先ほどから若杉 英斗は、くるくると忙しなく立ち動いている。時折、ふちなし眼鏡のレンズがキラリと反射して光る。


「今日はいい天気だなー。きっと、神様が俺たちを祝福してくれてるんだな」
※すでに日は暮れかかっております 室内です
(一人…… やんな?)
(うん、若様が一人でこの教室を使ってるのは何度か見かけたんだけど……)
「おっと、にわか雨……! さあ、俺の上着を。気にすることはないさ、可愛い君が風邪を引いたら俺の方が倒れてしまう」
(若杉さん、演劇の練習かな〜?)
(……違うみたい)
 Gジャンをクルリと回すように脱いでは再び肩に掛ける動作は見るからに怪しいが……
 次いで、英斗は不意に左肩を引いてよろめき、数歩後ずさる。
「これは失礼、隣しか見ていなくって……怪我はありませんか? ……なら、よかった。人混みは危険だな。恥ずかしい所を見られ…… あれ?」
 誰かに手を差し伸べ、見送り、それから他方へ振り返る。
「ふふっ、ヤキモチかい?」
 しょうがないなぁと微笑して見せ、英斗は自身のすぐ横、肩より少し低い辺りの空気を人差し指で突いた。
 もちろん、そこには誰もいない。

「シャドーデートかァァアアア!!」

 察した友真が小さく叫び、『良い所だったのに』と萌々佳がその頭へ肘を埋める。
「放課後はエア彼女とバーチャルで楽しむ若様、お届けしました〜!!」
 ひなこの明るいナレーションで、ユウによる録画終了。
「!!? 栗原さん!? ユウさんに…… 小野君、森浦さん……どうしてここに」
 この四人組、という理由もわからない。
 何が起きている?
「あぁ……」
 英斗が凍り付くのも一瞬、咳払い一つで何事もなかった空気を作り出す。

「いま、ちょっとトランスしてました」

 きりっと断言されると、それ以上の追及がしにくい。させない迫力の一言、とも呼べる。
「俺、若様のそういうとこ、本当に尊敬してん……」
「ゆーまくん、すっごく取り乱してたもんね!」
「え。何があったの?」
 そこでようやく、ユウの手にあるメラの意味を察し、英斗はひなこへ向き直った。
「えへへー。怒らないでね? ね?」
 指先を合わせ、上目づかいで、ひなこは経緯を打ち明けた。




「ラスト2編のダメージが測り知れへんのやけど」

 結局、そのまま空き教室で映像御開帳、という流れになり。
 見終えた友真が唇を尖らせ不平をもらす。
「え? 俺はそんなにダメージってことは。トランス状態だったし」
 その単語にあらゆる責任全のっけで行くらしい英斗は、鉄壁防御を主張する。
 固い。
 さすがディバインナイト、固い。
「ほんとはね、もっとちゃんと音声バランスとかも調整して編集したいの。ナレーションだってつけなくちゃ!」
「どこまでの完成度を追い求めるん!?」
 アストラルヴァンガードのアフターケアも半端ない。
「だからね」
 茶目っ気たっぷりに、ひなこは笑う。
「この映像は、ここだけの秘密だよ?」
 恋人にも、大切な他の友達にも。
 とっておきの、秘密ディスク。
「……まって、ヒナコ」
 バナナオレのストローから唇を離し、ユウがちらりと銀色の瞳を動かした。

「……ヒナコの秘密、まだ。だよね」

「あ、そういえば〜」
「え」
「ここは、平等やんな?」
「えっ」
「ここだけの秘密を分かち合った仲間、だもんな」
「え〜〜〜〜〜〜っっ」


『追加ディスク:三名による、栗原 ひなこへ独占インタビュー!』
 こちらもどうぞ、お楽しみに!!




【厨学生観察日記 了】


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ja3001/栗原 ひなこ/ 女 / 14歳 / アストラルヴァンガード 】
【ja0591/ 水枷ユウ / 女 / 17歳 / ダアト 】
【ja0835/森浦 萌々佳/ 女 / 19歳 / ディバインナイト 】
【ja6901/ 小野友真 / 男 / 18歳 / インフィルトレイター 】
【ja4230/ 若杉 英斗 / 男 / 19歳 / ディバインナイト 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
ご依頼ありがとうございました!
放送部長による、放課後観察記録お届けいたします。
限定一名に大ダメージのような、それぞれさりげなく傷を負っているような。
せっかくなので、追加ディスクもお付けしました。
秘密を共有し、友情がより強固なものに (なるのかしら) なりますように!
楽しんでいただけましたら幸いです。
■イベントシチュエーションノベル■ -
佐嶋 ちよみ クリエイターズルームへ
エリュシオン
2013年10月23日

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