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『私に紡ぐ 〜ロムルス・メルリード〜 』
ロムルス・メルリード(ib0121)

 チチ…チチチッ……。

 少し肌寒い空気の中で響いてくる小鳥の声。それを耳にしながら山を歩くロムルス・メルリード(ib0121)は、僅かに表情を俯かせて息を吐いた。
「……ここは、どこ……」
 零した声にもう1度ため息が漏れる。
 ロムルスは進めていた足を止めると、木々の間に漂う靄のようなものを見た。これは山に入った直後から立ち込めだした霧だ。
「視界も悪いし、皆ともはぐれるし……」
 はあ。と何度目かの溜息を吐いて肩に背負った荷物を降ろす。
 此処は神楽の都から1日ほど歩いた山だ。
 其処までは理解しているし、理解して足をふみれた。だが理解できないのは其処から先の事。
「確かに皆と一緒に入ったのよね。でも入ってすぐに見失うなんて……有り得ないわ」
 もう溜息しか出てこない。
 そんなロムルスが山に足を踏み入れたのは、ギルドに寄せられた依頼が理由だ。
 なんでもこの山の反対側にある里では、冬籠りの為の食料を集めているらしい。
 例年通りの集め方だと、周囲の村々にお代を払って分けてもらうらしいが、今年は都からも取り寄せたいとギルドに声を掛けたらしい。
 要はお金のある里らしいのだが、それにしてもその食料の量たるや半端ではない。
「とにかく急いで皆と合流しなくちゃ駄目ね」
 最悪、里で合流できれば良い。
 ロムルスは霧に隠れた太陽を見上げると、いま一度荷物を持ち上げて歩き出した。
「方角はあってる筈だし、山頂を越えれば状況も変わるかも……」
 山の天気は変わりやすいと言うし、状況は常に変化する筈だ。となれば、このまま足止めを食って夜を此処で過ごすよりはマシだ。
 ロムルスは肩にかかる非常に重い食料を抱え直すと、意気を取り直して歩き出した。

   ***

 山頂を目指すうちに太陽はすっかりその身を隠してしまった。今では雲のように濃い霧が、行く手を阻むように眼前を塞いでいる。
「これ以上は無理かしら」
 やはり野宿しかないのだろうか。
 そう考え始めた矢先、ロムレスの足が後方に引いた。
 直後――

 ガスッ。

 鈍い音を立てて地面に剣が突き刺さる。それを目にした瞬間、彼女の顔が上がった。
「誰!」
 荷物を脇に放って剣を抜き取る。
 そうして神経を研ぎ澄ますように目を細めると、地面に突き刺さった刃に手が伸ばされた。
「不意を狙ったつもりだったのだけど、そう簡単にはいかないかな」
 静かで淡っとした声が響く。
 その声に構えを取ると、1人の男の姿が飛び込んでくる。男はロムルスを一瞥すると、刃を引き抜く。
 そして、
「!」
 目のも止まらぬ速さとは正にこの事だろう。
 瞬間的に飛び込んできた男の刃が、ロムルスの構えた刃をぶつかる。
(強い)
 反射的にそう感じて足を下げる。
 このまま力で押されてしまえば負けるのは明白。ならば押す力を利用すれば切り抜ける事も出来るかも知れない。
 ロムルスは下げた足を更に後方へ退くと、自らの体も下げた。
 その動きは一瞬で、突如重みを失った相手の体が傾く。それを見越して動いた彼女の手が反されるのだが、男はこれにも反応した。

 キンッ!

 小さな火花が散り、ロムルスの目が見開かれる。
「なん、っ!」
「腕は立つ様だけど、まだまだだね。このまま倒されてくれる――かなっ!」
 ガンッと凄まじ勢いで剣が弾かれる。
 本来であればこれで武器を失う筈だ。けれど両の手で必死に引き留めると、ロムルスは勢いに引き摺られそうになる身体を反転させた。
 トンッと近くに在る木を蹴って、与えられた反動を自分の物にして宙返る。その上で着地と同時に駆け出すと、いま1度男の間合いに入った。
「こんな場所で死ぬわけにはいかないの!」
 再び重なった刃。
 間近で睨み合う視線に、ロムルスの目が見開かれる。
(あ、れ……この感じ……)
 金の髪に碧の瞳を持つ男。その面差しが誰かと重なる。と、この思いが微かな隙を生んだ。
「これで終わりにする!」
 男の声に、動きに目を見張り、ロムルスが咄嗟の動きで退く。
 しかし男はその動きを追うように一歩を踏み出すと、両の腕に力を籠め、一気に剣を薙いだ。
「く、ッ……!」

 ガンッ!

 重く強い一打が腕を刺激する。
 これに驚いたのはロムルスではなく、男の方だった。
 まさか渾身の力を振り絞って放った一撃が阻まれるとは思わなかったのだ。
 苦痛の表情で剣を受け止める顔をまじまじと見つめる。それにロムルスも応じる様に彼の顔を見詰める。
 そして双方が何かを言おうとした時、2人の間に一閃が走った。
「!」
 反射的に向けた視線が黒い人影を捉える。
 そして何かを言うでもなく、2人の足が同時に動いた。
 一直線に向かうのは巨漢を揺らす黒尽くめの男の元だ。2人はまるで示し合わせたかのように男を挟み込むと、隙を与える間もなく斬り込んでゆく。
「――」
 巨漢の男が自身の斧を持ち上げ空気を震わす。その動きはあまりに身軽で思わず見惚れてしまいそうなほど。
 けれど2人の動きは止まらない。
「俺が攻撃を止める。その間に頼む!」
 金の髪を持つ男はそう言い放つと、自分よりも遥かに力も体も上の男の斧を受け止めた。
 衝撃で周囲の草が舞い上がるが、金の髪の男に焦った様子はない。
(あの動き、強さ……もしかして……)
「ううん。今はそんなこと考えている場合じゃないわ。今やるべき事は――はあああっ!」
 ロムルスは踏み込んだ足に力を込めると、男が作り上げた最大の隙を突いて剣を薙いだ。
 鈍い音と低い衝撃を放ち、巨体が地面に倒れ込む。そうして巨大な斧が地面に突き刺さると、ロムルスと金の髪の男はホッと胸を撫で下ろした。

   ***

「すまない。賞金首がこの山に逃げ込んだと聞いて追っていたところだったんだ。まさか人違いをして襲うなんて……」
 申し訳ない。
 そう頭を下げるのはアレス・メルリード(ea0454)と名乗った男だ。
 彼は霧が増えて下がった気温を補う様に火を起こすと、其処にロムルスを座らせた。
 そんな彼の様子を見ながら、ロムルスは「やはり」と口を噤む。
 同じ剣技に同じ名。そして見れば見るほど似ている顔は間違いない。
(この人は私の父さんだわ。でも……)
 実際の父よりだいぶ若い。
 それでもこのアレスと名乗った人物が父親である事は間違いないだろう。けれど何故この様な事になったのか。
(まさか過去に来たとでも言うの? でも何のために……そもそも、どうやって……)
「こんな場所にいるのは敵以外ないと思ってしまって……って、大丈夫かい?」
 突如頭を抱えたロムルスにアレスが慌てて手を伸ばす。そして彼女の額に手を伸ばすと、静かに顔を覗き込んだ。
「具合が悪いのかい? 熱はなさそうだけど、無理をさせてしまったのがいけなかったか」
「大丈夫、です……っ」
 心配そうに覗き込む顔に、思わず目を瞬く。
 どれだけ時を遡ろうと、父の仕草や表情は変わらない。
(……やっぱりここは、過去なんだ……)
 そう確信を得た時だ。
 思わぬ言葉がアレスの口から零れた。
「女の子に無理をさせて申し訳なかったね。でも、もし生まれた子供が女だったら君みたいな外見だったかもな」
 もう1度謝罪を口にしながらも、嬉しそうに言葉を発する彼の顔を凝視する。
「お子さんが、いるんですか?」
 今、女だったら……と言っただろうか。
 彼がロムルスの父だとするなら生まれているのは自分の筈。けれどアレスは言う。
「ああ。生まれたばかりなのだけど、とても可愛らしい男の子だ。名前は――」
「!」
 ロムルスは目を見張った。
 今、アレスが口にした名は、もし生まれた子供が男の子ならつけようと思っていたと父と母の2人が言っていた名と同じなのだ。
(ここは過去じゃない? 平行世界……?)
 呆然とするロムルスにアレスは気付かずに言葉を続ける。
「君のように強い冒険者なら、いつかあの子と会うかもしれない。年もだいぶ違うが、会う事があれば仲良くしてやってくれ」
 そう言って差し出された手に、ロムルスの視線が落ちる。
 もし出会う事があったら――
 その言葉に何とも言えない感覚が湧き上がるのを感じる。
(そんなことはたぶんない。でも、もし会う事があったら……)
「私も、仲良くしたいです」
 ロムルスはそう応えて、彼の手を取っていた。

   ***

 いつの間に戻って来たのだろう。
 気付けばロムルスは見覚えのある森の中に佇んでいた。
「戻って、きたの……?」
 視線を落せば、依頼の為に持って来た荷物が落ちている。つまり此処は元居た森の中。
「……父さん」
 ロムルスはまだ僅かに温もりの残る手を握り締める。そして何かを振り切るように荷物に手を伸ばす――と、其処に声が響いた。
「おーい! そこにいるのかー!」
 山の奥の方から人の声がした。
 どうやらはぐれた仲間が探しに来てくれたようだ。
「私はここよ!」
 声を上げながら荷物を肩に背負う。そして仲間の元へ駆けて行こうとしてふと足を止めた。
「……強かった、な」
 実際に刃を交えた感覚もそうだが、共闘した彼の動きを思い出してもそう思える。
 ロムルスはフッと笑みを零すと、アルスが口にした名を胸の内で囁いた。
 もしかしたら自分に付いていたかも知れない名。そしてもしかしたら会う事があったかもしれない自分。
 ロムルスはもう1人の自分に想いを馳せると、自分を待ってくれている仲間の元へと駆けて行った。

――後に、彼女はジルベリア帝国が正式採用した三代目の標準アーマーを手にする。
 その時名付けた名は、自らに与えられるはずのもう1つの名。自身の名前だった。

―――END...




登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 ib0121 / ロムルス・メルリード / 女 / 騎士】
【 ea0454 /アレス・メルリード/ 男 / ナイト 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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こんにちは、朝臣あむです。
このたびはご発注、有難うございました。
大変お待たせいたしましたが、如何でしたでしょうか。
口調等、何か不備等ありましたら、遠慮なく仰ってください。

この度は、ご発注ありがとうございました!
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2013年10月24日

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