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『Golden Magical Princess 』
ファルス・ティレイラ3733)&(登場しない)

●期待と不安
「ええと……この辺りで良いのよね」
 ファルス・ティレイラは、魔法や呪術が籠められた衣装などを売っている女店主の新作を試す実験台役のお仕事があると聞き、店の場所が記されたメモを片手に歩いていた。
 入り組んだ迷路のような路地だったので、どのような衣装があるのか楽しみにしながら……とはいかなかった。
「や、やっとで着いた……」
 苦労して辿り着いた店の前に着くと、一息ついてから外観をじっくり見る。
外壁はお菓子の家を思わせるメルヘンチックな作り、カウベルがついたドアといったレトロな外観だった。

 真鍮のドアノブに手をかけ、ドアを開けようとした時、何やら嫌な予感が。
 これまでにも何度か同じような仕事を引き受けたが、必ずといっていいいほど禄な目に遭わなかった。
(やっぱり、やめようかな……)
 不安になったので引き返そうとしたが、店内からティレイラの様子を窺っていた女店主がドアを開け、店内に招き入れた。
「あなたがファルス・ティレイラさんね。待っていたわ。話に聞いた通り、とても可愛いお嬢さんね。衣装の着せ甲斐があるわ」
 妖艶な笑みを浮かべながら、着せ替えを楽しみにしている。
「あの〜、どんな衣装があるんですか?」
「そうねえ……」
 ティレイラが女店主にそう訊ねると、顔と全身をじっくり見る。
「可愛い衣装から、セクシーな衣装。今の時期だと、ハロウィン向けの仮装用衣装とか、いろいろなものがあるわよ」
 そう説明しながら、店の一角にある衣装コーナーに案内する。
(うわあ……)
 そのスペースには、女店主が言うように様々な衣装があった。
 目移りしつつ、どれに着替えようかと考えていたが、女店主が一着の服をティレイラに差し出す。
「さあ、どうぞ。試着室は部屋の奥にあるから、そこで着替えて。まずは、これからね」
「はあ……」

●魔力で変身
 心の準備ができていないのに、やや強引に女店主によるティレイラのファッションコーディネイトが始まった。
(本当は自分で好きなものを着たいけど、お仕事だから、仕方ないわよね)
 そう自分に言い聞かせ、衣装を選びたいのを我慢。仕事でなくても、嫌だとは言えなかった。
「これ、あなたに、とても似合いそうね」
 妖艶な笑みを浮かべながら女店主が薦めたのは、ビスクドールが着ているような、アンティーク風に作られたシルクのような光沢の黒の生地のドレスと帽子、それに合う黒いレザーシューズだった。頭にちょこんと載せるデザインの帽子は、黒に映える色に染め上げたダチョウの羽根がつけられている。
「そ、それじゃあ、着替えてきます」
 怪しいものを薦められると心配していたが、素敵な衣装に安心したティレイラは大丈夫そうだと、女店主が薦めた衣装に着替えた。
「うわあ……素敵……」
 試着室の鏡に映った姿は、人間大のビスクドールのようだった。
「着替え終えたかしら?」
「はい。今、行きます」
 ドレス姿のティレイラを見た女店主は、一目見るなり、うっとりとした表情に。
「想像以上の可愛さだわ……。お人形さんみたい」
「ありがとうござ……」
 お礼を最後まで言おうとしたが、全身がこわばり、関節が機械にでもなったかのような感覚に襲われた。
「ウフフ……良い出来だわ。可愛いお人形さん」
「ど……どう……いう……こと……!?」
 魔力を振り絞り、声を発してどうなったのかを訊ねる。
「この衣装はね、身に纏った人をビスクドールに変える魔力が籠められているの。口がきけるということは、あなた、相当の魔力の持ち主のようね。これなら、いろいろ楽しめそうね。じゃあ。次はこれに着替えてちょうだい」
 思うように動けないので、女店主の手を借りて試着室へ。
 着替えることもままならないので、衣装着脱は女店主が。

 されるがままのティレイラは、どうしてこうなるの?と悲しくなったが、涙が出ない。
 次に着替えた、というより、着せられた衣装は、紫のワンピース、黒とオレンジのボーダーラインのニーソックス。
「これも可愛いわ。ハロウィンの時期にピッタリ」
 ドレスを脱いだことで元の身体に戻り、自由に動けるかと思ったが……鏡に映ったティレイラの姿は、顔は猫、背中には一対の蝙蝠の羽根、お尻に尖がった二又の尻尾が生えた悪魔のような姿に。
「不気味さの中にも、可愛さがあって良いわ……」
「こ、これはあんまりです〜……」
「ごめんなさい。もう脱いでも良いわよ。次は……」
 その後も、怪しげな衣装を着せられた。
 身体が変化するたび、女店主は感嘆の声をあげ、ティレイラの様子を楽しむのだった。

●金色の魅了
 あれこれ試着しては変化するので、元気いっぱいのティレイラもさすがに疲れたが、女店主が淹れてくれた紅茶と手作りのパンプキンクッキーを口にしたら、少しだが疲れが癒され、元気が出てきた。
「いろいろ試着させてごめんなさい。悪いけど、用があるから少しお店を離れるわ。その間、興味がある衣装は試着しても良いわよ。いろいろ着せたお詫び、としてね。遠慮しなくても良いのよ」
 そう言うと、女店主は暫く留守にすると店を出た。
(あれ、着てみたかったのよね)
 様々な衣装の中から、ティレイラは気になっていた金色刺繍の純白ドレスを試着することに。
 真っ先にこれを着たかったのだが、女店主にあれこれ勧められたので着る機会がなかったのだ。
「これに合うアクセサリは、っと」
 衣装コーナーの隅にあるアクセサリ置き場から、綺麗な宝石イヤリングを手にし、ドレスと合わせてみる。
「うん、これにしよう」
 ルンルン気分でドレスを身に着け、イヤリングをつけ、鏡の前でスカートの裾をつまみ、お嬢様のお辞儀ポーズを決める。
「こんな素敵なドレス、こういう機会でもないと着られないわね。店主さんが帰ってくるまで、着ていようかな?」
 上機嫌でクルリと回り、もう一度ポーズを決めた時、ドレスにあしらわれた金色の刺繍が一瞬光りを放ち、金色の膜が広がるように、ティレイラの全身が徐々に金と化す。

(ど、どういうこと!?)
 それを見てハッとなり、心の奥底で慌てるものの、鏡に映った自分の姿にうっとりとなる。
 用を済ませ、店に戻って来た女店主は、予想以上の効力だわ、と金化するティレイラを見てうっとり。
「これは一体、どういうことなんですか?」
「あなたが身に着けているイヤリングはね、着けた者を見ると、たちまちその人物に見惚れてしまう魅了効果があるの。あなた、鏡に映った自分の姿を見たわね。自分の姿に、うっとりしなかったかしら?」
 それでうっとりしたのね、と気付いた時には、光沢ある金の輝きが更に増し、魅了効果もそれに反応するかのように増す。
 鏡に映る自分に釘づけ状態のまま、ティレイラの全身は金と化した。
「なんて美しいのかしら……。まさに、黄金のプリンセスだわ……」

 光輝く王女を思わせるティレイラの姿と、イヤリングの効力に歓喜する女店主は、効果が切れるまで、美しいティレイラを堪能するのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3733 / ファルス・ティレイラ / 女性 / 15歳 / 配達屋さん(なんでも屋さん)】

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■         ライター通信          ■
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 ファルス・ティレイラ様

 いつもお世話になっております。

 今回は、素敵な金色のプリンセスに変身したいただきました。
 金化のイメージは、オスカー・ワイルド作の「幸福な王子」の王子像です。
 今回のティレイラ様のノベルは、自己犠牲ならぬ、自己魅了のお話となっております。
 純真かつ、可愛いお嬢さんですので、元に戻るまでは素敵なプリンセスでいたことでしょう。
 豪華な雰囲気を醸し出してみましたが、いかがでしょうか?

 それでは、これにて失礼致します。
 ご発注、まことにありがとうございました。

 氷邑 凍矢 拝
PCシチュエーションノベル(シングル) -
氷邑 凍矢 クリエイターズルームへ
東京怪談
2013年10月25日

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